OPERATOR   作:hilite989

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Fifth Call「Misunderstanding」

Fifth Call「Misunderstanding」

 

 

 

 モニターの向こう側で行われる、不条理な光景。レマはそれをただ見ることしかできなかった。

 民間人が居るのに関わらず、ACとMTは形振り構わず、銃撃戦を繰り広げている。

 ベラ・ラフマが操縦している四脚型AC「ソッム」は、汎用型二脚MT「カイノス」の右手に握られたマシンガンの掃射を全て受け止めながら、対AC/MTライフルによる応射を開始。

 狭苦しい空間に、重く反響する砲撃音。排出される薬莢。モニターを共有しているため、下部に映り込む民間人。

 レマは手の動きを止めて、モニターに映り込む光景を見ることしかできなかった。

 カイノスはマシンガンを撃ち続けながら、ソッムの射線上から逃げるために右方向へブースト移動を行う。

 しかし、ソッムはそれすらも読み切っており、まるで砲弾を「置く」ような形で射撃をした。その結果、まるでカイノスが自ら砲弾に当たりに行ったかのように直撃する。

 一発目はカイノスのコアブロックへ。破片が周囲に飛び散った。

 二発目も同じ箇所へ。小規模な爆発と共に、カイノスはその場で崩れ落ちる。

 三発目が止めとなった。至る所から黒煙を噴出しながら、カイノスは完全に駆動停止する。

「この階はこれで終わりだな。オペレーター、地下二階の状況を教えてくれ」

 熱源が感知されなくなったカイノスを一瞥し、ベラ・ラフマはレマに状況を尋ねる。その間にソッムは何事も無いかのように、ブースターの噴射炎を周囲に撒き散らしながら、ガレージを出ようとした。

 恐らく、ガレージには数十人の民間人が居たはずだった。数分という短い時間で、どれほどの犠牲が出たのか、レマは想像してしまいそうになる。

 だが、頭がそれを拒絶したのか吐き気が襲い掛かった。彼女はソッムのカメラ視点で、死に際に立たされた民間人を見てしまったのを思い出す。

 レマは喉元まで出かかった胃液を飲み込むために、口で両手を塞ぎ、大きく鼻呼吸をする。

「オペレーター、聞こえているのか。返事をしろ」

 怒気に満ちたベラ・ラフマの声に、レマはようやく我に返った。無論、ベラ・ラフマはレマの状態など知ったことではなかった。

「も、申し訳ありません」

 今は業務中――そのことを頭に刻み込んだレマは胃液を飲み込み、返事をした。

「地下二階の昇降口付近に、カイノスが二機待ち伏せしております。状況を再確認するため、ひとまずカーゴまで進行してください」

 ガレージでの一戦が始まる前に、ベラ・ラフマに伝えようとしたことを言う。しかし、状況が変わっている可能性があるため、再度、定点カメラで地下二階の近況を調べる必要があった。

「分かった。状況が把握次第、すぐに連絡しろ」

 ソッムはガレージを出て、すぐにブースター移動を開始。昇降口へと向かって行く映像を尻目に、レマはディディーアイ社のカルロスに通信を繋ぐ。

「ディディーアイのカルロスだ」

「こちらオペレーター。申し訳ございません、地下一階のガレージですが――」

 民間人への多大なる被害、そのことをレマは謝罪しようとした。

「ああ。それなら問題ない。損害はガレージのゲートのみだと聞いている。それにレイヴンは機体を盾にして、ガレージ内の設備を守ってくれたらしいな。特に減算はしないし、特別手当は支払う予定だ――すまないが、こちらも忙しいので失礼する」

 その必要はないと言わんばかりのカルロスの通信が終わった後、レマは数秒ほど制止した。レマが望んでいる対応を、カルロスはしなかった。いや、むしろ険悪な関係になるのを覚悟していた彼女にとって、比較的穏やかに事が終わったことは良かったかもしれない。

 しかし、納得がいかなかった。レマが欲していたのは、民間人について。だがカルロスはそれには全く触れず、設備のことしか気にしていなかった。

「オペレーター、昇降口へ到達した。現状を報告しろ」

 怒りが含んだベラ・ラフマの通信がヘッドセット越しに聞こえ、レマはもう一度我に返った。

「こちらオペレーター。申し訳ありません、今すぐ状況を――」

「いったい何をしていた。いい加減にしろ」

 向こうから見れば不甲斐ないレマの手際に、ベラ・ラフマは大声を張り上げて怒号を叩きつけた。レマはすぐに地下二階の状況を把握しようとした。

 だが、昇降口付近の定点カメラは破壊されてしまったのか、映像が受信されない。嫌な汗が額から湧き出た。

 ソッムの頭部及び肩部レーダーでは、地下一階に居る時点で把握はできない。敵の熱源を感知するために、高度を合わせる必要があった。

 しかし、それでは敵に対応される恐れがある。

「状況は確認できたのか」

 最悪な状況に対して、常に最悪なアクションが返ってくる。レマはそれを痛感した。

 痺れを切らしたベラ・ラフマからの催促。それに対する返答は、誰が見ても「火に油を注ぐ」という言葉があまりにも的確過ぎた。

「監視カメラが破壊、されていたため――」

「もういい。このまま地下二階へ向かう。感知される熱源に対して、常に報告を怠るな」

 呆れ返ったのか、やや半笑いの口調でレマはベラ・ラフマに指示された。それは、レマが無能だと判を押されたといっても過言ではない、言葉だった。理不尽すぎる状況にもレマは必死に自制を促し、業務を続ける。

 ソッムは、地下2Fへと続く昇降用カーゴへ到達。カーゴ内へ進入したソッムを共有モニタで確認したレマは、遠隔操作で地下二階へ降りるように動かした。

 衝撃音、昇降音、衝撃音。地下二階へ到達した合図だった。

 ソッムの視界が大きく上下へ揺れた後、頭部及び肩部レーダーが地下二階の熱源反応を感知。

 地下二階の間取りは地下一階とほぼ同じ。入り組みつつも、ある程度の規則性に沿った通路が形成されている。

 熱源反応は六つを感知。

 六つ。その反応に、レマは違和感を覚えた。

「各個撃破がされると判断し、総力戦か。悪くない判断だ」

 そんなレマの違和感を、ベラ・ラフマはぼそりと言い当てた。

 昇降口を降りた通路の先、左右にカイノスが一機ずつ。この配置が崩されたとしても、後方で待機している二機一組編成のカイノスが迎撃する布陣を組まされていた。

 ベラ・ラフマが言う通り、武装集団は戦力を随時消耗するより、死ぬか生きるかの選択を叩きつけた。

 状況は、ベラ・ラフマが不利。少なくとも、地の利と数的有利を取っている武装集団側の見解なのだが。

「どうやら向こうは頭の回転が速いようだな――オペレーター、後方の四機を注視しろ」

「了解しました」

 これまでの失態を皮肉った言葉に、レマはじっと我慢をしながら、ベラ・ラフマに言われた通りに後方で待機しているカイノスの熱源反応をサブモニターで捕捉する。

 メインモニターには、ソッムのメインカメラから送られている映像が表示されていた。映像は、昇降用カーゴ内――シャッターが解放されており、無機質な鉄製の通路が映し出されている。

(タイミングを見計らっている)

 いつでも飛び出せる準備は出来ているソッムだが、微動だにしない。

 挟撃の体制を整えたカイノスとの距離は、ソッムを中心として500メートル。射撃兵器の「キルゾーン」圏内かつ、まず回避不能距離。

 十秒ほど待機が続いた後、ベラ・ラフマは機を伺っているとレマは思った瞬間だった。

 ソッム、ブースターの出力を最大に上昇させ、昇降用カーゴから飛び出す。その後、四つ足と機体各所に埋め込まれたスラスターを器用に使って、左方面へ転回。

 そのまま、オーバード・ブースターを起動、発進。

 狭い通路故に機体制御が難しいのか、ソッムは四つ足や腕部、肩部を壁に打ち付け、装甲をすり減らしながら、驀進。

 左方面T字の先、壁際で迎え撃とうと身を乗り出したカイノスがカメラに映った。直後、すれ違いざまにソッムは急停止。そのままカメラはぐるりと横へ回った。

 カメラの端にはなぜか、ソッムと一緒に動いているカイノスの背中が映っていた。

 すると、正面からオレンジ色の砲弾――右方面のカイノスからの射撃がソッムに襲い掛かる。無論、ソッムが回避行動をしたところで間に合わない距離だった。

 着弾音がヘッドセットから伝わるものの、サブモニターで監視しているソッムのダメージコントロール図には一切の損傷が報告されなかった。

 それを証明するかのように、ソッムは右手に装備しているライフルで応射。

 規則正しいリズムで砲声が鳴り響き、一〇〇〇メートル先のカイノスを撃ち抜いた。

 頭部に一発。胸部に二発。爆発はせず、機体各所から黒煙を燻ぶらせながら、カイノスは立ったまま停止。

 その後、鉄を融解する生々しい音が纏わりつくように聞こえてきた。

 するとソッムの目の前に、一機目のカイノスが前のめりに倒れる。そこで、挟撃しようとした二機のカイノスの熱源反応が消失した。

(一機目のカイノスを盾にした。それで、被害を最小限に)

 ソッムの動きを見て、レマは直感的に悟る。あの状況下では、どうあがいても損傷は確実。しかし、ベラ・ラフマはほぼ無傷で乗り切った。

「後方のカイノス、前進。二機一組編成で、恐らく挟撃を仕掛ける模様。敵の動きは、モニター上で確認できるよう、常にポインターをセットしました」

 ベラ・ラフマに感服している場合ではなかった。

 後方で待機していたカイノス部隊は挟撃部隊がソッムを仕留め損なった瞬間、すぐに行動を開始した。

「一組ずつ仕留めていく。緻密な連携を取ったとしても、動向の把握とこちらの出方次第で挟撃は免れる」

 ベラ・ラフマはソッムの武装をチェックしているのか、その場で停止しながら、チェーンガンとライフルを交互に切り替えていた。

「ソッムの背後が突かれるより先に、正面へ出てきた一組を仕留める。常に報告を怠るな」

「了解しました」

 ベラ・ラフマが想定しているプランをレマは汲み取り、サブモニター上で忙しく動いている四つの熱源反応を注視する。

 一方、ソッムはレマが設置したポインターの中で、恐らくソッムと鉢合わせするであろう、「アルファ」に向かった。

 レマはひとまず、「ブラボー」のカイノスに視線を向ける。

「アルファとの会敵予想時刻、残り三十秒」

 レマはベラ・ラフマに状況を報告しながら、疑問を抱いた。

 私が居なくても、彼女なら問題ないのでは、と。

 

 

 

 作戦、無事に終了。敵部隊は壊滅。尚、敵部隊に生存者無し。

 施設の損害、軽微。ディディーアイ社より、特別手当が支給。

 報酬金、弾薬費及び機体修理費を差し引いて、特別手当込み十二万五〇〇〇コーム。

 ベラ・ラフマが搭乗しているソッムは十分前にディディーアイ社の輸送部隊により、回収。二時間後に、指定された地点に待機している弊社回収部隊に引継する予定。

 日報を書いてすぐ、レマはトイレで吐いていた。

 矢継ぎ早に状況が変化し、その都度に判断を迫られるオペレーター業務。それが終わると、急に現実へ引き戻される。

「特別手当」――三万コームのために、何十人が犠牲になったのかという現実。

 そのおかげで、レマはようやくモニターの向こう側で起こっていた理不尽を再認識できた。

(先の任務のやり取りをモニタリングしておりました。言わずもがな、あの状況でディディーアイ社に連絡を入れる必要は全くないかと思われます。それに、レイヴンへの適切なオペレートが出来ていません)

 そして、ウェイスSVからの叱責。二重の理不尽によって、脳が吐瀉を促している。

 胃液のせいで喉が軽い炎症を起こし、痛みが走る。しかしレマは綺麗に掃除されているトイレに吐瀉物と理不尽を吐き続けていた。

 

 

 

 

 オペレーター職には明確な「休日」は存在しない。レイヴンが出張ると言えば、オペレーターは受諾した依頼のオペレートをしなくてはならない。

 しかしながら、そんなに仕事熱心なレイヴンはこの世に存在しない。仮に存在していたとしても、まずは任務の日程が立ち塞がる。

 緊急を要する任務は自動販売機のようにそこら中に転がっていたり、おいそれと売っていたりはしない。どんな作戦であれ、現場へ向かうための日程は要する。

 その次に、機体の整備。損傷の大小によっては、三十分で終わるものから、丸一日かかるものまで。さらに言えば、機体のアセンブルを頻繁に行うことで、その都度に機体の整備や調整が必要になる。

 そのため、傭兵斡旋企業に所属するレイヴンの平均出撃日数は週三回となっていた。

 しかしこれは、レイヴンランクが高くなるにつれて、週当たりの出撃数は低くなる(総出撃回数+依頼達成率÷企業評価=レイヴンランク)

 尚、レイヴンランクが低い者ほど、週当たりの出撃回数は高くなる傾向。

『作戦目標:地下交通トンネルを経由して、管轄エリアで補給物資を輸送する車両部隊の護衛』

『注意事項:護衛区域は非武装エリアのため、ACは原則として補給部隊前方の大型トラックで待機すること。敵部隊の襲撃があった場合、交戦許可を与えるものとする』

 ベラ・ラフマは模範的なレイヴンであり、今日が今週三回目の出撃だった。

 深夜三時のオペレータールームにて、レマはベラ・ラフマのオペレートをしていた。

 クライアントの意向により、彼女が搭乗しているソッムはAC用の大型輸送トラックのカーゴ内で待機中。その後方を、護衛対象である車両部隊――合計五両が追従していた。

 作戦開始から一時間が経過し、二十分後には安全エリアに到達。その時点で、ベラ・ラフマの仕事は完了となる。

「あと二十分で作戦終了か」

 ベラ・ラフマはぼそりと尋ねるように呟く。

「一般車両も通行している民間エリアですから、やはり手出しはできないようですね」

 レマは現状を報告し、サブモニターで映っている映像を見た。

 ソッムを運んでいる大型トラックの定点カメラから送られてくる映像――オレンジ色の照明で彩られた、トンネル内。

 トラックを追い抜く車両がちらほらと見え、そこが民間エリアだと分かる。

 どこにでもある、一般的な地下区間を繋ぐ長距離トンネルだった。

「何事も無ければ、それで良しか。モニター越しだと、そう考えてしまうかもな」

 鼻で笑うベラ・ラフマの皮肉じみた言葉を聞いて、レマは唇を噛む。

 最初の任務以降から、今日で十回目となるベラ・フラマのオペレート。

 レマはそつなくこなしている。無論、ベラ・ラフマもその点は評価しているのか、目立ったトラブルは起こっていない。

 もちろん、作戦中に民間人を犠牲するような行動も取っていない――否、そういう状況になったことがない。

「不測の事態はいつでも起こるものだ。それを対処するのが、オペレーターじゃないのか」

 ベラ・ラフマは冷静に任務を達成するベテラン。

 だからこそ、レマの不本意な発言が目に付くらしい。今日もまた地雷を踏んだ、とレマは後悔する。

「まぁいいさ。私もオペレーターもこのまま座っているだけで、金が手に入り、自宅で美味しい料理を食べることができる。そんなに美味しい仕事は他にはないさ」

 ベラ・ラフマなりのジョークに対し、レマは引きつった笑みを浮かべるしかできなかった。

 気難しいベラ・ラフマの言動はまるで、ユリア主任を相手にしているようで気を遣う。本来ならばそれが正しいレイヴンとオペレーターの間柄なのだが――。

 あの人を思い出し、レマは気持ちを切り替える。

 その時だった。

 ソッムを輸送している運転手からの通信を知らせるアラームが、ヘッドセットに受信される。

 レマはすぐにキーボードに登録しておいたショートカットキーを叩き、通信を開く。

「こちらオペレーター、どうぞ」

「こちら『牛運び』。五キロ先で車両による交通事故があった模様。作戦進行に軽微の遅れが出る」

「了解しました」

 予想外の事態だが、こちら側に支障が出るほどでもないトラブル。

 ベラ・ラフマも運転手からの通信を聞いていたが、何も言わない。

 レマはキーボードの横に置いていた、紙コップに手を伸ばす。生温いコーヒーが入ったそれを口元へ近づけているうちに、輸送トラックは事故現場近くに来たのか、速度を落とした。

 四車線の左側、作業員通路兼非常用歩行者通路が設けられている壁際。一台の中型トラックが横付けになったまま、立ち往生しているのが薄っすらと見えた。

 ソッムを運んでいるトラックとは二回りほど小さい車体が、それでもこのトンネルでは充分すぎるほどの障害物だった。

「居眠り運転だな。こちら牛運び、すぐにすり抜ける。後続の車両も注意しろ」

 運転手の通信を聞きながら、レマは何事も無いことに安堵しつつ、コーヒーをひと口飲んだ。

 トラックとの距離が約百メートルを切ったところで、ソッムがメインシステムを起動したことを告げるアラームが鳴った。

 同時に、輸送トラック側の映像が大きく上下に揺れる。

「レイヴン、何をしている」

「こちらオペレーター。レイヴン、何をしているのですか」

 運転手とレマはほぼ同時に、突拍子もなくソッムを起動したベラ・ラフマを問い詰める。

「トラックから熱源反応だ」

 ベラ・ラフマはソッムを起動した理由を簡潔に答えた直後、ヘッドセットから銃声が轟いた。

「うっ」

 運転手のうめき声と同時に、モニタリングしていた輸送トラックのフロントガラスが割れた。同時に映像も遮断される。

 レマは突然の事態に、一瞬だけ動きが止まる。だがすぐに、ソッムのメインカメラを共有し、状況を把握しようとした。

「事故を装った待ち伏せだ」

 ベラ・ラフマは後続の護衛車両部隊に無線で注意を促す。そして、輸送トラックのカーゴ内を左手で装備されたレーザーブレードで強引に溶解しながら、ソッムはその四つ足を立ち上げた。

 オレンジ色のLED照明で照らされた道路。

 ソッムの正面で立ち往生していたトラックのカーゴ部分から、無機質な装甲を身に纏った人影が横切るのを、レマのメインモニターで視認する。

「敵熱源反応感知、六つ。データ照合――パワードスーツです」

 ソッムのレーダーアンテナから収集された熱源データの分析結果を、レマは伝える。

 約二メートルほどの、強化外骨格(パワードスーツ)。MTならまだしも、ACを相手にするには分が悪すぎる。

 しかし、交戦区域はACにとって身動きが取れづらい閉鎖空間と、輸送車両の防衛。突然の襲撃も相まって、状況は不利に見える。

 だが、ベラ・ラフマは不意の襲撃を察したことによって、難を逃れた。

「敵部隊、トラックに隠れています。」

 潜伏していたトラックのカーゴ部分を盾に、パワードスーツ部隊の熱源反応が固まっていることをレマは報告する。

「敵のことはいい。護衛部隊の後退と、状況を随時伝えろ」

 ベラ・ラフマの指示に、レマは素直に従った。

「こちらオペレーター。すぐに後退せよ」

「最後尾の車両がもたついている、すぐには後退できない」

 先頭車両の運転手から状況を伝えるものの、後退は難しいとレマは判断。

「レイヴン、護衛車両の後退は不可です」

「これより交戦する。車両部隊はできるだけ後退を急がせろ。それと、敵部隊の動向をチェックだ」

 矢継ぎ早に切り替わっていく状況に応じて、ベラ・ラフマからの指示も当然変わっていく。

 レマはサブモニターのウィンドウを二つに分けた状態で、敵部隊の熱源反応のチェックと輸送車両部隊の状況を確認。

 メインモニターには、ソッムはチェーンガンによる制圧射撃を開始。

 真っ赤に光る曳光弾が織り交ぜられた三十ミリメートル焼夷徹甲弾によって、トラックは一瞬にして横方向に引き裂かれる。

 同時に、熱源反応が一つ減る。残った五つの反応は後退しつつ、「交戦地帯となったせいで、立ち往生している民間車両の影へ隠れる」。

 パワードスーツ部隊とソッムとの距離、約二百から三百メートル付近。

 ソッムはチェーンガンによる砲撃を続けながら、前進。そして、パワードスーツが盾にしている車両にチェーンガンの射線を向けた。

 メインモニターには、その光景がはっきりと映し出されていた。

 真紅の砲弾が、恐らく人が乗っているであろう自動車に突き刺さる。そして、爆発した。

 爆発した車両を盾にしていたパワードスーツは、衝撃によって転がるようにして姿を現す。

 ソッムはそれを確認するなり、車両に対して砲撃し続けたチェーンガンの射線をそちらへ向けた。

 道路を破壊しながら、まるで這うようにして襲い掛かる砲撃にパワードスーツは成す術もなく木端微塵となり果てた。

 手足の残骸が周囲に四散。炎上している車両によって、それがはっきりと見える。

「こちら車両部隊、後退を開始。合流地点で待機している警備部隊がこっちに向かっている」

「オペレーター、敵部隊の位置はどうなっている」

 ここは、民間人が通行する「非交戦地帯」。それなのに、敵も味方もお構いなしに戦闘を繰り広げる。 

 レマは、呆然とそれを見つめるしか――いや、受け入れるしかなかった。

「敵部隊、ソッムとの距離三百メートル地点で点在」

(受け入れろ。目の前に広がっている光景を受け入れろ)

「了解だ。チェーンガンによる制圧射撃を続行する」

 護衛にACが付いていたことを敵側は想定していなかったのか、ソッムから放たれる砲弾から逃げることしかできなかった。

 だがせめてもの足掻きなのか、パワードスーツ部隊はこの混乱で立ち往生するしかなかった車両を盾にし、身を隠す。

 ソッムはそれを気にせず、パワードスーツ部隊を追い詰めるために前進しながら、チェーンガンによる砲撃を続けていた。

「一機撃破」

 レマは敵の反応が無くなると、無感情の声色で報告をする

 四脚の前足が、チェーンガンから難を逃れることができた車両を踏み潰す。

「二機、三機撃破」

 深夜とはいえ、この区間はそれなりに交通量は多い。次々と民間人が乗っている車両が、ソッムによって破壊され、踏み潰され、炎上する。

「四機撃破――周囲に、熱源反応はありません。輸送部隊は全車両、無事のようです」

 最後の一機を破壊した瞬間、レマはモニターを直視できなかった。

「どうやら座っているだけでは、金は貰えないようだな」

 皮肉じみたベラ・ラフマの言葉が、ヘッドセットから聞こえてきた。

 

 

 

 照明と、パソコンの電源が落とされたオペレータールーム。

 本来ならば、自宅に帰っているはずなのにレマはただ茫然と椅子に座っていた。

 作戦は成功。輸送部隊は全車無事のため、追加報酬として二万コーム上乗せ。弾薬費及び機体修理費を差し引いて、五万三千コームがベラ・ラフマの収支となった。

 トンネル内の戦闘については、お咎めはなし。むしろ、非交戦エリアで戦闘に持ち込んだ、敵対企業への大きな牽制になるとクライアントは述べていた。

(おうよ。分かってるさ、被害を最小限に食い止めつつ、敵部隊を壊滅するってことだろ)

 あの人の言葉が、ずっと脳裏に過る。

 ベラ・ラフマのやっていることは、正しい。他人のために、自分の命を賭けることは馬鹿げている。

 しかし、彼女は金のために他人の犠牲を厭わない。いや、彼女だけはない。レイヴンも、企業も、そして「自分自身」もそうあるべきだと。

 この職業に就いたときから分かり切ったことだった。それでも、あの人と出会ったおかげでせめてもの「良心」を捨てずに済んだ。

「――辞めよう」

 自分は、それを選択できる立場にある。またイチからやり直そう。

 実家に戻って、事情を説明しよう。きっと両親も理解してくれる。

 明日、ウェイスSVに相談のメールを送ろうとレマは決心したときだった。制服の内ポケットに入れていたスマートフォンのバイブレーションが振動している。

 レマは気怠く感じながらも、スマートフォンを取り出す。画面には、メールが受信したことを知らせる通知が表示されていた。

「お疲れ様です、財務課のアランです。今月の給与明細を添付しております。ご確認ください」

 財務課からの給与明細についてのメールを読み、レマは今日が給料日だったことに気づく。添付しているファイルには、レマの給与が記載されていた。

 今月の手取りは、四十万マイクロコーム。

 一般的な大卒の給与二カ月分の金額。少なくとも、父親よりも稼いでいる。

(私も君もこのまま座っているだけで、金が手に入り、自宅で美味しい料理を食べることができる。そんなに美味しい仕事は他にはないさ)

 ベラ・ラフマの言葉を、ふと思い出す。

(私はただ座って、報告しているだけで充分すぎる給料を貰える)

 命の危険に晒されることはなく、ただオペレートするだけで、好きな服や家具、美味しい料理やお酒を充分すぎるほどに堪能できる。

 二年三年とキャリアを積めば、給料はこれよりも倍以上に稼げる。

(そのために私は非情に――なれ――)

(非情に、なるしかない)

 レマは天井を見上げ、涙を流す。

 所詮自分は、損得でしか勘定できない人間になってしまったという事実を肯定するために、涙を流す。

 それが偽りではなく、本心であってほしいとレマは願う。だけど、涙は止めどなく流れていった。

 

 

 

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