「目標は当該ルートを進行中。平均速度は約九十キロ。作戦ポイントまで残り10分を予定」
通信手の定時報告の内容を聞き、いよいよ作戦開始間近になったとカイは実感する。彼は耐火スーツの上から、強化外骨格服――パワードスーツに身を包んでいた。
適切な体温調整と縮小装置によって、身体が蒸れたり、圧迫感を覚えることはない。度重なる技術革新によって、服を着ている感覚を得られるようになったからだ。
頭部に埋め込まれたHUDには、カイと同じパワードスーツに身を包んでいる五人の「同僚」が立っていた。
場所は、時速七十五キロメートルで走っているトラックの荷台。薄暗闇の中だが、暗視装置のおかげで日中と変わらない輝度で映っている。
「いいか、いつも通りにやればいい。敵の護衛は輸送部隊の先頭で走っている大型トラック内にあるカイノス一機と情報を掴んでいる」
荷台の中央で、指揮系統アンテナを頭部側面に装着しているパワードスーツ――この部隊の隊長であるローレンスが念を押していた。
「トラックの運転手を殺害して、そのままケイリスのロケットランチャーでカーゴを狙え」
「その後は後続の輸送車を襲撃ってわけね」
念は念を入れすぎなローレンスの無線通信に、彼がその後言おうとしていることを半笑いで先に告げる。
「無駄口を叩くな。輸送車の積荷は破壊する。カイ、アンナ、ラーバに任せる。手早くやれ、以上だ」
ローレンスはカイの行為を追求せずに、話を終えた。
「なんだって、俺らが危ない橋渡って、こんなことしなきゃならんのかね。レイヴン雇えよ」
作戦目標:ディディーアイ社の輸送車両襲撃。
自戦力:クレセント社保有パワードスーツ部隊「ウルフバック」
敵戦力:カイノス一機(推定)
「大きい存在は便利だけど、それじゃあ目立っちゃうからね。戦争も紛争も、ヒトーー歩兵が居なきゃ制圧も占拠も支配もできないってわけよ」
カイのわざとらしいぼやきに、彼の隣で対物ライフルを調整していたパワード―スーツ――アンナが無線通信で茶化してくる。
「下水道に隠れるってのも、ヒトならではの特権ってやつ?」
作戦目標達成後、速やかに指定された下水道を経由して弊社管轄区画へ脱出すること。
「ついでに言うと、無駄口を叩き続けるのもヒトの特権だな」
先程まで作戦を再確認していたウルフバック隊長のローレンスが、無線通信に割り込んでくる。彼はカイの目の前に居ており、わざとらしく右肘で小突く。
「俺だって危ない橋を貴様らに渡って欲しくないのだがな」
隊長でありながら、本作戦について怪訝な見解を示すローレンスに、カイはきな臭いものを感じる。
「ディディーアイの積荷には、本社管轄の地下セクションを襲撃するテロリストの支援物資が積み込まれている。下部組織の補給物資ならまだしも、こればかりは看過できん」
「そんなきな臭いのを、MT一機で護衛でしょ」
大層な物資を、たった一機のカイノスだけで護衛する。
カイはそこが腑に落ちなかった。それなりの物資を運ぶのに、必要最低限の護衛しか付けない。
輸送ルートはディディーアイ社管轄区域という体裁だったとしても、何かしらの保険はつけるはずだった。
MT一機なら、ウルフバックの戦力で充分に対処可能だが、これが小隊規模やACになると、話は違ってくる。
「バレた時のカモフラージュよ。カイノス一機なら、知らぬ存じぬの『遺憾の意』で済ませられる。だけど、大規模の護衛部隊やACが居ると話は別。向こうの管轄区域で大間抜けなザル警備。非難殺到ね」
マリアの持論はとても理に適っていた。カイの疑問に思っていることの解答を、彼女は八割ほど代弁した。
だけど、カイは腑に落ちない。ただ黙って、解答が見えない問題を必死に解くために考える。
「お前が疑問に思うのも無理はない」
考え事に耽るカイをパワードスーツ越しでローレンスは悟った。
ディディーアイ社は非合法組織を使って、敵対企業への妨害工作や一般市民の被害を一切考慮しない作戦を断行している。
現にその被害を、カイたちが在籍しているクレセント社は被っている。
「無論、我々が出張るということはそれなりの意味がある。積荷を運んでいる輸送部隊には、内通者が居る。物資がテロリストへの支援物資であることの裏を取っているし、破壊する前に、それが何の物資であるか撮影する」
「――ディディーアイへの牽制ってわけね。交渉のテーブルに乗らなければ、テロ支援の事実を言いふらす。そうでなければ、みかじめ料を払って魂胆でしょ」
ローレンスはこの作戦が成功した結果について話をしだすと、その先のことをアンナは言い当てる。
(内通者の生死は問わずってところは、ディディーアイも弊社も五十歩百歩だな)
既に内通者は用済みのため、生かすも殺すもこちらの匙加減――ということにカイは鼻で笑う。
「だからこそ、俺たちが出張るってことか。デカブツでは、『細かいこと』はやってくれない。それにこっちがレイヴンやMT部隊を使うとなると、大義名分もあやふやになる」
レイヴンはただ「依頼」を完遂させるだけ。企業側の複雑な事情などは一切考慮せず、ACを使って大暴れする。
それに、こちらがACを使って輸送車両を襲撃すれば、物証を抑えることができず、ただ「非交戦区域」で敵対企業の補給活動を妨害した、という汚点のみしか残らない。
ようやく合点が言ったと、カイは今回の仕事に理解を示す。
カイたちは、「仕事」を完遂させる側。それは、企業に一切の損をさせず、なおかつ利益を出すことが第一だった。
「そういうことだ。『レイヴンは企業に損をさせないが、利益は出さない』。そこが、我々と違う点だな」
「――俺の脳みそであれこれ考えるってのも野暮だって気づいたよ、隊長」
カイは笑いながら言うと、後頭部をアンナから叩かれ、ローレンスからも腹部を小突かれる。
「何かとドンパチしたがるお前さんがようやく進歩したってことだ」
ローレンスの茶化しに、カイは思わず両肩を竦める。
「作戦目標、当該エリアに接近中。これより停車。各員準備せよ」
オペレーターの通信が入った瞬間、各々に緊張が走る。無論、今まで茶化していたカイ、ローレンス、アンナも同じだった。
「兵士だろうとなんだろうと、俺たちは企業に属するサラリーマンだ。粛々と仕事を完遂させ、家に帰って美味い料理と酒を堪能する」
「さっすが、彼女持ちね。でもその美味しい料理を作ってくれる彼女の負担も考えなきゃね」
同僚であり、ガールフレンドであるアンナの言葉にカイは思わず気が抜けてしまう。
「惚気話もそのぐらいにしておけ。これより無線封鎖、指示があるまでジェスチャーで受け答えしろ」
カイとアンナに注意をしつつ、ローレンスは何事もなく無事に終わることが確約された仕事に取り掛かる準備を告げた。
報告書。
ディディーアイ社によるテロリストへの物資輸送作戦襲撃は失敗。
敵戦力がアーマードコアであることを想定していなく、事前に急襲を察知されていた為、「ウルフバック」の撤退は不可能。
そのため、ウルフバックはアーマードコアと交戦するものの、全滅。
本作戦失敗による影響は大きく、弊社のパワードスーツ部隊であることを現場の後処理をしていたディディーアイ社より発覚。
非公開の会談により、三千万コームの出金及び弊社管轄区画の管理権をディディーアイ社に譲渡することによって、一応の事後処理は完了する見込みである。
戦死者:八名
パワードスーツ部隊「ウルフバック」――登録抹消。