ここから評価が別れるであろう内容だと思います。
「今戻ったぞ、サトル」
「あ、おかえりアウラ。さて、一緒に夕飯にしよう」
その晩、アウラは夕飯前に後宮に戻ってきた。
タイミングを見計らって侍女たちが入ってきて、テーブルに夕食を並べ始めた。
「では、いただきます」
「うむ、いただきます」
元々この世界には食事前に手を合わせて『いただきます』を言う習慣はないのだが、俺がアウラと初めて食事をした時にこの動作の理由を説明したら「それは素晴らしい習慣だな。我が家にも導入しよう」というアウラの一声で、食事前の『いただきます』が家族ルールに加わった。
フェーたちの話によると侍女の間でも流行っているのだという。
いい習慣だから止めはしないし、異世界で日本独特の挨拶が流行ることになんとも言えない面白さを感じた。
「それではサトル。私に聞きたいことがいくつかあるとは思うが、まずは私からの質問に答えてくれ。そなたの世界には、本当に魔法は無いのだな?」
その質問の意図は、だいたい分かる。
俺が初めて触れたとは思えないほど魔法を完璧に発動したので、元々魔法が使えたのではないか、という疑惑が生じたのだろう。
「ああ。本当に存在しないかは分からないけど、少なくとも俺にとって魔法は想像上の存在だったし、誰かに師事したことも認識したこともない」
「そうか。では、そなたは今日初めて目にした魔法をどうやってモノにしたのだ? 才能があり、偶然成功した、というには些か出来過ぎだ。何か思い当たることはないか?」
「うーん。あるにはあるんだけど、アウラは『スキル』っていうものを知ってる?」
「スキル? それは『技能』という意味だろう。それがどうかしたのか?」
やはりアウラもフェーたちと同じ反応だ。
ということは、この世界の人はスキルを持たない、またはスキルを認識できていないということになる。
「俺の視界の右下に三角形のマークがあって、それを意識すると自分の情報が見れるんだけど、信じてくれる?」
「……情報とは、例えばどんなものなのだ?」
「えっと、5つの項目があって、『習得済魔法』『スキル』『ステータス』『ログ』『ヘルプ』ってのが見れる。『習得済魔法』には【時空魔法】【治癒魔法】【付与魔法】【水魔法】とある。また『スキル』には【魔術師】【熱変動耐性】、『ステータス』には現在の俺の身体・精神の状態、『ログ』には過去に使用した魔法の履歴、『ヘルプ』にはスキルや魔法についての説明の記載がある」
「治癒魔法に、付与魔法、だと……? サトル、正直に嘘偽りなく答えてくれ。そなたに『双王国』の者が接触してきたのではないか?」
「『双王国』って、レテの歴史講座に出てきた『シャロワ・ジルベール双王国』のこと? カープァ王国の東側に位置する国ってことくらいしか知らないけど、その国の人には会ったことはないと思う」
「……そうか、その言葉信じるぞ。しかし、そうするとますます分からん。なぜ『双王国』を名前しか知らぬサトルから『付与魔法』の言葉が出てくるのか」
「双王国と付与魔法は関係あるのか?」
レテの歴史講座は、アウラの登場により途中で終わってしまったため、双王国がどんな国なのかまでは俺は知らない。
「付与魔法と治癒魔法は、双王国王家の『血統魔法』なのだ。我がカープァ王国で言えば、現在私とサトルのみが使える『時空魔法』に相当する。以前、魔法の説明の際に名前を出した治癒魔法を知っているのは分かる。だが、知らないはずの付与魔法の名が、双王国との関係を知らずに話に出るはずがないのだ。一体何がどうなっている?」
アウラが頭を抱えて唸っている。
ここで「治癒魔法も付与魔法も使えそう」なんて言うともっと混乱しそうだからやめておきたいけど、アウラに隠し事をするのもなぁ。
「えっと、アウラ。驚かないで聞いてほしいんだけど、その治癒魔法と付与魔法、俺の『習得済魔法』って欄にあるって言ったじゃん。だから、試してないけどたぶんどっちも使えると思うんだ」
「なん……だと……?」
絶句するアウラ。
そうなるよな、やっぱり。
「本当に、使えるのか? 例えばどんなものが使えるのだ?」
俺は視線で三角形をクリックし、出てきた項目の中の『習得済魔法』を再び視線クリック。
更に出てきた項目の中から【上級治癒魔法】を視線クリックすると、
“
“
“
の3項目が出てきた。
上級って3つしか無いのか。
「“完全回復”、“完全快癒”、“高速自動治癒”の3つの魔法が【上級治癒魔法】にあるらしい」
「うーむ。完全という文言は付かないが、“快癒”ならば実際に見たことがある。それはあるか?」
次は【中級治癒魔法】を見てみる。
“
“
“
“
の4項目があった。
「【中級治癒魔法】の欄にあるね。あとは“回復”、“自動治癒”、“生命活性化”がある」
「それらならば聞き覚えがある。本当に使えるかは試してみないと分からないが、どうやら情報が見えるというのは事実のようだ」
「信じてもらえて良かったよ」
「だが、使えたら使えたでかなりの問題が発生する。下手をすると国家間で戦争が勃発するレベルだ」
「治癒魔法も付与魔法も『血統魔法』だから、か」
「その通り。幸い今のところシャロワ・ジルベール双王国とは友好的な関係だが、この事が明るみになれば、少なくとも双王国はそなたの家柄や過去を詮索してくる。最悪身柄の引き渡しを要求してくるだろう。そして双王国以外に情報が漏れたならば、他国はそなたの誘拐、または暗殺を企てる」
うん、それは予想して当然のことだ。
「あるいは双王国ならば、そなたの側室に王族の女を送ってくるやもしれん」
うん、それは想定外のことだ。
よし、双王国には絶対にバレないようにしないとな。
「それにしても、なんで俺にこんな能力が備わったんだろうか。確か、元の世界で通り魔に刺されて死にかけてた時に変な声が聞こえて、スキルの獲得だのなんだのと言ってたような」
「そうなのか? ならば、本当はサトルの世界にも魔法があったのかも知れぬな」
「なら、あの声の主は、一体誰だったんだ?」
「それは、『世界の声』さ」
アウラと俺しかいないはずの私室、そのソファーにゆったりと座っているのは、水色の髪の少女だった。
この子は誰? どこから入ってきた? 話を聞かれた? 世界の声とは?
様々な疑問が頭をよぎって動かないでいる俺とは違い、アウラは即座に俺の前に立ち、魔力を励起させる。
「そんなに殺気だたないでよ、おねーさん。そもそも俺が声をかけるまで気づけないほどの実力差がある、ってことくらいはおねーさんも分かるでしょ」
俺でも分かるくらいに、少女の魔力が高まる。
俺やアウラの何倍もの魔力にあてられ、身体が震える。
「……たとえ絶望的な実力差であろうと、女王として、妻として、サトルを置いて逃げるわけにはいかぬ」
アウラ……。
「ふ、ふふふ、あーっはっはっは!」
突然大笑いする少女。
さっきまでのプレッシャーは霧散していた。
「ごめんごめん。いやー、良いもの見させてもらったよ。三十路を過ぎても童貞で魔法使いになったばかりの
何で俺が
ってちょっと待て、今『俺が』って言ったよな。
《流石はパラレルワールドとはいえ
「なんだ、頭に声が直接……? しかもこの声は、死にかけた時の──」
《しかし世界の声と私を間違えるようでは、まだまだのようです》
「まあそう言うなよ、シエル。この
《………》
「劣勢になったら無視かよ! ……まあいい。おい、そこの三上悟に問題だ。さて、俺は誰でしょう?」
「───俺」
「正解! まあ正確にはお前があの時通り魔と邂逅せず、しかし結局数年後に
ニシシッ、と無邪気に笑う可愛い少女が、俺…。
どうやらパラレルワールドの俺はTSしたようです。
実際はTSしてないので、『性転換』タグは付けません。