「少し、よいだろうか」
「はい。何でしょうか、アウラさん」
「まず、そなたはサトルだった存在なのか?」
質問に対してリムルは「ええ」と軽く答える。
目の前で意味不明な応酬が繰り広げられ、混乱していると思われたアウラだったが、彼女なりに俺たちの会話を理解しようとしていたようだ。
「平行世界、もしもの世界、と言い方はいろいろあります。俺は三上悟としては死に、
「ふむ、なるほど。元々は同一人物であったが、とある分岐点より枝別れして別存在となったのか」
「その通り! いやー、理解が早くて助かります。ちなみにサトルは、俺が転生したのと同じ異世界に召喚される直前だったから、この世界には存在しない『スキル』を持っています。スキルが有るか無いかで、その者の力量は大きく変わります。ただ、すごいスキルを持っている方が必ずしも勝つわけではありません。要は使い方次第、ということです」
「それで先ほどの『師事する』という話に繋がるわけか」
「ええ。サトルのスキル【魔術師】は、この世界ではかなりのアドバンテージになります。しかし、それが絶対的な強さとなるかといえば、そうではありません。あくまで『有利になれる』というだけであって、必ずしも勝てるとは言えません。だから【魔術師】のスキルを十全に扱えるために、俺の世界にいる部下のひとりを預けて指導させようと思います」
どうでしょう? と尋ねる目の前のリムルから、俺にちらりと視線を向けるアウラ。
それに対して、俺は小さく頷いた。
「大魔王リムルよ。その申し出、受けようと思う。しかし、こちらばかり施しを受けるのは申し訳ない。我々の世界のモノでは満足してもらえないかもしれぬが、できる限りのことでお返しをしよう」
「ふぅん、あくまで取り引きという形にする、ということですか。交渉のイロハを理解してますね。さすがは女王」
なるほど。
今後まったく接触しないのならば、申し出を享受しても問題はない。
しかし、リムルは世界を渡る能力を持っている。
ならば後々交易などがあった場合、先の施しを受けたことで交渉において下手に出なければならなくなる可能性がある。
先のことを見通して、アウラはあえて『お返し』をすることにしたのか。
「このくらいの交渉術がなければ、一国の王は務まらんよ」
「ま、まあ俺も
「では改めて聞こう。リムル殿、そなたは魔法の指導の見返りに何を求める?」
「そうですね。では、俺の世界にはない果物や野菜、家畜なんかを譲ってもらいたい」
「……それだけか?」
「異世界にのみ生息する動植物なら、価値的には妥当でしょう」
もっとこう、金銀財宝とかを要求されると思った。
アウラもそうだったようで、拍子抜けしている。
「問題ないようなので、交渉成立ということで。ディアブロ」
「ここに」
リムルが名を呼んだ瞬間に現れた黒服の男。
切れ長な目でこちらを睥睨し、リムルに対して一礼した。
「テスタロッサを呼べるか」
「はい、すぐに」
黒服の男がそう言うと、直後、
「外交武官の仕事中に悪いな」
「とんでもございませんわ。リムル様の命令とあらば、どこへでも駆けつけます」
「そうか、ありがとう。ああディアブロ、今後しばらくのテスタロッサの仕事は副官のモスに引き継ぐよう伝達を。手が足りない場合は適宜他から引っ張ってくるように」
「了解致しました。ところでリムル様、そちらの方々は?」
「ああ、紹介してなかったな。こいつはサトル、元々は俺と同一存在だったやつだ。こちらはアウラさん、サトルの嫁だ。サトル、アウラさん。こいつらはディアブロとテスタロッサ。俺の部下で、種族は悪魔だ」
俺と同一存在、の辺りでディアブロ氏の目が輝き出した。
「クフフフフ。ご紹介にあずかりました、リムル様より“
「同じく、リムル様より“
目の前に現れた二人の悪魔。
その潜在魔力は俺では計り知れないほど底が見えない。
アウラもそうだったようで、顔が引きつっている。
「よ、よろしく頼む。ディアブロ殿、テスタロッサ殿」
「よ、よろしく」
アウラも俺も、震え声で挨拶を返した。
「あー。ディアブロ、テスタロッサ。とりあえず魔力抑えようか。興奮してる所為かダダ漏れだから」
「おや、私としたことが。失礼致しました」
「申し訳ございません」
そう言うと、さっきまで感じていた底知れない魔力は鳴りを潜め、どちらも普通の人間程度の魔力に落ち着いた。
「ではテスタロッサ。お前には特別任務を与える。ここにいるサトルに魔法の指導をせよ!」
「了解致しましたわ。必ずや、サトル様をこの世界最強の魔導師にしてみせます」
「そんな感じで、あとはよろしく! よし、帰るかディアブロ」
「はい。テスタロッサ、分かっていると思いますがサトル様に失礼のないように」
「言われずとも承知していますわ」
そんな会話の後、リムルとディアブロ氏の姿が消えた。
おそらく元の世界に戻ったのだろう。
「では改めまして。わたくしはテスタロッサ。“