「さて、後宮での生活を一日終え、何か不都合はあったか?」
朝の宣言通り政務を急いで終わらせたのか、アウラは夕食の時間前に後宮へと帰ってきた。
「うーん。不都合と言うまでではないけど、とにかく時間が有り余って仕方がない。何かやることや暇つぶしがあるといいのだけど」
そして夕食の席、俺は今日の感想を素直に口にした。
「ふむ……本来はサトルがこちらの生活に慣れてからにしようと思っていたが、前倒ししても大丈夫そうだな。実はサトルに家庭教師を付けたいと思ってな」
「家庭教師?」
「ああ。とは言っても勉学のためではなく、最低限の礼儀作法と『魔法』についてのだがな」
「魔法! ついに俺も魔法が使えるようになるのか……!」
しかもアウラや俺の血筋が使えるのは『時空魔法』という、なんとも厨二心をくすぐられる名前の魔法。
古今東西、強キャラやラスボス級が使える設定がほとんどの『時間』と『空間』を司る魔法。
それを、俺が、使えるように、なる!
「あー、盛り上がっているところ悪いのだが、魔法をまともに使えるようになるには年単位の修練が必要だ。残念ながら、明日習ってすぐ使えるものではない」
なん……だと……。
全俺が泣いた……。
「ち、ちなみにアウラはどのくらいの練習で魔法が使えるようになったの?」
「最も簡単な時空魔法の発動には、たしか約一年かかったな。ただ、魔法を発動する際必要な魔力の制御は、魔力量が多いほど難しいらしい。サトルはカープァ王家の血を濃く受け継いでいるとはいえ、さすがに直系である私ほどの魔力量はないはずだから、もしかしたらもっと早く使えるようになるやもしれん」
「なるほど」
魔力が多いのも考えものだな。
将来的に使いこなせるようになるなら多い方がもちろんいいはずだが、より細かな制御は魔力が少ない方が得意そうだ。
「サトルもやる気のようだし、家庭教師を付ける方向で話を纏めてしまってよいか?」
「うん。それでどんな人が家庭教師になるの?」
「後宮で授業を行う関係上、女であることが前提だ。サトルが側室を望まないことを考えると、既婚者か老人となるな。明日から募集をかけるので、一週間ほど待ってほしい」
「ん、了解。一週間くらいなら侍女のみんなと暇つぶしして待てるな」
そう言うとアウラは、さっきまでのリラックスした様子から剣呑な雰囲気に変わった。
「──ほう、『侍女のみんな』か。今日だけで随分と仲良くなったようだな。しかも複数人と」
「あ、アウラ……?」
「ああ、報告は受けている。若い侍女三人を
にっこりと笑みを浮かべるアウラ。
そういえば、本来笑顔って威嚇の表情らしいな。
と、昔テレビで得た情報を思い出していた。
「い、いやいやアウラ、違うんだ。ただ日中暇で話し相手がほしいと言ったら、フェー達が残ってくれて。でも変なことはしてないし、決して浮気なんかじゃなくて」
しどろもどろになりながら言い訳のような説明をする。
「ふっ、ふふふ。冗談だサトル。側室の提案を自分からした私が、その程度のことで怒るわけないだろう」
「おどかさないでくれよ……」
気分的には空腹のライオンの前に放り出された感じだった。
「────まあ、少しだけ冗談ではないのだが、な。私にも独占欲はあるのだよ」
最後にボソッとアウラが何かを呟いたが、その内容は聞き取れなかった。
その晩は何故か激しく求められた。