「はい……?」
今度はオクタビアさんが困惑の声をあげた。
それもそうだ。
なんせアウラの話によると、魔法の習得はかなり長期の訓練が必要なのだという。
それを一度見て聞いただけでモノにしてしまったのだ。
動揺するのも分かる。
逆に俺は冷静だった。
なんというか、できて当たり前のことをしただけ──例えば息を吸って吐いただけのような感じなのだ。
なんとも不思議な感覚を感じながら、俺はオクタビアさんの方へと顔を向けた。
「できたぞ」
「は、はい。お見事でございます。……サトル様、申し訳ないのですが、本日の指導はここまでにさせていただきたいのです。明日またお伺い致しますので、何卒ご容赦を」
「うむ、許可しよう」
「ありがとうございます。それでは失礼致します」
オクタビアさんは早足に部屋を出て行った。
うーん、いくらなんでも魔法が使えるようになるのが早すぎるよなぁ。
さっきの『下級水魔法が解放されました』って声も気になるし。
夜にアウラが帰ってきたら聞いてみよう。
オクタビアside
アウラ陛下より、サトル様の家庭教師への任命という大役を仰せつかり、その初日となりました。
私は夫に挨拶したのち、後宮へと足を踏み入れました。
サトル様への謁見は、陛下方の婚姻の儀以来となります。
あの時のサトル様はとても緊張されていたようなので、おそらく私の事は覚えていないと思われます。
しかし、そこは高貴なお方であるサトル様が気に病むことのないように、しっかり自己紹介させていただく所存でございます。
自己紹介をしてから、魔法の説明へと移りました。
しかしサトル様は市井の出と伺っていましたが、私に下手に出ることなく堂々とされていて素晴らしい立ち振る舞いです。
これが王族の血のなせる技というものなのでしょうか。
そして、私が魔法の実演をサトル様の前で行いました。
まずは水魔法の初歩である『水球の精製』です。
その時サトル様は、私の魔術語以外の何かが聞こえたと申されていましたが、私には聞こえませんでした。
私が疑問に思っていると、サトル様は先ほど私が行使した『水球の精製』の魔法を完璧に再現されていました。
私は気の抜けた声を出し、呆けてしまいました。
あり得ない。
まず最初に思ったのは、以前から魔法の訓練を積んでいたのではないか、という推測。
ですが、それならば家庭教師としてわざわざ私を付ける意味が分からない。
ならば、サトル様は今初めて見知った魔法を正しく認識し、正しい魔力を込め、正しい発音で魔術語を口にした、ということです。
天才。
もしこれが事実ならば、サトル様は稀代の魔術師に、それこそカープァ王国随一の魔術師と言われているエスピリディオン様以上の存在になるうる可能性があります。
私はサトル様に
私の雰囲気から緊急の用件と判断したようで、すぐに取り次いで貰えました。
「どうしたのだ、オクタビア夫人。今は確か我が夫の家庭教師をしている時間だと思ったのだが」
私は臣下の礼をし、
「申し訳ありません、アウラ陛下。緊急事態のため、本日は暇を頂きました」
と申し上げた。
「まずは人払いをしよう。フォビオ」
「はい。暫しお待ちを」
陛下の秘書官は即座に行動し、周りにいた侍女たちを退室させました。
「それは、サトルに何かあったということか?」
「はい。先ほどサトル様には魔法についての説明をさせていただき、実際に『水球の精製』を見てもらいました。その後、サトル様は同じ『水球の精製』を行使し、成功なされました」
「──ッ⁉︎」
陛下と秘書官の表情が強張る。
「……それは、確かなのか?」
「はい、間違いございません。魔術語の発声をしかと聞き、この目で水球を拝見しました。サトル様は初見の魔法を一度で成功なされました」
「これは、下手をしたら戦の火種になる事実だな。よくぞ報告してくれた、オクタビア夫人よ」
「もったいなきお言葉にございます。して、このことは夫には」
「ああ。忠誠心あふれるそなたでも、夫に隠し事はできまい。このことはマルケス伯爵家とカープァ王家、あとは相談役としておばば様とここにいるフォビオまでで情報を止めておきたい。協力してくれるな?」
「はい。もちろんでございます」
「よし、ならばおばば様とマルケス伯爵に信用のおける侍女を使いに出そう。二人が到着するまで、申し訳ないが夫人にはここにいてもらう。少しでも情報が漏れないための配慮だ」
「心得ております」