オクタビアさんが退室してしまい、早々に暇になってしまった。
まあ、俺がいきなり魔法の発動に成功したのが理由だろうし、このことでオクタビアさんを責めるのは筋違いだろう。
「しょうがない。コレを使うか」
俺が手に持ったのは、呼び鈴。
チリリン、とそれを鳴らすと、すぐさまドアがノックされる。
まだ名前を覚えていない侍女が、ドアを開けて、
「失礼します。サトル様、お呼びでしょうか」
と尋ねてきた。
「ああ、フェーたちを呼んでくれ。今日の予定がなくなってしまって暇なのだ」
「かしこまりました。すぐに参りますので、しばしお待ちを」
侍女はドアを閉め、フェーたちを呼びに行ったようで、離れていく足音が聞こえた。
「さーて、今度は何を聞こうかな、──ん?」
視界の右下の隅の隅。
普段なら意識を向けることのない場所に、黒い三角形が見えた。
不思議なことにその三角形は、顔の向きを変えても常に視界の隅に配置されている。
目にゴミでも入ったのかと、擦ったり瞬きをしてみたが、三角形が消えることはない。
一瞬、『ゲーム画面のシステムメニューのスイッチみたい』と思った途端、謎の三角形が視界上部までスライドした。
その動いた軌跡には、
『習得済魔法』
『スキル』
『ステータス』
『ログ』
『ヘルプ』
という五つの項目がAR映像のように、目に見える景色に重なって見えた。
なんぞこれ。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
「失礼します、サトル様。フェー、ドロレス、レテの三名、ただ今参上しました」
「失礼します」
「失礼しまーす」
ふむふむ、なるほど。
各項目の欄に意識を向けると、一覧が見れるようだ。
『習得済魔法』には【上級時空魔法】【上級治癒魔法】【上級付与魔法】【下級水魔法】の四つがあり、各上級魔法の下には中級、下級の記載があった。
時空魔法は『召喚魔法』、治癒魔法は『治癒の宝玉』、付与魔法もたぶん『治癒の宝玉』、水魔法はさっきの『水球の精製』が思い浮かぶ。
おそらく、一度体感した魔法を習得し、その下位の魔法も使えるようになるのだろう。
うーん、なんという
「サトル様? どうしたんですか、ブツブツと呟いて」
『ログ』の欄を見ると、最新のものが【下級水魔法:水球の精製】となっていて、少し遡ると【中級治癒魔法:オートリジェネ】が複数見てとれた。
この『オートリジェネ』というのは、確か体力を徐々に回復させるものだったはずだ。
とするとあれか。
アウラとにゃんにゃんした時に、出しても出しても弾切れにならなかったのはこのせいか!
……今後も活用しよう。
「サトル様ー、来ましたよー」
そして『ヘルプ』の欄。
これはこのシステムについてのFAQが載っていた。
なんでもこのシステムは【エクストラスキル:魔術師】の能力の一部らしい。
魔術師スキルは『能力の可視化』『経験した魔法の習得』『魔法の最適化』などが混ざった複合スキルで、俺が死にかけた時に得た能力なのだそうだ。
あの時の変な声はコレだったのか。
『サートールーさーまー!』
「うおっ⁉︎」
気づいたらフェーたち三人が、目の前で俺を大声で呼んでいた。
「やっと気づいてくれました」
「どうしたんですか? とても集中していたようでしたが」
「悩みごとですかー?」
「いや、魔法についてちょっと考えていた。どうやら俺の魔法は特別らしい」
三人娘は首をかしげる。
意味が分からないようだ。当たり前か。
「そうだ。質問なんだけど、この世界では『スキル』ってのは持ってる人が一般的なのか?」
メニューの『スキル』欄には、【魔術師】と【熱変動耐性ex】の二つのスキルがあった。
これらは俺が死にかけた時に聞こえた声が言っていたはずだ。
その後この世界に召喚されたのだから、何かしら関係があると思ったのだが、
「スキル、ですか?」
「技能、という意味ですか?」
「持っているってことはー、物なんですかー?」
三人は今度こそ全く意味が分からない、といった返答をする。
『スキル』はこの世界には無い、のか?
後宮の侍女であるフェーたちが知らないならば、少なくともこの世界の常識ではないはずだ。
アウラに聞くことが増えたな。
「いや、なんでもない。俺の勘違いだったようだ。それより、今日はこの国の歴史について教えてほしい。頼めるか?」
「? はい、分かりました」
「わ、私、歴史は苦手で…。」
「私は得意ですー」
意外にもレテが歴史に詳しいとのことなので、間延びした口調でカープァ王国の歴史について学ぶことにした。