これは以前書いていた東京喰種:八のリメイク版になります。
サァッとどこからかふいた風が頬をなぜる。その風には少し湿気が混じっている気がした。この前まで降り続いていた雨が嘘だったかのように、空はどこまでも青く晴れ渡っている。周りを見渡してみれば、半袖を着ている者もちらほらとみえる。
例年よりも多く雨の降った梅雨が終わり、大学に入り2度目の夏がこようとしていた…。
東京20区ーーー。そこにある上井大学、そのキャンパスのメインストリートを俺は1人歩いていた。高校2年の終わり、最後の進路調査書に俺はここの大学の名前を記した。もちろん、俺を知っているいろんな奴等には驚かれたが、唯一平塚先生は、君は本来そう言う奴だよ。と、タバコを吸いながらニヒルに笑うだけだった。
「あ、ヒッキー!」
キャンパスを歩いていると、俺を呼ぶ声がする。見ると、そこには待ち合わせをしていた由比ヶ浜が俺に向かって大きく手を振っていた。
「やっはろーっ、ヒッキー!」
「おう。わるいな、待たせたか?」
「ううん、ぜんぜん。私も今きたとこ!」
そういい由比ヶ浜はニパーっと笑う。
そんな由比ヶ浜の雰囲気は高校の頃からは変わっていた。
髪はあの頃とは違い、ロング程に伸ばし降ろされていているし、態度も少し落ち着いてきて、大人びた雰囲気になった。なんだろうか、ダックスフンドが、ゴールデンレトリバーになった感じ?…うん、意味わかんねぇな。まあ、そんな感じだ。
「そうか、ならいいんだが…。んじゃ、いくか。」
「うん!急がないと、ゆきのん待たせちゃうから....」
「そうだったな....。急いでいくか、あいつを待たせたら何を言われるかわからんからな。」
基本、人を待たせるとろくな事がないが、その相手が雪ノ下になるとその危険性は数倍に跳ね上がる。もしも彼女を長い間待たせようものなら、きっとその時には今まで味わった事のないような罵詈雑言が飛んでくることだろう。…うう、想像しただけでも身震いが……。
「またそんな事いってる!久々に会うんだから、そんな事いっちゃダメだよ!」
「わかってるって...」
俺のそんな態度に由比ヶ浜はプンプンと言う音が聞こえてきそうな様子で俺を叱る。
そう今日は久々に奉仕部のメンバーで集まる約束をしているのだ。最後に集まったのは学年が上がった時だったので、今日は三ヶ月ぶりに集まるということになる。
「で?どこで待ち合わせだったけ?」
「え〜とね....たしかここから近い喫茶店だったと思うんだけど....」
そういい由比ヶ浜は携帯を弄りだす。その度に携帯にジャラジャラ付けられているストラップが揺れるのが気になってならん。重たくないのそれ?せっかくガラケーからスマートホンに変えたのに、全然スマートじゃないじゃん。
「あ!わかったよ!えーっとね....」
どうやら目的の情報を見つけたらしい。由比ヶ浜は、携帯を凝視しながら目的地の名前を告げる。
「高田ビルの近くの........、あんていく....ってお店だって!」
あんていく、ね。…変な名前だ、どう言う意味なのだろうか。あんていく…アンティーク?いや、違うか。ふむ………。
「さー!いこ、ヒッキー!」
「お、おう…?!」
そんなくだらない事を考えている俺を由比ヶ浜は腕を捕み引っ張ていくのだった。
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「あ、あそこかな…?」
「ん…?あぁ、そうみたいだな。」
大学から他愛もない話をしつつ歩き続けること数十分。俺達は目的の場所であるあんていくへと到着した。外からみた雰囲気から察するにここは喫茶店らしい。入口には平仮名で"あんていく"とかかれた看板が置かれていた。
しかし、先ほどからどうもチラホラと視線を感じる。明確な敵意はないが、なにか警戒されている様かのような…そんな視線を。
ざっと周りを見渡してみるが、周りに人が多くてその視線の主は分かりそうもなかった。
「ヒッキー、なにしてるの?はいろ?」
「…あぁ、わるい。」
俺がそうしている間に由比ヶ浜は既に店の入口のドアノブへと手をかけていた。由比ヶ浜は、ん、いいよと言うとドアノブを引く。
カランコロンと、お決まりの音が店内に響き、扉が開かれる。瞬間香る珈琲の匂い。やはりここは喫茶店だったようだ。
俺達があんていくに入ると、雪ノ下は探さずともすぐに見つかった。案の定雪ノ下は既に席に着き、文庫本に目を落としていた。相変わらず絵になる光景だ。大人になるにつれ、雪ノ下の美貌にはさらに磨きがかかっている。身長も少し伸びたし、顔つきも幼さがぬけ、元来持ち合わせていた落ち着いた雰囲気は以前よりも型にはまっている。髪の毛はミディアムロング程度に切り揃えられ、以前とは全く異なった印象を感じさせた。それに体つきも全体的に成長してきている。いままで控え目だったあの部分も少しずつ………うん。大人になってる。
ん?なにもやらしい事なんて考えてないぞ?ただの事実の確認だ。
「ゆきのん!」
俺が誰へ向けた物かもわからない言い訳をしている中、由比ヶ浜は雪ノ下の姿を見つけるとタタタッと、雪ノ下の元へと駆けてゆく。
「こんにちは、結衣。」
「うん!やっはろー、ゆきのんっ。ごめんねぇ、待たせちゃった?」
「いえ、いいのよ。時間はあるのだから、気にすることはないわ。」
そう言うと雪ノ下は微笑む。ほんとに気にしていないだろう。相変わらず結衣には甘いやつだ。そして雪乃は俺へと目を向ける。
「比企谷君も、こんにちは。」
「おう。久しぶりだな、雪ノ下。」
挨拶を済ませたところで、俺と由比ヶ浜は席へつく。そして雪乃の手にあるコーヒーカップをみて、率直に感じた疑問を漏らす。
「しかし....お前がコーヒーとは珍しいな。」
「そうかしら....。昔からコーヒーは嫌いじゃないわ。それに....」
そういいつつ、雪ノ下はカウンターの方へ目をやる。そこでは紳士的な年老いた男性が、柔和な微笑みを湛えこちらを見ていた。
目が合ったので、軽く会釈をする。すると男性もこちらへ頭を下げて応える。
「ここの店長が入れるコーヒーは美味しいから....。」
「東京にも、こんな所があったんだな。」
そういいつつ、改めて店内の様子を伺う。店内はまさに、喫茶店と言った様子で、シンプルに余計なものは何も置かれていない。客が少ない訳でもないのだが、それぞれが静かに自分達の時間を過ごしているため、店内には静かな時間が流れている。
「ゆきのんはよくここに来るの?」
「ええ、ここの店長は私の父と知り合いで、その....東京に来てからいろいろとお世話になっているから。」
そう言うと、雪乃はわずかに目を逸らす。
なんだろうか、煮え切らない態度だ。なにか、言えない事でもあるのか…?
「へぇ…なあ雪ノ下…。」
「ご注文はお決まりですか?」
俺はその少しの違和感に追及をしようとしたのだが、注文を取りに来た店員にその言葉を遮られる。おおい、俺が言うのもなんだが空気ってもん読んではくれないだろうか。
「あら....。こんにちは、董香さん。」
「こんにちは、雪乃さん。」
どうやら注文をとりにきた店員と雪乃は知り合いらしい、みると、髪をセミロングほどにそろえているーーー歳は高校生くらいだろうかーーー女の子がたっていた。
じっと見ていたら目が合った、すると半眼で睨まれてしまう。ふえぇ....こわいよぉ....。
....俺何もしてないのに....。
「それで....、ご注文は....。」
「ああ、ごめんなさい。結衣はコーヒーでも大丈夫かしら?」
「うん!大丈夫だよ〜。」
「お前....コーヒーとか飲めんの?」
「バカにしすぎだし!飲めるもん!....砂糖があれば....なんとか....。」
「飲めないんじゃねえかよ....。じゃあ俺はまっ....「いっておくけれど」....なんだよ。」
「ここに、MAXコーヒーというメニューはないから。」
「さいですか....。」
「董香さん、コーヒーを3杯と....、一つだけミルクと、シュガーをつけてもらいたいのだけれど。」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。」
そう言い、店員の....霧島さんは、カウンターへ向かっていく。
「可愛い子だったねぇ....。ゆきのんはあのことも知り合い?」
「ええ....。彼女はここでバイトをしている、霧嶋董香さんというのよ。」
「へぇ〜、ほんとに常連さんなんだね、ゆきのん。」
「えぇ....。それで、比企谷君?さっき私をのことを呼ばなかったかしら?」
「いや....、なんでもない、気にするな。」
「そう....。」
そこで、会話は途切れる。しかし、気まずい雰囲気はなく、あの頃と変わらない気持ちいのいい沈黙が続く....。雪ノ下の表情も穏やかで、もさっき感じた違和感を感じさせることは無い。きっと、俺の思い過ごしだったのだろう。久しぶりで神経質になっているのかもしれない。
俺がほっと息をついたその時だった。
『ーーー28日 高田ビル通りで男性の遺体の一部が発見されました。現場には"喰種"のものと思われる体液がのこされており、捜査局はこれを"喰種"の捕食と見て周辺調査を開始しています。』
店内に置かれたテレビから一つのニュースが流れる。その瞬間だった…、突如俺の体中にゾワッと寒気が走る。
....なんだ?心なしか、店内の雰囲気が変わった....?
周りを見渡すが店内に先程と変わった様子はない。勘違い…なのか?いや、でもこれは…。
『東京の街を襲う"喰種"の恐怖....。彼らの実態とは....?今日は"喰種"研究家の小倉先生にお話をお伺いしたいとおもいます。』
そうしてキャスターが話を振ると、先程まで体に感じていたプレッシャーがふっと解ける。いつの間にか息を吸うのを忘れていたらしい俺は、思わずはぁ…と息を漏らす。
「怖いね....高田ビル通りって....ここから、かなり近いね....。でも、私"喰種"なんて一度も見たことないんだけど、ほんとにいるのかな?」
「そりゃ、いるだろ。こうしてニュースでも堂々とその存在に触れているんだし、それに"喰種対策局"なんてもんまであるんだ。あれは国の税金からうごいてんだから、これで"喰種"なんていませんでした、なんていったら詐欺なんてもんじゃねぇぞ。」
「そっか....。ゆきのんはどう思う?」
「そうね....。比企谷君がいったように、彼らの存在はこの国のシステムが証明しているわ。」
「案外、そこら辺にいるかもな。」
「やめてよぉ〜!怖いじゃん!」
そう言い、由比ヶ浜は机にうなだれる。その姿を微笑ましく思いながら、雪ノ下の方へ目をやると、なにか考え事をしているのか、物憂げな表情をしていた....。
なんてことのない、今まで何度か見てきた表情だったが、俺はその表情になにか、妙な胸騒ぎを感じてならなかった....。
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「ありがとね、ヒッキー。」
「近頃、物騒だからな....。お前らだけで帰らせられねぇよ。」
あんていくで暫く過ごした後、俺達は東京の街を遊んでまわった。そして、俺は二人を駅まで送りにきているのだった。
「出会ったばかりの頃からは想像もできない殊勝なここがけね。....ほんとに変わったわね....あなた。特に目とか。」
「だよねー、ヒッキー変わったよね!特に目とか!」
「お前らな....。」
くそ、好き勝手言ってくれやがって。てか目の事強調し過ぎだろ…、そこまで言われるとか前どんだけひどかったんだよ…。まあ自覚してるんだが。
「でも、ヒッキーが先生になるって言い出した時はほんと、びっくりしたよね!」
「たしかに、あのときは驚いたわ。比企谷君がまともに働こうとしているだけでも驚きなのに、教師だなんて。」
「おい、もういいだろ…、てかそれを言うなら由比ヶ浜の事だって驚きだっただろ。」
「うぇ?!わ、わたし?」
急に話を振られ、由比ヶ浜がわかり易く戸惑う。うぇってお前…。戸部かよ。そういやあいつ今頃何してんだろうな?いや、別に全く興味ないんだけどね?
「そうね…。確かに、高校三年からの結衣は凄かったものね。」
「ああ、正直驚いた。しかも、ほんとに受かっちまうんだからな。」
高校三年生の頃由比ヶ浜は進路調査書に俺と同じ大学名を記した。雪ノ下と同じ大学にはいけないからせめて俺と同じ大学に行きたい。とのことだった。これには平塚先生や、いろんな人が由比ヶ浜を止めたが、由比ヶ浜はその意思を変えることなく努力を続けた。暇な時間は全て勉強に費やし、奉仕部にいる時間は俺と雪ノ下に勉強を教わり…、そうして、結果として俺と同じ大学に通っているのだ。本人が言うにはギリギリだったらしいが、そうだとしても俺は由比ヶ浜の努力の結果だと思っている。将来は保育士になりたいのだという。温厚で誰とでも自然に接することのできる由比ヶ浜にはぴったりの職業だろう。
「ええ、でも元々総武高校に入れるだけの素養はあったのだから、努力すれば大丈夫だとは思っていたわ。」
「そうだったな、そういえば由比ヶ浜同じ高校だったな。」
「どう言う意味だし!ヒッキー馬鹿にしすぎだから!」
俺の言葉に結衣はプンプンと言った様子で怒る。由比ヶ浜のこう言った反応は見ていて面白い、からかいがいがあるというものだ。俺は思わず口端が緩むのを抑えながら、雪ノ下へ目をやると由比ヶ浜も同じ事を考えていたらしい、俺と同じように口角が上を向いている。そんな俺達の様子を察してか、由比ヶ浜は「もう~!」といいそっぽを向く。…あー、やりすぎちまったか。
「すまん、悪かったって。」
「むー。今度ハニトー奢ってくれたら許してあげる。」
な、なんだと…。この親からの数少ない仕送りを頼りに細々と暮らしている俺にそんな物を奢れと申すか…!…まあ、悪いのは俺だしな。
「…分かったよ。それで手打ちだぞ?」
「うん!いいよ!」
えー、変わり身はや…。どっかの忍者かよお前…。
「結衣、私も少し悪気があったわ。ごめんなさい。」
「うん!いいよ、ゆきのん!」
「えぇ~…。」
雪ノ下にはペナルティ無しですか。そうですか。…なんだよこの格差、高低差あり過ぎて耳キーンなるわ。
「あ、そろそろ電車の時間だ。」
「そうか、じゃあ今日はこれでお開きだな。」
「そうね…。では行きましょうか、結衣。」
「そうだね。じゃあ…また明日ね、ヒッキー!」
「あいよ、じゃあな。」
別れの言葉を交わし、俺達はそれぞれの帰路へつく。
二人は電車、俺は一人暮らしのマンションまで自転車だ。
二人の姿がホームに消えるまで見送ったあと、俺は駅の自転車置き場へと向かう。そういえば、今日の晩飯何にしようか…今からつくるの面倒だな。俺がそんな事を考えつつ歩いている時だった。
「やっはろ〜、ひ・き・が・や・君」
唐突に俺の前に"彼女"が現れたのだ。........雪ノ下 陽乃が............。
思えば、俺の"物語"はここからはじまったのだ。俺の送ってきたこれまでの人生、小学校の頃のことも、中学校の頃のことも、....高校で、奉仕部で過ごしたあの時間さえ、この物語の序章でしかなかったのだ。そしてここから始まる"物語"は............。
................悲劇だ................。