「....そもそもだ....私達人間というものは....」
奉仕部で集まったあの日から数日。俺は大学の授業を、ぼ〜っと聞き流していた。近頃はずっとそうだ。今日は特に、授業に身が入らない。
俺がなぜこんなにぼ~っとしているのか、話はあの日の夜へと遡る。雪ノ下さんと出くわした夜へと…。
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「久しぶり〜比企谷君。」
「お久しぶりです…雪ノ下さん。」
雪ノ下と由比ヶ浜を見送り、駅の自転車置き場へと向かう途中、俺へ話しかけてきたのは雪ノ下さんだった。まさか、こんなところでこの人に出くわすとは…
「こんな所で陽乃さんと出くわすなんて....。なーんて、考えてるでしょ?」
「相変わらずですね....。雪ノ下さん。」
なんでわかんだよ…。ほんと姉妹揃って、ナチュラルに人の思考よむのやめてくれませんかねえ。
「あー!図星だったんだぁ!わっかりやすいなぁ、比企谷君は〜。」
そう言い、雪ノ下さんは、うりうり~と、肘で脇をついてくる。…相変わらず近い…動く度に香るいい匂いと妹とは違って自己主張の激しいあれが俺に悪い影響しか与えないのでほんとにやめてほしい。
「やめてください...。てか、なんで雪ノ下さんは何でこんなとこにいるんですか?」
俺は雪ノ下さんから身を離し、ふと気になった事を尋ねる。
「んーちょっとこっちに用事があってね〜、そ・れ・と、比企谷君の顔が見たくなっちゃって。」
そういいパチコーンと、ウィンクをする雪ノ下さん。それは普通の男なら一発で惚れてしまう程に魅力的なしぐさだったが、…生憎おれは普通の男ではない。むしろ少しイラッとしたまである。
「そうですか、じゃあもう俺の顔も見れたんで帰っていいですよ……ぐぇっ!?」
俺はそっけなくそう言いその場を後にしようとするが、雪ノ下さんに首根っこを掴まれる。
「相変わらずつれないなー、比企谷君は。まあお姉さんはそういう所も好きだけど、他の女の子とかはどう思うのかなー。」
そういいやれやれと首を振る雪ノ下さん、その手はガッチリと俺の腕を掴んでいる。…くそ、これじゃ逃げられねえ。
「余計なお世話ですよ…。てか、なんか用事があるならとっとと済ませちゃってくださいよ。」
「うわっ、比企谷君冷たいなー。大好きな比企谷君にそんな態度とられたら私泣いちゃうよ~。」
雪ノ下さんは泣きまねをしつつそう言う。…正直めんどくさい。このまま無理矢理振り払って帰ってもいいが…そんな事をすれば後が怖いからな。そういうわけにもいかない。
「いい加減にしてください。そんな茶番をするためにわざわざ会いに来たわけではないんでしょう?」
俺が少し強くそう言うと、雪ノ下さんは手を離し俺と向き合う。
「ん…まあね。ちょっと比企谷君とお話がしたくてねー。ね、比企谷君今度暇な時ある?」
「いや、最近ちょっと忙しくて…。」
雪ノ下さんのお誘いに俺はそう即答する。俺の第六感が警鐘をならしている、何がなんでもこのお誘いにだけはのるな、と。
「へぇ…そうなんだ。じゃー、デートしようか。」
雪ノ下さんのその物言いに俺は絶句する。なんてこった…無理を通して道理を蹴っ飛ばしてきやがった…あなたそんな兄貴肌でしたっけ!?
「いや、だから俺忙し…」
「デートしよっか。」
「いや...」
「デートしよっか。」
「はい…。」
俺は雪ノ下さんの圧倒的な圧力に屈してしまった....。てか、疑問系できかれてる筈なのに、なんでこんなに強制力感じるの?怖すぎて断れねぇよ…。
「じゃ、詳しい事は連絡するから!」
そう言い満足そうに笑うと雪ノ下さんはさっていく。
「なんだったんだ....一体....。」
嵐の様に去っていった雪ノ下さんの背中を見つつもれた俺のつぶやきは、夜の街に消えていくのだった。
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そして、今日がその....デートの日なのである。
正直めんどくさい。というか、あの人の目的がわからない分対策も立てづらく、正直行くのが怖いまである。
はぁ....。なんとかできねぇかな....。
机につっぷし、そんな事を考えていた時だった、俺の肩を誰かがゆする。
「なあ、比企谷起きろよ。」
顔をあげてみれば、俺の肩を揺すっていたのは永近 英良ーーー大学内で俺と話すことのある僅かな人間の一人だーーーだった。
「なんだよ、永近。」
俺はぶすっとした様子で永近の方をむく。正直今は誰かの相手をするような気分ではない。
「なあ、お前今の教授の話しどう思う?」
「どう思うってなんだよ。」
「人間の進化の話しだよ!聞いてなかったのかよ。」
そういい、永近は俺をジト目でみてくる。うるせえな、こっちは今それどころじゃねえんだよ。
「うるせえ。てか、それがどうしたんだよ。」
「いやー、人間の話し聞いてて思ったんだけどさ、喰種っていんじゃん?あいつらはどうなのってさ。てか、ほんとに喰種っていんの?」
そういい、顎に手をやり考える格好をとる永近。お前それだせえからやめた方がいいぞ。…てか、なんかこの前の由比ヶ浜みてえな疑問だな。あの時みたいに俺が自分の考えを言ってやってもいいが…今はその道のプロが目の前にいるんだ。教授にまかせよう。
「知らねえよ。教授に聞いてみればいいだろ?」
「そっか…それもそうだな。」
「....というわけだ。何か質問があるものは?」
そこでタイミングを計らったかのようにきた教授の言葉に永近は、はいっ!と手を挙げる
「せんせーい。俺、"喰種"に興味があるんですけど、実際に見たことがなくて、ほんとにいるんすか?"喰種"って。」
その質問に教授はふむ…と腕を組む。
「"喰種"か....。まず質問に答えよう。彼らが存在しているかどうかだが....。答えはyesだ。彼らは確実に存在している。それは、ニュースや、喰種捜査局などの、この社会のシステムが証明している。」
先生のその返答に生徒がざわめく。
何人かは特に驚いてない様子だが....、まあ俺と同じように独自にその答えに行き着いたか....あるいは彼らが"喰種"なのか....。なんて、流石に考え過ぎか。
「ok、それでは軽く彼らについて講義をしよう。まず"喰種"という呼び名だが....彼らがそう呼ばれるのは、彼らが人肉、つまり人間の肉を主食としているからだ。そもそも彼らは人肉以外から栄養を摂取できない。これは彼らの持つ特殊な酵素の影響と言われているね。」
そんな話しに永近やほとんどの人間がうへぇ....という、表情を浮かべる。俺も表情に出すことはないが、聞いていていい気分はしなかった。
人肉を食べるねぇ....どんな気分なんだろうか。俺はゴメンだな。そんな気分知りたくもない。まあ、一生知ることなんてないだろうが。
「ここからは、真偽の程は定かではないのだが....面白い話があってね....。彼ら、舌の作りが我々と違うから....食べ物がめちゃくちゃ不味く感じるらしい。サラダは青っぽく、肉や魚も生臭く感じるらしいね。人前では我慢して食べるかもしれないが....食べた後は強い吐き気に襲われるだろうね。」
まじかよ....じゃあほんとに、"喰種"にはなりたくねえな。当たり前のことだが。
「まあ、おぐちゃんがいっていたことだから、ほんとかどうかわからないんだけどね。」ハハハ....
先生がそう付け足すと、終業をしらせるチャイムがなる。
「じゃあ、今日の授業はここまで。"喰種"についてこれよりも詳しい事が知りたい人は喰種捜査局にでもいってみてくれ。」
先生が出ていくと、生徒がまばらに帰り始める。
....俺も雪ノ下さんのところへ向かうか....。
めんどいけど。
気だるげに立ち上がる俺。しかし、そんな俺に永近が話しかけてくる。
「なあ!比企谷、このあと暇か?」
「あー、悪いな。この後用事がある。」
「お前こんまえもそういって、結局用事とかなかったじゃん!結衣ちゃんにきいたんだぜ?」
俺は永近と話しつつ重い足取りでキャンパスへと出る。
「いや、ほんとに今日は用事があるんだよ。」
「嘘つけって。」
「いや今回ばっかしはほんとだ。神に誓ってもいい。」
「じゃあ、俺が納得出来るだけの証拠を出せたら引き下がってやるよ。」
「証拠ってお前…。」
証拠をみせろってほどフラグ臭のする台詞はないと思う。そう言う奴は大概小学生か、真犯人のどちらかだ。その言葉を口にした途端結末が見えてチャンネルを変えるまである。まあ、今の状況は少し違っているが。証拠、証拠ねぇ…。どっかに落ちてねえかなー。
「あ、比企谷君だ。ひゃっはろー。」
いたよ証拠…。なんでいんだよ………!
俺が永近を連れて歩いているとふいに声をかけられる。その声の主は言うまでもなく陽乃さんだった。
「へ?あの美人、今お前の事…?え?なんで?」
「………はい、証拠。」
俺は、雪ノ下さんの姿と俺の姿を交互にみて固まっている永近を放置し、雪ノ下さんの元へと歩いていく。
「なんでここにいるんですか…雪ノ下さん。」
俺は楽しそうにニコニコと笑っている雪ノ下さんに、不機嫌気味に話しかける。めっちゃ注目浴びてるし…勘弁してくれ、こんなのもはやテロだぞ。テロ。
「ん〜、大学が早く終わったから....、せっかくだし比企谷君の学校見てみようと思って…ダメだった?」
そう言い雪ノ下さんは上目遣いで首を傾げる。そのあまりに可愛らしい仕草に思わず、そんなことないです!なんて言ってしまいそうになる…。だが断る。この比企谷八幡が最も好きな事のひとつは自分で可愛いと思っているやつに「NO」と断ってやる事だ…。
「ダメです。」
俺が岸辺露伴に習った信念に基づきそう即答するが、陽乃さんはニコニコとその表情を崩さない。まだ何か言うつもりだな…。だが、俺は、俺のプライドにかけて屈したりはしない………!
「MAXコーヒー、一ケース買ってあげるから許して?」
「許します。」
え?プライド?なにそれくえんの?
「てか、そろそろ行きませんか?正直これ以上注目を集めたくないんですけど…。」
そう、これ以上めだつとあいつが....。
「ヒッキー!」
由比ヶ浜が....きちゃった........。
「やっはろー!ヒッキー!....と、陽乃さん?!」
「よ、よう。」
「ひゃっはろー、久しぶり!がはまちゃん。」
「お、お久しぶりです....。」
結衣は陽乃さんに挨拶すると、俺の首ねっこを掴み小声で尋ねる。
「ちょっと!ヒッキー!なんで、陽乃さんがここにいるの?!」
「いや、なんでって....そりゃ....」
「おい、比企谷!俺も聞きてえぞ!あの美人一体誰だよ!?お前とどういう関係なんだ!?」
そして、由比ヶ浜とは反対側に硬直状態から回復した永近が出現する。いつの間に回復したんだよ…永近。
「比企谷君はこれから私とデートなんだよ。」
答えあぐねている俺へ雪ノ下さんが助け船を....いや違う!この人爆弾投下しやがった!
「え....?」
「な、なななななななななな!?」
案の定、由比ヶ浜はその場でかたまり、永近は壊れたロボットのように痙攣し、周りの野次馬からはドヨヨっとざわめきが起きる。てか、いつまでいんだお前ら!見世物じゃねーんだぞ!
「「ちょ、ちょっと(お、おい)!ヒッキー(比企谷)どういうこと(だよ)?!」」
硬直から息を吹き返した結衣と永近が声を揃えて俺に詰め寄る。仲いいなお前ら。いつの間にそんなにシンクロ率高めたの?1週間同じ部屋で暮らしてダンスの練習でもしてたの?
「落ち着けって...、デートなんかじゃねぇから…。」
「でも、比企谷君、私がデートしよっていったら、はい、って言ってくれたよね?」
俺が必死に弁明を試みるが、その試みは雪ノ下さんの追撃に見事に砕かれる。ちょっとぉ?!もうやめてくれませんか!
「いや、あれは…!」
「ヒッキーぃ?」
ひいぃ!由比ヶ浜さんの背後に般若がみえる!おこってらっしゃいます?!なぜ?!ホワァイ?!
「じゃ、そう言う事だから、比企谷君かりてくねー?」
「いや、ちょっ!?」
「あ、ちょっと、ヒッキー!」
そう言い雪ノ下さんは、俺に事態を収集する間も与えずに、俺をグイグイと引っ張っていく。
「もう!今度ゆきのんと詳しく教えてもらうんからねー!」
「比企谷…裏切りもノ………。」
そんな由比ヶ浜の叫び声がキャンパス内にこだまする。そして、その横でどす黒いオーラを立ち上らせる永近。いや、裏切りものってなんだよ!てか、最後なんかやばい雰囲気かもしだしてたぞ!?チラッと雪ノ下さんの顔を伺うと、それはまあ、いい表情をしてらっしゃる。
「違ううんだぁぁぁぁぁ…。」
俺の魂の叫びが大学内にこだまする。
こうして、俺は改めてこう思うのだった....。やっぱり....俺はこの人が苦手だ....。