「はあ…。」
俺は1つ大きくため息をもらす…。大学での騒動のあと、俺と雪ノ下さんは20区の路地を2人歩いていた。
「ほらほら、いつまで落ち込んでんの!男らしくない!」
そう言い雪ノ下さんはバシバシと俺の背中を叩く。誰のせいですか、誰の。
「じゃー、どこ行こっか?」
「どこ行こっかって....」
きめてないんですか....とは言わなかった。雪ノ下さんのことだ。わざと俺に行先を聞くような事をして、楽しんでいるのだろう。
「....じゃあ、俺がこの前雪ノ下達といった喫茶店でも行きますか?」
「うーん。ほかの女の子の名前を出したのは減点だけど、ミス●とかマッ●とか言わなかっただけ良しとしよう。」
雪ノ下さんは顎に手を当て神妙な顔でそういう。やっぱ、そう言う事だったのね....。
「いや、流石にこういう時の事ぐらいはわきまえてますよ…。それに、そんな事したら小町に叱られちゃいますし。」
「でた!相変わらず、シスコンなんだね〜。」
「千葉の兄妹なら普通です。俺のこれは一生治りませんよ。」
なぜなら小町が可愛いからな!
高校に入って段々と大人の色気を身につけてきた小町は近頃天使から女神へとランクアップしつつある。その可愛さと言ったら他の通随を許さない程だ。小町が女神になったことによって俺の天使は戸塚ただ一人になった。が、俺は寂しくない。女神である小町、天使である戸塚この二人への愛が俺を強くする!お前達が俺の翼だ!
「ちょっとー、比企谷君。戻ってきてー。」
雪ノ下さんのその声に俺はハッと意識を取り戻す。いかんいかん、しばらく2人にあってないもんだから禁断症状がでちまったぜ…。
「じゃ、じゃあ、行きましょうか?」
若干の恥ずかしさからキョドりつつも俺は雪ノ下さんと共に歩き出す。
そうして俺は再びあの喫茶店。あんていくへむかうのだった。
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「喫茶店って、ここかぁ....」
あんていくに着くと、雪ノ下さんがポツリとそう漏らす。
「知っている所でしたか?」
「うん、ここの店長が父の知り合いだから。」
「そう言えば、雪ノ下もそんな事いってましたね....どうします?場所....かえましょうか?」
「ううん。ありがとう、でも大丈夫だから。」
そう言い雪ノ下さんはドアノブに手を掛ける。ドアに付いているベルがカランコランとなると、客がこっちを向き、そして、店内が静まり返った。
え?どういうこと?俺達あんま歓迎されてない....?いや、もしかして....。
雪ノ下さんの表情を覗き見ると、明らかに苦笑を浮かべていた。
「いらっしゃいませ....。」
入口から動けずにーーー雪ノ下さんが動かずにーーーいた俺達の元へ例の年老いた店長がやってくる。あれ?今日は霧島....トーカさんはいないのか?と、店内を見渡すと、カウンターからこちらの様子を伺っているようだった。....少し警戒している様にもみえる。....考え過ぎか?
「お久しぶりです。芳村さん。」
「お久しぶり。陽乃ちゃん。」
珍しく、雪ノ下さんがあの飄々とした態度ではなく、礼儀正しく挨拶をする。
それを受け、店長こと芳村さんはニッコリと笑顔を浮かべる。はぁ....やっと、緊張の糸がほぐれた。
「それと、そちらにいるのは、この前雪乃ちゃんと一緒にいた....」
「あ、どうも。比企谷です。」
俺の一応自己紹介をうけ、芳村さんは俺と雪ノ下さんの顔を見比べ、神妙な面持ちを浮かべる。
「陽乃ちゃん....。」
「芳村さん。」
何かを言おうとした芳村さんに、雪ノ下さんはピシャリ。と言い放つ。
「私のやる事には口をださない。そう言う約束だった筈です。」
それを受け芳村さんは一瞬苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべると、
「席へ案内しましょう。」
くるり、と、振り返り、俺達を席へ案内する。
「いこっか。」
そういう雪ノ下さんの表情は既に、いつも道理の微笑を浮かべているのだった。
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「ふぅ〜。すっかり遅くなっちゃったね。」
あの後、暫くあんていくで過ごした後、俺達は東京の街をぶらぶらとしーーー雪ノ下さんにふりまわされーーーすっかり暗くなった道を帰っていた。
「そうですね....。駅まで送っていきますよ。」
「ありがと。お願いするね?....近頃物騒だしねー。」
「そうですね。確かこの前喰種の事件があったのもここら辺でしたっけ。」
「うん、そう。ここの先のちょっと行ったところ。」
「詳しいんですね。」
俺がそう言うと雪ノ下さんはまあね。と笑う。
「....ねえ、比企谷君は喰種っていると思う?」
「またその質問ですか....。なんか最近聞かれる事多いんですよ。はやってるんですか?」
「ははは、そうなんだ〜。まあ、最近喰種関連の事件多いもんね。ここら辺で。」
「まあ、そうですね。」
そう言えば、テレビでも最近20区で同一犯と思われる喰種による殺人が続いている....とか言っていた気がする。
「それで?比企谷君はどう思うの?」
「....喰種がいるかどうかなんて、議論するまでもないですよ。彼らの存在はこの社会に存在している様々なシステムが証明しています。」
「....はは、比企谷君らしいね。」
そう言い雪ノ下さんは俯く。なんだ....?らしくないな。
「....じゃあ、さ。もしも知り合いが喰種だったら....比企谷君はどうする?」
そう言い雪ノ下さんは立ち止まる。その顔は未だ俯いたままだ。
「いきなり、どうしたんですか....?なんかおかしい「いいから」....。」
「いいから、答えて。」
そう言い顔を上げた陽乃さんの顔は、何時になく真面目な表情だった。
いつもと違う雪ノ下さんの様子に、俺もすこし態度を改める。なんでかは知らないが、雪ノ下さんはこの質問の答えを本気でききたがっているらしい。…もしかしたらこの質問をすることが、今日俺をデートとやらに誘った理由…なのかもしれない。そう思わされるまでに雪ノ下さんの表情は真剣だった。
それにしても知り合いが喰種だったら…か。
「....そうですね....。そうなってみないとわからない....っていうのが正直な所ですね。」
「そっか....。」
「ただ…、俺は例え俺の知り合いが喰種だったとしても…。」
頭に浮かぶのは雪ノ下と由比ヶ浜の2人の顔。
…2人だけじゃない、戸塚や材木座。一色に川崎、平塚先生…。俺がこれまでに出会ってきた、いろんなやつの顔が思い浮かぶ。
「…俺は、それでも俺は繋がっていたいって…そう思います。」
まあ、そいつが俺を食おうって言うんなら話は別ですけど…と、俺がそう言うと雪ノ下さんは驚いたような顔をし、そして微笑みをうかべる。
「そっか....やっぱり、比企谷君…変わったね
。」
「そうですかね...。」
俺は少し気恥ずかしくなり、にポリポリと頬をかきつつ顔をそらす。
「うん、だって前の比企谷君だったら、ここは『そもそもそんな仮定意味がありませんよ。なぜなら俺はぼっちなんで知り合いがいませんしね。』とか言ってたでしょ?」
「いや…まぁ、そうかもしれませんね…。」
そうかもしれませんけど、俺の物真似すこし誇張しすぎじゃないですかね…。雪ノ下さんから見た前の俺って、そんな感じだったんですか…。
「でしょ?やっぱり比企谷君変わったって。」
雪ノ下さんはそう言いながら数歩俺より先に進む。
「そして…雪乃ちゃんも変わった。」
そう言った雪ノ下さんの表情は、俺の側からは分からなかった…が、振り返った雪ノ下さんの顔には今までには見たことがないような満面の笑顔が浮かべられていた。
「比企谷君のおかげだね。」
「……………。」
初めて見る雪ノ下さんの本当の笑顔。俺は月に照らし出された雪ノ下さんがあまりに綺麗で何も言えずにいた。すると…。
「………え?」
突如、ガバッと雪ノ下さんが俺に抱きつく。え、え?え、なに、え?
俺がいきなりのことに対応出来ずにいると。
「比企谷君....雪乃ちゃんと友達になってくれてありがとう。」
そう言う雪ノ下さんの声色があまりに儚げで....俺は固まってしまう。
「"これからも"雪乃ちゃんのことをよろしくね。」
雪ノ下さんがそういった時だった。肩に激痛が走る!
「いっ?!」
俺は驚き、思わず雪ノ下さんを突き飛ばした....つもりだったのだが、雪ノ下さんはびくともせず、逆に俺が倒れ込んでしまう。
「な、なん...?!」
混乱しつつ雪ノ下さんの方を見ると、そのには恍惚とした表情を浮かべた雪ノ下さんの姿があった。
「はあぁぁぁぁぁ....おいしい....。やっぱり、私のおもってたとおりね。比企谷君。」
そういい、雪ノ下さんはニコッと笑う。そして次に彼女が目をあけたとき、その目は。
「あ....か?」
深紅に染まっていた。
「ふふふ、その表情…。いいわぁ…?怖いでしょ?恐ろしいでしょ?比企谷君?」
クスクスと笑いながらそう言い、雪ノ下さんは腰から触手のようなものを生やす。
「なんだよ...それ…!」
命の危機を感じた俺は、微笑みを浮かべ佇む雪ノ下さんを尻目にその場を駆け出す!くそ、わけがわからねぇ!雪ノ下さんが喰種?!うそだろ!?
「クソ………っ!」
とにかく、今は逃げるしかないッ!あれこれ考えるのはそれからだ....!
雪ノ下さんに、噛まれた....いや、齧られた肩がひどく痛むが今はそんな事かまってられない。俺はそれほどまでに追い込まれていた。
「女の子から逃げるなんて....酷いね。比企谷君。」
「ぐあっ!」
耳に雪ノ下さんの声が聞こえたと思うと、俺は何かに足を絡み取られ盛大に転ぶ。足元を見れば雪ノ下さんの触手が俺の足に絡みついていた。
「比企谷君…、喰種の赫子を見るの初めてでしょ…?怖い?でも安心して………比企谷君は私のお気に入りだったから、楽に逝かせてあげる。」
そう言い雪ノ下さんは触手の先を俺に向ける。やばいこのままじゃ、やられちまう!なにか、なにか…!と、焦る俺の視界にバックから飛び出し散らばった荷物の中にシャーペンがうつる。
「くっ……そぉ!」
「………!」
俺は手を伸ばし、シャーペンを掴むとそれを触手へ突き立てる!すると、足に絡んでいた触手が少し緩んだ。その隙に俺は触手を振り払い逃げ出す!
「ハァ!ハァ!」
喉が酷く枯れている....。感じるのは強い絶望と"恐怖"だった。騙していたのか…今まで俺を。これまでの言葉も、優しくしたのも全部…っ!
「クソっ!」
なんで、なんでなんだ!俺の人生はどうしてこんなにも………。
ドジュ!
「ガ…ぁ………!?」
走り続けていた俺の横腹に突如走る激痛。見れば俺の横腹は触手に貫かれていた。そしてそのまま触手は俺を引っ掛けると、壁へと叩きつける。
「………ッ!?」
俺の体に激痛が走る。しかし、もはや叫び声すら出ない。それどころか俺の意識は朦朧としてくる。
「ここまでだね…。これでフィナーレだよ。」
そう言いカツ、カツ、と雪ノ下さんはこちらへ歩いてくる。そして、俺を見ると儚げに笑う。
「さよなら…比企谷君。」
ドオオオオオオオォォォオ!
雪ノ下さんがそう言った時だった。
雪ノ下さんの元へ、大量の鉄骨が降り注いだ。
俺は何が起きたか理解できない。必死に様子を伺い見ようとするが上手く身体動いてくれない。しかも....だんだんと意識が遠のいていく.....。
あ....駄目だ....もう........。小町....雪ノ下....由比ヶ浜....すまん....俺もう死んじゃうみたいだ。
そして薄れゆく意識の中で俺が見たものは、上を向いていた雪ノ下さんがこちらを向いて、何かを呟いたあと微笑みをうかべる姿だった....。
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ピッ…ピッ…
何……だ…?
あれ………おれは………。
『腹部…損…が………臓器…移…が…必…だ………!』
何だって?………よく聞こえん。
『この子の臓器を…血液型は同じだ………っ』
俺は一体どこにいるんだ………?
『…御家族とも連絡がつきません!遺族の方の同意なしには…!』
声だけが頭に響く…。
遺族…?臓器………?一体なんの話を………。
『嘉納先生…!』
『他に方法などないっ…!見殺しには出来ん!全ての責任は私がとる!』
『彼女の臓器を彼に………!』
『……………ふふ、比企谷君。』
ーーー俺は特異な才能があるわけでもない、凄まじいカリスマ性をもっているわけでもない、どこにでもいるただの人間だ。だが、もしも。俺が自伝を書くことがあるとすれば、きっとこの時のことをこう記すだろう。
…ここから悲劇が始まった…と。
陽乃さん…お慕いしておりました…。