魔道都市カダインの中央にある天に届くかと思われるほどに高い塔。
砂塵の風が吹き荒れるその中央にそびえ立つその塔にカダインの最高司祭であるガーネフは暮らしていた。
「ウェンデル司祭、カダインの最近の様子はどうか?」
カダインの強烈な日差しが降り注ぐ部屋。
「大賢者の塔」と呼ばれる最高司祭のみが住むことを許されるその塔の最上階でガーネフとウェンデルは顔を会わせている。
ガーネフは反対側の席に座っているウェンデル司祭にカダインの現状を訪ねた。
「ガーネフ最高司祭のお力によってカダインの魔法の研究は順調に進んでおります」
ウェンデルはいくらかの世辞をこめてそう答えた。
「世辞が上手くなったな、ウェンデル」
ガーネフは「空調をもっと効かせ」と側にいた魔道士に命令した。
ブリザーの魔法を流用した空調装置の為、大空から降り注ぐ太陽の強い日差しにも関わらず、この部屋の温度は快適である。
階下から軽食が運ばれていた。
ガーネフはそのアイスクリームと呼ばれる冷たい菓子にヨーグルトをかけながら、ウェンデルに言葉をかける。
「ウェンデル、お主がワシを快く思っていないのはわかっておるが、カダインの為、これからもよろしく頼む」
ガーネフはそう言い、アイスを口に入れながらウェンデルにそう言葉をかける。
「わしはもっともっと魔道を極めたいんじゃ、ガトーの用に私欲の為に魔法を使わないなどはわしには関係ない。もっともっと、新しい魔法を作るのじゃ」
ガーネフはアイスを食べ、口をモゴモゴさせながらその目を飽くなき魔法への欲望に光らせ、そう語った。
ウェンデルに言わせれば、大賢者ガトーの昔のガーネフへの接し方には少し問題があったように感じる。
努力する人間には二種類のタイプがいる。
自分の力を世の中の為に使おうという人間とひたすら力を追い求める人間である。
大賢者ガトーやミロア司祭は前者でガーネフは後者である。
どちらが良いかは人それぞれであるが、どちらも努力を惜しまないという点では同じである。
大賢者ガトーはガーネフの心の弱さとやらを罰するのではなく、その努力の面を評価すべきだったのだとウェンデルは思う。
今もガーネフは努力を続けている。
彼は自分の事のみを考えて生きるタイプの人間ではあるが。その魔法に対する真意な姿勢は本物である。
ガーネフの開発した魔法がカダインの進歩にどれ程の貢献をしたのかは計り知れない。
その意味では彼はカダインのガトー以上の真の功労者である。
今、この部屋で動いている空調装置も魔法のブリザーを応用した装置である。
また、魔法のサンダーを利用した連絡用の装置などもガーネフは開発した。
ガーネフはそのたゆまぬ努力によって上級魔法エクスカリバーやオーラのアンチテーゼともいえる魔法「邪風の刃」や「破滅の光」なども作り出している。
また、噂によると彼自身の暗黒魔法「マフー」を撃ち破る魔法すら、暗黒の力で産み出したという。
「ウェンデル、アイスが溶ける、早く食え」
ウェンデルに用意されたアイスクリームがカダインの日差しで溶けかかっている。
ウェンデルは慌ててアイスを口に運んだ。ウェンデルはアイスを食べながら「この菓子もガーネフが作りだしたんじゃよな……」と一人思いにふけた。
今も目の前にいるガーネフは新たな魔法の構想が有るのだろう。
アイスクリームに舌づつみを打ち、旨そうに食べているガーネフを見て、ウェンデルはそう思った。
「私にとってのミロア様とガーネフも今頃何をしているやら……」
カダインの日差しはいつもギラギラと照り注ぐ。吹きすさぶ砂塵を避けながら、マリクは屋台で早い昼食を取っていた。
注文したジャガイモ煮とメロンジュースがマリクの席に届く。
マリクはジャガイモ煮にフォークを刺した。
ジュースがカダインの日差しを浴びてビッショリと汗をかく。
「マリク、一緒に食べていいか?」
学院の生徒がマリクに声をかける。マリクはそれに笑って答える。
マリクの近くにはすぐに人が集まる。
マリクの優しさとその温かい雰囲気がそうさせているのだ。
マリクの周りで生徒達はワイワイ昼食をとり始める。
「マリク、エルレーンの奴がエルサンダーを修めたらしいな」
マリクは「それは凄いな!」とエルレーンを誉めた。
「さすが、ガリ勉はちがうよね」とある女生徒が少し意地の悪い言い方をした。
その言葉に対してマリクは「彼は本当の天才だよ」とエルレーンを再び誉めた。
やや居心地が悪いような表情をする女生徒。
本当にマリクはエルレーンを天才だと思っている。
いつもエルレーンと仲が良くなりたいと思っているが、エルレーンの方はマリクがいくら食事に誘うなどしても気のない返事なのだ。
マリクにアイスクリームを勧める生徒、マリクはそのアイスクリームを笑いながら口に入れた――
エルレーンは香辛料で味付けされたジャガイモ料理を食べながら、魔道書を眺めていた。
そのエルレーンに学院の生徒が声をかける。
「何の用だ」
エルレーンはぶっきらぼうにそう答える。
「いや…… 一緒に食事していいかと思って……」
生徒はしどろもどろに答える。
「必要ない、あっちの席に行ってくれ」
生徒はエルレーンのその言葉に腹を立てながら別の席へと去っていった。
別にエルレーンは学院の者全てから嫌われているわけではない。
むしろ、その真面目な性格と努力は多くに生徒に認められている。
エルレーンは自分から周囲に敵を作っているのである。
「エルレーン、隣の席はいいか?」
エルレーンはまたうるさい連中が来たかと思って消えろと言おうとしたが、声をかけたのがヨーデルであったと分かったので「俺の邪魔をするなよ」と言った。
ヨーデルはエルレーンの数少ない友人であった。何故かこの二人は息があった。
「マリクがシェイバーの魔法を習得したようだ、あいつは風の魔法と相性が良いみたいだな」
ヨーデルのその言葉にエルレーンは「そうか」とだけ答え、魔道書から目も離さない。
ヨーデルはこのエルレーンの態度に馴れているので、気にしないで自分も魔道書を広げた。
エルレーンは自分の邪魔をしない人間ならば席を一緒にすることは構わないようであった。
何人かエルレーンの友人とも言える生徒がやってきて、エルレーンの近くで魔道書を広げ始めた――
ウェンデルは酒に酔いながら夜のカダインを歩いていた。
砂漠の夜は気温が急激に下がる。
結局、ガーネフとの面会は夜まで続き、夕飯までご馳走になった。
ガーネフは浴びるように酒を飲み、呆れるほど多くの料理をガツガツ食べた。
全く、あの歳で何であんなに食べれるのか。
ウェンデルも付き合いの為、つい飲み過ぎてしまった。
「うぃ~ ヒック」
ウェンデルはガーネフからもらった土産を明日マリクとエルレーンに渡そうと思った。
マリクには「風の力で音楽を聴ける魔法の水晶」。
エルレーンには「魔道の知識を見ることが出来る魔法の水晶」である。
「カ~ダイン良いとこ、いっちどはおいで~」
頭に布を巻巻き付けたウェンデルは酔っぱらいながら、夜のカダインの街をふらふらと歩いていった――