強いけどニューゲーム   作:シズりん

3 / 3
第3話

悪魔王(サタン)さまー!!こっち向いてー♡」

「ジークサタン!ジークルシア」

 

 

魔界の首都コキュートスの城上町に入るや否や、町中からルシアの姿を見つけた住民たちから黄色い声援が飛ぶ。

仕事中の者は手を休め、滑空していた者は地に降り、走り回って遊ぶ子供たちはルシアの足元に集まる。

町中の窓が開き、皆が一堂に魔界の女王を一目見ようと集まり、歓声を上げてルシアの帰還を喜んでいるのだ。

 

「…おまえ魔界で人気があるんだな。」

「まぁね。私はアナタと違ってちゃんと統治しているもの。」

「お、俺が天界を統治していないみたいに言うな。」

「してないじゃない。(ミカエル)から聞いてるわよ?アナタが全く何もしてくれないって。各部署を治める天使からクレームが多数なんですって?あの子ボヤいてたわよ?」

「く、クレームって。ミカエルは大天使長だぞ?言ってみれば数万といる天使を束ねる者だ。天界に於いて(おれ)に次ぐ立場の者だ。大変なのは仕方が無かろう。」

「それはアナタがちゃんと働いてれば片付くお話しでしょう?しまいにはあの(ミカエル)キレるわよ?知っているでしょ?あの子(ミカエル)はあんな少女なナリをしているけど戦闘特化型の天使なのよ?本気になったら(アナタ)悪魔王(わたし)を除けばあの子に対峙できるのは私たちの娘くらいのものよ?また天界と地獄さらには人間界まで焼け野原にしたいの?」

 

それを聞いて神は身震いする。宇宙開闢以来なんどとなく訪れた消滅の危機、ミカエルはその何回かの原因になっているのだ。

神はなるべく忘れたい事実を隠すかのように話題をすり替える。

もう一人の厄災に

 

「そう言えば娘は暫く見ないな。ルシアは何処にいるか知ってるか?」

「ああ、あの子なら別な世界で遊んでいるみたいよ?」

「別な世界?」

「そう、(ヤハウェ)アナタが創った世界の派生とも言える世界を私の悪魔城(おへや)で眺めている時ね、「なんか面白そうな勇者がいる〜。私会いに行ってくるね〜♡」とか言ってペットを連れて出掛けたわよ。」

「な、なに?あの娘自ら人間界の勇者に会いに行ったと言うのか?」

「娘相手に妬かない妬かない。ほら、そんなことより悪魔城(おへや)が見えてきたわよ。」

 

そう言ってルシアが目指した先に、壮大で威厳のある巨城が見えてきた。

 

 

 

 

「ようこそお帰りになられました。悪魔王(サタン)とその亭主ヤハウェ様。ご機嫌麗しく有られる様子に私ベルゼは…」

「ベルゼちゃん堅苦しい挨拶は良いわ。私たちの留守の間特に地獄に変わりわないかしら。」

 

 

二人が悪魔城に入るや否や、直後に現れた青年が膝を折り傅くように二人に挨拶を交わす。

ベルゼブブと呼ばれる悪魔は、7人の魔王の一人であり数十万悪魔の群勢の副王を担う、言わばサタンの右腕とも呼ばれる地位の悪魔である。

見た目は美しい金髪の青年であり、かつて天使であった頃の名残からか、6枚の美しい翼を持つ。そんな見た目に反して彼の強さは地獄のなかでも飛び抜けており、地獄に於いては彼とまともに相対せるのはルシアと他6人の魔王を除けば存在しない。

 

「地獄に特に変わりはありませんが…サタンには申し訳ないないのですが、即刻退城願いませんか。」

「は?」

「私の内通者からの情報によればルシアさまにヤハウェさまは天界を追われたと言うではありませんか。私たち7人の魔王は話し合いの結果、御二方には何としても天界にお戻り戴きたい。御二方のいない天界は天界に非ず。天界が輝かずしてこの地獄が栄えることはない!この程度の窮地を脱せない御二方ではないはずです。私は…御二方の地獄に逃げ帰る姿を臣民に見せたくないし、尊敬する御二方のそんな姿を見たくない!!」

「ベルゼ…お前は俺たちの事をそこまで…」

「待ちなさいヤハウェ。」

 

ベルゼの涙を溜めての力一杯の言葉に胸を熱くするヤハウェが優しい言葉をかけようとしたとき、グイッと肩を引き寄せるように紅玉の瞳を怪しく光らせたルシアが前に一歩出た。

 

「ベルゼちゃん。その服、脱いで見てもらえる〜?」

「は?ルシアさま何を?」

「いいから脱ぐ!!」

 

小鳥の囀りにも似たような美しい声色に怒気を感じたヤハウェは後ずさる。

当のベルゼもヤハウェ程ではないにしても悪魔の副王だ。ルシアの怒気を感じ取り渋々ズボンのチャックに手を掛けると

 

ガツン!!

城門に飾られていた花瓶を顔面に投げつけられた。

「上よ!う・え!!」

 

まさか最愛の妻が目の前で浮気かとヤハウェは肝を冷やすがどうもそうではなさそうだと胸を撫で下ろすのだが、当の本人であるベルゼは大量の汗が噴き出している。

 

「どうしたベルゼ。上着なら問題なかろう?早く脱げば良いじゃないか。」

ヤハウェにしてみれば軽い気持ちで言ったのだがどうにも様子がおかしいベルゼは、次の瞬間バッと6枚の翼を開き飛び去る…はずだった。

 

二人とベルゼの間にはゆうに50メートルはある。しかも彼は見た目の優男に反して地獄の副王である。そんな強大な存在である彼が飛び去ろうとした瞬間、地面に這いつくばっている。

理由は知れている。

隣りで笑っている妻が全宇宙を軽く凌駕するかのごとき強大な魔力で地獄の副王を押さえ付けたたのだ。

そしてクイッと手を上に向けるとそれに連動して這いつくばっているベルゼブブは大の字の状態で空中に吊らされる。その後実に器用に両手を使い、ベルゼの上着を剥ぐと、白いティーシャツがあらわれた。

 

 

 

I ♡ ミカエル

 

 

 

と書かれた。

何のことはない。内通者とかスパイでもいるかのように語っているが、要はベルゼはミカエルのお願いで我々を地獄に滞在させないようにしているだけなのだ。

「ベルゼちゃん、何か言い分はあるかしら。」

「る、るるるルシア様、わ、私は地獄の繁栄の為に…それに地獄の創造主たる悪魔王(サタン)ルシア様と天界の創造主たる神ヤハウェ様が御結婚されているのですから、其々の右腕である副王と大天使長が結ばれればより一層地獄と天界の結びつきが強く…」

「言い訳するなー!!!」

 

 

濃密な魔力で創った拳でベルゼの顔面にグーパンチをめり込ませた。

言い分を聞いておきならが最後まで話させずにパンチとは、まぁ実にルシアらしいと言えばルシアらしい。

そんな最も(わたし)に近しい存在のルシアにも、たった一つだけ大きな欠点がある。

彼女はその全宇宙を凌駕するほどの強大な闇の魔力、その制御が下手なのだ。それも絶望的なまでに。

 

彼女が地獄の副王に下した折檻は、彼を地獄の彼方に吹き飛ばしただけではなく、地獄の首都コキュートスからそのランドマークたる悪魔城を消滅させた。

 

我々の地獄での生活する部屋もろとも。

 

こうして我々は、図らずしもミカエルの計画通り地獄からも追い出されることになった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。