「……っ、う……」
小さく唸ってから、一夏はゆっくりと目を開けた。
「ここ……は……」
視界が霞む。一夏は目を擦るために右手を上げようとし―――眉を顰めた。
右手が、動かない。否……正確に言うなら背で右手首と左手首を繋がれているかのように、腕が身体の前に回ってくれなかった。
それから数十秒。段々と意識が覚醒していく中で、一夏は自分が椅子に座らせられ、後ろ手に手錠をはめられていることに気付いた。しかもご丁寧なことに、胴はロープで椅子に括り付けられていた。
「一体何だよ……こりゃあ……」
幸い、目隠しや猿轡はされていない。一夏はぼやくように呟くとゆっくりと首を回し、自分がいる場所を見回した。
人の手を離れて長らく時間が経過した、どこかの倉庫のようだ。
一体なぜ自分がこんなところに捕らえられているのか。一夏は根本的な疑問に首を捻り―――すぐに、気を失う直前にあったことを思い出した。
「そうだ、確か……」
と、一夏が言いかけたところで、前方にあった扉が、ギィと音を立てて開く。
その音に弾かれるようにそちらを向くと、そこに、仮面をつけた少女と男たちが立っていることがわかった。
「目覚めたわね」
変換器を使った声の少女が最初に口を開いた。
「あなたたちは、下がって頂戴。彼は私が見張るわ」
男たちは頷くとそのまま出て行く。
そして、一人残った少女は一夏の近くに歩いてくる。
「俺をどうするつもりだ……」
「何もしないわ。目的が達成すれば、もう用済みさ」
「目的……?」
「そう。今頃、政府は大慌てでしょうね。織斑千冬の弟である織斑一夏が誘拐されたってね」
その言葉に一夏は汗を流す。
この少女たちの目的がモンド・グロッソの決勝戦に出る織斑千冬の棄権を狙った犯行だと。
「おい!」
「なによ。何があったの?」
「試合情報」
「はぁ?」
前方の扉が開き、一人の男が慌てて入って来たことに少女は疑問を持ち、男がいきなり試合情報と言い出したのだ。
「ガガガ……お、斑千冬選手が入場です!」
手渡されたラジオからは織斑千冬が入場した情報が入ってきたのだ。
「ちっ、政府の連中……」
日本政府は一夏の命より、名声を取ったのだ。
おかげでこの棄権させる作戦は失敗した。
「くっそ……」
男の一人が怒りを身動きが取れない一夏にぶつけ、殴りつけたのだ。
「お前の……」
男がそう言いかけた所で、パンッと音が鳴り響いた。
「手を出すなと言ったよな」
少女が一夏を殴った男を銃で撃ち殺したのだ。
周りにいた男たちもその光景に驚く。
「貴様!!」
仲間が殺されたことに男たちが少女に向けて銃を構えるが、それよりも早く撃つ。
「ぐっ」
「がぁ」
その場にいた男たちは一発も撃つことなく、全員が倒れた。
「はぁ……撤収するしかないか」
少女は人を撃ち殺したのにも関わらず、平然としていた。
一夏はその光景に何も言えなかった。次は自分が殺されるかもしれないと。
「あんたは殺さないよ。殺したら、あの千冬にこっちが殺されてしまうわ」
少女は一夏の心情を読み取ったのか、そう言った。
それを聞くと一夏は何故か安心する。
「く、そ……タダでは、逃がすかよ……」
男の一人がまだ息があったようで、ポケットから何かのスイッチを取り出した。
「!」
少女はそれが何なのかに気付き、男に向けて銃を構えるが、遅かった。
カチッ!
その瞬間、一夏がいる倉庫が爆発した。