「カズちゃん!早くカゲちゃんを戻して!このままだとやられちゃうよ!」
戻すか……確かにこの場面なら戻すのが正しいのかもしれない。
でも……俺は!
「嫌だ!」
「い、嫌だって、そんなむちゃな」
「無茶じゃない!俺はただ信じてるだけだ。ヒトカゲはきっと起きてくれるってな。……なぁ、もう朝だぞ。だからさ……いい加減に起きてくれよ……ヒトカゲーー!!!」
「いや、そういうのをむちゃって言うんだけどね。……だいたい、そんなベタな呼び掛けで起きるわけ……」
「……カゲ〜……カゲ?」
「うそぉー!ホントに起きちゃた!」
「ほう、この土壇場で目覚めたか。だが、いまさら遅い!行け、モルフォン、とどめを刺せ!」
「フォーー!」ビュオン
モルフォンは時間を掛けて形成してたかまいたちを、ヒトカゲに放ってきた。
この強力な技に対抗出来そうな技は、かえんほうしゃぐらいしかないんだけど。
でも、かえんほうしゃは今はかなしばりで使えない状態だし。
ここはあの技しかない!
「ヒトカゲ、りゅうのいかりで迎え撃て!」
「カゲ……カーーゲー!」ボン
りゅうのいかり。この技はついさっき、イミテと特訓してる最中にヒトカゲが覚えた技だ。
イミテいわく、まだ世界で1つしか確認されてないと、とても珍しいドラゴンタイプの技らしい。
ヒトカゲの放ったりゅうのいかりは、かまいたちとぶつかり合った。
しばらく競り合った後、りゅうのいかりの方が競り負けて、ヒトカゲにかまいたちが命中した。
「大丈夫かヒトカゲ!」
「カゲー!」
「ふむ……りゅうのいかりとの衝突で相当に威力が下がったようだな」
「カゲ…カゲ…」
なんとか立ち上がってくれたけど、ヒトカゲはもうそろそろ限界だ。
ここは交代した方がいいのかな?
「カゲ…カゲ……カーーーゲーー!!」ボォォーー
な、なんだ!?
ヒトカゲの尻尾から出ている炎の勢いが上がったぞ!
「何が起こってるんだ?」
「カズちゃん!これはもうかだよ!ヒトカゲの特性のね!」
もうか。確かピンチの時に炎タイプの技の威力が上がる特性だったはず。
そう言えば、ヒトカゲはそんな特性だったな。
まぁ何にしても、こいつはちょうどいい。
反撃の糸口になりそうだ。
「特性が発動した事で、この一撃で終わりだ!サイケこうせん!」
「フォーー!」ビィーー
「よし、ヒトカゲ!パワーアップしたひのこで迎え撃て!」
「カーゲーー!」ボボボボーー
ひのことサイケこうせんは衝突して競り合い、やがて互いが相殺された。
「なっ、互角だと!」
キョウさんもモルフォンもひのこで相殺された事に、とっても驚いてるな。
まぁ、正直俺も同じ気持ちなんだけどね。
しかし、これは一気に攻めるチャンスだ!
「今だヒトカゲ!もう一度ひのこをお見舞いしてやれ!」
「カーゲーー!」ボボボボー
「フォー」
ヒトカゲのパワーアップしたひのこはモルフォンに命中した。
「しまった!」
「いいね、効果は抜群だよ!」
強化されたひのこをくらったモルフォンは、黒コゲになって地面に墜落した。
「モルフォン戦闘不能、ヒトカゲの勝ち!」
「やったーー! これであと一体!」
「すまぬモルフォン。しっかりと休息を取ってくれ。……あの程度のことで心を乱すとは、拙者もまだまだ未熟ということか……」
「一時はどうなるかと思ったけど、カゲちゃんが勝てて良かった」
「はい、まさか父上のモルフォンが負けるとは思いませんでした」
「へっ……あなた誰?」
「あっ、これは失礼しました!拙者はアンズと申します。以後、お見知りおきを」
「ああ、これはご丁寧にどうも。あたしはイミテ、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
「ところで……貴方さっき、キョウさんのことを父上って」
「はい、キョウは私の自慢の父です!」
「へー、そうなんだ」
「これ、アンズよ。今はバトルの最中だ。あまり騒ぐでない」
「も、申し訳ございません父上!」
「身内が失礼した。……さて、仕切り直しと行こう。拙者の最後のポケモンはコイツじゃ!行け、ベトベトン」
「ベトベトーン」
ベトベトン、ベトベターの進化系でヘドロポケモンか。なんか見るからに強そうだな。
「カゲ…カゲ…」
おっと、流石にヒトカゲもキツそうだな。
まぁ、あんなに技を受けたんだし無理ないか。
「戻れ、ヒトカゲ…ありがとな。……頼むぞ、行けケンタロス!」
「ブモォォー!」
「カズちゃん!キョウさんの残りの手持ちが1匹だけだからって油断したらダメだよ!慎重にね!」
「そんなこと、言われなくても分かってるよ!……よし、行くぞケンタロス! とっしんで勢いを付けてふみつけだ!」
「モォォー」ドドドド
ケンタロスはとっしんで勢いをつけて、力一杯にベトベトンの事をふみつけた。
よし、これは決まった「ボヨーン」……へっ?
ケンタロスがベトベトンをふみつけると、ふみつけた足がベトベトンの身体に陥没して、トランポリンみたいに跳ね返ってしまった。
「なっ!?」
「ベトベトン、ヘドロばくだん」
「ベドー!」ボボボボ
ベトベトンの至近距離からの攻撃はケンタロスに命中して、ケンタロスはバランスを崩してその場に倒れてしまった。
「今じゃ、のしかかり!」
「ベドーー!」
ベトベトンは身体全体を使って、覆い被さるようにケンタロスにのしかかった。
ケンタロスはあばれて必死に抵抗したけど、ベトベトンには全く効いてないみたいだ。
やがてケンタロスは力尽きてしまった。
「ケンタロス戦闘不能、ベトベトンの勝ち!」
そんな……ケンタロスがこんなにアッサリと。何て強さだよ。
それに、ケンタロスの攻撃が全然効いてないみたいだった。
一体どうなってんだよ?
「ファ、ファ、ファ。何が起きたのか分からないといった顔をしているな。……よいか、ベトベトンの身体は弾力性のあるヘドロで構成されておる。よって、先ほどのように物理攻撃の威力を弱めのじゃよ」
物理攻撃が効かない体質って事かよ、そんなのあり。
「もう、だから慎重にって言ったのに。にらみつけるやって地震を命令していれば、こんな事に成らなかったのに」
うぅ、イミテの言う通りだ。もっと慎重に行くべきだった。
「戻れ、ケンタロス。……ごめんな、俺のせいで」
「これでカズト殿の残りの手持ちは2体ですが……」
「うん、どっちもかなりのダメージを受けてる。それに比べて、キョウさんのベトベトンは体力が有り余ってる。この勝負の行方が分からなくなってきたよ」
「たった一度の過ちで一気に形成が逆転する。これぞポケモンバトルのだいごみ。……さぁ次のポケモンを出すのじゃ」」
うーん。ヒトカゲかピカチュウかどっちを出そうかな。
……よし、決めた!
「頼むぞ、ピカチュウ!」
「チュウ!」
「行くぞ、ベトベトンよ、ヘドロこうげきじゃ!」
「かわして、10万ボルトだ!」
「ピカピー、ピーカー、ヂュウ――」バリバリ
ピカチュウはヘドロこうげきをかわして、10万ボルトを放った。
10まんボルトはベトベトンに命中した。
こいつは動きが鈍い。これなら、ピカチュウのスピードで惑わせば勝てるかも。
「今じゃ、10まんボルトにかなしばりをかけろ!」
「なんだって!」
「ベドー」
「チュウ?」
しまった!コイツもかなしばりを使えたのか!
そうか、キョウさんの狙いは、強力な技を使えなくすることだったのか!
クソー、まんまとやられちまった。
残っている技の中でベトベトンにダメージを与えられそうな技は。
「ピカチュウ、でんきショックだ!」
「チュウーー」ビリビリ
「その程度の攻撃など拙者のベトベトンには効かぬわ!行け、のしかかりじゃ!」
「ベドー!」
ベトベトンはでんきショックを受けながらも、ピカチュウ目掛けて飛びかかって来た。
「チュウーー!」
「あぁ、ピカチュウ!」
「ピカチュウ戦闘不能!ベトベトン勝ち!」
「戻れ、ピカチュウ。……ゆっくり休んでいてくれ」
つ、強い。
ピカチュウの攻撃もあんまり効いてるようは見えないし、何て体力だよ。
「これで残りは、手負いのカゲちゃんだけか……」
「これは……カズト殿にもう勝機はありませんね」
「うん。カズちゃんには悪いけど、もう勝ち目はないね」
おいイミテ!全部、丸聞こえだぞ!
くそ〜、まだ俺は諦めてないんだぞ!
「……後はお前だけだな。……頼むぞ、ヒトカゲ!行ってくれ!」
「カゲ!……カゲー!!」ボォォーー
もうか状態なのは心強いけど……かなしばりが有るから、かえんほうしゃはココぞって時まで使えないな。
物理系の攻撃は効かないから、ひのことりゅうのいかりで戦っていくしかないな。
「よし、まずはりゅうのいかりだ!」
「カーゲ!」ボン
「ベトベトンよ!とけてかわせ!」
「ベドー」ドロドロ
ベトベトンはその場で水ように溶けだして、水たまりみたいな状態になった。
そしてりゅうのいかりはとけている状態のベトベトンの頭上を通り過ぎていった。
「ベトベトンよ!その状態のまま頭上に大量のヘドロばくだんを撃て!」
「ベドーー!」ボボボボ
何だ? 頭上に技を撃っていったい何の意味があるんだ?
打ち出されたヘドロばくだんは天井にぶつかって、様々な場所に落下してきた。
ヒトカゲに命中して来そうなのもいくつかある。
そうか、キョウさんの狙いはこれか!
無造作に落ちてくるから、避けるのも難しそうだ。
「ヒトカゲ!なるべく自分に命中しそうなヘドロばくだんだけをひのこで防げ!」
「カゲ!カーゲー!」ボボボホ
ヒトカゲは自身に向かってくるヘドロばくだんを、ひのこで全て相殺した。
「よし、上手いぞ!」
「今じゃ、ベトベトンよ!ヒトカゲにのしかかりじゃ!」
「へっ?」
いつの間にかとけている状態のベトベトンが、ヒトカゲのすぐそばに居た。
ベトベトンは一瞬のうちに元の状態に戻って、ヒトカゲ目掛けて飛びかかって来た。
上に気を取られて近づいて来るベトベトンに気づけなかった。完全に俺のミスだ。
ダメだ、不意を突かれてヒトカゲは避けられそうにない。
此処まで……か。
ごめんヒトカゲ、ピカチュウ、みんな……お前たちは強くなってくれたのに、俺が未熟なせいで……ごめん。
「ベドー!?」ビリビリ
俺が完全にバトルを諦めた、その時だった。
突然、ベトベトンの身体全体に電流がほとばしった。
「何!」
ベトベトンはまるで痺れているように全身を小刻みに震わして、床に落下した。
「な、何が起きたんだ?」
「これは……まひ状態」
まひ状態。
確かまひ状態になると、動きが鈍くなってたまに動けなくなる事があるんだったな。
でも、いつの間にベトベトンはまひになったんだ?
「そうか、ピカちゃんだよ!」
「へっ、ピカチュウ?」
「うん、ピカちゃんの電気技か、特性のせいでんきで。誰も気がつかない内にまひ状態にしてたんだよ!」
そうだった!攻撃系の電気タイプの技には、受けたポケモンがまひ状態になる追加効果が有るんだった!
それにピカチュウの特性せいでんきは、ごく稀に触れたポケモンをまひ状態にする事がんだったな。
どうやら……諦めるにはまだ早かったみたいだな!
「チャンスだぞ、ヒトカゲ! りゅうのいかりをぶつけろ!」
「カーゲー!」ボン
「ベドーー!」
よし、コレはかなり効いてる!
「畳み掛けるぞ、ひのこ!」
「カーゲー!」ボボボボ
「ベドー!」
「えーい、いつまで痺れてるのだベトベトン!ヘドロばくだんで反撃をするのじゃ!」
「ベド……ベドーー!」ボボボボーー
ベトベトンは持ち直して、渾身の力を込めてヘドロばくだんを撃て来た。
ヤバい。このヘドロばくだんはさっきまでの技とは威力が明らかに違う!
こんなの受けたら、疲れ切っているヒトカゲはひとたまりもない。
ここは……一か八か勝負に出るしかない!
「ヒトカゲ、最大パワーのかえんほうしゃで迎え撃て!」
「カゲ!カーーゲーーー!!!」ゴォォーーーー
ヒトカゲは今までとは比べ物にならないぐらいの、凄まじい威力のかえんほうしゃを放った。
そのかえんほうしゃは今まで一度も聞いたことがない音を立てながら、ヘドロばくだんと衝突した。
「押し切るのじゃ、ベトベトン!」
「ベドーー!」
「負けるなヒトカゲ!」
「カゲー!」
「す、凄まじい事になって来ましたね!はたして……どちらが勝つのでしょうか?」
「……少しずつだけど、カゲちゃんのかえんほうしゃが押してるね」
「えっ……あっ!」
「いっっっけぇーー!!」
「カゲーー!!」ゴォォーーー
しばらく競り合った末、ヒトカゲのかえんほうしゃが競り勝った!
かえんほうしゃはその勢いのまま、ベトベトンに直撃した!
「ベドーー!!」
「ベトベトン!」
「カゲ…カゲ……」
ヒトカゲはもう流石に限界だ。
俺たちはこの一撃に全てを賭けた!頼む、倒れてくれ!
「ベト…ベド……ベ…ド〜」
ベトベトンは崩れ落ちるように、ばたりとその場に倒れた。
「べ、ベトベトン戦闘不能、ヒトカゲの勝ち!よって勝者マサラタウンのカズト殿!」
……えっ?……俺…が…勝った?勝ったんだよな?
うん、俺……キョウさんに勝ったんだ!!
やった……遂に俺、やったんだ!
「いっっーーーやったぁぁああーーーーーー!!!勝ったーー!!」
ようやく……ようやくジムリーダーに勝つ事が出来た!
「良くやったな、ヒトカゲ!やった、やったー!」
「カゲー」ボォォー
「熱!!……こら、ヒトカゲ!いくら嬉しいからって、俺に炎を吐くなよ!!熱いだろ!」
「あははは……普通、熱!で済むわけないんだけどね。ふふ、カズちゃんは面白い子だね〜。見てて飽きないよ」
「あ、あの方は一体何者ですか? 普通の人とは思えません」
「うーん……ポケモンマスターを目指してる、無茶苦茶でお馬鹿でお人好しな……ただの少年だよ。……多分ね」
目指せポケモンマスター!