ブリューヌ王国の六英雄   作:暗黒騎士2世

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第4話

 

 

 

 

 

 

俺たちは後衛に向かって歩いて行き、すると三十アルシンくらい前方で見覚えのあるくすんだ赤髪と長身できらびやかな鎧に身を包んだ青年と取り巻きが、なにやら話し込んでいるのが視界に入ってきた。

 

「団長 あれは……」

俺がその方向を指差すと団長も気づいたようで破顔一笑する

 

「お?ありゃティグルだな!行くぞ カル!」

 

「うす」

俺たちはその方向に向かって歩き出した。すると、残り五アルシンくらいで豪華な鎧をきた青年の声が聞こえてくる。あれは確か……テナルディエ公爵のご子息だったか……?

 

「殊勝な物言いだが、お前ごときがなんの役に立つというんだ」

嘲笑……取り巻きの貴族たちの笑い声も聞こえる。ザイアン=テナルディエ……。テナルディエのバカ息子か。人を見下し、差別もする。ある意味貴族の一例でもあるな。上の階級ではよくあることだ。

 

「前にも言ったが、四、五代前は狩人なんぞをやっていた家の者など、貴族として認めんからな」

そう吐き捨てるザイアン……それだけの歴史を奴の家は持っているからな……。テナルディエ家は公爵……つまり、王家の次に高い階級だ。ティグルの家 ヴォルン家などとは比べものにならない古くからの名門。先程、ザイアンが言った、四、五代前は狩人だったヴォルン家は最近、成り上がった貴族だ。総動員できる兵は百が限度だろう。対して、テナルディエ家は親族に有力な貴族を数多くかかえ、所有する領土は広く、総動員できる兵は最大で一万に達すると言われる。ブリューヌ王国、二大公爵の一人だ。

 

「厄介な奴に絡まれたな……」

俺はそう呟くと、団長が……

 

「そうか?俺はテナルディエ家とは交流があるし、ザイアンは根は臆病者だから、凄めば一発だぜ?」

 

「あ……そういえば、親父さんがテナルディエ家の騎士団でしたっけ?」

 

「あー元だけどな。テナルディエの兵が精強なのは親父が直々に鍛えてたからな、それなりの権利なら持ってるんじゃないか?俺も今だにあっちの騎士団に誘われたりしてるしよ」

 

団長のお父さん……アヴァン=ダンデルガは元・アグニ騎士団初代団長で、四十五の若さで現役を引退。今は世界中を旅している。

 

「今となっちゃ、連絡も取れねぇからな。たまにあっちから、連絡があるくらいか?」

団長が今、二十五歳くらいだから、アヴァンさんは五十歳くらいか?かれこれ、五年か?旅を始めてから。

 

「たまに家に帰ってくるんだけどな〜。そん時、俺いねぇんだよな」

 

「あー間が悪いですね」

 

「まあ、寂しくもねぇし、家にはラヴァがいるからな」

ラヴァ……知ってる人は知っている、団長の奥さん。ラヴァさんも元・アグニ騎士団で団長の幼馴染。実力も互角という、中々の実力者だった。

 

「はー暑いっすねー」

 

「ん?そうだな。今夜は蒸し暑いな!」

 

「そういうこと言いたいわけじゃないんですけどね……」

ん?そろそろ終わったか?お!ティグルがザイアンを転ばしたな!あいつの大事な弓を踏もうとするから、そうなるんだ。

 

「弓が曲がったらどうする気だ!」

 

「弓?弓がどうしたってんだ、この臆病者が!」

 

「そうた!そんなものが壊れたところで、何を困ることがある。剣をとって前に出ればいいだけの話だろうが!」

 

「貴様のような者には、戦神トラグラフも加護をお与えにならんだろうよ!」

ザイアンとその取り巻きたちが唾をとばして、吠えている。ティグルは歯噛みした様子だ。

 

「弓は、白刃の前に身をさらす勇気をもたぬ臆病者の武器だ」

取り巻き達が蔑視の視線でティグルを見下す。ここではーーブリューヌ王国では、彼らの言い分が正しい。ブリューヌ軍には昔からそうした考えが根強くあり、弓を軽んじている。弓兵の功績は一段低く見られるのならばまだいい方で、評価の対象にすらならないということがほとんどだ。

 

「弓兵は、徴兵した狩人、または自分の土地を持たない農民。兵士の中からは重い罪を犯したことのある者、剣および槍の技量について際だって劣る者から選ぶべし」こんな基準があるほどで、正規の兵でありながら弓を使う者は〝罪人と罵られるか下手糞と侮られるか選べ〟ということになる。

 

「落ち着け、おまえたち」

助けを借りてようやく立ち上がるザイアンが、取り巻き達を手をあげて制す。甲冑についた土ぼこりをわざとらしくはらい、ザイアンは腕を組んでティグルをせせら笑った。

 

「おまえが弓にこだわる理由は、券も槍も扱えないからだろう?弓を持って戦場にいれば、とりあえず戦士のふりができるなどとあさましいことを考えているのだろうが」

なーに言ってんだが……

 

「ははっ!おまえも大して得意じゃないだろうに!」

団長は大笑いしていた

 

「そもそもブリューヌ王国の伯爵たる者が、剣も槍も持たず、鎧すらつけないで戦場に赴くことを恥と思わないのか?見ろ、おまえたち。こいつのみすぼらしい格好を。革の鎧に革の籠手、革の脛当てと革尽くしだ。マントはそれなりのようだが、見るべきものがせいぜいそれだけとは。なんとも哀れな懐具合だな」

 

「ーーーザイアン」

それまで黙って事態を見守っていた団長が、口を開いた。

 

「見事な演説だな、ザイアン。いつから、そんな上から目線でものを語られるようになった?」

 

ザイアンは驚愕の表情で、目を見開いた。

 

「ヴァルガス⁉︎」

 

「………さんはどうした?」

 

「……さん」

ザイアンはさっきの勢いをすっかり潜め、萎縮したように体を縮こませた。そして、団長はある方向を指差すと……。

 

「消えろ」

たった一言……だが、団長から溢れ出る覇気は圧力に変わって周囲の人間の体に重くのしかかった。

 

「……ック」

ザイアンは一歩後ずさり、マントを翻して、背を向けた。

 

「……行くぞ おまえら」

ザイアンは取り巻きを連れ、指された方向へと消えていった。

歩き去って行くザイアンたちの後ろ姿を見送った俺はティグルに話しかけた。

 

「よう ティグル」

 

「カル?カルじゃないか!久しぶりだな!」

 

「おう!久しぶりだな!ティグル!」

俺とティグルは昔、王都で会ったことがある。その時はまだ存命だった、姉さんの両親とティグルの父親は旧知の仲でよく遊びにきていたのだ。そこで俺たちは俺とティグルと姉さんの三人でよく遊んでいたのだ。離れていても、文通をする仲であった。

 

「ヴァルガスさんも!ありがとうございます。おかげで助かりました」

ティグルは団長にも礼を言うと、団長はいやいや と言いながら手を振った。

 

「マスハス卿もお久しぶりです」

俺は隣で鍋の準備をしていた、マスハス卿にも挨拶をした。マスハス=ローダント……ブリューヌ北部のオード地方を統治する貴族。階級は伯爵。灰色の髭を生やしたずんぐりとした体躯の初老の男性。ティグルの父ウルスの親友にしてティグルの恩人であり後見人と言える存在。

 

「うむ。久しいのカル。ティグルすまなかったのう。なかなか間がつかめなんだ」

 

「気にしないでください。マスハス卿」

 

「そう言ってくれて、なにやりじゃ。ヴァルガス 主にも感謝せねばなるまいて」

そう言って、マスハス卿は団長に頭を下げて、礼を言った。

 

「おいおい、水臭いぜ。マスハスの爺さん。俺とあんたの仲じゃねぇか なあ?」

そんなの気にすんなよと言った、態度をとる、団長。

 

「すまないの」

そう言って、マスハス卿はまたイスに腰掛けると、鍋をかきまわす作業にもどりながら、マスハスはなにげない動作でまわりをぐるりと見回す。

 

「……剣や槍を扱えることが、勇気の証明にはならんというのがよくわかるわ」

マスハス卿は残念そうにそう呟いて、鍋をじっと見ていた。

 

「確かにそうだな……だが、あいつらにも訳があるってもんだ。気にすんなよ。マスハスの爺さん」

団長はマスハス卿の言うことに同調しながら、マスハス卿の向かい側の椅子に腰をかけた。

 

「そらもそうじゃの。ほれ、野菜スープじゃ 温かいうちに食べてしまえ」

マスハス卿は俺や団長に温かいスープの入った皿を差し出してくれた。

 

「ありがとうございます。いただきます」

俺は礼を言い、食した。

 

「おう 一杯だけ、いただくぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは食べ終えると席を立ち、ティグルとマスハス卿に別れをきりだした。

 

「ではマスハス卿、俺たちはこれで失礼いたしますね」

 

「ん?もう行くのか?」

 

「はい 仲間が心配しますので、これにて」

俺は頭を下げ、礼を言った

 

「おいしい料理 ごちそうさまでした」

 

「爺さん うまかったぜ」

 

マスハス卿は笑顔になりながら

 

「それはなによりじゃ」

 

「ではマスハス卿 ティグル、ご武運を」

 

「頑張れよ 爺さん!ティグル!」

 

「うむ そちらもな!」

 

「武運を カル、ヴァルガスさん」

 

「おう!」

 

「任せろよ!ティグル!じゃあな」

そう言うと俺たちは自分たちの天幕に戻り、幹部だけ集めて、軍議を開いた。

 

「今日は寝ない方がいいな」

団長はいきなりそう言いだした。

 

「ふむ……してその心は?」

軍師である、ダンさんがそれに突っ込む。

 

「ああ 敵は多分奇襲をかけてくるはずだ」

 

「なぜ、そう思うんじゃ?」

 

「俺だったら、そうするからさ」

団長は笑いながら、ダンさんの顔を見る。

 

「フッ……ハッハハハハ!確かにのう!わしも今夜は奇襲があると考えてええじゃろう!わしらのいる前衛は二万で、丘のふもとにおるが、本隊は丘の上じゃ。丘の後ろには森があり、潜むのならそこじゃろうな……わざわざ、隠れる場所のない草原から二万の前衛を攻撃しないじゃろうて」

ダンさんは自分の考えを全部話し、どうだ?とみんなに聞いた。

 

「確かにな……」

隊長連中はそれに納得がいったようだ。

 

「では今回は寝ずに戦いの準備をしておきましょう。ファルオン あなたは敵が攻めてきたら、いち早く迎撃しに行きなさい。騎馬隊の足なら、すぐ丘の上につくでしょう」

ヴァンベルクさんはファルオンさんにそう指示する。

 

「了解した」

 

「団長 あなたは……」

 

「俺もファルオンと一緒に迎撃に行くぜ!」

あ……この人ーーー

 

「戦姫と戦いたいだけでしょう?あんたは」

 

「ハッハハハハ!そうだな!よしっ!騎馬隊は奇襲を受けた際には即迎撃に迎え!歩兵はヴァンベルクの指示の下、後からついてこい!状況によっちゃ殿になるかもしれないからな!いいな?」

 

「「「おうっ!」」」

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

夜中……ブリューヌ軍が寝静まった頃、丘の後ろの森には一千の騎兵が静かに進軍していた。

剣や槍の穂先は光らないよう土で汚し、馬の口には板を噛ませ、馬蹄は綿入りの布で包むという用心深さだ。

そうして彼らは敵に気づかれることなく、小高い丘のそばまでやってきた。

なだらかな斜面を上った先には敵ーーーブリューヌ軍の後衛が夜営をしている。篝火の炎がちろちろと踊っていた。

 

「ーーー休息。準備せよ」

騎兵たちの先頭に立っているの銀色の髪の少女が、薄く笑った。兵たちはその言葉に従って休息をとり、馬の口から板をはずし、馬蹄から布を取り去る。

やがて、放っていた斥候が戻ってきた。敵は寝静まっており気づいていていないとの報告に、少女は騎兵たちをふりかえる。腰の長剣を抜き放ち、高々と掲げた。長剣の周囲にかすかな風が吹く。

 

「目の前の敵はおよそ五千。我々の実に五倍だ。後衛とはいえ、総指揮官のいる本陣はさすがに精鋭で固めているだろう」

だが、と少女は紅の瞳を戦意で満たして続ける。

 

「私は行く。そして勝つ。お前たちはついてくるか?」

 

騎兵たちは無言で、剣や槍を空に向かって突き上げた。

少女は敵のいる方向に向き直り、馬を走らせながら鋭く剣を振りおろした。

 

「突撃せよ!」

 

軍旗がひるがえる。黒竜旗ーーー漆黒の竜を描いたジスタート王国の旗がーーー。

空気がごうっと流れ出す。騎兵たちは手に剣や槍をかまえ、あるいは弓に矢をつがえながら、少女に続いて丘を駆け上った。

地鳴りのような馬蹄の轟きに、見張りの兵たちもようやく敵襲に気がつく。

だが、もう遅い

 

「敵ーーー」

 

少女が剣を一閃させると、兵の首が悲鳴ではなく血飛沫をあげて飛んだ。

徐々に白みをはじめた空を背景に、少女の率いる一千の騎兵が敵陣を蹂躙する。ブリューヌ軍は大混乱に陥った。狼狽のあまり武器を捨てて逃げだす部隊まで現れる、果敢に抵抗する兵もいたが、勢いが違う。

しかも、ジスタート軍の先頭に立って剣を振るう少女の強さは圧倒的だった。

群がる敵をことごとく一撃で斬り捨て、あるいは馬蹄で容赦なく蹴散らす。それでいながら、血の一滴も浴びることがない。長剣が風を唸らせるたび、地面に転がる死体はひとつ、またひとつ増えていく。

白銀の髪をなびかせて少女は敵陣を突き進み、一塊となった騎兵たちが続いた。

この時点で、ほとんど勝敗は決したーーーと思われた。

逃げだす部隊と違って、立ち止まり、こちらを向いている一団が現れたのだ。

その先頭にいるのは手に大剣を持ち、明るい赤色の髪をした男が威風堂々と獰猛な笑みを浮かべながら、立っていた。

 

 

 

 

○○○○○○○○○

 

 

 

 

「敵襲ー!敵襲ー!」

俺はその声を聞き、待ってましたと得物の槍を手に外に出ると、既に外には団長が本陣の方向を見ながらーーー笑っていた。

 

「ついに来やがったなーーー戦姫」

団長からは闘気が溢れ出ており、いつでも戦える様子だった。

そこにファルオンさんが愛馬に乗りながら、近寄って来た。

 

「団長ーー騎馬隊百……準備整いました」

 

その報告を待っていましたと言わんばかりに近くに置いていた馬に飛び乗った。

 

「よっしゃあ‼︎テメェら!俺たちは今から、この百の騎兵で死地に乗り込む!前にはジスタート王国の戦姫!後ろには守るべき仲間!こんな燃えねぇ状況はねぇよな?」

 

団長は大声で檄を飛ばす。それに呼応するかのように俺たちの体から力が溢れてくる。

 

「おぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

「やってやろうぜ‼︎団長‼︎」

 

「ジスタートの戦姫がなんぼのもんじゃあ‼︎」

 

団員も各々、大きい声で返す。

 

「最強の俺にーーーついてこい!」

 

そう言うと、団長は馬の腹を蹴り、真っ直ぐに丘を目指し行った。騎馬隊もそれに続くかのように地鳴りを響かせ、声をあげ、走り出した。

 

「さすが団長、こういうときだけは頼りになりますね」

 

俺はヴァンベルクさんに近づき、そう呟く。

 

「フッ……そうだな。さあ!軽口はここまでだ!お前ら!団長が道を示したんだ!俺たちも続くぞ!」

 

副団長も檄を飛ばし、ヴァンベルクさんを先頭にその次に俺、その隣にダンさんが並ぶ。

 

「進軍開始!」

俺たちは逃げ惑うブリューヌ軍の波にさからい、団長の通った道を進軍して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リアルが忙しくて、更新が不定期になりそう
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