日本に来るのは数年ぶりとなる。
実際の軍役期間は覚えてないが昔の東京はこんな大量のビルは出来ていなかったと、空を見上げながら思う。
歩きながらクマさん、いやグリズリーさんがくれた資料に目を通す。どうやら、この大きなビルはほぼ一年間で作られた各国の拠点のようだ。アメリカ、ロシア、中国、イギリスとほとんどの先進国がこの場所に要塞のような摩天楼を築いている。
「なんかドミノ倒ししたら楽しそう」
適当な感想を抱きながら周りを目線だけで確認する。辺りに人通りは多くないが、数人の厳つい男達がこちらを睨みつけていた。とりあえず手を振っておこう。
他国のビルでドミノ倒しをしようと言うのはそこそこ問題発言だったようだ。でも、ドミノ倒しと言っただけで睨まれるという事は、あの人たちも考えたことがあるのだろうか?
そう考えたら少しおかしかった。今度グリズリーさんに教えてやろう。
忍び笑いをしていると、目的の場所に着いた。
国際魔法士官学校。英名は『International Military Academy of Magic』。私が三年間通う学校だ。
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書類の束が積み重なる場所。グリズリー曰く職員室で私は先生と向かい合う。
「貴方が転校生の赤井麗奈さんね?」
「え、あ、はい、そうです」
目の前の女性が少し怪訝な顔をするが、すぐに引っ込める。
危ない危ない、今日から赤井麗奈って名前だった。そもそも、昔から隊長って呼ばれる事の方が圧倒的に多いから名前に慣れてない。軍人だった事はオフレコじゃないけど、名前と所属がバレるのは禁止されてる。
落ち着け、次からは大丈夫。
「さて、貴方は一のCに転校生として編入されます。私は貴方の担任ピータ・ブラウンよ。まずはよろしく」
「よろしくお願いします」
握手を交わしながら相手を見てみる。髪は名前の通り茶色で軽いウェーブを作っている。背丈は180センチほど、化粧っ気はないが、少し褐色で堀は深い。名前から考察するに、ブラウンはイギリス系の名前だが、見た目はトルコ人に近い。
脚は前と後ろに少し開いて、回避行動をしやすい姿勢を保っている。さらに、今握っている手のコブからしてハンドガンを相当使い込んでいる。
しかし、それ以上に気になるのは眼だ。私もよく見てきた軍人特有の無駄な動きのない眼球。間違いなく彼女は軍人である事を語っている。
「これからクラスに案内します。何か質問はありますか?」
「いえ、ありません」
こういう会話も軍隊にいた時を思い出す。先生という立場を考えたらもっと会話するべきだと思うのだが、本人はどう思っているのやら。
そもそも、何で軍人が先生をやっているのか分からない。何かしら国際的なめんどくさい理由がありそうだが、私の専門ではなさそうなので諦める。
「先生は何で先生をやっているんです?」
質問は無いと言ったすぐ後に質問だから答えは期待してなかったが、
「機密事項です。貴方の過去の軍事活動の詳細について話してくれるなら構いませんよ?」
「機密事項です」
「では、お互い妥協しましょう。付いてきてください」
あの人もやはり軍人だなあと思う。特にあの回りくどい回避の仕方は諜報関係っぽくて面白い。
さっそく楽しみができたと嬉しく思いながら、ピータ先生に遅れないように付いていく。ああいう人間をイラつかせたらねちっこいのだ。
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小綺麗な廊下を歩きながら約一分。
長い廊下だなと思っていると先生が止まって話し始めた。
「さて、ここが貴方の教室です。生徒は既に40人、貴方を含めると41人になります。問題は起こさないで下さいね?」
「問題児に見えます?」
「いえ、まだマシな方だと思いますが、一応忠告を」
マシな方ってどういう事かなと思ったが、先生が教室の扉を開けると同時に意味が理解できた。
結果だけ言うと、何者かによって先生に魔法攻撃が仕掛けられたがピータ先生はそれを正面から受け止めて凌いだ。魔法は簡単な初級魔法『炎』
。魔法使いなら誰でも使えるような魔法だが、もちろん戦闘用のため人に向けて使うなど論外、明らかな犯罪行為だった。
先生の方を見たが、彼女は慣れているのか傷一つ付いていない。むしろ、またかという様子で服が少し焦げ臭くなったのを気にしている。
「問題行動は慎むようにと言ったはずですよロベルトさん」
「問題行動? 誰かが魔法のトラップを仕掛けた事のことですか? それならここに居る誰かがやった可能性はあるかもしれませんが、僕一人に決めつけるなんて酷いじゃ無いですかぁ。それに僕がやったと言う証拠はあるんですか?」
はあ、とため息をつきながら中に入っていく先生に付いて教室の中を覗くと、大学のような段々と後ろの席が高くなる教室の中心に、悪の親玉のような顔をしたガタイのいい男が踏ん反り返って座っていた。どうやらロベルトとは彼のようだ。
彼の周りは極端に人が少なく、クラスメイトになるであろうクラスメイトA君やクラスメイトBちゃん達は萎縮している。
「まあ、いいです。それより編入生を紹介します。麗奈さんお願いします」
おおっ、これが夢にまで見た自己紹介!
ウキウキする気持ちを抑えつつ、グリズリーさんから習った誰でも普通の子と思える自己紹介を一度記憶でなぞる。
「えーと、編入生の赤井麗奈です。まだ右も左も分からない状態ですが、よろしくお願い…うひゃ!」
最後の頭を下げる動作で、自分の足元から『炎』が発動。下から飛んできた炎を少し危なっかしく避け、その拍子に後ろに倒れてしまう。
危ない危ない。自己紹介に意識を持っていかれすぎた。
あーでもそうか。そういう事しちゃうか、ふーん。
「麗奈さん、大丈夫ですか? ロベルトさん、貴方の軍人嫌いは知っていますが、私のみならまだしも編入生にまで攻撃魔法を使う事を、許す訳にはいきませんよ?」
私を後ろから助け起こしながら先生は言う。
「