ココにはもう空輸をさせないことを誓った。
「この船に兄さんが来ることになった」
船で次の商談に向かう途中。
ココは苦々しい顔でそう言った。
「兄さん、ってことはキャスパーか。双子でもないのにそっくりだよな、お嬢と」
「キャスパーが来るってことは、チェキータも来るな。レーム、大丈夫か?また離婚したんだろ?」
「大丈夫だよ」
ひらひらと手を振るレーム。
「キャスパー、ねぇ」
そんな中、何かを思い出すように俺は呟いた。
「そういえば、トールと兄さんの馴れ初めは最悪だったわよね」
「ああ、事件ばっか起こってな。いい思い出が一つもない」
その時、ウゴから通信が入った。
『ココさん。キャスパーさんが到着しました』
「よし、通せ。私もそっちに行く」
ココが部屋を出る。
俺もついていった。
「久しぶりだね、ココ。それにトールも」
「そうね。久しぶりね、兄さん」
「お久しぶりです。キャスパーさん」
身長と髪が短い以外、まったく同じ容姿を持つココの兄、キャスパー。
その後ろには、腕に入れ墨がある黒髪の女性、チェキータ。
「久しぶりね、トール」
「お久しぶりです。チェキータさん」
「あの爺は元気?」
「元気ですよ。ピンピンしてます」
「そーか」
ニタニタと笑うチェキータ。
そんな中、俺は彼らとの馴れ初めを思い出していた。
「やあ、君が新入りのトールかい?」
俺がココの分隊に仮入隊してから一年経ったある日。
ホテルで巡回していた俺はココにそっくりな人に話し掛けられた。
「あなたは?」
「俺の名前はキャスパー。ココの実の兄だ」
「……え?お兄さん?」
「そう、お兄さんだ」
「……もしかして双子ですか?」
「いいや、俺の方が年上だ」
「嘘ですよね」
「残念ながら本当だ」
初めて見たぜ。リアル男の娘。
「あーー!!兄さん、何でここにいるの!?」
驚愕していると、叫び声を上げながらココがやって来た。
「いや、偶然近くを通りかかったものでね。せっかくだから妹に会っておこうと思って」
「そんなことより、トールと話していたようだけど変なこと吹き込んでないでしょうね?」
「大丈夫だ。俺とココの関係を教えただけさ」
「本当?トール」
「神に誓って本当だ」
「そう、ならいいわ」
安心したようにココは息を吐いた。
「キャスパー!!いきなり消えるなよ!!」
黒髪の女性が現れた。
「すまないね、チェキータ」
「本当だよ、まったく。……久しぶりだね、ココ」
「久しぶり、チェキータ」
にっこりと笑うココとチェキータと呼ばれた女性。
どうやら、親しい関係にあるようだ。
「……おや、そこにいる子供は?」
ようやく、彼女が俺の存在に気付く。
「前に話しただろう?ココの分隊の新入りであるトールさ」
「こんな小さな子供が……見たところアジア系だが、少年兵かなにかか?」
「いいえ、彼は元一般人よ」
「何故そんな素人を分隊に入れたんだ?」
「戦闘技術はまだまだだけど、力は凄いのよ。トールは」
「ほお、そうなのか。チェキータ。腕相撲の相手をしてやれ」
「え?嫌だよ。ココがあんなに自信満々だから、絶対に勝算があると見た」
「チェキータは俺より力があるんだ。当然だろう?」
「はいはい、解ったよ。雇い主には逆らえませんよー」
部屋に入り、腕相撲の体勢になる。
「トール。手加減してあげないさい」
ビキィ!とチェキータさんの額に青筋が走る。
「絶対に勝ってやる……」
ココ、どうやらお前はオニを降臨させたようだぞ。
威圧感がハンパないぞ。
「それでは、見合って見合ってー。はっけよーい、のこった!!」
ガシィ!!と両者力が込められる。
「くッ、なんて力だ。本当にガキなのか!?」
「結構力ありますね……。では、もう決めます」
少しずつチェキータさんが押され始める。
そして、ついにはテーブルについてしまった。
「確かに、力は結構あるね……」
「でしょ?トールは凄いのよ」
胸を張るココ。
「ココ。久しぶりに兄妹で出かけないか?」
「いいわよ、兄さん。わたしは今機嫌がいいから」
スキップをしながらココはバルメを呼びに行った。
「あの、チェキータさん?」
「呼び捨てでいい。それで、なんだ?」
「チェキータとココの関係って?」
「私は彼女の元護衛さ。私がいた頃はワイリとレームもいた」
「そうなんですか。だからあんなに親しいんですね」
「まぁね」
ココがバルメを連れて戻ってきた。
そして、俺も街の散策に連れて行かれた。
何故だ?
「うわ~。この時計いい~」
ショーケースに陳列された時計を見て、ココは目を輝かせていた。
「相変わらず、ココは女の子らしくないね」
「ぶー。どーいう意味よ兄さん」
頬を膨らませるココ。ヤバイ、超可愛い。
あ、バルメが鼻血出した。
「相変わらず、バルメはココLOVEなのかい?」
「はい、ココ最近余計に酷くなった気がします」
「確かに。前は鼻血なんか出さなかったし」
俺とチェキータは少し離れた所で談笑していた。
「お前、元一般人なんだよね」
「はい。そうですよ」
「何でココに拾われたんだ?」
「……俺は結構な家柄出身でしてね。鶴谷財閥って知ってます?」
「日本のみならず、世界にも会社をいくつも持っている超大型企業だろ?確か一年前にトップが家族旅行に行った時に行方不明になったっていう。……まさか!?」
「ええ。俺はそこの一人息子でした。客船に乗って旅行中、大規模な海賊が攻めてきて両親を殺し、乗客も全員殺した。俺は両親の死が受け容れられなくて暴走しましてね。脳のリミッターが外れたのか、人外な膂力で海賊達を皆殺しにしました。その時、偶然居合わせたココ達にも牙を剥きましてね。殺されてもおかしくなかったんですが、彼女に気に入られて入ったんです。ココの分隊に」
「なんだか、悪いことを聞いてしまったみたいね」
「いいですよ。もう吹っ切れましたし」
そう、もう吹っ切れた。
俺は鶴谷徹じゃない。トールだ。
「トール、チェキータ!行くわよ~」
時計を買い終えたのか、ココは手を振って俺達を呼んだ。
「行きますか」
「ああ」
歩いて彼女の元へと向かう。
その時、猛スピードで彼女に迫る車が現れた。
「ココ!!危ない!!」
だが、彼女達が轢かれることはなかった。
バルメがココを抱き抱えその場を離脱し、いつの間にかキャスパーの元へ向かっていたチェキータが彼を避難させていた。
改めてココを轢こうとした車を見る。
「装甲車だと!?クソッ、殺し屋か!!」
彼女の職業柄、恨みを買うことは多い。
すぐさま彼女達の元へと向かう。
「ココ、キャスパーさん!!大丈夫ですか!?」
「なんとかね」
「わたしは大丈夫」
よかった。怪我はしてなさそうだ。
「バルメ、チェキータ。持っている武器は?」
「私はナイフしか持ってません」
「ベレッタM92しか」
「参ったわね、その装備じゃ装甲は貫けない」
「他に方法は……」
「「「「あ、あった」」」」
四人同時に俺の方を見る。
「……へ?俺?」
俺は装甲車に気付かれないようにある場所へと向かっていた。
『いい?この作戦はキミにかかっている』
チェキータが装甲車に牽制をする。
『あいつらは装甲車から一歩も出てこない。つまり、自分達の実力がわたし達より劣っていることを理解しているのだ。ある意味、やつらは賢い』
装甲車は上部に設置してある機関銃で応戦している。
『だから、わたし達はその裏をかく』
俺はある物の前に到着する。
自販機という物の前に。
『チェキータが装甲車を足止めしている間に』
自販機を持ち上げ、装甲車へと走り出す。
『思いっきり自販機をぶちかましてやれ!!』
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
自販機を野球のボールみたく投げ飛ばす。
自販機は装甲車に激突し、装甲車は大きくひしゃげた。
おそらく、中にいた人間は潰れていることだろう。
「よくやったな、トール」
いつの間にかキャスパーが隣に立っていた。
「これくらい余裕です」
「将来が楽しみだよ。きっといい私兵になれるだろう」
「ありがとうございます」
「では、俺はこれで失礼するよ。次の仕事があるんでね」
「ココには言ったんですか?そのこと」
「大丈夫だ。もう言ったさ。じゃあな、トール」
そう言って、彼はチェキータを引き連れて街の雑踏に消えていった。
「結構様になったじゃないか、トール」
「ええ、あの時とはもう違うんですよ。キャスパーさん」
「そうか。では、成長具合を見る為に戦わせるか。バルメとチェキータ相手に」
「え?まさか二人同時?」
「そうだ。ココには許可を取ってある。彼女達も乗り気だったよ」
「嫌だーー!!そんな無理ゲー!!」
結局戦わされて、ボコボコにされた。
今回はココの兄であるキャスパーとその護衛チェキータとの出会いの話でした。
ただそれだけです。はい、すみません。
これからも、よろしくお願いします。