ヨルムンガンド~十人目の私兵~   作:アスラ

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前回のあらすじ

神様に会った。


1 転生 確認 旅行 事件

転生してから11年が経った。

 

 

記憶が戻ったときにはいろいろと混乱したが、今ではすっかり落ち着いている。

 

 

「徹〜。早く行くわよ〜」

 

 

「待ってよ母さん」

 

 

鶴谷徹つるたに とおる、それが今世での俺の名前。

 

 

結構いい家で、会社をいくつも持っている。

 

 

そんな金持ちの家系に生まれた俺は、現在旅行鞄に荷物を詰め込んでいる。

 

 

父親が長期休暇を取り、それを利用して海外に旅行するのだ。

 

 

「あとはこれを入れてっと、出来た」

 

 

荷物を入れ終え、家族が待つ玄関へと向かう。

 

 

この十一年間、俺は未来で起こりうる戦いに備えて鍛練をしてきた。

 

 

神様が言っていた才能のおかげか、身体能力はぐんぐん上がり、デュラララ!!の平和島静雄みたいな怪力が身についた。骨に関しては、元々骨密度が高かったらしく、折れることは少なかった。

 

 

閑話休題。

 

 

その話は置いておこう。

 

 

俺は、家族と合流した。

 

 

 

 

 

東欧のとある街に来た俺達家族は、早速ホテルにチェックインする。

 

 

家族構成は、両親二人に俺一人の三人家族。

 

問題などまったくなく、充実した生活を過ごしていた。

 

 

「母さん。今からどこに行くんだ?」

 

 

「そうねぇ。ここは施設が充実してるから、自由行動でいいんじゃないかしら」

 

 

「解った」

 

 

今現在、俺達は船に乗っている。

 

 

一ヶ月かけて、ヨーロッパを巡るらしい。

 

 

しかし、まだ俺は知らなかった。

 

 

戦いの運命が、もう近くに迫っていることを。

 

 

 

 

 

 

 

事件は出航して四日目に起こった。

 

 

昼食を終えた昼下がり、船内をぶらぶらしてると、衝撃が船を駆け抜けた。

 

 

直後に上がる悲鳴。同時に聞こえてくる銃声。

 

 

間違いない、この船は襲撃を受けている。

 

 

おそらく、海賊だろう。世界トップクラスであるこの客船には、必然的に金持ちが集まる。

 

 

当然、金目の物もたくさんある。

 

 

略奪が目的なら、安易に人を殺さないはずだ。と結論づける。

 

 

しかし、自らの好奇心によってその考えは打ち砕かれることになる。

 

 

 

 

 

俺は、船の中央の広場が見える位置にやってきた。

 

 

ちょうど吹き抜けになっていて、上の階からでも見渡せる。

 

 

そこから見えたのは、全体の三分の二ほどの乗組員と乗客達、海賊と思われる武装集団。

 

 

ここで動くのは得策ではないと考え、しばらく様子を見る。

 

 

ざっと見たところ、海賊は五十人ほどいる。人質の見張りでこんなにいるのだ。実は、かなりの規模の組織かもしれない。

 

 

リーダーと思わしき人物が、無線で誰かと喋っている。二、三度頷くと、仲間達に合図を送る。

 

 

瞬間、一斉に銃を人質に向け、発砲した。

 

 

人々の断末魔が聞こえる。床には血が流れ、脳髄が辺りに飛び散る。

 

 

さながら、地獄絵図のようだった。

 

 

(なんだよ、あれ……)

 

 

人質を殺すなんて、考えられない。異常だ。

 

 

ふと、最悪のシナリオが頭に浮かぶ。

 

 

人質に殺害命令を与えたということは、乗客を生きて帰すつもりはないということ。

 

 

……このままでは、母さんと父さんが危ない!!

 

 

二人は、客室にいるはずだ。疲れたから休むと言っていた。騒ぎに気づいて隠れているだろうが……。

 

 

頼むから、生きていてくれ!!

 

 

俺は走り出した。

 

 

 

 

 

 

結末は最悪だった。

 

 

急いで客室へと向かい、その扉を開いた。

 

 

「母さん!!父さん!!」

 

 

直後に目に入ったのは、ちょうど撃ち殺される両親の姿。

 

 

それは、あまりにも現実味がなさすぎて/ありすぎて。

 

 

横たわっている死体/人形は、どうしても両親と認識できて。

 

 

世界から色が消えたようだった。

 

 

心は空っぽ。躯はただのタンパク質の塊。

 

 

大きすぎる絶望に、目から光は消え。

 

 

 

思考は、殺人方法で満ちていた。

 

 

 

まず、そばにいた男の首筋に手刀を叩き込む。手は皮膚を突き破り、温かい血が自分を汚す。

 

 

ようやく事態に対応できた海賊も、奪い取ったナイフで切断し殺す。

 

 

部屋は血で染まり、残ったのは殺人鬼と化した俺だけ。

 

 

母さん、父さん、すみません。もう、戻れそうにないです。

 

 

俺は獲物を求め、歩きだした。

 

 

 

 

 

 

海賊達が見たのは、文字通り鬼だった。

 

 

「くそお!!当たれ当たれ当たれーーーッ!!」

 

 

「もっとだ!!もっと仲間呼んでこい!!」

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

人質達を殺し終え、気が緩んでいる最中に現れたナイフを持った血まみれの少年。

 

 

こちらには銃があった。殺すのは簡単だ。そう思っていた。

 

 

しかし、蓋を開ければ圧倒的不利なのは自分達。

 

 

弾丸は全てよけられ、一人、また一人と殺されていく。

 

 

少年の動きは、まるで獣だった。

 

 

縦横無尽にフロアを駆け抜け圧倒的な膂力が繰り出されるのはまさに獣。

 

 

気づけば、海賊はあと一人になっていた。

 

 

「なんなんだ……。お前、一体何者なんだよぉッ!!」

 

 

回答は、ナイフによる刺殺だった。

 

 

 

 

 

 

「結構酷いことになってるわねぇ」

 

 

「こりゃあ、ひでぇ有様だな」

 

 

ココとレームは、船内の様子を見て悪態をついた。

 

 

彼女達は、武器の商談でこの豪華客船にやって来た。

 

 

そこへ、運が悪いことに大規模な海賊の襲撃。

 

 

最初は部屋に閉じこもってやり過ごそうと考えたが、海賊が人質を殺したところで隠れるのを辞め、本部にヘリを要請してさっさとエスケープすることにした。

 

 

船内を移動するため、海賊と鉢合わせになり戦闘になるかと思われた。

 

 

しかし、遭遇するのは死山血河の地獄絵図。

 

 

生存者は、誰ひとりいないかと思われた。

 

 

「今連絡が入った。十分後にヘリが到着する。みんな、デッキに向かうよ」

 

 

ココ達は歩みを進める。

 

 

その時、カチャリ、と音が聞こえた。

 

 

「生存者がいるのか?」

 

 

銃を構え、慎重に歩みを進める。

 

 

廊下の先に、人影が伸びている。

 

 

現れたのは、全身血まみれた少年---徹だった。

 

 

徹が、ココに顔を向ける。

 

 

瞬間、人間離れした速度でココへと肉薄する。

 

 

その手には、血に染まったナイフ。

 

 

「ココ!!離れていて下さい!!」

 

 

すかさずバルメが割り込みナイフで受け止める。

 

 

しかし、力負けしてじりじりと押され始める。

 

 

「くっ!?本当に少年の力か!?」

 

 

「レーム、!!バルメの援護に入れ!!」

 

 

ココがすかさず指示を出し、二人が援護射撃をする。

 

 

徹は驚くべき反射神経で察知し、その場を飛び退く。

 

 

獣のような動きで、壁、床、天井全てを使いバルメ達を翻弄する。

 

 

「くそ!!ホントにガキなのか!?」

 

 

「動きは単調です。無茶苦茶な動きですが、冷静に対処すればいけます」

 

 

「といっても、ここまで動かれたらいくらバルメでもヤバイんじゃないの?」

 

 

「ナメないでください」

 

 

レームの軽口に、バルメが目を鋭くする。

 

 

「こんな素人、すぐに片付けます」

 

 

「があああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

徹がナイフを突きだし突撃する。

 

 

その腕をバルメは掴み取り床に叩きつけ、そのまま関節を極める。

 

 

「これで動けなく……」

 

 

「が、があぁぁ……」

 

 

「ッ!?何だと!?」

 

 

完璧に極めていたはずの関節技が、徐々に緩められていく。

 

 

「そんな!?力ずくで抜け出そうだなんて……」

 

 

「誰かコイツを止めろ!!」

 

 

レームが叫び、銃床で徹の頭を殴りつける。

 

 

「が…あ、あぁ……」

 

 

そこで、ようやく徹は沈黙した。

 

 

「ココ、どうします?この少年。私は即刻殺すべきだと思います」

 

 

「待って、バルメ。その少年は連れて行く」

 

 

「ッ!!何故ですか、危険です!!」

 

 

「見たところ海賊ではなさそうだし……、わたしの勘を信じてくれないかしら。この子、凄腕の兵士になれるわよ」

 

 

「ココがそう言うのなら」

 

 

バルメはナイフを仕舞う。

 

 

「では、撤収!!早くここから逃げ出すわよ!!あ、レームはその子を担いできてね」

 

 

「へいへい、解ったよ」

 

 

ココ達は、ヘリが待っているであろうデッキへと向かう。

 

 

徹を連れて。

 

 

 

 

ここから、徹の物語は始まった。

 

 

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