ヨルムンガンド~十人目の私兵~   作:アスラ

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前回のあらすじ

徹はココに拾われた。


2 入隊

目が覚めると、真っ白な天井が見えた。

 

 

「……知らない天井だ」

 

 

思わず、そんなテンプレなセリフを言ってしまう。

 

 

「そりゃ知らないだろうね。ここは日本じゃないから」

 

 

若い女性の声が聞こえる。目線を横に向けると、プラチナブロンドに薄い碧眼の女性---いや、少女がいた。

 

誰なんだろう、思い出せそうで思い出せない。

ここは『ヨルムンガンド』の世界なんだが、現実と二次元は全く違う。初見で原作キャラが解るなんて条件が揃わない限り無理だろう。

 

「あなたは?」

 

 

「ココ・ヘクマティアル。武器商人よ、鶴谷徹くん」

 

……そうだ、どこかで見たことあると思ったら主役である『ココ・ヘクマティアル』か。特徴が一致している。

 

それよりも、気になることが一つ。

 

 

「なんで俺の名前を?」

 

 

「持ち物に書いてあったから」

 

 

くいくいっ、と指差す方向を見るとそこには俺のショルダーバッグが。

 

 

「そうですか……。ところで、なんで俺はこんなところにいるんですか?てっきりもうあなたたちに殺されたんじゃないかと思ってたんですが」

 

 

そう、それが疑問だった。両親を殺され、暴走した俺は、彼女達に牙を剥いた。

 

 

暴走したときの記憶は、おぼろげながら覚えている。

 

 

殺されても、おかしくはなかった。

 

 

「それはね、わたしがキミに興味を持ったからだよ」

 

「興味?」

 

 

「ええ。一般人でありながら持ち合わせている人外な膂力。わたしはキミのそこに惹かれたわ。だから−−−」

 

 

 

わたしに飼われなさい。

 

 

 

彼女はぞっとするような、とても美しい笑みを浮かべた。

 

 

「……帰る場所も失ったし、行く宛てもないから、ココさんに着いていくよ」

 

「よーし!!じゃ、決まりね。キミの名前は今日からトールだ」

 

 

「トールですか。いいですね。これからよろしくお願いします」

 

 

「よろしく」

 

 

俺と彼女は握手を交わした。

 

 

 

 

「ココさんって、日本語が上手いんですね」

 

 

「ま、武器商人をやってるからね。日本人とも取引する訳」

 

 

「そうなんですか」

 

 

 

 

 

 

 

あれからすぐに、彼女の私兵達を紹介された。

 

 

「まずはそこにいる白髪のおっさん。彼の名前はレームよ」

 

 

「よろしくね〜」

 

 

「次に、医療用眼帯を付けているのがバルメ」

 

 

「…………」

 

 

「こらこらバルメ。睨んじゃダメ」

 

 

「ですが、ココ!!」

 

 

「あの話は終わり。今は仲間なんだから、仲良くしなさい」

 

 

「……よろしく」

 

 

「で、この黒人の兄ちゃんがマオ」

 

 

「よろしく」

 

 

「最後に、この隊の最古参であるワイリ」

 

 

「よろしくね」

 

 

「この四人が、わたしの私兵。ココ分隊のメンバー。キミが入れば五人になる」

 

 

「はぁ」

 

 

ここで曖昧な返事が出るのは、日本人だからだろう。うん、きっとそうだ。

 

 

「だけど、今すぐキミを隊員として迎え入れることはできない。理由は、解るよね?」

 

 

「銃すら持ったことがないずぶの素人を入れる訳にはいなかい、でしょう?」

 

「正解」

 

 

楽しそうに、彼女は笑う。

 

 

「そーいう訳で、キミを本部に連れていく。そこで近接格闘はバルメに、銃器の扱いをレームとマオに教えてもらいなさい」

 

 

「ココ!?」

 

 

「これは確定事項よ、バルメ。いいじゃない、弟子ができて」

 

 

「……ココがそう言うのなら」

 

 

しぶしぶながら、バルメは頷いた。

 

 

「トール。キミは英語を喋れるか?」

 

 

「いえ、無理です」

 

 

「なら、英語を教える係はわたしね。日本語も喋れるし」

 

 

ニコニコと笑う彼女。

 

 

思わず見とれてしまう。

 

 

改めて見ると、とても綺麗だ。顔立ちは整っているし、まつげも長い。

 

 

でも、『綺麗』という言葉よりも先に浮かぶ言葉は−−−。

 

 

「可愛いですね、ココさんって」

 

 

「へ!?可愛い!?」

 

 

「? どうかしましたか?」

 

 

「ううん、なんでもないの」

 

 

あたふたするココさん。いったいどうしたんだろう?

 

 

彼女の後ろでは、バルメさんが射殺すように睨んでくるし、レームさんとマオさんはニヤニヤと笑っている。

 

 

まあ、いいか。気にしないでおこう。

 

 

 

 

 

とても面白い子。

 

 

それが、わたしの彼に対する第一印象。

 

 

自分と数歳しか違わない年下なのに持っている人外な膂力。

 

 

バルメが苦戦していたのだ。鍛えれば、かなりの実力者になるだろう。

 

 

話していてもこちらを不快にさせないし、パニックになることもない。なにより、礼儀正しい。

 

 

これはいい拾い物をした、と内心ほくそ笑んでいると。

 

 

「可愛いですね、ココさんって」

 

 

「へ!?可愛い!?」

 

 

いきなり飛んできた、聞き慣れない言葉。『可愛い』

 

 

これに何故かわたしは過敏に反応してしまう。

 

 

わたしの父は海運の巨人と言われるほどの人物。必然的にお偉いさんとも会う。

 

 

彼らには、皆一様に『綺麗』『美しい』と言った。

 

 

自分でもそう思っている。そうなるように努力している。

 

 

しかし、『可愛い』。

 

 

こんなことを言われたのは初めてだ。

 

 

「ま、また後でね!!レーム、バルメ、ワイリ、マオ!!行くわよ!!」

 

 

逃げ出すように、部屋から出る。

 

 

「おやぁ、ココちゃんにもようやく春が来たかな?」

 

 

「う、うるさい!!」

 

 

レームの言葉に過剰に反応してしまう。

 

 

うぅ、絶対に顔真っ赤だ。

 

 

結局、赤くなった顔は部屋に戻るまで元に戻らなかった。

 

 

 

 

 

 

傷は深くなかったのか、ココさんに会った翌日には退院できた。

 

 

しかし、退院した瞬間に車に連れ込まれ、トレーニングをするであろう場所に放り込まれるのはやめてほしかった。びっくりするから。

 

 

だけど、今現在それより重大な問題がある。

 

 

目の前にいる、医療用眼帯をしている女性---たしか、バルメさんだ---が射殺さんばかりの睨みをしてくるのだ。

 

 

自分、何も気に障ることをやった覚えがないのだが。

 

 

「あの~、俺、バルメさんに何か気に障るようなことやりましたっけ?」

 

 

「…………」キッ!!

 

 

まずい、さらに目つきが鋭くなった。

 

 

何か打開策を思いつかねば。

 

 

…………いかん、何も思いつかん。

 

 

「これから、お前に近接格闘について教えてやる」

 

 

こちらが思考の海に浸かっていると、バルメさんが喋りだした。

 

 

「まずは、わたしに一発入れてみろ」

 

 

「へ?」

 

 

「だから、一発入れてみろと言ったのだ」

 

「いやいやいや、無理ですって!!この前までただの一般人だった俺が、戦闘のプロであるバルメさんに一発入れるなんて無理ですよ!!」

 

 

「来ないのなら、こちらから行く」

 

 

「えっ、ちょ、待ってくださいって、俺死んじゃ−−−」

 

 

数秒後、施設全体に少年の叫び声が響いた。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、これから銃器の扱いについて教えるよ」

 

 

数時間後、地獄から解放された俺はレームさんと共に射撃場にいた。

 

 

「はい、お願いします」

 

 

「お、礼儀正しいね。そういう子は好きだよ」

 

 

ニコニコと笑う彼も、きっと凄腕の傭兵なのだろう。

 

 

「幸い、ここは武器を扱う会社だからね。種類は豊富だ」

 

 

壁にあるのは、全て銃。拳銃からライフルまで多岐に渡っている。

 

 

「俺のオススメとしてはグロックとかなんだけど、トールはかなり力持ちだからね。これなんかどうだい?」

 

 

渡されたのは、ずっしり重い大型拳銃。

 

 

「これを両手で持って、しっかりと構えてごらん。脇は締めて、足の位置はこうで……」

 

 

レームさんの構えをまねて、ぎこちなくも構えを取る。

 

 

そして、的に狙いを定めて撃つ。

 

 

甲高い破裂音と共に、衝撃が腕を突き抜ける。

 

 

それを我慢して、的の方を見る。穴は空いていなかった。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「はい、まだまだ余裕です」

 

 

「最初はみんな当たらないさ。じゃあ、次は片手で撃ってくれるか?」

 

 

「解りました」

 

 

右手に持ち替え、撃つ。

 

 

片手になった分、衝撃がより強く突き抜けるが、まだ腕が痺れるほどではなかった。

 

 

「レームさん。拳銃って凄いんですね。衝撃がハンパないです」

 

 

「そうだな。素人が撃つと体勢が大きく崩れる。それよりトール。腕は大丈夫か?」

 

 

「はい、かなりの衝撃が来ましたが、腕は痺れてません」

 

 

「……やっぱ、君の力は凄いね?」

 

 

「? 今更なにを言ってるんですか?」

 

 

「種明かしするとね、そいつの名前は『デザートイーグル』って言って、拳銃の威力としては世界最強なんだよ。もちろん衝撃はハンパなく、大の大人でも両手で持たないと撃てないくらいだ。片手で撃てる人はかなり少ないだろうね」

 

 

うわぁ、そんな銃を片手で撃てる俺って一体……。

 

 

「まぁ、成長期だからもっと筋肉が付くだろうね。将来が楽しみだ」

 

 

くっくっく、と笑うレームさんが、何故か今は腹立たしい。

 

 

とりあえず、脛を一発蹴ってやった。

 

 

結果、何が起こったかは言わずもがな。

 

 

 

 

 

 

 

「今日からキミの英語を担当するココ・ヘクマティアルだ。授業にはしっかりついて来るように。解った!?」

 

 

夕食(日本料理が何故かあった)を食べ終えた後、指定された部屋に入った俺を待っていたのはスーツ姿に眼鏡を掛けたココさんだった。

 

 

「何やってるんですか、ココさん」

 

 

「何って、教師だけど?」

 

 

「質問を変えます。何故そのような格好を?」

 

 

「この前読んだ日本の漫画に、こんな姿の教師がいたから」

 

 

「さいですか」

 

 

海運の巨人の娘にまで影響を与える日本の漫画、恐るべし。

 

 

「では、英単語から教えよう。これから書くのを一つにつき百回書いて覚えなさい。書き終えた後にテストをやって、間違えたらそれを百回書き。また最初からやり直し。さ、始めなさい」

 

 

「ちょっと!?何そのスパルタ!?」

 

 

「黙ってやりなさーい。それがキミのためだからね」

 

 

「くそおぉぉぉぉッ!!」

 

 

結局、その部屋の電気は日付を越しても消えなかった。

 

 

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