「お、陰陽師だって!?」
俺とゆらが陰陽師であるとしるや否や、清継が声を上げる。
「今…確かに…そう………言ったんだね!?」
清継が詰まりながらも何とか事実を確認する。
ゆらは無造作に頷いた。
「じゃ、じゃあ…今のこいつは…」
ゆらの呪符に囚われた人形を見ると、人形は蛇のような威嚇音をあげる。
「うわっ?!」
「やっぱり妖怪なんだ!?」
島と家長さんが慌てて人形の傍から離れる。
「ええ、本当に危ないとこでした」
「………ほ」
「ほ?」
急に一音だけ発して固まる清継に皆の視線が集中する。
「本当だったんだ!!!い…いたんだ!!陰陽師…ということは…妖怪も…!!」
…何故か感激に打ち震えていた。
「うぉぉ素晴らしい!」とか「ボクの持論は間違っていなかった!!」とか叫んでいる。
「俺たちは花開院は京都に本家を置く、妖怪退治を生業とする陰陽師の一族の末裔なんだ」
「そ、そう言えば花開院ってTVで聞いた事が……」
俺は全員に説明するように言うと、清継が気づいたらしく言う。
「それは当主で、祖父の花開院秀元ですね」
「でも、どうしてここに?」
清継の質問は尤もだな。
だからこそ、俺とゆらは包み隠さず話すことにした。
「この町、浮世絵町はたびたび怪異に襲われる町として有名なんだ」
「噂だと妖怪の主が住む町とすら言われてるんです」
ゆらがそう言うと、何故か奴良と及川さんが表情を強張らせる。
そう言えば、陰陽師だと言ったとき、及川さんは異常なまでに震えていたな。
まさか…………
「私は一族の試験として遣わされたんです」
「俺も同じく試験として遣わされた。より多くの妖怪を見つけ、滅する。それが俺たちの目的であり、使命だ」
「そして、陰陽道の頂点に立つ花開院の当主を継ぐんです!」
「凄いぞ!プロだ!プロが来たんだ!僕の……この清十時団に!」
清継は大はしゃぎしながら俺とゆらの手をとる。
「ぜひぜひ協力してくれないか!僕も、ある妖怪を探していたんだ!」
「ある妖怪?」
「そう!そのお方は月夜を駆け巡る闇の支配者……!もう一度……僕は彼に会わねばならない!」
「それはまさか……百鬼夜行を………率いる者……」
「おそらく彼こそが………妖怪の主!」
「それは一体どこで「一緒に探そう!」
ゆらは何処で妖怪の主”ぬらりひょん”を見たのか尋ねるが、清継は話を聞かず一人で盛り上がる。
「妖怪の主を見つけ出そうじゃないか!清従十字怪奇探偵団ここに始動だ!」
清継が盛り上がり、それに付いて行けず呆然とする中、封じたはずの人形が突如動き出し、家長さんに襲い掛かる。
俺は呪符を取り出し、人形に向ける。
「”不動明王火界呪”!」
呪符は火の塊になり、そのまま人形を焼き尽くした。
「家長さん、大丈夫だった?」
「う、うん……ありがとう……」
「無事なら良かった。しかし、ゆらの呪符が破られるとは思えないんだがな………」
そう思いながら人形の燃えカスに近づき調べる。
見ると、床に呪符ではない紙が落ちていた。
拾ってみると、それは昨日スーパーで買った買い物のレシートと、五十円引きのクーポン券だった。
「ゆら、これが原因だ」
「あっ………」
「だから言っただろ。ゆらなら絶対に間違えて呪符と一緒に飛ばしかねないから分けろって」
「そう言っても、しゃあないやん。この財布は魔除けの効果もあんねん。そうそう変えられへんのや」
悪趣味な財布かと思ってたが意味があったのか………
「折角だし、今度の日曜日全員で集まろう!プロの陰陽師もいることだし、皆で妖怪レクチャーと行こう!場所はそうだな………奴良君の家だ!」
「え!?僕の家!?」
「君の家は広くて趣きある屋敷らしいじゃないか!でえは、日曜日頼んだよ!」
結局、清継がぐいぐいと奴良に迫り、奴良は断れず了承した。
そして、今日はそこで解散となった。
「ゆら、先に帰っててくれないか。ちょっと用事を思い出した」
「あ、ちょ……秋斗!」
ゆらの返事を聞かずに俺は、家とは反対方向に走る。
そして、ちょうど奴良と及川さんの二人の背中を見つけた。
「おーい!奴良と及川さん!」
その背中に向かって声を掛ける。
すると二人は体を大きくビクつかせ、露骨な反応をする。
「け、花開院君!?」
「二人とも、大丈夫だったか?」
「だ、大丈夫って何が?」
「いや、こっちの方で妖気を感じてな。ちょうど、この辺りだ。二人は何か見なかったか?」
「い、いやぁ~……何も見てないよ……」
「わ、私も特に何も……」
「そうか。じゃあ、質問を変えるよ。………二人は妖怪なのか?」
そう言うと、及川さんは咄嗟に奴良の前に出る。
「若!お下がり下さい!!」
及川さんは、先程の怯えた目をしていなかった。
何が何でも奴良を守る。
そう言う目だ。
「ちょ、氷麗!?」
「この男、危険です!この場で倒します!」
「ちょっと待って氷麗!花開院君も!…ここじゃなんだから場所を変えよう」
奴良が間に割って入って来る。
「そうだな。夕方とはいえ人目は多い。何処か人目の付かない良い場所は知ってるか?」
「…若、それと陰陽師もこっちへ」
及川さんに案内されて着いたのは近くの神社だった。
「ここなら人目はつかないけど………」
「じゃ、早速だけどいくつか質問させてくれ。奴良、それと及川さん。二人は妖怪か?」
その質問に二人は答えず、及川さんは警戒を解いてない。
「沈黙は肯定と捉えるぞ。じゃあ、次だ。奴良………お前は人に仇成す妖怪か?」
「……え?」
「どう言うことですか?妖怪を滅するのが陰陽師の使命じゃないんですか?」
及川さんは俺の言ったことが理解できないと言いたげに聞いて来る。
「確かに陰陽師の使命は妖怪を滅することだ。だが、それは間違いだ。少なくとも、俺の家は違う」
「それって一体……?」
「花開院は本家と分家の二つに分かれている。分家も幾つかあるが、
「そ、そうなんですか?」
「警官は人を理由もなしに逮捕しないだろ。それと同じだ。妖怪にだって悪を成す妖怪がいれば、善を成す妖怪もいる。強い妖怪もいれば弱い妖怪もいる。それがうちの、“式羽流”の考えだ。だから、俺は人を守る以外でこの力は使わない。そう決めてる」
俺の言葉を、奴良と及川さんは黙って聞いていた。
「話を戻そう。奴良、お前は人に仇成す妖怪か?」
「……ぼ、僕は「若!!」
奴良が何か言い掛けたその時、急に誰かの声が聞こえた。
振り向くと、そこには背の高い男が一人立っていた。
「テメー!若に何してやがる!?」
「ちょ、青田坊!待って!」
奴良が止めるが、大男は止まらず俺に向かって拳を振りかぶる。
「『縛』!」
言動からして、この大男も妖怪だと考え、術で動きを封じる。
「なっ!?か、身体が!?」
「落ち着けよ、青田坊。別に滅しようとは考えてない」
そう言って術を解き、青田坊を解放する。
「こ、この野郎!」
「青!待って!」
掴み掛ろうとする青田坊を奴良が止める。
「で、ですが若!こいつは……!」
「いいから!少し落ち着いて!」
この青田坊とか言う奴、見た感じ人から妖怪になった類だな。
でも、そう言った妖怪独特の怨嗟や恨みが感じられない。
ちょっと気になるな。
「俺は花開院秋斗。陰陽師だ。よろしくな、青田坊」
そう言って青田坊を見るが、青田坊は俺を一瞥してそっぽを向く。
「それで、質問の答え聞かせてくれるか?」
「………僕は、僕は人に仇成すことはしない」
奴良ははっきりとそう答えた。
「確かに僕は妖怪だ。でも、同時に人間の血が四分の三流れてる。だから……人に仇成す真似はしないし、させもしない」
「……信じてもいいのか?」
「………僕の身体に流れる祖父ちゃんの……ぬらりひょんの血にかけて誓うよ」
「………その言葉、信じさせてもらうぜ」
そう言い、俺は背を向ける。
「ゆらにはお前達の事は言わない。だから安心してくれ」
「ありがとう…花開院君」
「秋斗でいいぜ。俺もリクオって呼ばせてもらうから。じゃあな、リクオ。及川さんもまたな。青田坊も、次会ったら人間時の名前、教えてくれな」
三人に手を振って、俺は神社を後にした。
「…………まさか、妖怪の主“ぬらりひょん”の孫とはな」
驚きだ。
「さて、帰るか」