日曜日。
俺とゆら、清継、島、家長の五人はリクオの家へと向かっていた。
「妖怪クイズ17問!次のうち、鳥を従えて飛ぶ、火の妖怪はどれ?A:釣瓶火 B:ぶらり火 C:姥火」
「う~ん……Cですか、清継君?」
「ブー!答えはB!島君、君はまだまだだねぇ。気合が足りないよ」
「きあいっすか……」
リクオの家までの道中、清継の作った妖怪クイズをするも、答えているのは島だけだ。
ちなみにクイズの出来はと言うと、素人にしてはそこそこにレベルが高いと言った感じだ。
「今日は秋斗君とゆら君の二人に気合を入れてもらうからね!妖怪のプロだぞ!」
「気合……ですか」
ゆらは乾いた笑いをしながら言う。
てか、俺たちは妖怪のプロじゃなくて、妖怪退治のプロだからな。
「それにしても、噂に違わぬボロ屋敷だな」
リクオの家に着くなり、清津具はそう言った。
失礼だな、おい。
しかし、妖気がうまく感じ取れないな。
おそらくぬらりひょんの力で屋敷中の妖気を覆い隠してるとかそんな感じだろう。
ゆらの奴はどこまで気づくか…………
「ごめん、皆。お待たせ」
リクオがそろ~っと門を開け顔を見せてくる。
「本当に遅いぞ奴良君!さっさと案内したまえ!妖怪屋敷で妖怪会議だ!」
「ちょっと清継君!リクオ君に失礼だよ!」
「かまわんよ!」
いや、構えよ。
リクオに案内されるまま屋敷の客間に通される。
風で襖が揺れ音を立て、薄暗い所為でそれっぽい雰囲気が出てる。
「それじゃ始めよう。秋斗君とゆら君に、プロの陰陽師のレクチャーを受けたいと思います」
清継が俺たちを見ながらそう言う。
「じゃ、まずはこの間見た人形について話そう」
「あれは典型的な”付喪神”の霊でしょう」
「つくもかみ?」
「島君!君は何も知らないねぇ!」
清継、うるさい。
少し静かにしろ。
「”器物百年を経て化して精霊を得て、より人の心を誑かす”。付喪神は打ち捨てられた器物が変化した妖怪なのです」
「妖怪には様々な種類がいる。人の姿をしたもの、鬼や天狗、河童などの超人的な存在、超常現象が具現化したもの、さっきのクイズで言ってたぶらり火とかだな」
「妖怪の三分の一は火の妖怪であるとも言われてます。奴らの目的は人々を畏れせること」
「中でももっとも危険なのは獣の妖怪化した存在だ。奴らの多くは知性があっても理性がなく、非常に危険だ」
「欲望のまま化かし、祟り、喰らう。決して触らぬようお気をつけ願いたい」
「特に清継。お前だぞ」
「ぼ、僕かい!?」
清継は自分を指差し訪ねる。
「お前みたいに妖怪に間する知識があるってだけで妖怪に接近する奴も少なくない。はっきり言って陰陽師でもない奴が妖怪に近づくのは非常に危険なんだ。実際、妖怪の噂を聞いて興味本位で近寄って命を落とした奴は大勢いる。中には陰陽師でも命を落とす奴もいる。だから獣の妖怪に限らず、妖怪には関わらない方がいい。どうしてもって言うならせめて俺かゆらのどっちかがいる時だけにしろ。いいな?」
「あ、ああ………」
清継は冷や汗を掻き頷く。
「お茶が入りました~」
口から変な声が出そうになったがなんとか抑える。
妖怪来ちゃったよ……………
リクオは顔面蒼白になる。
顔も見えないほど長さの髪の毛を持つ女性。
恐らく毛倡妓だろう。
毛倡妓はお茶を俺たちに出すと、そのまま部屋を出ていく。
「今の誰?」
「奴良、あんなすごいお姉さんいるのか?」
リクオは清継と島の質問に答えず、慌てて部屋を出ていく。
「あ……そう言えばお手伝いさんがいるって昔言ってたっけ」
家長さんの言葉に全員が納得した声をあげるが、ゆらはどうも気になるらしく立ち上がり、部屋を出る。
「あ、ゆら!」
俺も慌てて立ち上がり、ゆらの後を追う。
「ゆら君!それに、秋斗君もどこに行くんだい!?」
清継たちも俺の後を追ってくる。
「なんだが……物凄い妖気を感じるような……秋斗も感じへん?」
「ああ……そうだな。微かに感じるが確定はできないがな」
「な、なんだって!?どういう事だい!?」
清継が騒ぎ出し、そこにリクオが戻ってくる。
「み、皆!?部屋に戻って妖怪の話しようよ!そうだ!妖怪で古今東西やる?」
「奴良君……君には後でじっくり話を聞かせてもらう」
清継はリクオにそう言いゆらの後を追う。
そして、その後を島と家長さんも後を追う。
「しゅ、秋斗君…………」
「……できる限りフォローする」
青ざめるリクオに俺はそうれだけしか言えなかった。
最初に俺たちが向かったのは大浴場だった。
風呂がでかいことに関して誰もツッコミを入れない。
「奴良君、失礼を承知で覗かせてもらうわ」
ゆらはそう言って大浴場に入り、扉を開ける。
そこに四体ほど小妖怪の妖気を感じるが、俺は黙ってることにした。
「ねっ……いないでしょ?」
「いない……ですね」
次に向かったのは仏間だった。
「うん?この仏像……」
ゆらは一体の仏像を見つめる。
その仏像には何人もの小妖怪の妖気を感じられる。
隠れているんだろうが、妖気が隠せてない。
ここだけの話、ゆらは妖怪の妖気を探るのが苦手だ。
うっすらと感じることはできるが正確に探ることはできない。
だからあてが外れるようなことはしばしばある。
おまけにぬらりひょんの屋敷ということもあり、ゆらには感じるのが余計に難しくなってる。
俺は妖気を感じることは得意な為、ぬらりひょんの力で妖気をぼやかされていても、ゆらよりはしっかりと感じれる。
「す、すごいでしょ?じいちゃんの趣味でさ。悪趣味だよね。触るとじいちゃんに怒られるからさ、ほら何もいないし戻ろうよ」
「う、うん……取り敢えずお札貼っておく」
そう言ってゆらは仏像にお札を張る。
部屋から出るとき、こっそり外しておいた。
心の中で謝り、俺は部屋を後にした。
あれからいくつか部屋を訪れたが、妖怪は見つからずそのまま客間に戻った。
「特に……何もなかったね……」
お茶を飲みながら、清継が言う。
ゆらは俺の隣で落ち込んでいる。
リクオはと言うと一安心と言った具合にお茶を啜ってる。
まぁ、俺としてもゆらに見つからなかったのはありがたい。
もし見つかったりでもしたらゆらは滅しようとするだろうしな。
「おっ、リクオ。友達か?」
するとそこに一人の老人がやってくる。
入ってきた老人を見た瞬間、リクオは急にむせ出す。
まさか………
「あっ、どうも」
「お邪魔してます」
「おーおー、珍しいの。お前が友達を連れて来るなんてな。飴いるかい?」
そう言って老人は俺たちに飴を渡してくる。
「どうぞ皆さん。これからも孫のことよろしゅうたのんます」
妖怪の主”ぬらりひょん”だったよ!!
「あっ、ハイ」
「まかして下さい、おじいさん!しかし、この飴まずいっすねぇ!」
さ、流石はぬらりひょん………
誰も気づいてない…………
結局、そのまま今回は解散となり、俺はゆらと帰宅していた。
ゆらはと言うと今も落ち込んでいる。
ある意味、人の家を妖怪屋敷呼ばわりした様なもんだしな。
申し訳なさと、自分の未熟さを感じてるんだろう。
「そう落ち込むなって。失敗なんて誰でもするさ」
「………秋斗、私ちょっと散歩してくる」
「え?今からか?」
「うん。夕飯までには帰るから」
ゆらはそう言って、さっさとどこかへと言ってしまった。
「結構重症かもな」
仕方ない。
今日の晩飯は
アレならゆらも元気になるだろう。
(なにやってんやろ私…)
ゆらは一人で繁華街を歩いていた。
あれだけいると思って探し回って、結局何も見つけられなかった。
ゆらはそう考えながら普段見慣れぬ道を歩いていた。
(奴良君に失礼なことしてしもーた……。きっと秋斗も呆れてるやろうな)
ゆらは妖気を感じ取ることが苦手だった。
だから、今日リクオの家に行くとき、妖気を感じても言わないように秋斗に頼んだ。
少しでも妖気で妖怪を探れるようになりたい。
そう思ってリクオの家の妖気を探ったが、今のゆらには難しかったらしく、妖怪を見つけることはできなかった。
そのため、ゆらは少し一人で考え事をしたくてワザと遠回りして帰っていたのである。
「お譲ちゃん、制服着てどこ行くのー?」
(…どこやここ?)
無駄に派手な男から声をかけられてようやくゆらは思考の海から帰還した。
派手なネオンサインにゆらは思わず目を細める。
「どうしたのー?」
(あかん、はよ帰ろう…それに、目もチカチカするわ……)
軽薄そうな優男に再び声を掛けられるも、ゆらは極力無視して歩く。
「ゆらちゃん!」
「あ…家長さん」
その時、ゆらが聞き知った声に名前を呼ばれ振り返るとそこにはカナがいた。
「この時間は危ないよ。この辺」
確かに女子中学生がうろつく場所ではない。
「家長さんこそ、どうしてここに……」
「私はおつかいの途中だよ。そしたらゆらちゃんがこっちに向かって歩いてたから。それより、いこっ。どこ住んでんの?あ、秋斗君も一緒だっけ」
「……。私って…まだ修行が足りひんわ」
屈託なく話しかけてくれるカナの態度が今のゆらにはありがたかった。
自己嫌悪に陥りかねない状況では少しでも誰かに話してしまった方が楽になれる。
「本当にいると思ったのに…奴良くんに失礼なことしてもーた…」
「…ゆらちゃん」
「わっ、女のコが落ち込んでるよ~~」
ゆらとカナの会話に突如として別の声が割り込んできた。
金髪に派手なスーツ、どこからどう見てもホストだった。
「ひーろった。オレの店まで持って帰っちゃおーっと」
「えっ」
その男からゆらとカナは素早く身を引いた。
「それともどっか行く?いーねそれも!!ボクと一緒に遊ぼうよ~」
「……いこう…ゆらちゃん」
カナはそのホストを睨みつけ、相手にしないようにそっぽを向いて歩きだした。
だが、いつの間にか数人のホストが周りに立っており、二人を囲っていた。
「え…ちょっと…何よ…」
「下がって…家永さん」
「ゆら…ちゃん…?」
ゆらの声音が固くなる。
いくらゆらが妖気を感じることが苦手でも、至近距離で、それも妖怪特有の気配見せられれば嫌でも分かった。
「つれなくすんなよ、子猫ちゃん♡」
ニヤニヤと金髪のホストが笑いかけてくる。
だが、その顔は徐々に人のそれから変わり始めていた。
「アンタら…三代目の知り合いだろ?夜は長いぜ。骨になるまで…しゃぶらせてくれよォォ♡」
その姿は鼠。
その妖怪の名は旧鼠。
ネズミが歳月を経て妖怪となったものだ。