ヤンデレな艦娘たちの短編集   作:あーふぁ

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5.時雨『時雨には向いている職業 中編』

 年があけて正月が終わり、上官や提督たちが戻ってきたときに俺は言った。

 

「あなたたちと付き合うのは疲れました」

 

 そう言って、渡されていた資料や海域支援の情報引き継ぎを強引にしていった。

 その時に「今までの世話してやったのに」と言われたがその分の恩や感謝は返し終わっている。

 むしろ、こっちがもらいたいほどだ。

 嫌なことをやり、ストレスで胃が荒れたどころか将来的には髪までなくなりそうな勢いなんだから。

 派遣した時雨を返せ、と言われたが迷惑料としてもらうことにした。

 事後承諾になったが時雨は俺のところにいると言っくれた。

 今まで付き合ってきた軍人たちに言いたいことを言ってすっきりしたが、そこからが大変だった。

 提督になってから多くのことをひとりでやってきたが、それは指示があってこそだ。

 指示がないと何をすればいいか分からなかったが、秘書経験がある時雨が助けてくれた。

 時雨の薦めによって違う派閥への支援を求め、前に付き合っていた軍人たちの内情を暴露したことによって自由を得ることができた。

 今までいた艦娘の多くは俺を嫌っているため、秘書の子も含めて時雨以外の全員が他の提督のところへと去って行った。

 その時に色々と迷惑をかけながらも最初から付き合ってくれた摩耶には謝罪と感謝の言葉を言うと、険しい顔でこう言った。

「時雨には気をつけろよ」とそんなことを。

 俺には優しくしてくれて、仲もいい時雨がなにかするとは思えない。

 摩耶の言葉は頭の片隅さえも残らず、深くは考えなかった。

 

 俺と時雨だけの新しい提督生活が始まり、少したった2月。

 新たに入った派閥の人たちからは、勉強をしなおせ、と言われた。

 身も責任も軽くなった今なら、それもいいと思って俺は執務室にこもっては軍事や艦娘に関する勉強をしている。

 唯一の部下である時雨は自主的に訓練をする。

 それ以外は執務室のソファーで本を読んだり、俺と会話をして静かに過ごしていた。

 そんなある日の、時雨と一緒にお昼を食べたあとの午後2時。

 

「終わった……」

 

 ひととおりの勉強が終わった俺は、体を机に突っ伏して勉強が終わった解放感を味わっていた。

 近いうちに試験があるが、それが無事に終われば提督業の再開ができる。

 

「おつかれさま」

 

 ソファーに座りテーブルの上でトランプタワーを作っている時雨は、作る手を止めて俺に微笑みを向けてくれる。

 

「もう少ししたら、きちんと提督らしい仕事ができるよ。そうしたら、時雨には第一線で活躍してもらうからな」

 

 落ちこぼれ提督の艦娘という評価がついている時雨が、喜んでくれると思って言ったのに困ったような笑みを返してくる。

 何か言葉でも間違ったか? と考えるが、艦娘は戦ってこそ価値があると教わった。

 中には遠征や事務仕事を生きがいとし、それしかやらない子もいるらしいけれど。

 時雨はそのどちらにもあてはまらない。

 訓練も熱心にやってるし、俺のために頑張るよとも言っていた。

 だから考えられるとしたら、こう、仕事的な話じゃなくてお祝いに食事に行こうとそういうのを求められている可能性もある。

 ご褒美というやつだ。

 今まで若い子の機嫌なんて取る必要がなかったから、女性の扱いがまったくわからない。

 今すぐ機嫌がよくなる方法はなにかあるかと考える。

 優しい言葉をかけるとか頭を撫でるのは、親しい子なら喜ぶと聞いたことがある。

 でもそこまで親しいとは言えず、今まで1度たりとも時雨に対してやったことはない。

 突然にそんなことをやれば、嫌がられるはずだ。

 俺と時雨の関係は恋人ではないから。

 でもただの提督と艦娘という関係ではない気もする。

 言うなれば兄と妹。もしくは親友。

 そう考えると最適な答えが見つかった。

 座っていた椅子から立ち上がり、テーブルを挟んで時雨の向かいとなるソファーへと座る。

 

「勉強が終わった記念に食事に行くか? なんか希望があるなら言ってくれ。欲しいものがあるなら、そういうのでもいいぞ」

 

 この言葉を聞き、顎に指をあてながら天井を見て考えるふうな時雨。

 その様子を見て俺の考えが間違っていなかったことに安心する。

 

「少し考えさせてもらうよ。そうだ、コーヒーを持ってくるよ」

「そうだな、疲れたしちょうどいいか」

 

 時雨は席をニコニコと笑顔で席を立ち、部屋を出ていった。

 静かになった部屋で、俺はソファーにもたれかかって深いため息をつく。

 今までは女心なんて考える必要がなかった。

 でもこれからは部下の艦娘たちと会話する必要があるから、そっちも勉強する必要がある。

 こういうのに教本なんてなさそうだから、誰か大人の女性に助けてもらうか。

 考えることをやめ、ぼーっと天井を見上げていると時雨が帰ってきた。

 ソファーから体を起こすと、時雨は湯気が出ているマグカップを片手に持ちながら俺のすぐ隣へと座ってくる。

 体と体が密着する距離になり、俺は驚いて時雨から距離を取る。

 

「どうした、時雨」

 

 時雨が俺をさわったことなんて1度しかなく、何を思ってそうしたかがわからない。

 

「ダメじゃないか、提督。ようやくふたりっきりの時間が始まるっていうのに。勉強は終わったんでしょ?」

 

 マグカップを俺へと渡し、呆れたようにため息をつく。

 

「勉強は終わったが。それがどうして―――」

「だって21年ぶりの再開じゃないか」

 

 俺の言葉をさえぎって言ったそれは、不意に背筋が氷をあてられたかのような恐ろしい感覚が来る。

 それを抑えるようにマグカップに口をつけ、コーヒーを飲む。

 いつもより苦味や深みが少ないが、温かい味は思考を冷静にしてくれる。

 何度か飲んだあと、どう考えてもおかしいという結論にいく。

 時雨と会って3カ月しかまだ経ってないというのに。

 それにそんな昔なんて、俺はまだ7歳。小学校に入ったばかりの頃だ。

 艦娘は歳を取らないとは頭では理解していたが、実際にそう言われると猛烈な違和感を感じる。

 中学生ぐらいの外見なのに、21年前と言ったことに。

 笑顔なのに笑っていない。声もなにか冷たい。

 まるで俺が悪いかのように。

 

「……知らないな」

「本当に? 実は覚えているけど、艦娘が僕しかいなくなったから怒ってるのかい?」 

 

 なんだって?

 それは俺のところから時雨以外がいなくなったことと何か関係している?

 言葉の理解に頭が追いつかず、口を開けては言葉が出ない。

 

「そんな顔もかわいいね。まるで出会ったときのようだよ。あの時は砂浜に打ち上げられた僕に興味がいっぱいだったよね」

 

 時雨は小さな声をあげて笑い、俺は少しずつ何かを思い出し始める。

 

 ◇

 

 ―――あれは小学生の時だった。

 秋が深まった、ある晴れた日。

 理由は忘れたが親とケンカをし、家を飛び出して近くの砂浜へ行くと波打ち際に仰向けで人が倒れていた。

 子供ながらに、なにかあるんじゃないかって好奇心で近づいてくと、声がかけられた。

 

「やぁ、君も海を見に来たのかい?」

 

 俺に声をかけた人は、自分よりも少し年上な女の子だった。

 その人は穏やかな顔で俺を見ていて、周りには壊れた金属部品が散らばり、着ていた服はところどころ破けて血が出ていた。

 ゆるやかな波が打ち寄せるたびに、体から深い赤色の血が流れ出ていくのを見て焦る。

 急いで引き上げようとしても、小さな体じゃどうしようもできなくて。

 目の前で人が死ぬんだ、とわかって自然と涙が出てきた。

 初めて会った人なのに。

 

「僕のために泣いてくれるの……?」

「だって、お姉ちゃん死んじゃうんでしょ?」

「僕は生きていたほうがいいのかな」

 

 そんな悲しいことを言われて、必死にうなずいた記憶がある。

 当時の自分は、人と艦娘の違いはわからなかった。

 ラジオや新聞で艦娘は敵と戦うための"兵器"であると聞いたことはあったが、実際には見たことがなくて。

 痛みで顔をゆがめながらも体を起こした彼女は、泣きじゃくる俺の頭を優しく撫でてくれて心が落ち着いた。

 それから俺は彼女に連れられ、勝手に閉鎖されている海の家へと入った。

 血を流していた彼女だったが、次第に傷が治っていくのを見た。

 当時の俺からすれば、それは漫画やおとぎ話に出てくる魔法そのもの。

 どうすればこうなるのかと興奮しながら質問攻めをし、俺もこうなりたいと言っていた。

 お互いに雑談をし終わると、海が見える場所で肩を並べて座っていると雨が降ってくる。

 雨を見て、親が心配するから帰らなきゃと思いつつも彼女のことが心配。

 

「秋が深まった季節の、今みたいは雨は時雨って言うんだよ」

「シグレ?」

「そう。日本では降る時期や地域で、雨ひとつにもたくさんの名前がつくんだ」

「それってすごいね!」

「すごい?」

「だってさ、ただの雨なのにいくつもあるんでしょ? シグレって名前はかっこいいし」

「かっこいいかな」

「うん! 時雨って漢字で書くとどう書くの?」

「時間の時に、雨。それで時雨って呼ぶよ」

「すっげーかっこいいじゃん!」

 

 時雨という雨の話では悲しげな顔だったが、顔が赤くなっていた。

 俺が強く言ったときには照れたのか、または恥ずかしかったのか。

 そんな表情を見て幼いながらも、かわいいと思った。

 時雨以外に村雨、夕立、春雨、五月雨という雨の話を聞いた。

 日本でもこれだけ雨の種類が多いなら、外国はもっと多いんだねと言ったら困った笑顔を返された。

 

「普通の人は外国に行くのが難しいよ? あ、でも提督という職業になれば世界のいろんなところを見れると思う」

「てーとく?」

「提督は自分の夢が素敵になる職業だよ」

 

 晴々とした笑顔。

 今までの暗さを感じるものではないものを見て、初恋をした瞬間だったと今になってわかる。

 彼女は立ち上がると「もう帰るよ」と俺に言った。

 その後ろ姿、怪我をしても血を流しても頑張る姿に疑問を感じた。

 

「お姉ちゃんは何のためにがんばってるの?」

「うーん……世界平和、かな?」

 

 困った表情をしながらも、その言葉はしっかりとしていて、自信を感じられた。

 海で出会い、短い時間の会話。

 名前も知らない彼女と会ったのは、その1度だけ。

 それからの俺は勉強を頑張り、体も鍛え始めた。

 昔に淡い恋心と自分が提督を目指しはじめた理由をはっきりと思いだした。

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