たとえば、そんなもしも   作:神谷 莢那

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 なんやかんや言いつつも投稿しないまま気づけばデート・ア・ライブ新刊やバレットまで出てきて、狂三の過去まで公開されていろいろ困ったことに。本編とこっちと、修正しなきゃなぁという感じで。あ、バレットだけまだ読んでません。メモデフのアリス当てたくて三日間リセマラしてるんですがまだ当たりませんね……。そのせいで時間無いや。

 大まかなところは変えませんが、やはり変わるところは変わりますし、かと言って1話しか出してないのでリメイク作品にする程でもない、ということで次話として上げて前のやつは消します。一応最新刊読んでること前提かな。

 話すっごい変わるんだけど画集の方に反転四糸乃のっててテンションアゲアゲでした。四糸乃推しって訳でもないんだけどなぁ? 反転っていう厨二ワードについ反応してしまうのは仕方ないね。


狂三プライオリティ

 ある日、少年は家を出て公園を目指していた。この少年――引き取られた先の名で五河士道となった彼はついこの前に両親を亡くし、新たな家族とやらに引き取られたものの、理不尽で唐突な別れを受け入れられず、住み慣れない見慣れない街の中、唯一知る場所。彼が幾度となく一人で訪れた公園へと向かっていたのだ。

 

 彼の新しい家族はと言えば、その行動を止めるつもりは無かった。

 鬱蒼とした思いを抱え込み、閉じこもるよりも外へ出た方が良いのだろうと判断したからだ。少なくとも気持ちの整理がつくまではその少年の思うがままにさせておこう、という思いやり故である。まあ、だからといってまだ幼い子供を一人で行かせるのは少し放任が過ぎるとも思うが、この辺りは開発が進んだばかりの都市でそれほどの歴史もなく、治安もかなりいい。それが一因であるのかもしれない。

 

 

 そして少年が公園へと向かうことに意味はなかった。

 なぜか(・・・)、幼い士道は両親が死んでしまって自分が一人になってしまったということをすんなりと理解出来ていたからだ。現実を認めたくないと泣いて逃避するわけでは無く、異常なまでに落ち着いて、ただありのままに受け入れていた。実の妹がいた事や親戚などの事を忘れているあたり、何らかの記憶操作を受けているのだろうが今の士道には知るよしもない。

 かといって、それが絶望を抱えていない理由になる訳でも無い。

 表面上だけでも、その新たな家族とやらを心配させないようにと作り笑いを浮かべる少年は、その内心を知る者が現れたなら心配、どころではすまないほどの歪みを抱えた――それこそ自殺しかねないほどで、彼自身もそれを幾度となく考えたほどの――ものであるが、誰もそれに気づくことは無い。

 

 少年が公園へと向かうことに強いて何か理由をつけるなら、両親と共に遊んだ場所に良く似たソコで、思い出に浸りたかったというところなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてなんとなくやってきた、まだまだ新しい公園には一人の先客がいた。だいたい高校生くらいの少女で、黒く長くそして艶のある髪とそれと同色の衣服はところどころに赤の配色があれど、俯きがちな顔に浮かぶ暗い表情と相まってどこか喪服を思わせる雰囲気を醸し出していた。少女は士道からすれば、少女は年の離れたお姉ちゃん、という所だろう。そんな少女が一人、公園のブランコに座っていた。

 何をしているのだろうか、という少しばかりの好奇心を持ってその少女へと近づいてみれば、足音を聞いて士道の接近を察知したのか――それにしては大袈裟すぎるほどにびくり、としながらこちらを振り向いた。少女の左目は髪に隠され、もう一つ見える瞳は赤い色をしていた。

 

 少女からすれば少年の接近は、装備も未熟ながらに憎悪を糧として彼女に向かってくる魔術師達の接近と誤解しかねないものだったのだ。まあ、士道がそれを知ることは無い。しかし、子供の足音を聞き違えるほどに少女――精霊を生み出す原初の精霊に利用され、真実を知り、そして自らの手で世界を変えると決意を固めた時崎狂三――は疲弊し、神経がすり減っていたのだ。

 まあ、それも仕方のないことだろう。世界を殺す超常の力を得て、友を、人を殺した絶望を糧に、血反吐を吐き泥を啜ってでも世界を変える。そう誓った彼女だがしかし、それは途方もない道のりなのだ。もちろん、その程度の事で挫ける彼女ではないし、一度反転しかけた彼女の心はもう既に半ば壊れていたからこそ平気だというのもあった。それでも、気を貼り詰めれば流石に疲れるものではあるし、彼女はまだまだ十七歳で、大人びてはいても大人ではなかった。こんな生活を続けていくうちに彼女はそれにすら慣れてしまうのだろうが、しかし今はまだそうではない。

 少女が周囲への警戒や、次いで湧いてきた幼い少年が一人でいる事実に対して疑問を浮かべている間、一方の士道は言葉でも説明出来ない不思議な感覚に襲われていた。その少女と目を合わせたその瞬間、何が、なぜ、どうして。なんて理由なんて何も無い直感で、その少女と自分は「同じだ」と感じたのだ。

 

 精霊となり、精霊を生み出した始まりの精霊を殺すために「一人」立ち上がり、そして拠り所なく心が歪み、世界に「絶望」を抱きながらも世界を変える覚悟をした狂三と、引き取られたもの心は開けず「一人」ぼっちで、自殺すら考えるほどに全てを無くし「絶望」する士道。

 互いに経緯も何も違えども、しかし両者共に、絶望を抱えた一人ぼっちだったのだ。

 その時、伝えたいことがあった訳ではなかった。ただ自分と同じ思いを抱える人がいるのだという不思議な安堵にも似た感覚を得た士道は、思いつきの考えがつい口から零れてしまうようにその安堵の声が口から漏らした。

 

 「おねえちゃんも、ぼくといっしょでひとりなんだね」

 

 そしてその言葉を耳にしてはじめて、狂三は目の前の幼い少年の抱える絶望に気付いた。一目見た時から感じていた妙な違和感が、パズルのピースを当てはめるが如くハマっていく。私"が"一人なのではなく、私"も"一人と肯定した少年の言葉。幼い少年ならば付いていて然るべき親の姿が見えないこと。そして、どこか行き場の無い様な、はたから見れば子供らしい明るさを感じさせるその表情の裏にちらちらと見え隠れする本音。その本音に名を付けるならばそれは――絶望。

 それは奇しくも――いや、運命的にも狂三の抱える感情と等しいものであった。だからこそ、狂三はそれに共感し、そして彼女に一つの変化をもたらしえたのだろう。

 歳も幼い少年に、これほどまでの表情をさせる絶望が与えられたのだと理解すると同時に、狂三の心にある思いが芽生えた。彼女の決意は固く、目的が変わるはずはない。

 だけれども、少年を見捨ててはおけなかった。世界を変える為に犠牲を厭わない程に精神を壊してはおらず、ただ漠然と、自らの能力で世界を変えようとしていた狂三であったからこそ起こりえた奇跡。その思いは、少年を――せめて大きくなるまで。それまででもいいから、守りたい。支えたいと願う、純粋で優しい(プラス)の思い。自らの成すべきことを変える訳では無く、後には世界が変わることで消えてしまうことだからと見捨てるわけでもなく。言うなれば、純真な狂三であった故の気まぐれによって、狂三は変わるための第一歩を踏み出した。

 

 心を励まされた。そう自覚し、感謝の言葉を述べようと思いついた狂三だが、子供にするには少し難しい話かしら? と多少不安に思いつつも結局、狂三は少年に思いついたままの言葉をかける。

 

 「あなたも辛い思いをしましたのね…………」

 

 共感を得たからこその、あなた"も"の言葉。その言葉に対して返ってきた返答に、狂三は少しの驚きを得る。

 

 「おねえゃんがいるからもうだいじょうぶ!」

 

 なんの疑いもなく、他人が自らを助けてくれると信じられるのは子供ゆえの特権だろう。それはやがて裏切られることによって間違いだと気付かされるのだろうが、しかし彼はまだ幼い子供であった。

 その純粋に向けられる信頼は、狂三に芽生えたその思いを刺激し、より強いものへと変える。

 自分の感情が抑えられない、そう自覚した狂三は、苦笑混じりに言葉をこぼす。

 

 「もう……。放っておけなくなってしまったではありませんの」

 

 少年から向けられる信頼は、ほんの僅かな時間のほんの僅かな会話だけで修羅の道を歩まんとする狂三の心を癒した。

 そう、癒しだ。人は一人では生きていけない。もし一人きりで生きていけるのならば、それはもう完全に壊れて、破綻してしまっている。未来の狂三が士道の死を許容出来なかったように、どれだけ非道の道を歩むことになろうとも彼女はその人間性を捨てきれない。この頃の彼女ともなれば、その人間性はもっと強いものだった。

 それゆえ、何もかもを無くした狂三にとって、少年の癒しはまるで麻薬のように心に溶け込み、忘れられないものとなった。そして、麻薬らしく離れられないものにも変わる。

 そして、一層と強くなった気持ちより、狂三は決意する。何時までもとはいかない。しかし、可能な限り、自分に人の暖かさを思い出させてくれた少年のそばに居て、心の支えとなろう、と。それは、彼女が変わる決意の証。

 

 「さて、そろそろ帰りましょうか士道」

 「えー、もっといようよ狂三お姉ちゃん」

 

 年上の姉が弟の遊びに付き合ってあげるかのように二人でしばらく遊び、そろそろ日もくれてきた。少年と共に居ることで心が前向きなものになり、すっきりとした思考になった気がして「ありがとう」と礼を伝えておく。首を傾げられたが、感謝の気持ちくらいは伝わっただろう。

 ちなみに遊びに関してだが、自分が精霊であるが故にいろいろ力加減をする必要があった狂三はそれを覚えるまではかなり不安に色々こなしていたのだがおよそ三〇分でマスターした。

 ちなみに呼び方はお互いに自己紹介を軽く終えた後に、士道くんや五河くんと呼ぶのにはキャラ的に違和感があり、しっくりときた士道さんというのも子供相手には少しおかしいか、という変化を経て士道、と呼び捨てに決まった。士道の方は、狂三お姉ちゃんと最初から変わらなかったが。

 

 「私も用事があるのですわ」

 

 嘘……ではない。ぎりぎり。しばらくここにいるなら必要になる資金を集めるべくバイトでも探してみようか、という発想があるのだ。目的を曲げるつもりも捨てるつもりもなくとも、士道の信頼と安らぎという麻薬にも似たそれから狂三は離れられない。それを自覚することなく、目的へ向かうのが数年遅れるだけなのだと狂三は自らに言い聞かせる。

 バイトをするに当たって、出来れば可愛い服か可愛いもののある店が良い。本人は認めようとはしないが、可愛い物好きであるというのは彼女の学友達には周知の事実だった。それと、変装のために化粧でも覚えてみようか。観測機器が街中に無いとはいえ、ASTには顔を覚えられているだろうから見た目で見つかることを避けるためだ。と言っても、本格的な変装などするつもりも無く、ただただ士道が見たらどう思ってくれるだろうか、なんて考えが九割以上を占めていたのだが。

 

 「まあ明日も来ますからまた明日、会いましょう」

 「うん、約束だよ!」

 

 士道のお願いでゆびきりげんまんをして、士道の姿が見えなくなるまで手を振って見送った。

 

 

 

 それからというもの、士道と狂三は不定期に――一週間に一度の時もあれば、三日も続けての時もありながら――遊びつつ、およそ三ヶ月の月日を過ごした。

 士道と遊ばなかった日にはバイトをしたり、化粧を覚えたり服を選んでみたり。何をするにしても、士道のために、であったり士道ならどう思うだろうか、なんて考えだったことは狂三にとって誰にも話せない秘密だろう。それは恋というよりも、唯一の拠り所として依存と言える状態にあったからなのだが、その辺りは士道もお互い様であった。自覚がないのもお互い様だ。

 また彼と遊んだ日には――と言っても士道はまだまだ子供である以上その遊びは狂三からすれば幼稚なものでもあったのだが――しかし心の底から楽しめたし、心が安らいだ。

 

 そんなある日のこと。狂三は士道を連れて近くの商店街を訪れていた。お金に余裕が出てきたためなにか買ってあげようかな、という目的である。精霊ならではの力の強さ等をいかし、周囲からはかなり可笑しく見えたのだろうがそれを気にせずバイトを掛け持ちし、小さい一部屋だけの家を用意し、さらには服や化粧品も揃え生活の基盤が出来上がったのだ。精霊故に食事は娯楽程度でしかないし、風呂に入らずとも霊力が自浄作用として体を綺麗にするため、そういった出費が必要なかったというのも家を早くに用意できた大きい要因だろう。

 それなりに繁盛しているのであろうたこ焼き屋を見つけ、士道がその匂いに惹かれた様子を見てとりあえず八つ買う。子供ながらに士道はこちらを気遣ってくるので、それを抑えるべく半分こにしていつもの公園に並んで座る。

 

 「狂三お姉ちゃん、おいしいね!」

 「ええ、そうですわねぇ」

 

 それは確かに、幸せな時であったのかもしれない。

 しかし、狂三は失念していたのだろう。

 自分はもう、人ではないということを。そして、大きな力は災いを呼び寄せる。よく言われるような、その事実を。

 特殊指定災害生命体、精霊。その存在は本人が望まぬとも破壊をもたらすのだと言う事を。

 

 

 

 狂三がそれに気づけたのは、おいしそうに食べる士道へと注意を向け、自らは食べ物に集中していなかったからに他ならない。

 

 公園のベンチに座って左に真っ直ぐ行った先の建物。距離にして数十メートル先のソコから、横一直線の漆黒の線が飛んできたのだ。

 

 それを一目見て強大な霊力と察した狂三は、士道を守るべく自らの象徴たる霊装を身に纏い、前に出る。しかしこれをまともに受けるのはマズイですわね、と攻撃の威力を再確認。だが、士道が自らの後ろにいる以上下手に避けるわけにも行かない。

 一瞬のうちに判断を下した狂三は、素早くターンして不思議そうにこちらを見つめる士道を抱くように地面に伏せる。

 斬撃が通り抜けたのを確認した後、士道を守るようにまた前に出る。そして

 

 「〈刻々帝(ザフキエル)〉!」

 

 精霊の力の証、天使を顕現する。

 

 「貴様、なぜ殺さない」

 

 目の前にやって来たのは、漆黒で鎧状の霊装をその身に纏った精霊。その手には片刃で闇色の巨大な大剣を持っている。

 気づけば辺りに人はおらず、自身と共にいるせいで人払いの力を通り抜けてしまった事を自覚すると、狂三は士道を巻き込んだことに心を痛める。が、そんなことを長々としている場合ではない。

 

 「なんのことなんですの?」

 「ふん、気づいていないつもりか。そこの人間だ。ソレもじき、大人になれば私達を忌み嫌い殺しに来る。なら、今のうちにその芽を摘んでおくのも悪くはなかろう」

 「……っ! させませんわ!」

 

 おそらく、この精霊は暴走している。原始の精霊の言う、精製の途中なのだろう。随分と人に似て、会話すら可能だがしかし、殺すことに躊躇がない。

 

 士道を殺させるわけには行かない。そのためにも――

 

 「行きますわ」

 

 狂三は戦いに身を投じた。

 

 しかしそれから始まった戦いは一方的なもので、とても戦いと言えないものだった。霊装に守られた狂三を一撃で砕きかねないほどの力を振るう謎の精霊に対し、士道を守らなければならない狂三は能力の使用を余儀なくさせられ続けたのだ。それも、惜しみなく「時」を使わねばならないほどの密度の攻撃で。

 ここでどうにかして士道を逃すことが出来れば、また戦局は変わったかもしれない。だが時間を止めようとすればその弾を勘で察知され、さらにはあちらの攻撃は全て狂三ではなく士道に向けられていて、隙を見て逃がすこともできない。正しく、八方塞がりだったのだ。

 

 そして、終わりは唐突に訪れる。

 

 「っ……あっ……」

 

 どさり、と音を立てて倒れ込む狂三。霊装は光の粒子を空気中に散らしてゆく。

 限界を迎えたのは彼女のスタミナではなく、彼女のストックする「時」だ。歪まなかった故に、人から時間を奪い取ることをしなかった狂三には本来自分の持っていた時間しか持ち合わせていなかった。その状態で惜しみなく能力を使い続ければじきに枯渇するのは当然であった。

 

 「ふん、もう終わりか。ついでだ。貴様ごと屠ってやろう」

 

 そう言って、剣を構える。

 狂三の身体を諦観が満たす。もうここで終わりなのだと。体から力が抜け、地面に仰向けに倒れ込む。だけど、士道は違った。

 ふいに立ち上がり、狂三の前に出る。無駄な抵抗であっても、抗うことを止めない。それが五河士道という主人公だろう。迷い、立ち止まることはあれどしかし前を向くことを止めない。他人を救うためにどこまでも本気になり、命を賭けられる。それが五河士道という存在。

 圧倒的な攻撃力の前において、その行為は紙1枚を目の前に挟むことと大差ない。しかし、その精霊は――

 

 「…………ふん」

 

 つまらなそうな顔をして、ふいに隣界へと消え去った。

 

 「士道……大丈夫でしたのね」

 

 しかし、「時」を使い果たした狂三は、あの精霊がいなくなろうと結果が変わらない。それが早いか遅いかだけの違いだ。いや、そのはずだった。

 

 「狂三お姉ちゃん……」

 

 悲しそうにただ狂三を見つめる士道。

 

 士道を一人にしてしまう自分に、不甲斐なさを感じ、しかし最後の別れならば笑顔で居よう。そう思った。不思議と、原始の精霊を殺すことは頭には浮かんでこなかった。

 ――ああ、そうだ。最後に、これくらいは良いだろうか。

 

 ゆっくりと体を起こす。それを支えようとする士道を抱き寄せ

 ――最後の別れのそのつもりで、士道にキスをした。

 

 

 瞬間、二人の間に目には見えない繋がりが生じる。それは士道の狂三の間に霊力を繋ぐ経路(パス)だ。狂三は体から霊力(ちから)が吸われるような感覚と共に、自分の内へ暖かな「時」が流れ込んで来るのを感じた。それは、消滅を覚悟していた狂三にとっては思いも寄らない奇跡。思わず涙が溢れ出る。

 そんな奇跡には訳がある。本来〈刻々帝(ザフキエル)〉という天使は持ち主の時を使用してその能力を発動する。しかし士道にその力が流れ込んだことにより、同じ能力の持ち手が二人となったのだ。本来は狂三の左目に蓄えられる「時」なのだが、それでは士道が能力を使えない。そんな欠点を埋めるべく〈刻々帝(ザフキエル)〉は天使自身に「時」を蓄えるものへと形を変えたのだ。それにより士道の「時」と狂三の「時」が合わさり、狂三は士道の「時」のお陰で助かった。そういう事だ。

 それにより、二人の「時」は共有された。寿命が等しくなったと言い換えることも出来る。

 

 霊装が解け元の私服姿となった狂三は、戦闘後ということもあって全身から力が抜け、さらにはこれからも士道と共にいられるという安堵も重なり、士道を抱き寄せたままにその場で眠った。気を失ったとも言う。

 

 そして、抱きしめられた士道はと言えば

 

 「よいしょ」

 

 無意識のうちに霊力を体に回し、狂三を抱き抱えて彼女の家へと向かった。この時唐突に現れた二つの強大な霊力によって住民は避難させられていたため、幸いにもその奇妙を目撃した者はいなかった。

 

 

 

 「ん…………う……」

 「おはよう、狂三お姉ちゃん」

 

 目を覚ますと、士道がすぐ側にいた。ぼんやりと周囲を見渡し、自らの部屋で布団に寝かされていることを理解する。

 段々と目覚めてくると同時、現実を直視する。

 視界のうちで、心配そうにこちらを見つめる士道のその体に、自らの霊力が流れ込んでいる。その瞳が金に染まり、時計の長針と短針が回っているのがいい証拠だろう。

 さらには、自らの体の内にある時もまた問題だ。直感だが、おそらく確実にこれは、士道のものだと理解出来た。

 

 士道を人に追われる精霊へと変えてしまった挙句、時を奪ってしまった事実に凹みかけた狂三に対して、士道は突拍子もない行動に出た。士道としては、狂三にされて心が暖かくなったから、というお返しのつもりだったのだが――キスをしたのだ。

 

 「――――っっ!? っ!?」

 

 不意にキスをされて、狂三が驚愕に目を見開き、体を硬直させて驚く。恥ずかしさや触れ合って感じる柔らかさに意識が奪われる。

 そして狂三は、もう一度驚愕する。

 驚くあまり閉じられなかった瞳が捉えたのは、士道の瞳に映る時計が逆回り――時を補充するように回転していること。それと同時に、狂三の内側でもまた時が増えていることが分かる。どこからとも無く、増えているのだ。

 

 たっぷりと十秒以上口付けた後、二人はその体を離す。

 そして狂三は、士道に語るべきかと少し躊躇したのち、巻き込んでしまったのだからとそれを語ることに決めた。

 

 

 狂三が伝えようとしたのは、精霊の事、そして彼女の過去と目的のこと。消えそうになった瞬間には不思議と思い浮かばなかったことだがしかし、諦められるものでは無いのだ。そして、巻き込んでおいて図々しいと理解しながらも、士道と共にそれを叶えたいとも。

 

 語ると言っても、幼い士道に簡単に理解出来ることでもない。なので、【十の弾(ユッド)】で記憶ごと伝える。こうすれば、全てが読み込まれるように伝わるのだ。

 そして、精霊のことも、彼女の過去をも知った士道は果たして――

 

 

 「俺も狂三お姉ちゃんのこと、手伝うよ」

 

 そう、答えた。

 まあ、お互いに依存していた彼らなので、収まるべきところに収まったというべきか。

 そうして、人間性を捨てきれず、精霊を犠牲にすることを厭えなくなった彼らは、それでも過去を変えるため、一歩を踏み出す。




 ここで出てきた十香の反転体(のような誰か)。修正前だと反転して出てきていた十香がしばらくしてから今の姿で出てくるようになったって設定を付けた訳ですが、最新刊を見た後なら精製が未だ続いていたってことにぴったりなのでそういうことにしてみたり。

 士道の瞳が金になってた描写がありますが、あれは士道が力を使っていたからです。原作士道のように状況に合わせた力を求めるのではなく大ざっぱに力が欲しいと思った結果であり、力の使用を止めたら戻りますので眼帯で生活はありません。

 時間が増えてたことに関しては今後の戦闘とかをスムーズにするために処置なんだけど一応こじつけ設定。
 まず、〈時喰みの城〉のときの食べる発言やら士道をわざわざ取り押さえようとしたことから食べる(=経口摂取的な)と時やら霊力を多く得られる(本来よりもボーナス得られる的な)と決めつけ、同じ能力が二人なのでキスによって時間増やして奪って増やして奪ってでループさせて無限増殖的な。ただし分身のストックはしませんが、まあ時は無限にあるということにしました。さくさく進行のためであり、二人で戦うシーンが見たかった(ただし上手くはない)からです。期待はしないでね。
 でもこれ、寿命補給してるから実質不老じゃ……
 原作で封印したらどうなるのかは知らないけどこの二次創作では時=寿命でなおかつ寿命共有という形になったので士道は狂三と同じ歳まで育ってからは成長が止まります。ま、今後出てこない設定だろうけどねー。

 修正前より依存度上げてより深い関係にしてみましたがまあ、狂三の決意が硬そうだったから仕方ない。時系列のズレあるだろうけど気にしないでね!

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