【完結】Fate/Epic of Gilgamesh   作:kaizer

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プロローグ

 ──現代から遡ること、四千年以上前の話。

 

 人類はこの時、黎明期を迎えていた。

 地球を支配していた神々。地上を跋扈していた魔獣。宇宙を運営していた法則。それまで星を形作っていたものは、次々と姿を消し、生まれ変わっていった。

 それらに代わって地上を統べたのは、人間たちだった。文明が生まれ、進み、新たな法則が星を支配していく。

 

 ……そう。それはまさに、時代の変わり目。神から人へと支配者が変わる、躍動の季節だった。

 

 そんな時代。

 世界が生まれ変わるその時代に、その王は誕生した。

 生まれながらの王にして、半神半人の魔人。

 これまでの支配者であった神。これからの支配者である人。そのどちらでもない新たな存在として、その王は君臨した。

 

 彼ははじめ、神を敬い人を愛した。

 彼はやがて、神を廃し人を憎んだ。

 

 究極の中立者として生まれた彼は、絶対の裁定者として生きる道を選んだ。

 自らを唯一の王として。自らの基準だけを法として、彼は全てを処断した。

 人も神も、敵も味方も、強きも弱きも例外なく。天地の全てを平等に、彼は無慈悲に裁き続けた。

 

 あらゆる財宝をその蔵に収めた。あらゆる人間をその下で治めた。あらゆる大悪をその手で誅した。

 

 彼は、人の欲望を肯定した。

 それこそを諌めよと、神に命じられたにも関わらず。彼は、人の未来を見定めると決めた。

 太古から脈々と、神々と獣たちに育まれてきた自然。その自然を暴いていく人間の醜さを、彼は笑って是認した。

 後に残されたのは、荒れ果てた大地。人類の欲望が織り成す、破壊と惨劇の数々。

 こんなはずではなかったと、嘆く女がいた。もっと先へ進めと、雄叫びを上げる男がいた。

 その全てを、彼は玉座から見つめていた。人間たちが何かを育み、壊していく様を、彼は冷厳に見据えていた。

 

 ある者は暴君と、彼を恐れた。

 ある者は賢君と、彼を畏れた。

 人と神と、その双方の視点を持つ王。彼の思考は、他の誰にも理解できなかった。

 

 ただの一度の敗北もなく。

 ただの一度も理解されない。

 彼の王はただ独り、熾天の玉座に君臨した。

 

 並び立つ者など不要。先を行く者など皆無。ただの一人として、彼に比肩する者など存在しない。

 人も神も星すらも。誰一人として、彼から目を離せなかった。

 不可能などない。掴めぬ物などない。全てを知り、全てを(あた)う超越者。

 唯一にして絶対。完全にして無欠。誰もが一度は夢見た理想、完璧な王こそ彼だった。

 

 人類最古の英雄がいた。

 古代ウルクに君臨した魔人がいた。

 人を裁き、神を廃し、この世の全てを統べた王がいた。

 

 彼の者の名こそ──『英雄王』ギルガメッシュ。

 

 

 ──そう。この物語(はなし)は……歴史に語られぬ、もう一つのギルガメシュ叙事詩。

 

 


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