高校二年の春。
俺は、一年の気持ちを思い出そうと自転車ではなく、バスで学校まで向かう。一番後ろの長い席の端に座り、本を読んでいた。
「お兄さんちょっとすみません」
と嗄れた老人の声が横からした。そちらに顔を向けると、白を基調にして、所々に赤いラインの入った杖を持った、60もありそうなおじいさんがこちらを見て、「お兄さんちょっとすみません」と言ってきていた。
俺「あ、はい、何でしょう」
おじいさん「あんた、ユキネくんやね?」
(ユキネとは俺の名前)
俺「はい、何で俺の名前を...」
おじいさん「んー、もう少しで、『開く』ね」
俺はその言葉の意味がさっぱりわからなかった。おじいさんはそれを言い終わると、【次、止まります】と書いてあるボタンを押す。車内にピンポーンと言う音が響き渡り「次、止まります」とのアナウンスと同時に車内全てのボタンが赤く光った。
次のバス停までおじいさんに話しかけたが、聞こえていないのか、聞いていないのか、返事がなかった。
そのままおじいさんは、バスの停車と同時に椅子から腰を上げ、バスを出て行く。その後ろ姿を見ていると、普通のおじいさんだった。
その後、学校に着き、休み時間に親友のタクミにバスの中での出来事を話した。
タクミは、怪訝な顔で
タクミ「そのおじさんおかしすぎるだろ」
俺「?」
タクミ「まず、おじさんが持っていた杖は、視覚障害者の方が持っている白杖って杖だ。って事は、そのおじさんは、目が見えていない。なのにお前の事を『お兄さん』って。何で男ってわかってんだよ。それに名前も知られてる。」
俺は、タクミの話を聞いたとたん、背筋が凍った。
話を終えて放課後。
俺はテニス部に入っている。先輩にバスの中での出来事を話してみたら、先輩が「おー!お前それ『白眼の老人』じゃん!」と興奮気味で言ってきた。
俺「白眼の老人ですか?何ですかそれ」
先輩「お前知らないのか、その老人に『開く』って言われたやつは、霊力が宿る。
『閉まる』って言われたやつは霊力が消える。」
俺「じゃあ、俺は霊力が宿ったんですか?何も見えないんですけど」
先輩「それは知らんが、そういう噂があった。」
すると先輩は、少し真剣な顔で、話を続ける。
「『開く』と『閉まる』以外に『無くなる』ってのがある。その無くなるを言われたやつは、視力を失う。でも、とてつもないほどの霊力が宿るって言われてる。『目なんかなくたって、何不自由ない生活ができるレベルだそうだ』」
俺は、その話を半信半疑で聞いていたが、興味はあった。
部活が終わり、下校時。
帰りもバスで帰る。午後7時にバスに乗り込む。乗客は、俺と運転手の2人だけだった。俺は一番後ろの席に座る。
バスに揺られ、家の方面へ向かうバス。
十字路に入ったとたん、強い衝撃が、俺を襲う。
目が覚めたら、病院のベットの上だった。ぼやけて見える視界には、子供が数人、俺を囲んで上から覗き込んでくる。そいつらは何か喋っている。耳をすまして聞いてみると。
「起きた」「起きたね」「もう、いいね」
「帰ろっか」「うん、帰ろう」
とか言ってた。すると子供達が、視界から消えた。その瞬間、意識が覚醒した。体に走る激痛。右足、右手が、動かない。見てみるとギプスで固められていた。
ガラガラっと、ドアの開く音と同時に、医者が入ってきた。
医者「おはようございます。話は出来そうですか?」
俺は、「はい」と言おうとしたが、声が出ず、ただ頷いた。
医者「では、話します。」
医者はこう言った。
あなたは、バスに乗っていて、十字路に入ったとたん、信号無視のトラックに追突され、事故を起こし、この病院に運ばれてきました。右腕、右足、あばらが3本折れて、2日間寝たきりでした。
俺はなぜか、冷静で(あー、授業追いつけるかなぁ)と、勉学の心配をしていた。
そこから、3ヶ月間劇的な回復と病院でのリハビリをしながら、4ヶ月目で退院した。
後日、学校に行くと授業はさっぱりわからなかった。
その日から、みんなに追いつくため部活は休部させてもらい、猛勉強。
そんな猛勉強している中、時々話し声が聞こえる。複数人で喋っている声が。
耳を澄まし聞いてみる。
「大丈夫そうだね」「うん、大丈夫そう」
「もう、いいね」「帰ろっか」「うん、帰ろう」
『頑張ってね』
最後にそんな言葉がはっきり脳に入ってきた。その言葉が、どういう意味での頑張ってねなのかは、さっぱりわからなかったが、あの事故から、俺は俗に言う『見える人』になってしまった。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。
これは僕にとって処女作ですので、至らぬ点や、間違っている場所、直すべき点などがあったら、教えていただければとても嬉しいです。
次回のお楽しみにm(_ _)m