IS 女神と少年の物語【作者の受験により投稿停止中】   作:シアン

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シアン「やっと執筆ができる……」

夕音「また遅かったな」

シアン「ごめん、ほんとに勉強とかで死にそうだったんだわ」

夕音「素直すぎてやりにくいな……まあ、いい。はじめるぞ」

シアン「遅くなりましたけど、お楽しみ下さい!」


男が守った、そして守るもの

 さて、アリーナでの騒動から一日が経った。つまるところ、あの日から3日経ったということだ。

 

『シャルル、いいか?』

 

『あ、夕音? うん、大丈夫』

 

『よし、今日の放課後……そうだな……俺の部屋に来てくれ。そこなら邪魔も入らないだろうからな』

 

『う、うん。わかったよ』

 

『それじゃ、放課後に』

 

 授業中でもあるので手早く伝えるべきことだけを伝えて、コアネットワークを切る。窓の外をぼーっと眺めて、今日のために作り上げたもののことを考える。おそらく、これでどうにかなるはずだ。ならなかったら、まあ、面倒だが色々とやるしかない。

 と、その思考を硬い板のようなものが遮る。そう、物理的に。

 スパンッ!

「ぐぁ……」

 

「授業中によそ見をするな、馬鹿者」

 

 毎度お馴染み出席簿アタックだ。相変わらず、痛い。なんでそんな直ぐに手が出るんですかね、織斑先生。どこぞの戦闘民族でももう少し口が出るぞ。もう少しお淑やかになってもいいんじゃないか? ……いや、それはそれで気持ち悪い……

 スパンッ!

 

「……暴力反対」

 

「ほう、これをくらってそう言ったのはお前が初めてだな。もう1発くれてやろう」

 

 3度の衝撃。普通に痛い攻撃を連発。さすがにダメージが大きい。

 叩かれた部分を右手で押さえつつ、授業に集中することにする。これ以上は勘弁したい。

 こっそりため息をつきつつ、黒板をぼーっと見る。よそ見はしてない、黒板はちゃんと見てる。見てるだけだが。

 黒板では既に知っているISの説明がなされていた。……知っているだろうか? 既に知っていることを説明されてもつまらないだけだと。つまるところ、睡魔が襲ってくるのだ。ここのところの疲れが祟ったか、どうにも抗えそうにない。が、絶対に寝てはいけない。鬼の教官が武器を持って攻撃してくるのは目に見えている。

 

(な、なんとか……眠気を覚ます方法は……)

 

 シャーペンで手を刺すのは意味が無い。本当に眠いときは痛みなど役にたたないのだ。後で痛くなるだけである。一番有効なのはやはりミン○ィアか。万国共通である。いや、世界中にあるのかは知らん。しかし、鬼の教官の目をかいくぐってミ○ティアを食べるのは、それはそれで至難の業である。しかし、やるしかない。俺には秘密兵器があるのだ。

 まず、ミン○ィアをバススロットに入れる。後は簡単だ。口の中にそのミンティ○を射出するだけ。

 口の中にミントの爽快感が広がり、なんとか睡魔を撃退する。何? 激しく技術の無駄遣い? 仕方ないだろう、眠いものは眠い。これしか方法がなかったのだ。

 朝の一時限目の出来事だった。今日も長い一日が始まる。

 

 

 

**********************

 

 

 

 そして放課後である。授業なども普段通りで、特に何事もなく終わった。……何度か出席簿アタックが炸裂したが、何事もなかったのだ。そうに違いない。

「よし、今日も特訓だな」

 そう言って一夏が立ち上がる。ひとまずは一夏たちを巻かないとな。

 

『シャルル、話を合わせてくれ。一旦巻くぞ』

 

『うん、わかった』

 

「あー、すまない。実は織斑先生に呼ばれててな、一旦そっちに向かうから先に向かっててくれ。後で合流するよ」

 

「僕も山田先生に呼ばれてるから、後で合流するね」

 

 とりあえず、適当な理由を並べておけばなんとかなるだろう。実際は呼ばれてもいない。

 

「ん? そうなのか? わかった、先に行ってるぜ」

 

 一夏は何の疑いもせず、他のメンバーに声をかけに行く。さすが超唐変木、こう言うとき無駄な詮索をしないから助かる。

 

「よし、行くか」

 

「うん」

 

 そのまま部屋に直行、といきたいがそうも行かない。アリーナの方向と部屋の方向は同じ。そして、職員室の方向は逆。つまり、部屋に直行するのは不可能なのだ。なので……

 

「夕音、さすがにここを通るのは……」

 

「しかたないだろ、これ以外道がないんだよ」

 

 一旦、校舎をまわるようにして部屋の近くまで来た。しかし、最大の難所はここだ。放課後とあって、人通りの多い寮の廊下。しかし、誰かに見られるのは面倒だ。後でバレる原因にもなりかねない。

 

「よし、光学迷彩を使う。シャルルはしっかり付いてきてくれ」

 

「えっ、そんなものまであるんだ……りょ、了解」

 

 『羅雪』を部分展開し、光学迷彩を起動する。ついでに音も遮断しておこうか。そのまま慎重に部屋の前まで進む。誰かにぶつかりでもしたら、さすがにバレる。覗きか何かと勘違いされるのは目に見えている。

 

(よし、後は……)

 

 ドアが独りでに開くなど、ホラー映画にありがちな事が起きればパニックになる。なので、光学置換装置を使って、開いてない状態のドアが周りからは見えるようにする。これだけすれば、まず気づける者は居ない。後は単純にドアを開けて中へ入り、鍵を閉めればよし。

 

「よし、なんとか乗り切ったな」

 

「激しく問題がある気がするけど……」

 

「気にしたら負けだ」

 

 シャルルの言葉を軽く受け流す。さて、ここからがメインだ。隠密行動は序の口だ。

 

「シャルル、連絡用の端末はあるよな?」

 

「うん、あるけど……よくわかったね」

 

「まあ、さすがに何も持たせてないことは無いだろうって思っただけさ」

 

 シャルルがバススロットから取り出した電話を受け取る。今どきガラケーか……よく生き残ってたな……。

 

「よし、それじゃ借りるぞ」

 

「う、うん……」

 

 緊張からか、シャルルの声は僅かに震えていた。よく見れば、手も震えているようだ。

 

「安心しろって。俺がなんとかする、守るって約束しただろ」

 

 そう言って、俺はシャルルもといシャルロットの頭をくしゃくしゃと撫でる。若干俯いていた顔を上げて、見上げてくる。朱のさした頬と上目遣いで見上げてくるシャルロットにドキリとしたが、首を振って煩悩を振り払う。

 

「夕音……」

 

「ああ、だから大船に乗ったつもりで待ってろ」

 

 そう言って、俺は携帯の電話帳を開く。一件だけ登録されていたそれが、恐らく秘密の通信のためのものだろう。シャルロットにも聞こえるように、電話の音をISで拡張する。部屋は完全防音なので他の部屋に聞こえる心配は無い。通話ボタンを押して、耳に当てる。何度か呼び出し音がなり、誰かが電話に出る。恐らく、シャルロットの父でありデュノア社の代表取締役のセドリック•デュノアだろう。

 

『私だ』

 

 電話口の向こうからそんな声が聞こえた。これまたテンプレな台詞だな。

 

「お初お目にかかります、セドリック•デュノア代表取締役」

 

『……誰だ?』

 

「貴方もご存じでしょう? IS学園の男性操縦者、その片割れです』

 

『……なるほど、千代紙夕音か。何の用だ?』

 

「分かっているでしょう、デュノア代表取締役。ご息女のことです」

 

『……なるほど、理解した。それで、なにが目的だ? それを脅し文句に何を要求する?』

 

「脅しとは人聞きの悪いことを。私は取引を持ち掛けようとしているだけです」

 

『……妙に畏まっているのはそのせいか。気味が悪い』

 

「じゃあ、普段通りで行かせて貰おうか。それで、取引に応じる気はあるか?」

 

『内容を聞かせて貰おう』

 

「いいだろう。まずはこれを見ろ。メールで送った」

 

『なっ……これは……!?』

 

「送ったのは一部だが、ISの製造に関わる者なら分かるだろう。それは設計図だ。第三世代ISのな」

 

『……なるほど、確かにこれは設計図のようだな。だが、でがわからない。どこかの会社が作ったものなら、私は罠に嵌められるが?』

 

「そこは気にすることはない。それほ世界に一つしか無い設計図だ」

 

『なぜ言い切れる?』

 

「決まっている。それの製作者は俺だ。それの存在は俺以外、世界の誰も存在を知らない」

 

『……篠々之博士の護衛のお前が作った、か……さぞ対価が大きいと見える。取引に応じない、という道を選ばせて貰おう』

 

「それは無理だろう? デュノア社の経営は厳しく、このままでは他企業の傘下に入るか、倒産するか。どちらかだ」

 

『その会社を脅しても何も出てこないのは、そちらこそ分かっているだろう?』

 

「俺はまだ対価を言ってない。なに、別に金を取ろうとかそんな事は考えてないさ。ただ、今からとある話をする。それについて肯定か否定を言うのが、まず第一の条件だ」

 

『……話してみろ』

 

「よし、始めるぞ。──ある所に、大企業を預かる立場の男が居た。その男には妻が居たのだが、男は愛人を作り子供をその愛人との間に授かってしまった」

 

『……………』

 

「男はその子供を産ませた。しかし、愛人との間の子供だ。大企業のトップと言う立場では、バレるわけにも行かない。男は愛人と子供を田舎に引っ越させて、そこから何も関与しなかった。さて、その男こそはセドリック•デュノア、デュノア社の社長だ」

 

『そのとおりだ』

 

 シャルロットが目を伏せる。愛機の待機状態であるペンダントを両手で握りしめている。それを横目に見つつ、話を続ける。

 

「だが、これは一般から見たものだ。あんたは今、そのとおりだと言ったな。──嘘だろう?」

 

『なぜだ?』

 

「簡単な話だ。今話したものはあんたがそれらしく作った、シナリオだ。真実じゃない」

 

 シャルロットが顔を上げて、こちらを訝しむように見上げる。

 

『どういうことだ?』

 

「ここからが、あんたが答えるべきことだ。──さて、男はバレるわけにはいかないので田舎に引っ越させた。だが、それは民衆にだ。正妻にではない。正妻は愛人のことを知っていたし、その存在を許していた。なぜなら、それが夫の不器用な愛だと知っていたから」

 

『…………』

 

「正妻は子供を産めない人間だった。だが、子供が欲しいと思っていた。だからこそ、あんたは愛人を作り子供を作った。正妻はその愛人と子供と共に住みたいと考えていたんだろう。だが、愛人は静かに暮らすことを望んだ。だから、あんたらは静観を貫いた。そして、愛人が死んでからもそうするつもりだったんだろう。

 けど、問題が発生した。あんたと対立する派閥が子供の存在を察知したんだ。だから、あんたは子供を守るべく、やむなく引き取った。正妻共々、冷たく接したのは情を抱いてないと思わせて、無理矢理IS学園に入学させれば、万が一女だとバレても被害者として保護されると踏んだからだろう?」

 

『…………』

 

「答えろ、セドリック•デュノア。あんたは、本当は娘であるシャルロット•デュノアを愛しているんだろう?」

 

『……なぜ分かった?』

 

「ここまで条件が揃っていれば簡単に推測できる。いくら経営危機といっても、データを盗ませるのはリスクが大きすぎるからな」

 

『なるほどな。世界最強は伊達ではないか……全て看破されているとはな』

 

「さて、これで第一の条件は達成だな。それじゃあ、第二の条件といこうか」

 

 そう言って、端末を呆然としているシャルロットに投げ渡す。

 

「ふぇ……? あっ、ちょっ……!」

 

 慌ててそれを両手で受け止めるシャルロットを見つつ、電話口の向こう側にも聞こえるように言う。

 

「シャルロットに本当の気持ちを伝えろ。それが第二の条件だ」

 

『っ──』

 

「お父……さん……?」

 

『……シャルロット……』

 

 親子の会話だ、さすがに聞くのは忍びない。俺は少し離れると、近くの椅子に座った。

 そして、どれほどの時間が経っただろうか。途中から涙を流しながら話すシャルロットを見るのは失礼なので後ろを向いていたのだが、肩を軽く叩かれる。

 

「夕音、変わって……」

 

 まだ涙が止まっていないのか、声がが震えている彼女の手から端末を受け取ると、見ないようにしつつ頭を逆の手で優しく撫でつつ、電話にでる。

 

「さて、これで第二の条件もクリアだ。そして、次が最後の条件だ」

 

『なんだ?』

 

「約束しろ。必ずシャルロットを守ると。IS学園から出た後、必ずシャルロットを守れ」

 

『当たり前だ。必ず、守ってみせる』

 

 強い意志を感じさせる声でそう言った。その声が聞ければ充分だった。

 

「よし、取引は成立だ。設計図はあんたのPCに送ろう。追跡なんて馬鹿な真似はするなよ? PC自体が壊れるぞ」

 

『分かっているさ』

 

「よし、それじゃあ切るぞ。早いとこ完成させろ」

 

『待て、最後に一つ聞かせて欲しい』

 

「ん?」

 

『IS学園に居る間、お前が娘を守ってくれるのか?』

 

 その言葉に俺は不敵に笑いながら応える。

 

「当たり前だ。卒業してからも、な」

 

 




どんどん書くぞ……

もう一つの作品と交互に更新する予定ですが、場合によってはこちらを優先するかもです

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