この話も折り返し地点に来ました。
「…」
私が目を開けると少し広めの牢屋に入っていた。
「……魔理沙さん」
私に誰かが話しかけてきた。自分が入っている牢屋内を見回しても誰もいない。
「…?……誰だ?」
「…古明地です」
その物静かな声でようやく気が付いた。場所は隣の牢屋の方向から聞こえてくる。
「…さとりか……って…なんでお前が牢屋に入ってるんだ?」
「……私は、こいしが人質に取られたのですが、もともと自由気ままな子で……無意識を操る程度の能力でいつの間にか抜け出してたみたいです」
私はさとりがいる方向の壁に寄りかかって座った。
「……それでか…」
「…魔理沙さんはどうしたんですか?」
「…お前は…聞かなくてもわかるだろ…?」
「……人の口から聞きたいことだってあります」
さとりが静かに言った。
「……萃香にアリスを解放してくれって頼んだんだ」
「…無謀にも程がありますよ……魔理沙さん」
「…確かに……そうだったかもな」
「……」
しばらく沈黙が続いた。
「…そういえば…魔理沙さん。眠っているとき、ずっとうなされてましたよ?……何か悪い夢でも見てたんですか?」
さとりが思い出したように言い出した。
「ああ…胸糞悪い……夢だった……でも、その通りだったなぁ…」
私は夢の内容を思い出しながら言った。
「…どうしたんですか?」
「…いや…なんというか……この異変が始まってから、私は霊夢に信用されてないんだなって……思ってさ…」
「え?…なぜですか?」
「……始めに異変が起こったと分かった時、霊夢は私に家で待てと言ったんだ……そりゃあ、霊夢よりも私は弱い。…だから……連れて行こうとしなかったのもわかる……」
「………」
「でも、昔から一緒にいて私の性格を霊夢は知ってる…だから、余計にそう感じてな…」
「……」
さとりは私が言ってからしばらく黙っていたが、口を開いた。
「……魔理沙さんは……なんでマスパ―スパークを撃たないんですか?」
「…?…どうしたんだ?」
唐突に話を変えたさとりに聞いたが、さとりはいいからと私に促す。
「………お前も知っての通り、マスパ―スパークは私の切り札でもある。……半年ぐらい前に霊夢と弾幕勝負にしたんだ。……私はフル出力で霊夢にマスパ―スパークをぶっ放した。……でも、霊夢はかわせたのにかわさなかった。……マスパ―スパークは直撃した。でも霊夢は涼しい顔をして弾幕勝負をつづけた……その時、私は改めてわかった……霊夢は私の全力なんてかわすまでもないんだって………霊夢相手だからっていうのはわかってる。……でも、マスパ―スパークに頼ってばかりでは…霊夢と同じ土俵になんか立てないと思ったから……私はマスパ―スパークを使わないことにした。……まあ、私と霊夢じゃあ、まず同じ土俵に立てるわけがないのはわかってるけどな……」
「魔理沙さん」
私が話している最中にさとりが遮った。
「…?…なんだ?」
「魔理沙さんは、……霊夢さんを…」
さとりが言い始めた時、誰かが入り口から入って来た。
「よお魔理沙。言った通りにまた会ったな」
勇儀と萃香、それに地霊殿に行ったはずのルーミアが傷だらけの姿で私の牢の前に立った。
「……」
私は勇儀の言葉を無視して萃香の方を見た。萃香が牢屋のドアの鍵を開け、中に入って来る。
「……殺しに来たのか?」
私が座ったまま言うと、萃香は首を横に振った。
「…霊夢に予想より早くバレた件は、これからやる事で水に流してやるよ…魔理沙」
「…何をするんだよ…」
「お前には…妖怪になってもらうよ」
萃香が笑い、ルーミアを私に投げつけた。
「うわぁっ!?」
いきなり投げられたルーミアが悲鳴を上げるが、壁にぶつかる前に私はなんとか受け止めることができた。
「…どういうことだよ」
「お前は知らないことだろう、妖怪の血を飲むことによって半分妖怪の霖之助よりも妖怪の部分は少ないが、妖怪になることができる…まあ、なるまでが大変だがな」
「血を飲んでどうやったら私が妖怪になるんだよ」
私は突拍子もない話で信じられないため、萃香に説明を求めた。
「…生物の血には魔力が含まれている。人間なんかよりもそれは濃く、強い……その血を正式ルート…つまりは口から体内に入れることで吸収される。すると、血の中に含まれる魔力が自分に合う環境に近づけるため、人間の体を妖怪に変化させる……言っておくが、この過程で耐えることができなきゃ最悪死ぬことになる」
萃香が言いながら私に近づいてくる。
「…そんなことが……!?」
「ああ、できるんだよ……ルーミア程度なら…まあ、耐えられえるだろう」
「私が妖怪になったとして、どうするんだよ…」
「成功したら、最後の仕事に行ってもらう」
「……最後の仕事…?……死んで来いってことか?」
私はルーミアを抱き寄せた状態で、じりっと後ろに下がろうとしたが、後ろは壁で下がることができない。
「人聞きが悪いな。お前が勝って帰ってくれば最後の仕事だろう?」
つまり、死ぬまで戦って勝つまで帰ってくるなと言ったところなのだろう。
「……拒否したいところだな」
「お前に拒否権はない。…お前も悪い話じゃないだろ?簡単に力が手に入るんだからな」
「……私はそうやって力を手には入れたくなんかない」
私が言うと萃香がフンっと鼻を鳴らして近づいて来る。
ルーミアが震える手で私の服をぎゅっと握った。
「……!」
近づいてきた萃香が私を掴んで横に投げた。それだけで私は数メートル横の壁に背中を打ち付けた。
「うぐっ……!?」
だが、何とか耐えることができ、壁に手をついて支えながら私は萃香を睨んだ。
萃香が今度は私の腹を殴った。
「がっ…!!」
パンチの衝撃は腹から背中まで突き抜け、骨の髄まで響いた。
たった一撃貰っただけなのに、私の膝がブルブルと震えて立っていられない。
「震えてるぜ?魔理沙」
萃香に足を蹴られて膝が床についた。萃香が私の肩を足で押して壁に押し付けた。
「ルーミア!…こっちにこい」
萃香が私を押さえ付けたままルーミアに言う。
「は……はい…」
ルーミアが目に見てわかるほど震えている。
何をされるかわからない恐怖でルーミアは歯がカチカチとなっていて、薄暗くてよくわからないがそれでも病人ではないかと思うほどに顔は真っ青だ。
「口を開けろ」
萃香が目の前まで来たルーミアに言った。
「え………?」
「早くしろ!」
「は…はい……!」
ルーミアが口を開けると、萃香はそこに手を突っ込んだ。
「んぐうっ…!?」
萃香がすぐに手をルーミアの口から出した。
「~~~~~~っ!!?」
ルーミアが目を見開き、口を押えて苦しみだす。
口を押えているルーミアの細い指の間から血が流れるのが見える。
「ルーミアに何をした!?」
「血を出したぐらいでギャーギャー騒ぐな。ちょっと舌を裂いただけだよ」
萃香が言いながらルーミアを私に押し付けて言った。
「おら。早く飲めよ……無論、口移しでな」
萃香が笑いながら言い。私を睨みつけた。
「くそったれが……!」
「…早くしないとアリスを殺すぞ?……そっちのちっこいのもお友達がどうなるかわかってんだろうな?」
萃香がそういうとルーミアが怯えた表情で呟く。
「いう通りにするから…止めて……!」
萃香はこいつからも人質をとったのか。
「くそが……」
私は萃香に向けて吐き捨てた。
「…嫌だよ……魔理沙を…妖怪にしたくないよぉ……」
ルーミアが泣きながら私の元に歩いてくる。
「…やれよ…ルーミア……仕方がない…」
私が言うとルーミアがゆっくりとうなづいた。
「……魔理沙………ごめん……!」
ルーミアが涙を流し、謝りながら私の口を塞いだ。柔らかく、小さな湿った唇が私の口に触れた。
「うっ……んぐ…」
唾液が混ざった血が私の口の中に流し込まれた。
強い鉄の匂いと血の味が口の中に広がった。
それを飲み込むと、すぐにルーミア私に血を流し込んだ。
「んぐっ…!」
十数回目にルーミアの血をごくりと飲み込む。なんだか体に違和感が生じてきた。
「…かぁ……!!?」
これが体を作り替えられるという感覚か。正直、痛いなんてもんじゃない。激痛に体が痙攣し、私の頭を抱えながら血を流し込むルーミアの体を掴み、搔きむしった。
「んん~~~~っ!!!」
「………!!」
ルーミアはそれに黙って耐える。
ビギビギッ!!
体の奥が変化していく、一見何も変わっていないように見える。でも、何かが変わっていく。人でないものに変わっていく。
「んぐ……あぁぁっ!!」
涙が流れ、私はあまりの激痛に気絶しそうになる。
「魔理沙さん!気絶しちゃダメです!」
さとりの叫ぶような声が聞こえる。
「っ………!!」
私は何とか意識をつなぎ留め、耐える。
さらに十分ほどしてようやく血が止まったらしく、ルーミアが私から口を放した。
「ぐっ……い…ぎっ……!?」
視界が赤く染まり、自分が血の涙を流しているのにしばらくしてからようやく気が付いた。
「ぐう……がぁっ……!!」
骨が筋肉が皮膚が内臓が神経が少しずつかえられていく。
「あああああああああああああああああああっ!!!」
体のあちこちから出血が起こり、私の周りに血だまりを作っていく。
ごぼっ…!
咳が出たが水っぽく、血が出て喀血だと分かった。
「ま……魔理沙ぁ!」
苦しむ私をルーミアが抱きかかえてくれた。
「邪魔だ、どいてろ」
ルーミアを萃香が掴み、乱暴に投げ捨てる。
壁にぶつかり、ルーミアが倒れてその上から壁の岩が崩れて降り注いだ。
「ぐう…っ……がああああああああああああっ!」
血反吐を吐き散らして私は血だまりに倒れた。
「あ……か…はっ…」
体が痙攣して自分で体を支えることができない。
「……ふん…やはりそんなものか」
私が死んだと思ったのだろう。萃香が吐き捨てて牢屋を出ていこうとしたとき、私の笑い声が牢屋に響いた。
「…妖怪に支配されたのか」
萃香が言いながらこちらを向こうとしたとき、手足が勝手に動いて萃香に近づき、私の手が萃香の腹を背中から貫いた。
勇儀とルーミアが驚き、目を見開く。
私の口角が上がり、笑っているのがわかる。
「…不意打ちとは言え、私の体を貫いたのは褒めてやる」
萃香が言いながら私を押し出すように足の裏で蹴った。
「がっ……!?」
ドゴッ!背中が壁に打ち付けられた。
「支配されたのは扱いづらいが、使えないこともない…捉えるぞ」
そう言って私の方向に向き直った萃香に私は言った。
「……残念だが……私が支配し代えさせてもらった」
私が言ったとき、萃香が驚いたような顔をして笑う。
「…そうか。今の蹴りでか……」
私を支配しようとしていたものの精神はまだ私にきちんと定着していなかった。そこで萃香の蹴りを受けて意識がそれた隙に私が意識を乗っ取ることができた。もともと私の体だ。乗っ取るのは簡単だった。
「よかったなぁ…魔理沙。支配されなくてよぉ」
すでに魔力の作用で腹の傷が完治している萃香が私に言った。
「…そんなこと。思っていもいないくせに…」
私は言いながら立ち上がった。私の血を吸った服が重く、ふらつく。
「…相性が良かったのか?私の体を貫くなんてな」
「私が知るかよ……」
「まぁいい…じゃあ、さっそく仕事の準備をしてもらおうか」
萃香がそう言ってニヤリと笑った。
「血まみれじゃあ、嫌だろう?風呂に入って代わりの服に着替えろ」
萃香が言った。
「珍しく優しいじゃないか」
「ああ。私は優しいからな」
「は?」
私は萃香に牢屋から蹴りだされた。
身支度を済ませ、私はぬえが連絡してきたことにより、霊夢が博麗神社にいるということで神社に向かった。
萃香は霊夢に勝ったら……つまり、殺したらアリスを解放すると言った。
だが、私は霊夢には勝てない。そして、死ぬのは私だろう。裏切った私を霊夢は絶対に許さないだろうからだ。
霊夢を裏切ったのは、アリスを人質に取られたからだ。霊夢のことは裏切りたくはなかった。でも、アリスも殺されたくない。だから、私がいなくても強い霊夢なら大丈夫だと思って裏切った。
自分勝手で私は怯えて戦うことから逃げたのはわかってる。
私が死んでも絶対に霊夢はやり遂げてくれる。……アリスもどうにかして助けてくれたらいいが。
私はそこまで考えて思った。やはり、霊夢に私は任せっぱなしだ。
私はアリスを助けるために霊夢を裏切った。なのに、私は助けられていないどころか萃香の言いなりになり、死んでそのあとのことは霊夢に任せようとしている。
……本当。私は最低だ。
明日も投稿すると思いますので、よろしくお願いします。