そろそろ終盤に差し掛かって来ました。ここから盛り上げられるように頑張ります。
東方鬼狂郷 第二十三話 伊吹萃香 参
萃香の歯が私の皮膚に食い込んだ。
萃香の歯が肉を裂く音、骨をかみ砕く音、どちらも聞こえない。
いつの間にか萃香が私の前からいなくなっていて、気配が消えている。
私はギュッと閉じた目をうっすらと開く。目の前にいたはずの萃香がやはりいなくなっている。
「……え?」
状況が理解できず、声が口から洩れた。
「…諦めるのはまだ早いわ。霊夢」
私の横に立っている幽香が言った。萃香を端地飛ばしてくれたのは、幽香だろう。
「幽……香…」
私は絞り出すように言ったとき、地面に崩れ落ちる。
「霊夢…!?……永琳!霊夢をお願い」
幽香が言いながら私を起こして永琳に渡した。
「わかった」
永琳が私を抱えて少し離れ、治療を開始した。
「……できるだけ早くね」
幽香が言いながら遠くから走ってくる萃香の方に向かう。
素手で戦うなんて、いつぶりだろうか。
いつも使っていた傘がないとやはり調子が出ない。頭の片隅でそう思いながら私は拳を萃香に叩き込んだ。
それと同時に萃香の拳が私の顔にねじ込まれる。
車と車が正面衝突するように、ガードをせずに萃香と殴りあう。だが、すぐに私が押され始めて萃香が私を掴み、自分の身長分ほどの高さを飛び、私を地面に押し付けた。
それだけで地面が割れて砕ける。
「ぐっ……!!」
再度萃香が上空に跳んだ。十メートルほどの高さまで行くと私は萃香に地面に叩きつけられた。
一回目よりも広範囲の地面がめくりあがり、衝撃で範囲内にあるものが宙に上がる。
萃香をぶん殴る。だが、萃香がさっきの三倍以上も高く跳躍し、私を掴んだまま地面に叩きつけた。
ドガッと鈍い音が響く。
「があっ!?」
爆発があったかのように近くの家が衝撃で倒壊し、めくれ上がった土が打ち上げられて降ってくる。
「弱いな幽香!お前が花に水をやってる間、私は自分の能力を高めてたんだ。お前に負けるはずがない」
萃香が薙ぎ払うように回し蹴りをしてくる。私はそれを両手でガードした。
大ぶりの蹴り、これに耐えて萃香を吹っ飛ばして治療の時間を稼ぐ。そう思った矢先、
バチュッ!
蹴りが当たった何かが遠くに弧を描いて飛んでいく。回転しながら飛んでいく二つの棒状のものは私の肘から先の腕だ。
ドサッと地面に両腕が落ちた。
「……ぐ…がっ………!!」
萃香から距離を取りながら手を再生させようとした。だが、単純な構造をしているとはいえ、肘から先がなくなれば治りも遅くなる。
右腕を優先的に治すことにしたが、その再生の速さはそこまで早くはない。
バキバキッと骨や肉がゆっくりと修復されていく。
私は萃香に蹴りを入れた。
ドゴッ!!
岩すらも粉砕するような攻撃を萃香は、くらってもいなかったかのように私に反撃した。
「お前の動きは見切ったぞ」
萃香が言いながら私の腹を腕をお足を殴り、わき腹に蹴りを入れられる。
「かはっ…!!」
私が反撃するが、萃香はひらりとかわすと私の胸を強打した。
「うぐ…!!」
私は耐え切れずに膝をついた。戦いで膝をつくなんて初めてだ。
「大人しくくたばんなぁ!幽香!」
萃香が蹴りを放った。さっきの腕を簡単にぶっ飛ばした威力からすると、ここでかわさなければ私の頭は収穫の時期に取り損ねた桃のように潰れて弾けることになるだろう。
頭を吹っ飛ばされればいくら私でも死ぬ。
「…く……」
こんな時に私の足も動かない。それはまるで蛇に睨まれた蛙のようだ。
少ししか時間を稼ぐことができていない。永琳はまだ霊夢のことを治療できていない。
ここで死んだら、もっと状況が悪くなる。
急いでガードしようとしても、するための物も時間もない。
「っ!!」
萃香が足を振り切った。何かが宙を舞い、体の前に落ちた。
「おっと」
それを発音したのは私でも萃香でもない。
「…霖之助さん……!?」
萃香の足が根元から切断されたことにより、蹴りは当たらず、私はかろうじて生きながらえている。足の切断面からは大量の血が地面にながらだし、片足となったことにより後ろに尻もちをついた。
「…てめえ!何のつもりだ!!」
萃香が叫んだ。
「なんのつもり?先に手を出してきたのは君じゃないか」
霖之助さんが右手に草薙の剣を持ち、もう片方の手には竹刀を入れるような細長い袋を持っている。
「私がいつお前に攻撃したってんだよ!」
萃香が言いながら切断された足を塵状化して足を再生させ始める。
「したじゃないか、君は僕の所有物を壊した」
「あ?所有物?」
私は立ち上がりながら萃香から離れた。
「君は僕の湯飲み椀を壊した。両立から霊夢たちの方に行った理由はこれだよ」
「たかが湯飲み椀ごときでだぁ…!?」
萃香が怒りをあらわにした。
「あの湯飲み椀は僕が少ない賃金をはたいて買ったもの。勝った時点あれは僕の財産であり僕の所有物。僕の所有物を破壊するのは僕を攻撃するのと同じだよ。道具を扱うものとしては見逃せないね」
「…たかがものごときでくだらねぇ…」
萃香が足の修復を終えて立ち上がった。
「自分の物の価値観を人に押し付けるのはよくないよ。君からしたらどうでもいいものでも僕にとっては大事なものだってある。その逆もしかり」
霖之助さんが言いながら私に草薙の剣を持っている方とは逆の手に持っている袋から傘を取り出し、投げてよこした。
「頼まれていたものだ。完成する予定は先だったが…急いで完成させてきたよ」
「…ありがとう。大変だったんじゃないかしら?」
私は萃香を警戒しながら霖之助さんに言った。
「うん。一本目を超えるのは骨が折れたよ……後は頼んだよ、幽香」
霖之助さんが霊夢の方向に歩いて行く。
「てめぇ!ふざけんな!殺してやる!」
萃香が霖之助さんに襲い掛かろうとした。
「…やれやれ。やる気かい?…この僕と」
霖之助さんから圧倒されるような殺気が萃香に向けられる。
自分に対してぶれない態度、どこか余裕を感じさせる雰囲気、戦ったということは聞いたことがなく、戦闘能力は未知数でさすがの萃香も足を止めた。
「……ふふっ」
私は自然と笑みを漏らしていた。
「……」
萃香が私をぎろりとにらんだ。
この状況。見方によれば霖之助さんが物凄く強そうに見える。
しかし、実際のところは、はったりである。霖之助さんは本当に弱い。
ある程度は戦えるがそこまで強くない。
私と霊夢がおふざけでさん付けで呼び始めてしばらくたった時から、霖之助さんが強いのではないかと噂が立ち始めた。
太陽の畑の妖怪と博麗の巫女が敬語なのだ。そう言った噂はすぐに広まり、広まった噂は独り歩きした。そうして霖之助さんはいつのまにか戦うことなく幻想郷で霊夢たちに続く最強の一人と言われるようにっていた。
それを聞いた私と霊夢は腹を抱えて笑った。本人は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが。
霊夢とふざけて始めただけだったが、こんなところで役に立つとは思わなかった。
「さてと、やりましょうか」
私は言いながら、傘の先端から巨大なレーザーを発射した。
「酷いざまじゃないか、霊夢」
幽香のところで傘を渡した霖之助さんは、こちらに向かって歩いてきながら言った。
「…戦わないくせに……何言ってんのよ……霖之助さん…」
「僕は争い事が苦手なんでね」
霖之助さんが言いながら私を見てさらに言った。
「……体が動かないのか……霊力の神経回路と支持組織、筋肉なんかがズタズタだ。……いったいどんな戦い方をしたんだい?」
「………ちょっとね」
「…そうか。そこにある砕けたお祓い棒じゃ、心もとないだろう?」
幽香の傘を入れてあった竹刀を入れるような細長い袋から新しいお祓い棒を取り出した。
「…今回は僕の押し売りだから、半額でいいよ」
霖之助さんがいったとき、永琳がズタズタになった霊力回路などを治そうと注射を撃とうとした。
「それじゃあだめだ。神経はそうやって治すものじゃあない……それらはその場しのぎにしかならない……霊夢が動けないのは、今まで使わなかった分の霊力回路に無理やり霊力を流してその反動だろう」
「何か名案でもあるの?」
「だいぶ昔にこれと同じ症状を治したことがある」
永琳が言ったとき、霖之助さんが私のうなじにある頸椎に触れた。
脳から送られる命令は全て頸椎を通る。そこからやった方が全身にすぐにアクセスできて効率がいいからだろう。
霖之助さんが目を閉じて集中した。
「霊夢の霊力に僕の霊力を同調させ、神経や筋組織に巡らせる。……無理矢理に近い方法で治すから、かなり痛いだろう……五から五つ数を数えるから準備して」
霖之助さんが言った。
私はかなり痛いと聞いて緊張するが、深呼吸をしてリラックスした。
「1」
霖之助さんが5からではなく1と言い、私に治癒の霊力を流した。
ドンッと霖之助さんの治癒をするための霊力がうなじから流れ、私の体の神経などが治っていく。
「うぅぅ……っ!!」
霖之助さんから今しがたもらったお祓い棒を握りしめて耐える。
「…すまないね霊夢。この治療は霊夢がリラックスした状態じゃないとあまりうまくいかないんだ」
「……う…ぅぅ……!!」
何か言ってやろうと思ったが激痛に耐えるしかできず、絞り出したような声しか出せない。
「でも、これで戦うことができるはずだ」
霖之助さんが言うと私の体から痛みが消え、体が動くようになった。
「…ありがとう。一応お礼は言っておくわ…霖之助さん」
私が言うと霖之助さんはじゃあ頑張ってくれと歩いて行った。
私は幽香の方向に向かって走る。体のけだるさはだいたい消えた。
「幽香!さがって!」
私は言いながら萃香に殴りかかる。
かなりズタボロの幽香が二の腕を押さえながら下がった。
上からお祓い棒を振り下ろし、それを受け止めた萃香の居る場所が陥没する。
「少し元気になたみてぇじゃねぇか!」
萃香が叫びながら私を振り払った。
私が離れた隙に、萃香はスペルカードを拳で破壊した。
萃香の全身に霊力がいきわたって淡く光った。
「四天王奥義『三歩壊廃』」
萃香が空中にいる私にまっすぐ跳躍してくる。
「るあぁっ!!」
ドゴォッ!!
萃香の拳がお祓い棒にぶち当たる、その衝撃に骨がきしんだ。
「ぐっ……!!」
だがギリギリで耐えることができた。
萃香の攻撃はほとんど地面に平行に私を弾き飛ばし、山の斜面に激突して大量の砂煙が舞い上がる。
「…くっ……!」
私が砂煙を振り払ったとき、自分の場所が影になった。
「っ!!」
お祓い棒を構えた時、私の頭よりも大きな萃香の拳が私の腹に向かって突き出された。
衝撃は数十メートルの地面の完全に崩壊させ、雪崩のように山の斜面が崩れて土中に埋め込まれた私の上に大量の土砂が覆いかぶさる。
「…勢いあまってやっちまったか?…死体を見つけるのが大変そうだなぁ」
私よりも身長が数倍となった萃香が笑いながら言った。
「…死んで、ないわよ!」
萃香のパンチの影響で地面の奥深くに埋まったが、何とか破壊して出た。
地中から出るとき、お祓い棒で土を吹っ飛ばした。爆発したこのようにも見えるだろう。
私の身長の数倍の大きさとなった萃香の顔面をお祓い棒でないだ。
お祓い棒が萃香の顔にめり込み、今度は萃香が吹っ飛ばされる。
だが、萃香は宙がえりをして地面に着地した。
ブゥン…
萃香の体がさらに数倍の大きさに膨れ上がる。
「霊符『夢想封印』!!」
スペルカードを握りつぶし、回路に霊力を流した。私の周りに大量の光の弾が現れた。
「そんな粒で私を殺せるとでも!?」
数十メートルも身長がある萃香が光の弾の爆発を無視して突っ走ってくる。
「ぐっ…!」
一斉に光の弾を萃香の元で爆発させた。
太陽光よりも明るい光が萃香の元からまき散らされ、レミリアのスピア・ザ・グングニルに匹敵する大爆発が起きた。
衝撃波が家屋や気を薙ぎ払い、土や岩、壊れた家の木材などを巻き上げた。
「……」
光が収まる前に光にまぎれて萃香の腕がこちらに伸びてきた。
「なっ…!?」
私の身長など軽く超えるほどの大きさの萃香の手のひらに包み込まれて握りつぶされかけた。
「がぁ……っ!!?」
だが、すぐに萃香は私を放した。そして、間髪入れずもう片方の拳で殴られた。
今までとは比べ物にならないほどの威力に押し返すこともできず、吹き飛ばされる。
地面にぶつかってもその勢いは死ぬこともなく、地面に潜り込み、その中を突き進むほどに勢いは死なない。
霊力のおかげで生き永らえてはいる。だが少しでも体に回す霊力が少なければひき肉になる。
「ひ……ぎっ……がぁっ……!?」
なんかの表紙に角度が変わったのか、地上に転がり出た。
なんて威力だ。萃香のスペルカードの威力は想像を絶する威力を持っている。
「……ここは…?」
自分の神社の庭の端にいる。
五百メートルは萃香のパンチで移動したらしい。
頭部から血が流れて左目での視界が赤く染まるが、戦いには支障がなさそうだ。
戻ろうとしたとき、ゾクリと殺気を感じる。
「ははっ…!!」
萃香が笑みを浮かべながら振り返った私に拳を叩きつけた。
「…しつこいわよ……!萃香!」
私が萃香の拳を受け止めながら言った。
「それはお前もだ!…もういい!…くたばれ、死にぞこないがぁ!」
萃香の力が強く、私は段々と押し込まれ始める。
「霊夢!伏せて!」
幽香の声だ。
私は攻撃を受け止めていたが、中断して伏せると萃香の体をレーザーが包み込み、薙ぎ払われた。
「邪魔ばっかりしやがって…!」
萃香がレーザーで焼かれた腕を再生させた。
その再生速度はどんな妖怪でもできないほどに早く、ちょっと怪我をしたぐらいではきりがない。
迷っている暇はない。
「幽香……一分でいい……時間を稼いで」
私が言うと私と萃香の間に幽香は立った。
駄文ですがよろしくお願いします。
明日も多分投稿すると思います。