いつもだいぶ原作を無視していますが、今回は飛びぬけて無視しています。
ザシュッ!
チルノが勇儀の背中を切り付けた。
囮の私は頃合いを見て弾幕を放ちながら下がり、体勢を立て直す。
チルノは大妖精に瞬間移動で勇儀から離れる。
何度も繰り返し行ったことで、勇儀の服は血でまみれている。だが、すぐに傷を治すためダメージを与えられたとは思わない方がいいだろう。さすがは鬼だ。
チルノの突撃に合わせて私も走り出し、勇儀にしか能力が当たらないように範囲を調節し、チルノが見えないようにさせてチルノが氷の剣で切り付けた。
「そう何度も同じ手は食らわないぞ?」
そう言った勇儀の振り下ろした拳骨が私の頭部に当たった。
「…え……?」
右目で見ている視界が真っ赤に染まる。
目の周りに触れると、真っ赤な血が指にべっとりと付いている。 遅れて頭痛が私を襲う。
「…うぁ……!……ああああああああああっ!!」
頭を押さえてうずくまる私を勇儀が蹴った。
小石を蹴るようなしぐさなのに私の体は宙に浮きあがり、近くの木に背中から衝突して崩れ落ちた。
「ルーミア!」
そこで頭に血が上ったチルノが勇儀に考えなしに突っ込んでいく。
「…や…やめ……!」
意識が飛びかけていたが、かろうじて繋ぎ止めてチルノの方向に血でまみれた手を伸ばした。
ドゴッ!!
勇儀の拳がチルノの肩に当たり、数メートル後ろにひっくり返ったチルノはそれだけで動かなくなった。
「チルノちゃん…!ルーミアちゃん…!!」
大妖精が怯えた表情であとずさり、勇儀が歩いてそれを追いかけた。
大妖精の背中が気に当たり下がれなくなる。しかし、大妖精はそれに気づく余裕もなく、頭を掴まれて気に押し付けられた。
「ひっ………!!?」
怯える大妖精の頭を勇儀は気に叩きつけた。何度も何度も。
「ひぎっ……!!…あがっ…!!」
初めのうちは悲鳴を上げていた大妖精はすぐに静かになり、木に当たる音に水気が入り混じる。
ズキズキと頭が痛い。朦朧とした意識の中で私はそれだけしか考えられない。
大妖精の悲鳴は音として私の耳にも入って来た。でも、それを私の脳は悲鳴と処理できないほど頭が痛い。
その中で、何か記憶のような映像が頭の中に流れ始める。
これは、なんなのだろうか。
風でここら一帯の地面から生える草が揺れる。
私の視界の中央にいる人物。博麗を象徴とする赤と白の巫女装束を着ている。
霊夢…?
その人の顔は朝日の逆光で見ることはできない。
『お前は一体何なんだ……?』
自分に似ているが、どことなく違う声が記憶の中で言った。
自分は今、膝をついていて怪我もしているらしく、傷を手で押さえている。
『なんなの……か……私は博麗の巫女よ』
彼女は言った。
『……博麗の巫女?……その巫女が私になぜ攻撃するんだ?……あんたに危害を加えた覚えはない』
私はゆっくりと立ち上がりながら言った。
『……あなたは生まれて数日の妖怪で幻想郷のルールを知らないのは仕方ないけど、人を殺しすぎたわね』
『……ああ、そうかい…それで?私を殺しに来たのか?』
立ち上がった私の身長はいつもよりも周りの景色が高く見えた気がした。
『…そうねぇ……あんたは他のどの妖怪よりも強くて、話が分かると見たわ』
彼女はそういうが何を言いたいのか全く分からない。
『何が言いたい』
『……これから先、あんたみたいなのがいたら、今の私のようになる』
いわれるまで気が付かなかった。博麗の巫女は血まみれなのだ。一部は私の返り血も混じっている。だが、大部分は巫女の物だ。
『……私に何を望むんだ?』
私が言うと巫女が足を引きずるようにしてこちらに来た。
『今後、あんたみたいなのが現れた時、博麗の巫女の手伝いをしてほしい』
『…何を言ってるんだ?』
彼女が何を言いたいか全くわからない。
『早い話、この条件をのめないなら……あんたを消し飛ばすってことよ』
『…確かにお前にはまだ何かある。……まだ何か隠し持ってるな…?』
私は呟く。
『ええ。…どうする?存在を消し飛ばされるか。生き残って何かが起こった時に手助けをするか』
ゾクリと寒気を感じる、この女からは殺気を感じる。ハイと言わなかったらその時点で存在を消し飛ばされるだろう。
『……わかった。…せっかく私も生まれたんだ。私も死にたくはない』
『……それと、うそをついたら、私は死んでてもあなたを殺しに行くからね?』
彼女ならやりかねない。そう感じた。
『じゃあ、そういうことだから…あなたのことを封印するわ』
巫女が札を取り出した。
『…封印?何をするつもりだ?』
『あなたは生まれて間もない妖怪。だからあなたの実力を知らない妖怪の方が多い。……だから、力を封印して周りには弱いと見せておいて、実は封印しててそれを解いたら強いみたいな?』
博麗の巫女が持つ札が風に吹かれてゆらゆらと揺れる。
『お前が封印したら、お前以外は解くことができないだろ?』
『問題ないわ。この会話は忘れてもらうけど、今後の博麗の巫女が負けそうになったら、この会話を思い出すようにするから』
『…べつにいいんだが……なんで私で、妖怪に助けを求めてるんだ?』
私が自分よりわずかに身長が高く、すぐ前まで歩いてきた博麗の巫女を見上げた。
『…なんであなたかって?……それはね…』
博麗の巫女が言おうとしたところで映像が途切れた。周りの音が聞こえるようになり、大妖精の頭が打ちつけられる音が聞こえ始める。
あの映像を見ていた時間はわからないが、かなりの時間がたったわけではなく、短いようだ。
私は目を閉じたままさっき見た映像を思い出す。
私はあの時、博麗の巫女がなんて言ったかは覚えていない。
しかし、この映像から考えると霊夢が押されているということだろう。そんな状態で勇儀が霊夢のところに行ってしまえば、状況がひっくり返ることはなくなるだろう。
間接的とはいえ、私は勇儀と戦うことは霊夢の勝敗が関係するということか。
そういうことならば、初代博麗の巫女。あの時の約束を
「…果たそうじゃないか」
髪の毛に結ばれていた赤い札が自然とはがれた。
「あ?」
勇儀が大妖精から手を放し、こちらを向いた。
「弱い者いじめはそこまでだ。…勇儀」
私は立ち上がり、頭から流れている血を拭った。
「…ずいぶんと様子が違うようだが、頭でも打ったか?」
勇儀がにやにやと笑いながら言った。
「……」
倒れているチルノと大妖精に視線を向けると、彼女たちは死んでいるらしく、呼吸をしていない。
五分もかからずに一回休みで生き返るから、そこまで心配はしていないが、殺されたという事実は変わらない。
私は人差し指を勇儀の方向に突き出して挑発した。
「お前をここで倒す」
「はっ!…やれるもんならやってみろ!!」
勇儀がこちらに向かって走ってくる。
「…やるつもりじゃなかったら、言わないわ」
能力を発動。闇が広がる。
私は向かってくる勇儀に正面から迎え撃った。
「馬鹿が!そう何度も同じ手を食らうか!!」
目が見えない勇儀は感だけで私に攻撃してきた。
だがさっきと違うのは、私には勇儀の姿が見えているということだ。
私は勇儀のパンチをかわし、わきを通り過ぎて能力を解いた。
「があっ…!?」
私でなく勇儀が首元を押さえて叫び声をあげた。首を押さえる指の間からは血がだらだらと流れている。
わきを通り過ぎる際に首の肉を食いちぎったからだ。
「なかなかやるじゃねぇか」
勇儀が食いちぎられた首の肉を再生させた。
「面白い」
勇儀が笑い、殴りかかってくる。
私の能力は闇を操る程度の能力で、相手の視界を闇で染めて見えなくするが、その能力を使えば自分も相手と同様に同じ状態となる。だが、さっき私は勇儀の姿が見えていた。
能力が変わったのかと聞かれたら、それは違うと私は言うだろう。能力が変わったのではない。能力が元に戻ったのだ。
この幻想郷で能力を使って自分にデメリットがある奴なんて私ぐらいだろう。
それはなぜか。初代博麗の巫女によって弱体化されたからだ。
だが、封印が説かれた今は能力は闇を操る程度の能力から、闇で覆う能力に戻った。
一見あまり変わっていないようにも見えるし、どんな能力かもわからないだろう。
しかし、最強と言われていた初代博麗の巫女を切り札を使う直前まで追い詰めた能力だ。
初めから能力を全開で行きたいところだが、二百年も弱体化したものしか使っていなかったのだ。慣らしが必要である。
もう一度能力を発動して勇儀を迎え撃つ。
だが、さっきのようにはうまくいかず、私は勇儀の連撃を受けることになった。
一撃一撃が重く、体が破裂しそうな衝撃が突き抜ける。
「かはっ…!?」
歯を食いしばってそれを耐え、勇儀の腹に拳を叩きこんだ。
「うおっ!?」
勇儀は私のパンチの威力が想像以上の威力だったのか、数メートル後ろに下がった。
「…」
やはり慣れないことはするもんじゃないな。体の耐久力を上げるのが間に合わず、手の骨が砕けてあらゆる部分から皮膚を突き破って白い骨が見えた。
大量の血が流れ、地面と服を赤く染める。
魔力を使って修復し、元に戻した。
「ただの妖怪のくせにやるじゃねぇか」
「そりゃどうも」
私は言いながらそろそろ起きるだろう大妖精の元に行き、傷を確認した。
傷はほぼ完治していて、数十秒もすれば目を覚ますだろう。
大妖精を担ぎ上げ、チルノの方向に向かう。
「何をする気か知らねぇが、私が邪魔しないと思ってんのか?」
勇儀が走り寄って、殴りかかってきた。
能力を使い、私の周りを見えなくさせて勇儀に向かってレーザーを放つ。
勇儀がそれに感づいてかわしたことにより、胸を貫くはずだったレーザーはわき腹を掠る程度となってしまった。だが、穴をあけることには成功したらしい。
「がはっ…!?……くそが…!」
勇儀が毒づきながら傷を押さえてさがった。
チルノの元につき、大妖精を下しながら能力を解除した。
「……二人とも、起きて」
二人の肩を掴んで揺すってみた。
「…う……う~ん」
チルノが眉間にしわを寄せて目を開けた。
「…ル…ルーミア?」
起きたばかりで頭がはっきりとしないらしい。一回休みは睡眠のようなものなのだ。自分も何度か死んだことがあるからわかる。
「……大ちゃん。起きて」
大妖精のことも揺すって眠りから覚めさせた。
「……ルーミアちゃん………戦いは…どうなったの!?」
大妖精がしゃがんだ私の肩を起き上がりながら掴んだ。
「…まだ、続いてる」
私が後ろを向くと十数メートル先で、勇儀が魔力を使ってわき腹の傷を治しているところだ。
「……ちょっと二人にはきついかもしれないけど……二人にしてほしいことがあるの」
私が言うと、二人はこちらをみて真剣な顔で、何?と言った。
「……それは…」
私が内容を伝えると二人は目を見開き、嫌だと言ったが勝つにはこれしかない。私が言うと二人はわかったと言ってくれた。
勇儀はようやくわき腹のレーザーで貫かれた傷を修復した。
これでようやくルーミアたちを殺せる。そう思い、勇儀は三人の方向を見た。
「…?」
ルーミアを中心にして、チルノと大妖精が左右にいて、三人ともしゃがんだ状態だ。
別にそれ自体はおかしいところはない。
「…い……いくよ…?」
チルノが言いながらルーミアの二の腕に噛みついた。
大妖精は肩だ。
二人の歯がルーミアに食い込み、血が溢れた。
ルーミアの顔が歪み、痛みに耐えている。
十数秒かけて二人は血肉を食いちぎり、吐きそうになるのを我慢しながら飲み込んだ。
「…二人とも、無理させてごめん」
ルーミアが口元を血で汚す二人に魔力で傷を治しながら言った。
「…私は大丈夫…。それよりもルーミアは大丈夫?」
チルノが言った。
うん。とルーミアがうなづいた時、二人の体に変化が起きる。
「…なに……これ…!?」
チルノが目を見開き、大妖精が呟いた。
「力が抑えきれない……!!」
チルノが言う。
「…二人とも、それを使って勇儀を倒そう」
私が言うと、抑えきれない二人の魔力が循環をはじめる。
「…私もようやく力になれてきた」
私も最大まで、これ以上にないぐらいまで魔力を使って強化した。
ルーミアを含めて三人とも気が付いてはいないが、身長が高くなり始めている。
ビギギッ!!
身長が高くなっていくが、それと同時に顔つきや体型も大人っぽくなっていく。
魔力の作用により、服も大きくなって戦闘に支障はなさそうだ。
勇儀は驚きで何もできずにいた。
「…いこう」
ルーミアが言うと、二人はうなずいた。
これは、のちにEX化と呼ばれる現象となる。
勇儀は戦いながら自分のことを罵った。
なぜ気が付かなかった。気が付くチャンスはいくらでもあったはずだ。
魔理沙が萃香の腹を貫いた時、あたしたちはただ単に相性が良くて、偶然だと勝手に判断していた。しかし、現実は違かったのだ。萃香の腹を貫いたのは偶然ではなく必然だったということだ。
ルーミアにそんな力が隠されているなんて思いもしなかった。
「くそっ!!」
焦りが生じ、チルノの氷の剣が肩を貫く。
ほかにもあった。大妖精に貼られた霊夢の札を簡単にはがしていたり、なにより、チルノが一撃も耐えられなかったあたしの拳を数度耐えた。
その時点でおかしいことに気づかなかった挙句、妖精と雑魚妖怪ごときに押されている。
「くそがぁっ!!」
勇儀がチルノに殴りかかる。
チルノは勇儀の拳に正確に剣を叩きつける。
氷の剣が砕けるが、勇儀の拳の勢いも死んでいる。つまり、互角ということだ。
勇儀が連続で殴りかかってくる。
チルノは氷の剣をふんだんに使い、勇儀のパンチを捌き、氷が砕ける甲高い音と氷の粒がまき散らされる。
二人の動きは段々と加速していく。氷の粒がまるで雪のように積もっていく。
チルノは魔力を消費して氷の剣を作り、勇儀は魔力を消費して傷をいやす。どちらかと言えば、チルノが劣勢だ。このままチルノが一人で戦えば、だ。
覚醒したばかりのチルノが押され気味になり始め、勇儀の右手で殴られた。
「ぐうっ!?」
チルノが怯んだすきに勇儀が振りかぶって左腕の拳を叩きつける。
だが、左腕が付き出されることはなかった。
「なあ゛っ!!?」
勇儀の片腕がなくなっているのだ。それによりバランスが崩れ、チルノの剣で切り付けられた。
「ぐっ…!!」
左腕は肩ごと持っていかれており、勇儀は肩を押さえながら下がった。
「…お探し物はこれ?」
大妖精が持っていた勇儀の左腕を捨てた。
「…どうやって…あたしの腕を……!!」
勇儀が左腕を再生させながらいう。
「腕だけを瞬間移動させました」
大妖精が言った。
「くそっ!」
勇儀が腕を二の腕ぐらいまで再生させたとき、チルノが動いた。
チルノが何かの技を食らわせようとしている。
技を出したわけではないのに、チルノの周りにある空気中の水分が凍り付き始める。
「…冷却」
そう言ったとき、勇儀の体がまるで凍り付いたように動かなくなった。
「さいきょーのアタイのとっておきだよ。パワーアップした今のアタイなら、勇儀ぐらいならよゆーで止められるよ」
チルノが言いながらこちらに歩いてきた。
勇儀からは、動こうとしている気配がする。
「く…そ…っ!!」
勇儀の口から声が漏れた。
「おいしいところはルーミアにやる!なんてったってアタイはさいきょーだからな!」
「そうだね…。これで終わり」
私は言いながら勇儀の前まで歩いて行った。
その姿を見て勇儀は目を見開く。
「おま……え…は……あの…時の……!!?」
ようやく思い出したようだ。二百年前、勇儀は私が生まれて初代博麗の巫女に力を封印されるまでに戦った数少ない妖怪の一人。
勇儀と戦った結果は当然、私の勝ちだ。
封印された後の身長も見た目も話し方も違うため、気が付かなかったのだろう。
初代博麗の巫女を追い詰めた闇で覆う程度の能力を発動した。
例えば、目を闇で覆えば見えなくなる。耳を闇で覆うという表現はおかしいが、目と同様の効果が耳に発揮できるとしたら?あらゆる感覚にも聞くとしたら?
耳は聞こえなくなり、臭いをかぐことも、触っているという感覚も消え失せるのだ。
自分が立ってるのか座っているのか、何かを持っているのかいないのか、触られているのかいないのか、全てがわからなくなる。
しかし、これをするためにはいろいろと条件はある。すべての感覚を闇で覆うことができるのは一人だけ、とかだ。
そして、あらゆる感覚を覆われた勇儀は立つことさえできずに倒れた。
勇儀は倒れたという感覚も近くできてはいないが。
シンッと周りが静かになる。勇儀との戦いはこんなにあっさりと終わった。
今まで張りつめていた緊張が解ける。チルノと大妖精と目が合い、笑いあう。
その時、近くの林から力が弱い妖怪や妖精たちが飛び出してきて歓声を上げた。
私たちは鬼を倒した妖精、妖怪として人間や妖怪、あらゆるものに語り継がれていくこととなった。
ルーミアが映像を見る少し前。
「霊夢さん!!」
倒れている早苗の叫び声がする。
倒れている幽香とさとりが視界のはしに見えた気がした。
目の前には私の体を貫く萃香の腕。
「ごほっ……!!」
血を吐き出し、腕を引き抜かれた私は地面に倒れた。
明日も多分投稿すると思います。