彼女いない歴イコール年齢なので恋愛についておかしくても批判しないでくださいお願いします。
今回は無理な設定が多いですけど、ハッピーエンドを迎えるにはこうするしかなかったんです許してください。今回だけオリジナルキャラクターが出てきます。今後の伏線になるので見逃してください。
明日には番外編その②の上を上げると思うのでそちらもお願いします。
秋になりかけの夏よりも低温で、心地の良い風を縁側に座って肌で感じながら、私は入れたてで温かいお茶を一口すすった。
山の木もそろそろ色を変えようとしており、ちらほらと赤い葉がみえる。
はぁ、とお茶を飲んで暖かくなった吐息を漏らして私は湯飲み椀を床に置いて煎餅を一口齧る。
庭の掃除などは既に済ませた。私が異変を解決してから一時的ではあるだろうが、十倍にも増えていて、今日も参拝客がちらほらと見え、お賽銭箱にお金を落として拝んでいく。
「霊夢。朝飯はどうするんだ?」
魔理沙がいつもの服装にエプロンをして、菜箸を片手に私に言った。
「そうねぇ。みそ汁と残っていた魚を焼いてほしいわ」
「わかったぜ」
魔理沙が了解して台所に戻っていく。
あれから二か月がたった。
一か月前ぐらいまで、ちゃんと食事をとっているのかわからないぐらい青白い顔をして、やつれていた。夜も眠れなかったらしく隈も酷かった。
見ていられなくなり、そんな魔理沙をわが家に招いてから早一か月。何とか立ち直り、今は元気にしている。
大切な人を失った人たちはそれぞれに頑張って立ち直り、前に進み始めている。だが、全員がそうというわけではない。
文と鈴仙だ。
生き物の死は尊く、悲しいものだ。それが寿命ではなく殺害されたとなればなおさらだ。
鈴仙の場合は妖夢は死んでいないらしいが、それに近いと永琳は言っていた。
「……」
今回の異変は人間にも、妖怪にも深い傷をつけた。
もう一口お茶を飲み、一息つく。
「…霊夢~。そろそろ飯ができるぜ」
「…嫌に早いわね」
私は呟きながら湯飲み椀と急須を持ち、台所に向かった。
フライパンで炒めたものを大きな皿に移し、二人分のお茶碗にご飯を分けて机に置き、みそ汁も木製の茶碗に分けていく。
「…魔理沙、私は魚がいいって言ったわよね?」
「つべこべ言うなら私に作らせなければいいんだぜ」
魔理沙はいたずらっぽく笑ってフライパンをコンロに置いた。
「……全部……キノコ料理……」
私は嘆息を漏らした。
「せっかく作ったんだから、そうため息つくなよ」
魔理沙が少ししょんぼりした様子で言った。
「…いや、別にあんたの作ったものが食べたくないとかじゃなくて、他の物もあるんだからそっちも使ってよ…!!」
使われなかった少し放っておけば腐るだろう野菜を指さして私は言った。
「…次から善処するぜ」
魔理沙が言いながら席に座る。
「あんたからその言葉を十回は聞いたわよ」
私も魔理沙の向かいの席に座った。
「「いただきます」」
私と魔理沙は手を合わせて言った。
異変から二か月。
初めの一か月のうちの二週間は地獄だった。
食事が喉を通らず、水すらも飲むことができなかったのだ。
眠りに落ちれば悪夢に十分も寝ることができずに飛び起き、しまいには自分の手に血がこびりついている幻覚さえ見えた。
そんな私が壊れなかったのは霊夢の存在が大きい。見かねた霊夢が私を神社に招き、しばらく神社で過ごせと言った。
それがなければ、今頃私は壊れてどこかでのたれ死んでいただろう。
私はそう思いながらみそ汁の中に入っているきのこを食べた。
「……」
時間はかかったかが、私は何とか立ち直ることはできた。だが、文たちはいまだに立ち直れないと聞く。
「…おはよう。お二人さん」
霊夢の隣に紫のスキマが現れ、中から紫が姿を見せた。
「…どうしたの?紫」
霊夢が小皿にキノコ料理をよそいながら紫に言った。
霊夢と紫の話を聞きながら私は紫を見る。
異変があった時、霊夢は紫も異変に一枚かんでいると疑っていたが、異変が終わって少ししてから紫は私たちの前に現れた。ボロボロの血まみれでだ。
紫は異変が始まる前日にあった宴会の後、萃香に誘われて二人で酒を飲むことにしたらしい。紫の家で酒を飲み始めた時に萃香に襲われて命からがら重傷を負いながらなんとか逃げたらしい。式神も同様に重傷を負ってしまい、出てくることができなかったらしい。
「…特に理由はないけど、大丈夫かなって」
「「?」」
私と霊夢は意味が分からず、顔を傾ける。
「とぼけちゃってまぁ」
紫が何か勘違いしているらしく、よくわからないことを言って一人でにやにやと笑っている。
「だから、何の話なんだぜ?」
「二人はどこまで行ってるの?…キスぐらいはした?」
紫がそう言ったとき、私と霊夢は同時に器官に食べ物が入り、咳き込んだ。
「あ…あんた、何言ってんのよ!?」
霊夢が紫に掴みかかる勢いで叫んだ。
「えー。皆言ってるわよ?」
「…言ってるって……何をだ?」
私がおそるおそる聞くと紫がニヤリと笑みを浮かべ、楽しそうに言った。
「二人が同棲してるなんて、もうそこまで行っちゃってるってことじゃないですか!!って」
その口調だと、守矢神社の緑色の髪をした巫女が思い浮かぶ。
「あいつ…」
私が呆れながら呟き、みそ汁を飲んだ。
「あらあら。一か月も一緒に過ごしてるのに進展なし?……まったく二人ともヘタレねぇ」
紫はそう言いながら私たちを一通りからかうとスキマの中に消えて行った。
「…なんなのよ…まったく」
霊夢はげんなりした様子で食事を再開する。
「……」
紫の奴、あんなことを言われた後じゃあ、意識してしまって会話なんかできないじゃないか。……わざとか。
私はそう思いながら、ちらりと霊夢を見た。
霊夢もこちらを見ていて、目が合った。急に恥ずかしくなってしまい目を伏せた。
今まで気にしていなかったが、紫のせいで意識してしまい、顔が熱くなっておそらく耳まで赤くなっていることだろう。
「……ねぇ。魔理沙」
霊夢が声をかけてきた。
「な……なんだぜ…?」
声が裏返ってしまい、変に高い私の声が静かな食卓に響く。
「…………ふふっ……」
霊夢が頑張って笑うのをこらえているのが見てわかる。私はさらに顔が熱くなるのを感じるが、開き直って霊夢に言った。
「ひ…人をからかうもんじゃないぜ!」
「ごめんごめん」
霊夢が笑いながら目尻の涙を拭いて言う。
「……それで?どうしたんだ?霊夢」
何か言ってやりたいが、我慢をして私は言った。
「…今日でちょうど二か月だし、お見舞いに行こうかなって」
だいたい二か月だと思っていたが、今日でちょうどらしい。
「……そうだな」
私は呟きながら霊夢が入れてくれたお茶を一口飲んだ。
食事を終えて、私と魔理沙は永遠亭に向かった。
魔理沙が私の横を箒で飛び、話しかけてくる。
「…ん?…あれさとりじゃないか?」
魔理沙が指をさす方向には、私たちと同じ方向に行くさとりの姿があった。
「よお。さとり!」
魔理沙が手を振ってさとりを呼んだ。
「…霊夢さんに魔理沙さん……おはようございます」
さとりが方向転換して、こちらに飛んできた。
「さとりも永遠亭に行くのか?」
魔理沙が止まって言った。
「はい、今日でちょうど二か月なので」
さとりと行く場所が同じため、私たちは三人で永遠亭に向かった。
森の上を通り過ぎ、しばらく飛行すると永遠亭についた。永遠亭の入り口のドアを開けると受付があり、診察待ちの人間が何人かいる。私に気が付いた人が私に頭を下げた。
受付にいるウサギに私は言った。
「魂魄妖夢にお見舞いよ」
私が言うとウサギがうなずき、どうぞと言った。
私たちは妖夢が眠っている部屋に向かう。
個室の部屋に入ると、妖夢が二か月前と変わらずに眠っている。
おかっぱだった髪の毛は肩ぐらいまで伸びてきている。
もう誰か来たのか、お見舞いの品が置いてある。食べのもだが、なぜかすべて食べてあり、ごみ箱に捨てられている。てゐかウサギが勝手に食べたのだろう。
私も持ってきた花を花瓶にさして、机の上に置いた。
「……」
「あら、霊夢…あなたが来るなんて珍しいわね」
ドアを開けて永琳が入って来る。
「永琳じゃない。……まあ、今日で二ヶ月ちょうどだからね…」
「…そういえばそうね……さっきまで鈴仙がいたはずだけど、あってない?」
「いいえ、あってないですよ?」
さとりが言いアンガラお見舞いの品を机に置いた。
「……そう」
永琳が言いながら点滴の様子を確認する。
「……鈴仙は…立ち直れそう…?」
私は永琳に思い切って聞いてみた。
「…前よりは少しだけよくなったんだけど……立ち直る前にあの子の方が先に壊れそうで心配ね……カウンセリングはしてるんだけどね……」
永琳が力なく微笑み、妖夢の点滴から手を放した。
「…妖夢はどう?」
「…。………妖夢も二か月前からあまり変わっていないわ」
永琳がカルテを見ながら言う。
「…よくなればいいけどなぁ…」
魔理沙が部屋にある水道で花瓶の水を交換しながら言った。
「私も努力するわ」
永琳が言って部屋から出て行った。
それから少しの間、世間話をして私たちは病室から出ることにした。
「……文さんのところにも行こうと思いますが……霊夢さんたちはどうします?……たぶんまた追い返されちゃうと思いますけど……」
さとりが言いながら空を飛んだ。
「…私はこれから行くところがあるからパスするわ」
私は魔理沙とさとりを追うように空を飛んだ。
「…そうですか、頑張ってください……魔理沙さんはどうします?」
「…そうだなぁ。私も行ってみようかな」
「じゃあ、またあとで神社でね、魔理沙」
「おう!」
魔理沙とさとりが天狗の屋敷の方向に向かった。私は二人が見えなくなるぐらい小さくなってから移動を開始する。
「……まったく、勝手に人の心を読んで……頑張ってくださいじゃないわよ」
私は呟いた。
どんよりとした厚い雲が常に空を覆っている一本道。
「…あの……ここは生きた人間が来る場所じゃあないはずなんですけどね」
「…そう固いことは言わないでよ……映姫…」
私はあの世に一番近い場所に来ていた。
「…何の用ですか?霊夢」
映姫が説教を始める前に私は自分の用件を伝えることにした。
「…二か月前に…この場所に来た椛を…あんたは裁いた?」
「…確かにさばいたのは私だ…だけど、悪いがそれが私の仕事なんでね」
映姫が言う。
「……。別にあんたのことを批判しに来たわけはないわよ」
「…?…じゃあ、何のために来た?」
「…うだうだと回りくどく言うとつもりはないわ……椛を生き返らせられる?」
「………さあ」
映姫が言いながら持っている悔悟棒を弄ぶ。
「…さあって…あんたは、閻魔と言えど一種の神様でしょう?」
「…。霊夢…あの世とかのことをあなたは間違って認識しているかもしれませんね」
「…?…どういうこと?」
「だいたいの人が私がこの場所に来た霊体を裁き、直接的に地獄に落としたり、天国に送る……そう思ってるでしょ?」
「ええ」
「…実際は違うわ。…私は白か黒か決めているだけ、実際のところはどっちにするかは彼次第なの」
彼女はそう言いながら近づいてきた霊体に生前何をしてきたか映し出される手鏡を見せて、あなたは白ですねと語りかけた。
「……彼?」
私が聞き返すと、映姫がこちらを見て話しを再開した。
「…私の言う、彼っていうのは……本物の神様みたいなものね」
「……?突き詰めればあんたも神様の一人じゃない」
「……何と言ったらいいのでしょう……私たちのような神とは次元が違います」
「…次元が違う……?」
「えぇ……彼ならば、私たちがいるこの世界を消すのさえ容易い存在です」
映姫の言葉に驚いた。予想以上に映姫の言う彼という人物が凄かったのだ。
「…確かにあんたらとは次元が違うわね……でも、それだけの力を持っているならば、妖怪を一人生き返らせるなんて簡単でしょう?」
「…たぶんそうね……でも、彼は結構意地悪だから生き返らせてくれる保証はない」
映姫が手鏡で自分を眺めながら言った。
「…かまわないわ……一つ貸ね…映姫」
「…そうね。…何かあって大変な時に頼むことにするわ」
「……じゃあ、よろしくね」
私は言って立ち去ろうとしたとき、映姫に呼び止められた。
「……アリスも生き返らせなくていいんですか?」
私は立ち止まって映姫に背を向けたまま言う。
「…今は……無理なんでしょう?」
「……本当。あなたは頭が良いですね」
映姫が言い、他の霊体に裁きを下した。
「……」
アリスが死んだとき、普通の状態ではない死に方をしたのだ。
通常、死というのは寿命などで死んだ場合は特に何でもない。だが、殺されたとなれば話は別だ。殺された時の負の感情はしばらくの間、殺されて霊体となった人間を狂気で狂わせる。
しかし、それはすぐになくなる。
妖精などが死んでも一回休みなどで生き返っても普通にしているのは、狂気が長続きしないからだ。一度眠らせるか、気絶させれば簡単に抜ける。
だが、アリスの場合は鈴仙の狂気の能力により、桁外れの量を流し込まれ、その上殺されたことにより狂気が数十倍も数百倍にも膨れ上がっているのだ。
でも、元が少ないのだから数十倍も数百倍にも膨れ上がったとしても、狂気はすぐに抜けてしまうのではないか。そう思うかもしれないが、そうはならないのだ。
「……魔理沙にもこの話はしたんでしょう?」
私が聞くと映姫はうなづく。
「ええ。この前、人里に降りた時に聞かれたので」
映姫は何物にも惑わされることがない。だから、魔理沙に嘘をつくことを良しとしなかったのだろう。彼女らしい。
「……そっか。だから魔理沙がこの前落ち込んでたのね」
私が言ったとき、映姫が思い出したように言った。
「…、そういえば……白玉楼の西園寺幽々子っていたでしょう?」
「ええ」
確か幽々子は萃香が異変を手伝えと言った際に断ったから殺されたと聞いた。
「…彼女殺されたのよね?」
「…私もまた聞きだから詳しくは知らないけど、どうもそおらしいわ……妖夢がもし目覚めたら、そのショックにも立ち向かわないといけないのね…」
私は眠っていた妖夢の姿を思い浮かべながら、映姫に言った。
「……おかしいですね…」
「おかしいって何が…?」
「幽霊にこの表現はおかしいけど、幽々子…死んだはずなのに、この場所に来ていないんですよ」
「え?」
映姫の言った言葉に私は素っ頓狂な声を出してしまった。
「…だから、幽々子はこの場所に来て私に裁かれていないですよ」
「……じゃあ…」
私が呟いた時、後ろから誰かに私のうなじを掴まれた。
「ばぁー!!」
幽霊特有の冷たい手が私のうなじに触れ、その冷たさにビクリと肩を震わせた。
「…驚いたかしら?霊夢」
幽々子がくすくすと笑いながら私に言った。
「…この場所に来るということは、ようやく私に裁かれに来たようですね」
映姫が持っていた悔悟棒を幽々子に向けた。
「…まさか、そんなはずがないじゃない」
幽々子が持っているセンスを口元に当てて笑う。
「…それより、幽々子…あんた殺されたって聞いたんだけど?」
私がいつまでもうなじを掴んでいる幽々子の手を放させた。
「…幽霊に死んだって……違和感あるわねぇ」
私だって思ったわよ。ほっとけ。
「私の能力は死を操る程度の能力。……それを応用すれば死んだように見せることも簡単よ」
ふふっと憎たらしい顔で幽々子が笑う。
「…でも、割と本気でやらないとバレちゃうから半分以上死なせたせいで……万全になるまで時間はかかったけどね」
「……妖夢のところには行ったの?」
「…行ったわ」
私が言うと、幽々子は表情を変えずに言った。
もしかして、病室のお菓子が食べられて捨てられていたが、幽々子が食べたのだろうか。
「……」
何か言おうと思ったが、私が口を出すことでもないだろう。本人は表情に出さないが、内心は傷ついているに違いない。だから、黙っていることにした。
「……それじゃあ、私は帰ろうかしら」
幽々子はそう言うと、ゆったりと消えて行った。
「……じゃあ、私も帰るわね……それじゃあ…映姫、よろしくね」
私はそう言い残して神社に帰宅することにした。
「まったく……ヘタレですね」
私の横を飛ぶ少女が厳しく言い放った。
「……返す言葉もないぜ」
箒にまたがって飛ぶ私はうつむいて呟く。文に会いに行ったが会う前にやはり断られてしまった。
「霊夢さんは、こちらから行かないとだめだって言ってるじゃないですか」
さとりがまるで映姫の説教のように話し出した。
「…はい」
「…霊夢さんはあなたのことになると、急に不器用になるんですから!魔理沙さんがアタックしないことには霊夢さんは気が付きませんよ」
さとりが萃香と戦ったときと似たようなことを言った。
私がさとりと空を飛んでたあの時、さとりは檻で私が話していたことでいくつか勘違いしていますと言って私が霊夢にしていた誤解を解いてくれた。
「……面目がないぜ」
私は、ヘタレすぎる自分に思わずため息が漏れてしまう。
「しかし、あれですね……魔理沙さんといると嗜虐心がくすぐられますね…」
「…止めてくれよ……いじめはよくないんだぜ」
小さいころ、そのせいで霊夢にずいぶんといじられたのを思い出した。その時の霊夢が言った言葉が、いじりたくやっちゃう性格のあんたが悪いと言ったことが衝撃的過ぎて今でも覚えている。
「…余計なお世話かもしれないですけど……いつまでもこのままというわけにはいきませんよ」
「…ああ……わかってる」
私の声のトーンが下がった。
「……私が口を出せる問題ではないですが……一生もやもやするのよりはいいかと」
「……ああ」
私は覚悟を決めて強く言った。
今日、霊夢さんたちが妖夢にお見舞いに来たと師匠から聞いた。私とは入れ違いになってしまったらしい。
いや、違う。
自室の洗面台で顔を洗いながら私は自分の考えを否定した。
顔を上げて鏡を見ると、やつれた自分の顔が目に入った。髪の毛の手入れが行き届いておらず、ボサボサだ。
霊夢さんたちの波長が見えたから、私は逃げたのだ。合わせる顔がなかった。
「………点滴の確認しないと」
私は疲れ切った声で呟き、タオルで顔を拭く。
気分を変えたかったが、どんよりとした気分は相変わらず私にのしかかってくる。
重い足取りで妖夢の病室に向かい、ドアを開けた。
いつも通りに眠っている妖夢が視界に入る。
点滴の中身はほとんどなくなっていて、私は手早く交換した。
「……妖夢…」
私は血色があまりよくない手を妖夢の頬に触れさせた。
半霊であるため体温が低く、ひんやりとしている。
熱いものが私の内側からこみあげてきて、涙腺から分泌された涙が目からこぼれて私の頬を伝った。
私に力があれば、あの時妖夢と逃げられたのかもしれない。
何全開と繰り返してきた自問自答。決まった答えしかないそれが頭をよぎる。
私は頭からその考えを振り払った。
「…お休み、妖夢」
妖夢に語り掛け、病室を出た。時刻は十時を回っていて、師匠の診察室以外に明かりはついていない。
あの師匠が治せないなんて、おそらく妖夢はもう起きることはないんだろう。
私はそう思いながら師匠の居る診察室に向かった。
診察室のドアをノックして師匠の返事がしてから開け、失礼しますと言って頭を下げて中に入った。
「…師匠……すべて確認が終わったので、すみませんが…先に休ませてもらいます…」
「…ええ。お疲れ様……それより鈴仙…ちゃんと眠らないと集中力を保つことはできないわ。医療を携わる者として、睡眠不足で注意力が散漫になるのは控えて頂戴」
師匠が眺めていたカルテから顔を上げて、言った。
「すいません…師匠……」
師匠が小さくため息をつき、休んでいいわと言った。
私は頭を下げてから退室し、ドアを閉める。
「………」
自室に向かってゆっくりと歩きだす。
眠りたくない。
私はそう思う。次に寝たら、私は二十九人目の妖夢を殺すことになる。
そんな夢は見たくない。
だから、私はこの頃は眠らないようにしている。
「…ん?…鈴仙か」
てゐが正面の廊下を曲がってきて言った。
「…うん……お休み」
私はてゐの横を通り過ぎる。
「…ああ。お休み」
てゐがつまらなさそうに言って師匠の診察室の方に向かっていく。
この頃は、私がこんなんでいたずらのし甲斐がなくてつまらないのだろう。
わたしはゆっくりと自室に向かった。
「……」
鈴仙がドアを閉め、私は持っていたカルテに再度目を落とした。
前回のデータと前々回のデータなどが書かれた紙も引っ張り出してきて並べて眺める。
しばらくすると、ドンドン!とつよく診察室のドアが叩かれた。
この叩き方はてゐだろう。
「師匠~!」
てゐが私が返事をする前にドアを乱暴に開け放つ。
「てゐ、いつも言ってるでしょ…ノックしてるのに返事を返す前に入ってきたら、ノックしてる意味がないでしょ?」
「そんなことはどうでもいいよ!!」
そんなこと…。
私はあきれながらも、机に向けていた体をてゐの方向に向けた。
「で?……なに?」
「鈴仙にいたずらを仕掛けようとしても、あんなんでショック死しそうでできないから……あたしゃイライラが溜まってるのさ…!」
「あんたはもうすこし自重しなさい」
私はそんな相談には乗っていられないと、机に向き直った。
「…鈴仙も半霊が一人寝込んだっきりになってるだけでなんであんなに落ち込んでるの?」
てゐが落ち着いた様子で私に言った。
「…てゐ、たぶん…あんたにはわからないことよ」
てゐも異変の時に萃香につかまっていた。掴まるときに見せしめで何人かウサギを殺されているが、特に気にしている様子はない。冷たいというよりも自分とほかのウサギを割り切っているからだろう。
「皆……あんたみたいな性格じゃないわ……鈴仙はいつまでも気にするタイプだからね……それに、自分にとってかけがえのない存在の人があんなふうになっちゃってるからね」
「……ふーん。たしかにあたしにゃ理解できないかもね」
てゐが言いながら患者が座る椅子に腰かけた。
「…それで、白髪の方はどうなの?」
てゐが座る椅子は上部が回るもので、床を蹴ってクルクルと回りながら言った。
「…妖夢のこと?」
私は引き出してきたデータをもう一度眺めて呟いた。
「…どうなの…ねぇ」
私が呟いた時、てゐが立ち上がってカルテをのぞき込む。
「……鈴仙には…?」
「…まだ伝えてない、もしもの時…あの子はまた落ち込んじゃうからね」
「……かもね」
「はあ…」
私は神社に向かいながらため息をついた。
映姫の居る場所とこちらは時間の流れが微妙に違うため、すっかり暗くなってしまった。
しかし、私がため息をついたのは別の理由だ。
今回のことは私が断っても無理やり向こうが決めてしまうだろう。
数日前、博麗家の本家から送られてきた一通の手紙。中は一枚の写真と文章が書かれた紙。
文章に書かれた内容は簡単に説明するとこうだ。
あんたが結婚したい人がいないなら、この男と結婚してもらう。PS拒否は認めない。
どこの男かもわからないやつと結婚などしたくはない。だが、私が結婚して娘を生まなければ幻想郷の結界が解けてしまう。そうなれば、それは私だけの問題ではない。
「はあ………」
またため息が漏れた。
こうなるのが嫌で、周りとの交流をしてはいけないという規則を破って周りとの付き合いを始めたのに、
「知り合いが女の子しかいない……!!」
唯一、霖之助さんがいるが、彼は半分が妖怪で半妖の彼のことを本家は知っている。許されるはずがないというか断られる。
魔理沙のことが思い浮かんだ。
どうせ結婚するなら。
「魔理沙とがいいな………」
私は無意識のうちにそう呟いていた。
でも、周りの目を特に気にする本家ならば確実に反対するし、子供が産めなければ同じことだ。
いっそ女の子同士でも子供が産める術とかがないかしら、と物理法則を無視した考えをし始めて現実逃避をしていた。
こればっかりは私がどう考えても無理かもしれない。
「…はあ…」
ため息をついた時、博麗神社を通り過ぎていたことに気が付き、私は引き返して神社に向かう。明かりは消えており、魔理沙がいる気配がしない。
幸いなことに、まだ時間はある。魔理沙のことは知らないだろうし、時間があるうちに何とかしなければならない。
そう思い、私は神社の自室の縁側に降りた。
障子を開けると私の布団で魔理沙が寝ていた。自分の布団を出すのが面倒とかそんな理由だろう。
私は魔理沙に近づき、魔理沙の顔を除き飲んだ。いつみてもかわいらしい寝顔だ。いつまでも見てて飽きない。
でも、夕飯とかはどうしたのか聞くため、肩を揺らして起こした。
「魔理沙…起きて…寝るのは早いわよ」
「…うーん」
魔理沙が唸る。
一度、私は魔理沙を起こすのを諦めた。夕飯を作っていなかった時のために作ろうと思ったのだ。
台所に行き、暗い部屋を明るくするために裸電球の光を付けた。
「……これ…」
手つかずのままの二人分の料理が冷えた状態で机の上に残っている。魔理沙はこの場所でずっと待っていたのだろうか。
「……」
「…待ちくたびれたぜ…霊夢」
起きた魔理沙が後ろから声をかけてきた。
「…ごめん。行った場所が遠くて、時間がかかっちゃったわ…」
「大丈夫だ。…それより、飯を食おうぜ」
魔理沙が元気に笑っていってくれた。
「うん」
私も笑って返事を返した。
温めなおした料理を再度机に並べ、椅子に腰かけた。
「「いただきます」」
私と魔理沙は手を合わせて言い、料理を食べ始めた。
「……」
魔理沙の料理には珍しくきのこが入っておらず、肉や野菜を使っていて気合が入っている。
肉の香ばしい香りにご飯が進む。
いつも通りに話をして、料理を食べ終わった。お風呂なども済ませていると、時間はいつの間にか十二時となっていた。
「…魔理沙、明かりを消すから布団に入って」
私は言いながら電球の明かりを消すボタンに手をかざして言い、あとはボタンを押すだけとなる。
「…霊夢。言いたいことがあるんだぜ」
魔理沙が真剣な顔で言った。
「…?…どうしたの?」
私が言うと、魔理沙がまっすぐに私の目を見つめた。
「……………私は、霊夢が大好きだ…ずっと昔から…」
私はそれを聞いた時、心拍数が急激に増え体が熱くなる。
「…女の子同士でおかしいってこともわかってる。……でも、お前が結婚する前に言っておきたかったんだぜ……」
魔理沙はそう言った。
本家から手紙が送られてきたのは数日前、タイミング的に魔理沙が手紙の内容を見ていつ結婚するかわからない私に後腐れの無いように自分の気持ちを伝えたかったのだろう。
「…霊夢なら…気が付いてると思うが……手紙の中身を見ちまった……すまない………嫌われてもいいから……これだけでも伝えたかった」
魔理沙が言い、うつむいた。
この告白に魔理沙はどれだけの勇気を振り絞ったことだろう。
女の子が男の子に告白したり、男の子が女の子に告白するよりも勇気が必要だろう。女の子が女の子に告白するなんてことは聞いたこともないのだから。
私は緊張で心拍数が上がり、私も言いたかったことがあるのに舌が石になってしまったかのように動かない。
「……」
しばらくの間、部屋の中の沈黙が続き、時計の秒針が一秒間隔で動く音や風の音が嫌に大きく聞こえてくる。
魔理沙を見ると、膝のあたりの服を掴む魔理沙の手が緊張で震えている。断られると思っているのだろう。
「魔理沙」
私が魔理沙に近づき、震えている両手に触れた。俯いている魔理沙が顔を上げ、私を見た。
「…私も、あなたのことが大好きよ、魔理沙」
私がそう言ったとき、驚いたような顔をした後、魔理沙は嬉しそうに涙を流して私に笑いかけた。
綺麗だ。私はそう思って見とれていた。その笑顔を私は死ぬまで忘れないだろう。
私は気が付くと魔理沙を自分の近くに引き寄せていた。
「れ…霊夢……?」
「…魔理沙のことを…私は自分が思っている以上に好きみたいね……」
私は魔理沙の顔に顔を近づけようとしたが、魔理沙が私の肩を掴んで私を引き離した。
「……嫌?」
「…いや……そういうのじゃなくて……こ…心の準備が…」
魔理沙がさっき以上に顔を赤くしてうつむいた。
私は私の肩を掴んでいる魔理沙の手を掴み、指を指の間に絡ませて握り、魔理沙を押し倒して床にいたくない程度に押し付けて逃げられないようにしていた。
「霊夢……お願いだから…少しだけ待ってくれ」
魔理沙の華奢な体が少しこわばっていて、緊張しているのがわかる。
しかし、数年間の思いが爆発して自分を制御することができない。
「ごめん、無理………私だって…ずっと好きだったから…」
私は顔を下げて魔理沙にキスをした。
魔理沙の艶めかしいしっとりとしてプルリと柔らかい唇の自分の唇が合わさる。
私と魔理沙の唾液が混ざり合い、二人のの唇を濡らした。
お互いがぎこちなく、うまいとは言えないがはじめてにしてはよかったのではないかと思う。
魔理沙から口を放そうとしたとき、
「霊夢、読んだけど聞こえていないようだかったから、かってにあがらせてもら……」
映姫が寝室の扉を開けて現れ、こちらを見て凍り付いた。
状況その一。私が魔理沙を押し倒している。
状況その二。魔理沙は押さえつけられて泣いている。
状況その三。その魔理沙の唇を奪っているのは私だ。
誰がどう見ても、私が我慢できずに魔理沙を襲っているようにしか見えないだろうなぁ。
こちらに無言で近づいてきた映姫が持っている悔悟棒で私の頭をひっぱたいた。
「いたぁっ!?」
私は映姫に首根っこを掴まれて魔理沙から引き離される。
「ちょっとまって!!お願いだから話を聞いて!!」
私が必死に弁解しようとするが映姫は既にお説教モードになっているらしく、霊体を裁くときのように、一切こちらの意見を取り入れる気はないようだ。
「…ちょ…!ちょっと待ってくれ!」
魔理沙が映姫の正面に回り込み、映姫を止めてくれた。
映姫が被害者だと思っていた魔理沙が止めたのだ、さすがに映姫は歩みを止めた。
「どうしました?これから今回の休日をすべて使って説教するつもりですから、要件を手短にお願いします」
映姫が魔理沙に笑いかけながら、私が寒気するようなことを言った。
あのくそ長く、説教が始まればハイしか言えず、ぐうの音も出ない正論を永遠とされる説教をどれほどの長さかわからないが、映姫の休日が終わるまで私は説教されるのだ。こんなのぞっとするわ。
「霊夢は悪くないんだぜ!」
「…では、あなたが悪いのですか?」
「いや…おまえが悪い!!(?)」
魔理沙の発言がいろいろとおかしい、その発言では根本的な問題の解決になっていないし、それ以前に何が言いたいのかわからない。相当テンパっている。
「…そうですか。ついでなので…あなたも霊夢と同様に説教します」
映姫が左手に持った悔悟棒で魔理沙の頭をひっぱたき、うずくまったところを小脇に抱えられた。
「待ってくれ映姫!お前は誤解してるんだぜ!」
魔理沙の発言を無視して、私たち二人を縁側に連れ出して正座させた。
「ちなみに、私の休日は人間界の時間で三日です」
決まった。私たちは衰弱死する。
「さてと、始めましょうか」
映姫が見たこともないぐらいに生き生きとした様子で言った。
「映姫、私たちの話を聞い…」
魔理沙が何かを言おうとしたとき、映姫に悔悟棒で頭を殴られた。
「許可なくしゃべらない」
映姫が言い、説教を始めた。
「…そもそもあなたたちは…」
映姫が説教を始める。
泣きたい。私は既に別のことを考えていると感づいた映姫に悔悟棒で頭を二度殴られた。
霊夢と魔理沙が映姫に説教を受ける前。
「……」
私は一体何をしているのだろうか。
この二か月間。わたしはなにもしていない。部屋から一歩も出ておらず、ご飯も食べていない。食事がろくに喉を通らないのだ。風呂関係などは魔力で何とかした。
何年も使い続けたカメラが机の上で埃をかぶっている。
「……」
数日間、ずっと同じ体勢で座っていたため筋力が低下していて体が重く感じる。
机の上に置かれているカメラを手に取り、埃をはたき落とした。
ずっと同じ体勢で座っていた私の肩や髪の毛にも埃がかぶっていて、それもついでにはたきおとした。
「……」
もう、いっそ死んでしまった方が楽なのだろうか。
「……はあ…」
どうせそんな度胸はない。
集めた情報などが書いてある手帳を拾い上げ、開いた。
日付が二か月前の異変で終わっている。
「……」
私は上から数えた方が早いが、そこまで強い妖怪というわけではない。しかし、妖怪であればあるほど死というものから離れていく。ゆえに、私は何百年という時を椛と過ごした。
悲しくないわけがない。私にとって椛は普通の部下ではない。もっと大切な存在である。
「……」
でも、もう彼女の笑顔を見ることも、彼女を抱きしめることもできない。涙が滲み、服の袖で涙をぬぐった。
「…あの時……私も死んでいればよかったんだ………」
私は呟き、カメラを机に置いた。
真っ暗な私の部屋にいきなり光がさして明るくなった。
「……?」
ちょうど、真後ろに位置するドアの方向を見ようとした。
「…ちゃんとご飯食ってますか?……文」
「……え……?…も……椛…?」
幻覚でも見ているのだろうか。椛が死んだことは私がこの手で確認した。なのに、椛が私の目の前にいる。
あまりにも現実味がなさ過ぎて信じきれない。でも、もし現実だとしたら、誰かが化けていると考えた方が自然だ。
「…私が…椛に初めて会った場所は?」
私は本物か確かめるために椛に質問した。
「……。……256年前の今は紅魔館があるところの近くにある池だ」
このことを知っているのは私と椛だけだ。
「…ほ…本物なの……?」
私はヨタヨタと椛の方向に近づいた。
「ああ。…文……迷惑かけて…ごめん…」
椛が私のことを抱きしめてくれた。
「……椛……ずっと…会いたかった………!!」
暖かい椛の体温を拭く越しに感じ取ることができる。
ダムが決壊したように、涙が止まる気配はない。
「私もだ……死は……さみしすぎるよ…」
椛も声が震えていて、涙を流しているのがわかる。
「もう、どこにも行かないで……!」
私は椛をもう離さないと強く抱きしめる。
「どこにも行かない……いきたくないよ…!」
椛は私の頬に軽くキスして、私を抱きしめた。
私は椛のことを放したくはなく、抱きしめ続けた。
私はうっすらと周りが明るくなってきたころ、手を挙げて言った。
「…発言の許可を…」
映姫が説教を中断して言う。
「許可します」
やはり、こうやって許可を求めれば、理由を話すことができる。
「映姫は何のために神社に?…説教をするためじゃあないでしょう?」
「……そういえば、いつの間にか目的を忘れていました。…説教の後にと思いましたが、それでは遅いですし……ちょうどいいので話をしてしまいましょう」
映姫が続けて言った。
「……彼は椛を生き返らせると言っていました。地上への干渉はいけないことだそうですが、今回は特別だそうです」
「…そう。ならよかった」
「…いったい何の話だ?」
隣に座る魔理沙はそこまで詳しい話を映姫から聞いていないのだろう。首をかしげて疑問を示した。
「…立ち直ることのできない文のために、私に椛を生き返らせてくれと無理難題を押し付けてきたんですよ」
「…押し付けてないわよ……頼んだだけよ」
私は心外だなと言いたげに映姫に抗議した。
「そうか……これで文も立ち直れるといいな」
元々この手の話は知っていたのだろう、魔理沙はすぐに理解して嬉しそうにいった。
「それじゃあ、要件は住んだということなので、説教を再開させていただくとします」
「…くっ…」
気をそらす作戦は失敗し、私は歯噛みした。
「私も発言の許可を求むぜ」
魔理沙が手を上げて言った。
「許可します」
「…映姫は誤解してるぜ……霊夢は悪いことは何もしてないんだ」
「……」
映姫は聞こうと魔理沙に続きを促した。
「そもそも、霊夢に私が告白したせいなんだぜ」
「……ふむ。…他人の恋愛に首を突っ込むのは………出過ぎた真似をしましたね…でも、あなたたちも紛らわしいですよ。あんな状態では襲われているようにしか見えないですからね」
「すまないんだぜ……舞い上がっててな」
「…私も早とちりしすぎました…すいません」
映姫が頭を下げた。
「いや、私たちも悪いから映姫が謝る事じゃないでしょう?…まあ、始めにわけぐらいは言わせてほしかったけどね」
「…ふむ。…確かに次からは善処しましょう」
映姫はそう言うと神社を去っていった。
「四時間の正座で足がしびれてるぜ……」
魔理沙が縁側から両足を出してプラプラと揺らしながら言う。
私は正座する機会が多いため、それほどひどくなない。
現在の時刻は午前四時、どうりであたりが明るいわけだ。
「ごめんね魔理沙…私のせいでこんなことになっちゃって……」
「…大丈夫だよ…私だって……」
魔理沙が映姫が現れる前の出来事を思い出したのか、赤面して口ごもる。
「……魔理沙」
私は後ろから近づき、両手で魔理沙の頬を両側から触れ、上を向かせた。
「…?」
私を真正面から見てさらに魔理沙がリンゴのように真っ赤に赤面する。
「もう一回、しましょう?」
私が言うと、魔理沙は赤面して恥ずかしそうにしながらも、うなづいてくれた。
魔理沙の柔らかい唇が再度私の口に触れた。
お互いの気持ちを確かめあうようにキスし続けた。
いつも通りに私は朝一で妖夢の病室に向かった。今日はいつもと変わらない一日が始まる。
朝、病室に行けば妖夢が何事もなかったかのように起きていてくれるのではないだろうか。そんな甘い考えをしなくなったのは看病をし始めて何週間目のことだっただろうか。
まあ、この考えも何回目かわからないな。私は新しい点滴を保管している場所から液体の入った袋を取り出し、棚の扉を閉めた。
「……」
ちらりと鏡をのぞくと、昨日よりも隈が酷くなっている。
どおりで眠たいわけだ。
魔力を使って脳を活性化させて眠気を飛ばして妖夢の病室に向かった。
人の気配を感じる。師匠が来ているのだろう。波長からしてそうだ。私は妖夢の病室の扉を開けて中に入った。
「………え?」
ベットに寝ているはずの妖夢がいない。点滴を立てかけて置く物さえなくなっている。
ベットを囲う薄いカーテンの後ろから、私に気が付いた師匠が出てきた。
「師匠っ!!…妖夢は一体どこに……!?」
まさか、昨日私が自室に言った後、容態が急変してしまったのではないかと、不安がよぎる。
「落ち着きなさい、鈴仙……いい?」
師匠の真剣な様子に、私の不安はさらに大きくなる。
「…師匠…妖夢は…どうしたのですか…?」
「落ち着いてよく聞いて……妖夢は……」
師匠がゆっくりと話し始めた時、扉が勢いよく開いた。
「すみません。お風呂いただきました!」
いつもの服装に着替えた妖夢が元気よく扉を開けて病室に入って来る。
「…え…?……妖夢…?」
いきなり現れた妖夢に私の頭は混乱し始めていた。
なぜ妖夢が起きているのだろうか、師匠からはいつ聞いてもよくはなっていないと聞かされていたからだ。
「鈴仙、お待たせ」
妖夢が私に優しく微笑んだ。
「…そんなこと……」
妖夢が起きたら何を話すとか、どうやって謝ろうとかをずっと考えていたのに、いざ妖夢に話そうとなると、涙で視界が歪み、嗚咽で何も話すことができなくなってしまっていた。
「…ずっと、私はこの時を待ってた」
妖夢が泣きじゃくる私に語り掛けた。
「……あの時、鈴仙にすべて背負わせるみたいにしてごめんなさい…今まで、大変だったよね……?」
私に近づいた妖夢は私の頬に触れた。
「……私も…ごめんなさい……何も…できなかった……!」
「…そんなに自分を責めないで……私だって悪い………」
私は近づいてきた妖夢に抱き着き、妖夢も私のことを抱擁してくれた。
「若いっていいわねぇ…」
師匠のそんなつぶやきも聞こえなくなるぐらいに、私は泣いていた。
しばらくしてから、妖夢が言った。
「鈴仙、これからもよろしくね…」
長髪になった妖夢が笑い、それにつられて私は数か月ぶりに笑った気がした。
「………跡取り……どうしよう」
私は手で顔を覆って嘆いていた。
「そんなに落ち込むなよ…霊夢」
私の肩を魔理沙がポンポンと叩く。
「…でも、早く何とかしないと……本家は私の気持なんか知ったことじゃあないんだから…」
はあ、と私はため息をついてどうにかするために考えるが、なにも思い浮かばない。
「…大丈夫だ霊夢」
「…?どうして?」
「…私が、女の子同士でも子供が産めるようにするんだぜ!!(?)」
魔理沙がまた訳の分からないことを言い出した。
「……酔ってんの?」
「失礼な!私は酔ってないぜ!」
「寝言は寝てから言いなさい」
「……そんなことを言うなら……絶対にその魔法を作ってやるからなぁ!!」
魔理沙が私に人差し指を突き付けて言った。
「はいはい、楽しみにしてるわよ」
そんな魔法は聞いたこともない、魔理沙は当てにしないでおこう。
私は本気でどうにかするために考えをまとめ始めた。
「ちくしょー!覚えてやがれ霊夢!!」
魔理沙が捨て台詞を残して寝室に走っていった。
「……」
「…………」
「………………」
異変が終わったあの後、小傘を探したら、きちんと彼女は生きていた。
何でも、ぬえに助けられたとか。自分のようにだれがどこで見ているかわからないため、能力を使って小傘を殺したことにしたらしい。
「…」
早速考えが脱線していることに気が付いた私は、考えを修正した。
あの叔母のことだ、跡取りを作らなければ私の意志なんか無視するにきまっている。
「……」
あの人たちの言うことなんて聞きたくもない。でも、力技で来られたら、引退しているとは言え実力は私よりは数段上だ。速攻でボコボコにされて連れていかれるにきまっている。
私が唸っていると、声をかけれた。
「…霊夢さん」
「……ん?…あ、文…!?…どうしたの?」
私は驚きながらも聞いた。
「……椛から聞きました。霊夢さんが頑張ってくれたって」
「…私じゃなくて映姫にお礼を言いなさい。私は何もしてないわ」
私が言うと文が頭を下げながら言った。
「…でも、ありがとうございます」
さっきまで真剣そうな顔をしていたのに、顔を上げると文がいつものふてぶてしい顔になり、カメラを取り出した。
「それで、霊夢さん……魔理沙さんとはどこまで行ってるんですか?」
こいつの情報収集能力高すぎではないだろうか。
「どうもないわよ」
私が突っぱねると、文がニヤニヤと笑いながら手帳を取り出した。
「えー?本当ですか?」
そこに挟んである一枚の写真を取り出す。
「…?」
「明日の新聞の表紙はこれで決定ですね」
文が言いながら私に写真を見せた。
「………………え?」
私の思考が停止する。文が出した写真は私が魔理沙に覆いかぶさって唇を奪っている写真であり。完全に私が襲っているようにしか見えないあれだ。しかし、こいついつ写真を撮ったのだろうか。
「しっかりと進展があるじゃないですかぁぁ」
文が目を輝かせて言う。
こいつ、すっかりといつもの調子に戻ってやがる。
「ち……違うわよ…それは……あやまってこけた拍子にそうなっちゃっただけよ!」
私がなんとかして文から写真を奪うための時間稼ぎをしようしとしたとき、魔理沙が寝室から走って来た。
「霊夢~!!作ってやったぞ!女の子同士でも子供が産める魔法を……な…?」
文を見た瞬間に魔理沙の顔が見る見るうちに青くなっていき、それと反比例するように文の顔が満面の笑みとなっていく。
「…最悪ね……タイミングの悪さ…!」
私が言ったとき、文が翼を広げた。
「これで明日の新聞の売り上げはぶっちぎりで一位ですよ!ありがとうございまーす!」
文が飛び出そうとしたが、私は何とか魔理沙と一緒に文を押さえ付ける。
「やめろぉぉっ!!それを新聞に出されたら私たちは死ぬ!社会的に!!」
魔理沙が必死になって文を羽交い絞めにした。
「冗談ですよ。私だってそこまで鬼ではありませんから」
「じゃあ、早く写真をよこせ!」
魔理沙が文から写真をひったくり、ビリビリに引き裂いた。
「…今日はそんな感じでお礼を言いに来ただけです。それでは」
文はそう言うと翼を広げて飛び去った。
「…何とかなったな」
「……ええ。…それより、さっき言ってたことは本当なの?」
「ああ。完成したぜ……」
魔理沙が自信満々にふふんと笑いながら言った。
「……だいぶ前にパチュリーから聞いたんだけど、新しい魔法を作るのってものすごく難しくて、何年もかかるって聞いたんだけど」
「……………」
私の質問に魔理沙は無視を貫く。
「……あんた。私と子供を作るなんてことを何年も前から……」
「いうなぁああああああああああっ!!」
魔理沙の絶叫がよく響き渡った。
この時はまだ半信半疑だったが、数年後、娘になんで私にはお父さんがいないのにお母さんが二人いるのという質問に苦笑いするしかないなんて、今は思ってもいなかったわけだが。
明日、番外編その②を投稿すると思います。