「れ…霊夢さん…!」
大妖精がチルノとは反対に震えた声で言い、後ずさる音がした。
「やっと来たな霊夢!昨日からずっと待ってたんだ!さっそくさいきょーのアタイとしょーぶだ!!」
チルノがその自信はどこから来るのだろうかと思うことを自信満々に叫ぶ。
「チルノがいくら強くても私たち妖精の中だけだよ。だから、霊夢と戦わないでよ!」
ルーミアも随分と交戦的なチルノを止めようとしている。
「駄目だよ!アタイ達が戦わなくて誰が戦うのさ!」
チルノが言うと二人は口をつぐんでしまった。
「…もういいかしら?」
私は言いながらとある札を壁に貼り付けた。
張り付けられた札は光を放ち、一定の範囲を明るく照らした。
やはりいたのはチルノと大妖精、ルーミアの三人だ。
青い髪といつもの青い服装をしたチルノが黒い服を着た金髪のルーミアと水色の服を着た緑色の髪の大妖精の前に立っていた。
そのチルノをルーミアと大妖精が二人がかりで私の方に行かないように引っ張っている。
「チルノちゃん!下手をしたら霊夢さんに消されちゃうかもしれないんだよ!?だからやめてよー!」
大妖精が必死にチルノの手を引っ張っている。
「…霊夢さん。どうします?」
後ろの早苗が私に呟いてくる。
「どうもこうもないわ。戦うようだから戦うだけよ」
一歩前に出ると、今まで戦うと意気込んでいたチルノがビクリと体を震えさせた。
ルーミアと大妖精も体が凍り付いたように動きを止めた。
三人の顔が蒼白になっていき、恐怖で歯がカチカチと合わさっている。
ゆっくりともう一歩まえに進むと、ルーミアが髪の毛に結ばれている赤いリボンのようなものをビクリと震わせ、大妖精も今にも泣きだしそうなぐらい涙が目にたまっている。
「くっ…!あ…アタイは霊夢を倒して…本当のさいきょーになる!」
チルノが震える手で私を指さして叫んだ。
瞳孔が開いていて、呼吸も荒い。極度の緊張状態だということがうかがえる。
チルノが背中の左右に三本ずつある氷の結晶を翼のように展開し、こちらに弾幕を飛ばしながら突き進んでくる。
「霊夢ぅぅ!アタイに倒されろーーーー!!」
足元や壁、天井にチルノが飛ばした矢じり状となった氷が突き刺さり、ヒビが広がって小石がパラパラと上から落ちてきた。
私に当たるものや後ろの二人に直撃するコースにある氷をひとつ残らず魔力で強化したお祓い棒でたたき割った。
チルノが氷の剣を形成、氷の矢じりに紛れて私に切りかかってきた。
ガツンと私のお祓い棒にチルノの剣が合わさった。
少しの間、鍔迫り合いのような状態となっていたが、私が振り払うようにしてお祓い棒を振ると、チルノの剣があっさりと根元から折れた。
「アタイの剣が!?」
チルノが根元から折れた剣を見つめ、下がって修復しようとした。だが、下がるチルノにピッタリとくっついて後を追う私に新しく作った方が早いと判断したらしく、さっきより丈夫そうな氷の剣を作り始める。
私がお祓い棒を持っている手を上げ、振り下ろした。チルノの頭に直撃するコースの一撃だ。
「くうっ!」
チルノの剣の方が私のお祓い棒よりも早く形成された。
だが、焦って強度を落としてしまったらしく、お祓い棒が触れたとたんに簡単に砕け散った。
バシッ!
チルノの頭頂部をお祓い棒でぶっ叩いた。殴られたチルノは叩きつけられるように地面に倒れた。
「チルノちゃん!」
「チルノ!」
大妖精とルーミアがチルノに駆け寄った。
大妖精がチルノを抱き起し、ルーミアが闇を操る程度の能力で私の視界を真っ暗にする。
だが、目が見えないだけで残りの四つの感覚は生きている。空気の動きを肌で感じ取り、服の擦れる僅かな音を耳で感じ取っておおよその場所を掴み、私がお祓い棒を振り下したらどこにいるかを感で割り出し、後はそこの座標に向けて全力でお祓い棒を振るだけだ。
バキッ!
横方向に振ったお祓い棒はルーミアの頭に正確に当たったらしい。
「いぎゃっ!?」
ルーミアが悲鳴を上げて壁にぶつかった。
気絶したらしく、ルーミアの能力が解けた。視界が元に戻り、ルーミアを見ると洞窟の側面の壁にもたれるようにして気絶している。
大妖精の方を見るとさっきの場所からまったく動いていない。
「…霊夢さん……!」
大妖精が怯え、震えている。
私は大妖精の目の前まで行き、しゃがんだ。
「…ひっ……!」
怯える大妖精の額に札を張り付けた。
「封」
私の札により状況を理解していなかった大妖精が電流が流れたように震え、気を失った。
抱きかかえていたチルノに大妖精は覆いかぶさるように倒れた。
「…霊夢。妖精が相手でも容赦はしないのね」
永琳がルーミアを起こして平らな地面に寝かせた。
「…ええ。妖精と言っても、地形や状況次第では…下手をすればこっちがやられるわ。……とくにこの子たちならなおさら」
ただの妖精が私と鍔迫り合いができるほどの剣を作り出したんだ。油断できるはずがない。
「……まあ、そうね……どんなに弱い相手でも戦いである以上は油断した方の負けだものね」
永琳と早苗が大妖精とチルノをルーミアと同様に寝かせた。
「…行きますか」
早苗が行先の真っ暗闇の洞窟の方を見ながら言った。
「そうね」
短く答え、二人の先頭をさっきのように歩いた。
「……」
百メートルほどの距離を一時間ほどかけて進み、ようやく洞窟から抜けて視界が開けた。
「…ついたわね…旧都に」
私が言うと早苗と永琳が周りを見た。
「…私たちを別の意味で歓迎をするために、いる鬼がいるみたいですね」
早苗が言い、お祓い棒を握りしめる。
河童の時よりも多い鬼たちが周りを囲っている
萃香たち同様に体は人間だ、だがさまざまな形のツノが頭部のどこかから生えている。
「…やるわよ」
私が言うと二人ともいつでも交戦できるようにお祓い棒と弓を構えた。
「…こいつらを予定通りに十分で捉えるぞ!」
鬼の誰かが叫び、五十人はいる鬼たちが一斉に襲いかかってきた。
私はお祓い棒に魔力を溜めた。
一番初めに走ってきた鬼を上からぶっ叩いた。
体も最高まで魔力で強化された状態の一撃によって、鬼の頭部が丸ごと地面に埋まった。
「ぎゃぁっ!」
次に同時に襲ってきた二人の鬼のうち片方の腕を捻り上げ、もう片方の両腕をお祓い棒で殴り、折った。
聞いていて気分が悪くなるような破砕音を響かせ、鬼の両腕があらぬ方向へとねじれて曲がった。
自分の両腕が折れたことが信じられないらしく硬直している鬼を蹴り飛ばした。
腕を捻り上げた鬼の腕を限界以上に捩じり折り、風よりも早く鬼を三度殴り、四度目でほかの鬼に向けて殴り飛ばした。
その時、私の後ろから襲ってきた鬼が永琳の弓矢で肩を撃ち抜かれ、壁に縫い付けられた。
早苗も弾幕やお祓い棒を駆使して鬼を吹っ飛ばす。
流石は鬼だ。私のように徹底的にやらなければ何度でもこちらに向かってくる。
札を取り出し、できるだけ鬼の人数が多い方に投げた。
私の札が飛んできたことにより、鬼たちが動きを止めたがそれが地面に張り付き、自分たちを狙ったものでないことに気が付き、突っ込んでくる。
「爆」
私が詠唱すると札の一枚一枚が膨れ上がり、爆発した。
下からの爆風に札のあたりにいた5,6人ほどの鬼たちが空中に投げ出された。
その鬼たち一人一人に正確に札を投げて張り付ける。
「封」
地面に落ちる前にすべての鬼が意識をなくし、地面に落ちた。
「霊夢さん!物凄く数が多くないですか!?」
早苗が言うのもうなづける、これでやっと三分の一いったか行かないかぐらいだ。
「…大丈夫よ。二人は下がって伏せてて」
私は霊力で作り出したカードを握りつぶした。
霊力で作られるこのカードは回路だ。
実戦ですぐに使えるようにあらかじめ用意しておき、使う時になったら霊力を流して使うのだ。
これをする目的は、普通の弾幕ではできない複雑な動きやそれをするための脳内の計算の負担の肩代わりや霊力を弾幕に変える効率を上げることだったりなど、メリットもある。
だが、プログラムに沿った動きしかできず、融通が利かないなどのデメリットもある。
霊力を消費し、大量の様々な色を放つ丸い弾幕が周りに現れる。
私がスペルカードを発動したことにより周りの鬼たちがうろたえ、動きを止めた。
「…スペルカード…霊符『夢想封印』……吹き飛びなさい」
今まで止まっていた弾幕が私の一言で目で追うことすら困難な速さで動き出した。
運の悪い鬼は弾幕に当たり、弾幕の爆発を間近で受けた。運のいい鬼は爆発に巻き込まれるか何とかして弾幕をやり過ごした。だが、前者の方が圧倒的に多い。
初めは五十人以上いた鬼たちも今では十人程度しかない。
戦闘の始まりは威勢の良かった鬼たちも今ではすっかり縮こまって後ずさりを始めた。
ようやく追い込まれているのは自分たちということを気が付いたらしい。
「くそ!逃げろ!」
後ろを向いて逃亡しようとした鬼から背中に札を張られて地面に倒れた。
「わ……私たちは命令されただけだ!見逃してくれ!」
三人ほどの鬼が近づく私に叫び、尻もちをついてズリズリと下がる。
「……どんな理由があろうとも、私と対峙した事実は変わらないわ」
ボギッ!
三人は一人残らず私にお祓い棒で頭を殴られた。鬼たちは地面に倒れ伏せ、気を失った。
鬼たちの予定通り、作戦は十分で終了した。作戦の失敗という形で。
「さすがですね霊夢さん。あの鬼たちを一方的に倒しちゃうなんて!…私も霊夢さんみたいになりたいですよ!」
早苗が私に憧れの眼差しを向けながら言った。
「……私みたいになりたいって言ったの?………私は強くなんかないわ……それに冗談でもおすすめはしないわ」
「え…?」
私が言うと早苗は驚き、困惑した。
私は倒れている鬼たちを避けながら地霊殿に向かった。
「…どういうことでしょう……?」
早苗が永琳に語り掛けた。
「さあね。……何かあったんじゃない?……話したくはないことの一つや二つ、あなたにもあるでしょう?」
「……そうですね…」
何かを話していた早苗と永琳はすぐに私の後を追って走ってきた。
地霊殿の場所は旧都の百熱地獄の穴の上に建てられている。その百熱地獄は旧都のはずれにあるため、だいぶ歩かなければならない。
鬼や幽霊などが溢れかえっていたが、今は誰もおらず、静まり返っている町の大通りを歩いていく。
しばらく歩くと紅魔館にも引けを取らないほどの大きさの館が見えてきた。
「…霊夢」
「わかってるわ」
永琳が由美に矢をつがえ、私と早苗を援護できる状態で下がり、私と早苗が左右に散らばった。
「…雛」
地霊殿の門の前に立っていたのは、地霊殿に全く関係ないはずの鍵山雛だった。
後姿ではあるが、ドレスのような赤い服と頭に付けた大きなリボンが特徴的で見間違えるはずがない。
彼女に近づきすぎると厄がこちらにも降りかかるため、これ以上近づかないようにした。
雛がこちらに気が付いたようでこっちを向いた。
「…………」
「……仮にも神であるあんたが…なんで萃香なんかに従っているの?」
私を見てから何も言わない雛に話を切り出した。
「…従っている?何のこと?」
雛は首をかしげて私に言った。
「とぼけないで、この場所にいる時点で萃香の仲間でしょう?」
私が言うと雛はさらに頭の上に?を浮かべている。
「スイカ……?…ああ、西瓜?……西瓜の仲間って…私は野菜じゃないわよ?」
「は?」
「え?」
雛がよくわからないことを言い出した。
何だろうか。張りつめていた空気が弛緩していくこの微妙な感覚は。
「…そっちの西瓜じゃなくて…伊吹萃香よ」
「ああ。そっち…で、萃香がどうしたの?」
鬼の方の萃香以外ないと思うのだが…。
「いや…。だから…あんたもあいつの仲間なんでしょう?」
「仲間…?……ああ、友人関係?……一応友達?なのかな?」
「は?」
「え?」
私は思い出してげんなりする。雛のこの会話は雛の素である。そのため、誤解されることも多いと聞く。本人には悪気がないからさらにたちが悪い。
私は一つ一つ丁寧に説明して、三十分ほどかけてようやく雛が異変に関係ないということを理解した。
「もう一度確認するわよ?雛、あんたは今回の萃香が起こした異変には関係ないのね!?」
「ええ」
なんだか、これから異変を解決しなくてはいけないのに、雛への説明だけで気力がごっそり持っていかれた気がする。
これも萃香の精神攻撃なのだろうかと思うほどに。
「…ならいいけど、あんたはこの場所で何をしていたの?」
「萃香に立ってろって言われたからかな」
「…え?」
早苗がぽかんと口を開ける。
それはそうだ、さっきまで自分は異変に関係ないと言い張っていたのに今は萃香に言われたから立っていると言った。
つまり、異変に関与していることを認めているのとおんなじなのだ。
だが、雛の言い方などが妙にひっかかる。
「ちょっと聞くけど、あんたは異変にはかかわってないのよね?」
「ええ。もちろん…あなたを敵には回したくはないもの」
「でも、萃香に言われてこの場所に立っていると」
「そうよ」
雛が余計な勘違いをしないように丁寧に離れた場所から言った。
「じゃあ、この場所に来るときにした萃香との会話は覚えてる?」
「萃香と話したことと言えば……何を言ってるかよくわからなかったから、聞こうと思って近づいて、不幸が萃香に降りかかって萃香にすごく怒られたのよ」
「…そ…そう…それで、どうかしたの?」
「なんだか、無理やりここに連れてこられて霊夢がここに来るまでいろっていわれたからずっといたんだぁ。そろそろ飽きてたからもう帰ってもいい?」
「……異変に関係ないなら、帰ってもいいわ」
「そお?じゃあねー」
雛はそう言い、鼻歌を歌いながら私たちに気を使って迂回して洞窟に向かって歩いていく。
「雛の家って…結構遠かったわよね?ここからどのくらいの時間がかかるの?」
「そうでもないわよ。時間はスキップで一時間ぐらいよー」
あいにくスキップで雛の家から地霊殿まで移動したことはないから全然わからないし、一時間もスキップをしてきたのか。
そう言いながら雛は歩いて行った。
「……」
緊張感のない微妙な空気が漂っていたが、地霊殿から感じる殺気に私たちは気を引き締めた。
たぶん明日も投稿すると思います。よろしくお願いします。