杉花龍一と新子憧の二人が学校出る頃には既に辺りは真っ暗になってしまっていて心もとない消えかかっている街灯の明かりを頼りにトボトボと目的地である松実館を目指す。
「で、なんで玄の家なわけ?」
「あれ言ってなかったか?実は部活が終わった後玄の家に行って麻雀の相手してもらってるんだよ」
「ふーん…」
理由を聞いた憧は何故か少し不機嫌になり素っ気ない返事をする。
「あんだよ?」
「別に…なんでもなーい」
「?、玄ー来たぞー」
憧の異変に気づいた龍一であったがその理由を尋ねる前に目的地である松実館の裏口に到着した。旅館なので従業員は裏口から入るのが基本なのだが最初は間違えてよく正面から入ってしまっていた事を思い出しながら裏口から玄を呼ぶ。
「龍一くんおかえりーなさい、あれ憧ちゃん?久しぶりだねどうしたの?」
「実は憧は今日から俺の練習に付き合ってくれることになったんだよ。な?」
「ちょ、誰もそんなこと言ってないでしょ!?」
「あり?そうだっけ?」
「1時間前の事も覚えてないのバカ龍一!!」
「あはは、とりあえずどうぞお入りくださーい」
裏口で騒がれても他の従業員の方の迷惑になるので早々に龍一と憧は家の中へとお邪魔する。
すると玄から遅れてプルプルと震えながら龍一と憧の前にもう一人やって来る。
「お、お帰り…龍一くん、あれお友達?」
(うわ…綺麗で優しそうな人…それにむ、胸も結構大きいし…マフラーも似合って、ん?マフラー?)
憧は目の前に現れたおそらく自分とそこまで歳は離れていないであろう女性を見て率直な感想が頭の中でよぎる。しかし自分の感想の中での明らかにおかしなところに対し、思わず口に出てしまう。
「ええ!?初夏なのにマフラー!?熱くないんですか!?」
「ふぇ?ううん、あったかいよ…」
憧の突然の声に宥の体が思わずビックと反応し落ち着かない状態で答える。
「憧紹介するよ、玄の姉ちゃんの宥姉ちゃんだ」
「ええ!?玄こんな綺麗なお姉さんいたの!?」
「う、うん」
「あ、あのよろしくね…憧ちゃん…」
「こ、こちらこそよろしくお願いします。」
当然のカミングアウトに驚きながらも宥のそっと差し出してくれた温かい手を握り返すが、整った顔立ちの宥の顔に緊張してしまい直視できずに憧は俯いてしまう。
「よしじゃあ早速始めようぜ」
「久しぶりの四人だからね」
宥と憧が握手をしている間に玄と龍一はさっさと雀卓に座り二人を待っている。
「行こっか憧ちゃん…」
「はい!!」
こうして松実家で久しぶりに4人での麻雀が和気あいあいと始まった。
◆
麻雀を打ち始めてから既に半荘3回を行い結果から言ってしまうと龍一がなんと三連続トップという圧倒的力の差をみせつけた。
「くっそー龍一に勝てない!!マジ悔しい!!」
「仕方ないよ、龍一くん凄く強くなったもん。最近は私やお姉ちゃんもなかなか勝てなくなってきちゃったし…」
「あはは、天才ですから~」
「くー今度は絶対龍一を箱にしてやる!!」
一年前まではほとんどなかった龍一との差がここまで開いてることに内心ショックを受けながらも、ここで打ち続ければ強くなれる-------そんな確信を得た憧の顔は龍一に憎まれ口を聞かされてもどこか満足気であった。
「でも本当に強くなったね龍一くん、えらいえらい~」
「やっややめてくれよ、ゆ、宥姉ちゃん俺もう中2なんだから」
止めてと言ってる割には顔が緩みきって全く宥に撫でられることが嫌そうでない龍一を見ていると憧の心の中が急に今までに感じたことのないようなモヤモヤに包まる。
「…デレデレしちゃって…そんなんで大会勝てるの?」
「おう勝つ!!」
(ッ!!そんな真っ直ぐに返されたら茶化せないじゃない…ったく…)
茶化すつもりだったのに龍一の真っ直ぐな目を見て思わずドキッとしてしまった憧は思わぬ反撃に顔を少し赤らめてしまう。
「玄、今のうちに東京見物のプラン考えとけよ?まずは上野でパンダを見にいってだな」
「え?龍一くん一緒に行ってくれるの?」
「何言ってんだ前にも言ったろ?玄がいなかったら俺はここまで強くなれなかったって、東京見物くらいいくらだって付き合ってやるよ。」
「そっか…えへへ、どこにしようかな?」
「そんかし、俺の応援ちゃんとしろよ!!」
「うん!!お任せあれ!!」
この時の玄の表情は憧が今まで遊んだりしていた時では見たことのないような嬉しそうな表情をしていた。その表情を見て憧は玄の『ある事』に気がついた。
(そっか…きっと玄は私なんかよりも前から龍一のこと…)
「ん?憧ちゃんどうしたの?」
「な、ななんでもない!!ほら龍一もキリもいいし遅いから帰るよ」
「お、おう」
私だって…と思いながらも先ほどとは違うモヤモヤを心に感じながらも憧は玄から逃げるように龍一を引っ張って松美館をあとにした。
◆
「掃除終わった!!よし明日の大会に向けて最後の部活だああ!!」
憧が松実館に通うようになってから数日が過ぎた。龍一の待ちに待ったインターミドルの予選がついに明日行われようとしており龍一の気合のボルテージも最高潮に達していた。
掃除当番も終了しこれから一目散に部活に直行しようとするとゴミ捨てに行っていた江夏が血相を変えて戻ってきた。
「龍一いいいい!!!!」
「んだよ江夏、早く部活に行こうぜ」
「それどころじゃねえんだよ!!新子が新子が」
「憧がどうしたって?」
「い、今駐輪場で新子がサッカー部の奴に告白されてる…」
「へー」
「なんだよ気にならないのかよ?」
予想外の龍一の反応の無さに戸惑う江夏だがすぐに龍一はにやりと笑い江夏の肩をがっちり掴む。
「……気になるに決まってんだろ!!早く行くぞ!!」
「お、おう」
幼馴染の憧が心配…というわけではもちろんなく、これをネタに少し茶化せば日頃の憧の暴言は減るだろうと考えまるで悪役ような笑みをこぼしている龍一と江夏の二人は駐輪場へと急いだ。
◆
「あれか…」
二人は駐輪場に到着すると確かに江夏の言った通り憧がサッカーのユニフォームを着た男子と二人で何やら話しているが遠くて何を話しているかまでは聞き取れない。
「確かあの男の奴一個下のサッカー部のチャラ男だ、あんまり練習に出ないで女と遊んでるってサッカー部の奴言ってたぞ」
「死ねばいいのに…ここからじゃ聞こえねえなもっと近づいてみようぜ」
「お、おいこれ以上は」
「なんだよ、じゃあ後で教えてやるからそこで待ってろ」
龍一は江夏のいらん情報で湧き出てきた殺意を暴言として吐き捨てると躊躇する江夏を置いて二人の声の聞こえる距離まで接近する。
「ごめん」
近づいて真っ先に聞いた言葉は憧の断りの返事だった。
事情はわからないがサッカー部の奴の慌てようからおそらく憧が告白を断ったのだろう。
「な、なんでか理由を教えてくれないかな?俺あんまり女に振られたことないからさ…」
(よくやったぞ憧!!さあこのムカつくチャラ男にボロクソいったれ!!)
憧をからかうネタを探しに来たのだがサッカー部の癪に障る発言に龍一は本来の目的を忘れ何故か憧を応援していた。
「…確かにあんた顔はかっこいいし彼氏だって友達に紹介したらきっとみんな羨ましがるだろうけど…私のタイプじゃないんだよね…」
「じゃ、じゃあ新子の好きなタイプってどんなだよ?」
「‥ねえあんたサッカー部だったよね、練習真面目にやってる?部活終わったあとも居残り練習とかしたことある?」
「はあ?する訳ないじゃん、なんか本気で練習に取り組むのってカッコ悪くね?それしかありませんって言ってるみたいで」
「はぁ…やっぱり…」
この一言に憧は思いっきりため息をついて、さも面倒くさそうに答える。
「私は何かに必死に取り組んでいることがカッコ悪いなんて思わない。顔がかっこよくなくても口が少し悪くたって何か一つの事に夢中で努力できる、私が好きな人はそういう人。じゃあ」
(言ってしまった…ハズい…でも誰にも聞かれてない…は…ず…)
言い終えると憧はポカーンとするサッカー部を残しそそくさとその場を後にする。今にして思うとかなりくさいセリフを言ってしまったと思い、顔が赤くなるがその言葉を言った時に頭の中で浮かんだ人物が物陰でこちらを眺めてるのを見つけて一気に血の気が引いていく。
(え?え?なんで龍一が?なんで?聞かれた?きかれた?ヤバイ!!やばい!!)
「憧…」
「は、はい!!」
目の前まで迫ってきた龍一に覚悟を決めて顔を真っ赤にしながら目を瞑り返答を待つ。すると次の瞬間なぜか思いっきり肩を掴まれた。
「よくやった!!あのいけ好かない野郎を振る瞬間なんてみてて気分爽快だったぜ!!よし今日の俺は気分がいいから帰りにガリガリ君奢ってやろう。」
「…へ?」
「なんだ?さてはリッチか?リッチがいいのか?このいやしんぼ、がっは!?」
そこまで言った瞬間に憧のカバンが龍一の顔面にクリーンヒットしその場に倒れこむ。
「バカ龍一いいいいいい!!!!うわあああああああん」
「…へ?なんで?」
カバンを投げられたことと突然憧が泣き出した理由が分からなくて呆然とする龍一であったが泣いても笑っても明日には待ちに待ったインターミドル予選がついに始まろうとしていた。
自分の中では結構憧は熱血な方かなと思っているので作中内の憧はいかがだったでしょか?さて次回からついにインターミドルの予選が始まります。この作品のなかで最も重要で書きたいところなので頑張って書いていきたいと思います。
それではご感想、ご意見なんでもドシドシ送ってきてください。お持ちしてます。