君と龍の愛し方   作:武田兎

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第十一話 決別

予選が終了し、決勝戦が始まってからもうどのくらい時間が経っただろうか。

既に外の太陽は西の空に沈みかけていており、その沈んでいく様を控え室から出て正面の窓からじっと見ていた龍一に副将戦を終えた3年生の先輩が申し訳なさそうな顔をして現れる。

 

「悪いな杉花、あまり点差詰めてやれなくて…2位のままで後輩のお前に回すことになるなんて…」

「問題ないっすよ、んじゃさっさと優勝決めてきますね~」

「「杉花!!」」

 

龍一はプレッシャーなど感じていないのかこんな状況にも関わらず普段通りの態度で対局室に向かって走り出そうとすると後ろから沢山の声で名前を呼ばれて立ち止まり振り返る。

するとそこには控え室から出てきた3年生の先輩達や監督の姿があった。

 

「杉花、俺達と…全国でも思いっきり暴れてやろうな!!」

「はい!!」

「杉花…お前が決めてこい!!」

「はい!!」

 

龍一は部長と監督の言葉に勢いよく返事をし、そして龍一はなぜか流れ出す涙の意味もわからないまま対局室を目指して走り抜けた。

 

 

(勝って全国に行くんだ…先輩たちと…そして玄と宥姉ちゃんを連れて…)

 

龍一は今までの対局で見せたことがないような真剣な表情で県予選決勝の舞台に臨み、その気迫にまるで牌も応えるかのように赤ドラがみるみるに龍一に集まってくる。

 

「カン」{⑥⑥⑥⑥}

 

ここで龍一が{⑥}を暗槓する。この時会場ではこの龍一の采配にどよめきが起きていた。なぜならばこの時の龍一の手牌は{三四[五]③④[⑤]⑤⑥⑥⑥34[5]} ツモ{⑥}でありこのまま{⑥}をツモ切りすれば待ちは{②⑤④⑦}の理想的4面張であるのにも関わらず、あろう事か{⑥}を暗槓してしまったため待ちの薄い{②⑤}待ちになってしまった。

通常では考えられないような暴挙-------しかしこの少年には、龍一には確信があった。手を伸ばしている嶺上牌には赤い龍が自分に起こされるのをじっと待っているという確信が!!

 

「ツモ、嶺上開花、断ヤオ九、三色ドラ4で8000オール!!」

龍一:{三四[五]③④[⑤]⑤34[5] カン⑥⑥⑥⑥} ツモ{[⑤]}

 

(よしいける!!これなら…全国へ!!)

 

そしてそれからからも龍一は好調に上がりを連発して首位の斑鳩西中との差を徐々に詰めていった。

そしてついに次の和了、満貫直撃で逆転できるというところまで差を詰めた。

 

そして…後半戦南3局

 

(ツモか…でもこの手もっと大きくなりそうだな…)

龍一:{二三四[五]六七八九[⑤]⑥⑦22} ツモ{四}

 

龍一は安目のツモアガリをあっさり見逃し更に高い手を目指す。

この行為は今の自分はここにいる誰よりも強いという驕りがあるからこそしてしまった。一瞬の気の緩み、油断…龍一は斑鳩西中の大将の顔をふっと見てしまう。

ドンドンと自分たちに詰め寄ってくる龍一に対しても全く諦めようとせずに戦う強い意志の宿った目ーーーーーそれを見たときに龍一は思い出してしまった。

 

 

知らないのかよ、来年廃校になるってんで今年が全国に行く最後のチャンスらしくてな。

 

 

(……)

龍一:{二三四[五]六七八九[⑤]⑥⑦22} ツモ{一}

 

江夏と対局前に話した会話が龍一の頭の中で何度もリピートする。そして額から変な汗を流しながらも絶好の高目の牌をツモった瞬間、今度は会場中だけはなく龍一自身すらも理解できないようなことをしてしまう。

 

(あれ…俺何してんだ俺…?)

 

なんとこの文句なしの高目ツモを和了せずに見逃してしまったのだ。どうしてこんなことをしてしまったのか自分自身の行動に理解出来ずに呆然としていると対面の斑鳩西がゆっくりと牌を倒す。

この牌を倒されている瞬間、龍一は走馬灯ではないがとても世界がスローモーションに感じ斑鳩西の捨て牌、

{⑤③8四七5}

{③7④二二⑦北}をまじまじとみて思ってしまうある予感。

 

なぜ今まで気がつかなかったのだろう

 

なぜ警戒しなかったのだろう

 

過去の自分をいくら責めたてても倒れる牌が止まる訳もなく龍一は自分の最悪な予感だけは当たらないで欲しいと願ったがその願いは一瞬で砕かれた。

 

 

ロン、国士無双

{①①⑨九19白発中東西南北}

 

 

 

「はあ…」

「玄ちゃん」

「ひゃわ!?お姉ちゃんか…びっくりした」

 

玄が何やら携帯電話を開けては締め開けては締めを繰り返してソワソワとしている。その様子を見かねて宥がどうしたのか尋ねると玄の背中がビクッと飛び上がる。

 

「どうしたのそんなにそわそわして」

「もうそろそろ大会終わる頃だと思って…」

 

時計を見ると既に時刻は午後6時過ぎ、外も曇りのせいか普段の夜にも増して真っ黒い空から雨がポツポツと降り出してきている。

 

「龍一くんに電話しないの?」

「うん…」

「玄ちゃん…大丈夫だよきっと…」

「そうだよね、ありがとうお姉ちゃん、あ」

 

その時だった、玄の携帯が勢いよく振動して着信を告げる。液晶画面に表示されている相手は待ち望んでいた龍一からであった。

 

「もしもし龍一くん」

「……」

 

この龍一の無言で玄は龍一の気持ちを察した玄は今日の大会の事には触れず話題を切り替えようとする。

 

「ねえ龍一くん今日教室の掃除大変だたんだよ。やっぱりいつも二人でやってるから一人だとすごい大変だね。今度は、」

「負けた…」

「そっか…」

 

龍一がボソリと感情のない声で告げる。玄もそれ以上聞かずに少しの間お互いに電話越しで押し黙ってしまっていると再び龍一が口を開く。

 

「なあ玄…」

「なに?」

「俺麻雀やめるわ…」

「え…それって…」

「部活もやめる、今まで練習に付き合ってくれてありがとな、宥姉ちゃんにも言っておいてくれ…」

 

龍一のその全てを諦めたかのような覇気のない声から告げられた一言に、玄の瞳にはドンドン涙が溜まっていき声もそのせいか時折しゃっくり混じりになりながらも龍一の気持ちを変えようと説得する。

 

「なんで…なんで龍一くん…もう一回頑張ろうよ私もお姉ちゃんも…みんなで協力するし…だから」

「玄…悪いけどもう俺に関わらないでくれ…じゃあ…さよなら」

 

さようなら、その言葉を最後に電話が切れてしまい玄はその直後、床の上に崩れ落ちそして小さな子供のようにその場で泣いた。

そして宥はそんな妹に対して何も聞かずただ黙って玄が泣き止むまでぎゅっと抱きしめていた。

 

「なんで…龍一くん」

「……」

 

そうして麻雀という接点がなくなった二人はそれ以来疎遠となり一切連絡を取り合うことがないまま2年の時が流れ玄と龍一は高校1年生になった。

 




ついに物語の核心へと入っていけました!!
これも皆様の応援のおかげです。次回からは高校生編ということで今年もどうか温かい応援よろしくお願いします。


P.S.咲、全国編の豊音めっちゃ可愛かった!!
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