君と龍の愛し方   作:武田兎

13 / 22
第十二話 二年後

「よし!!今日もお掃除頑張るよ!」

 

そう言って掃除用具を片手にかつて子供麻雀クラブがあった空き教室に向かうのは今年から阿知賀女子の高等部へと進学した松実玄である。彼女はいつか子供麻雀クラブのメンバー、そして『彼』が突然戻ってくる事を信じて昔自分の掃除当番であった毎週木曜日にはこの空き教室の掃除を未だに続けている。『彼』がいた時は二人でやっていても大変だった掃除だが二年も一人でやっていればだいぶ手際も良くなってきた。

 

「ふふ~んふ~ん♫、あれ誰か中にいるのかな?」

 

鼻歌交じりに教室のドアを開けようとすると中から人の気配がする。もしかして…と心の中で『彼』が帰ってきたのではないかと期待しつつ教室の様子をこっそり覗いてみるとそこには栗色の長い髪をポニーテールにした小柄な少女が立っており、目を凝らしてみるとその少女とは幼馴染の高鴨穏乃であった。

 

(龍一くんな訳ないか…そうだよね…でもこうやって穏乃ちゃんは来てくれた、なら…待っていればきっと…)

 

そう自分に言い聞かせて玄は扉を開け穏乃に微笑みながら語りかける。

 

「やっと来たんだ!」

「玄さん!?」

「いつか戻って来るって思ってたんだ!」

 

そしてその後9月には部活を始められるだけの最低人数5人が揃い、翌年から本格的な部活動として活動するべく着々と準備を進めていった。

 

 

春に玄達が麻雀部を再建しようと動き始めてから季節は巡り冬、かつて阿知賀女子で子供麻雀クラブを開いていた赤土晴絵は実業団にスカウトされ一度はこの地を去った。しかし現在再びこの地に戻り玄達新生麻雀部を全国に連れて行くために顧問になる道を選んだ。

そんな晴絵が訪れた場所それは『Sagimori Lanes』、教え子である鷺森灼の祖母が経営するボーリング場である。ここに来た理由は決して遊びに来たわけではない、ある少年が出入りしていると灼に聞いたからである。

そしてその目当ての少年はつまらなそうに一人で遊んでいた。

 

「まったく灼の言ってた通りだな、」

「赤土さん…戻ってきたのか」

 

突然晴絵に話しかけられ少し驚いた表情を見せた少年こそ杉花龍一であるが、短髪だった髪は肩まで伸び制服をだらしなく着崩した素行の悪い姿からは昔の面影はあまり感じられない。

 

「まあ積もる話は後にして…会って早速だけど龍一、あんたに頼みたいことがあるんだけどいい?」

「あんっすか…?」

「実は今、阿知賀女子の麻雀部が復活して私はそこの顧問をやってるんだけど一人じゃあとても手が回らなくてさ…そこで龍一にあの子達の練習相手になってもらおうと思って」

「その麻雀部のあの子たちって玄達ですか?」

「……」

 

晴絵の無言を肯定ととった龍一はさっさとその場を後にしようと荷物をまとめカバンを乱暴に背中に背負う。

 

「帰ります…もう俺、麻雀やってないんで」

 

その場を逃げるように立ち去ろうとする龍一に晴絵はもう一つ、確認しておきたかったある事について尋ねる。

 

「もう一つ、こっちに帰ってきて馴染みの雀荘に顔出したらさ最近フードで顔を隠した奴が誰彼構わず食いついて金を毟っていってるらしいんだけど…龍一なにか知らない?」

「あんで俺に聞くんっすか…」

「いやー教えてもらったそいつの背格好がどうも龍一と当てはまってねー、それに制服の下フード付きのパーカーだからもしかしたらって…」

「……」

 

今度は逆に龍一の無言を肯定ととった晴絵が悲しい目で龍一を見つめて静かな口調で諭すように語りかける。

 

「あんた…あの人が…露子さんが教えてくれた麻雀を金をせびる道具にして…きっと天国で露子さんも悲し」

「あの人は関係ねえだろ!!」

「龍一…」

 

その名前が出た瞬間に発せられた龍一の大声で場内の注目は一気に二人に集まるがそんなことはお構いなしに晴絵に対して肩を震わせながら鬱憤を爆発させる。

 

「あんだよ…今までほったらかしだったくせに…都合のいい時だけ先公みたいな事言ってんじゃあねえよ!!」

「…わかった、もう頼まないよ悪かったね」

「…じゃあ」

 

晴絵の口からやっと諦めの言葉を聞いた龍一は今度こそ、この場を後にしようとするが次の晴絵の一言でその足はピタリと止まることとなった。

 

「ねえなら私と麻雀で賭けをしようか?」

「賭け?」

「私が勝ったらインターハイまであの子達の練習相手になってもらう。」

「…俺が勝ったら?」

「今後二度と付きまとわないし金も財布ごと置いていくよ、どう?」

 

この条件ににたりと笑った龍一は出口に向いていた足先をくるりと方向転換し晴絵に向けて自信に満ちた表情で睨みつける。

 

「いいのかよ、仮にも実業団にまで行った阿知賀のレジェンドが麻雀部でもない不良高校生に負けた日には外歩けないぜ」

「大丈夫安心しな、あんたみたいな弱い奴いじめして天下取った気になってるお山の大将には全然負ける気がしないからさ」

「上等だよ…」

 

そうして二人は目的地である雀荘に着くまでの間一切口を開かず静かに火花を散らしながらボーリング場を後にした。





作中に登場した露子という人物は知ってる人も多いと思いますが玄と宥の母親の名前です。
玄の髪の色は母親似ってことは宥の髪は父親似なのだろうか?

それとなななんと何気なく今日のランキングを見たら本作が10位に入っているではないですか!!あまりの嬉しさと皆様に対する感謝で即次話に取り掛りを仕上げることができました。

これからもどうか温かい目で見守っていてください。
ご感想お待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。