君と龍の愛し方   作:武田兎

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第十四話 欠けているもの

憧とのいざこざが解決し、龍一を加えて部活が再開となると玄は早く打ちたくて待ちきれないのか龍一の手を引いて再び雀卓まで連れて行く。

 

「ささ龍一くん早く打つのです!!」

「お、おいだからあんまり引っ張るなよ」

「龍一さんと打つの久しぶりですね、よろしくお願いします!!」

「じゃあ久ぶりに私も龍一と打とうかな。まあ負ける気しないけど~」

「あ、ああ…」

 

こうして龍一が卓に着いて、他の面子には玄、穏乃、憧の3人が席に着き対局を始める。みんなワイワイ騒ぎながら牌を切り分けていくがその中で龍一だけどこかソワソワとして態度が不自然である。

 

「龍一くんと打つと楽しけどやっぱりドラがすごく減っちゃうのは寂しいな」

「いやそれでも十分多いでしょ」

「すごかったですよね、玄さんのドラ爆を抑えられるのは龍一さんだけでしたから」

「あ、ああ……」

 

昔の思い出話をしているうちに全員に配牌が行き届き、ついに対局が始まろうする。親の玄が久しぶりに龍一と麻雀が出来ることでウキウキしながら伏せてある自分の配牌を捲って見てみると、目を疑うような予想外の配牌に玄から思わず驚きの声が漏れる。

 

「え?」

「……」

「どうしたの玄?」

「え?これって…龍一くん」

「玄さんどうしたんですか!?」

 

玄は先程までの笑顔が嘘のように消え突然顔が曇りだし、オロオロした様子で対面の龍一のことを見る。が、そんなことはお構いなしに龍一は自分の配牌を黙々と理牌をしている。

 

「おい玄…お前の番だぜ、早く切れよ」

「でも…龍一くん」

「なに一体?」

「どうしたんだろ?」

「なんでもねえよほらダブリー一歩手前の速攻リーチだ」

((リ、リーチ!?))

 

穏乃と憧は玄と龍一のやり取りの意味がわからないでいると龍一が千点棒を放りリーチを宣言する。

龍一のこの行為には玄だけではなく卓上の全員から驚きの声が漏れる。龍一とは小学校からの付き合いである憧と穏乃どころかもっと昔からの付き合いである玄ですら龍一と対局してきてリーチをするのを見るのは初めての光景であった。なぜならば龍一は赤ドラには愛されるがドラ、裏ドラは全く乗らない、つまりリーチをするメリット龍一にはほとんどなくただ自分の手を縛ってしまう事になってしまうのだ。

 

(龍一のリーチ見たの初めてかも…)

 

戸惑いながら憧が捨てた{①}を見て龍一が手牌を倒す。そしてこの龍一の和了で穏乃と憧は玄の戸惑いの訳を知ることとなった。

 

「ロン、リーチ一通平和で7700」

龍一:{②③123456789八八}

「あれ?龍一さん…」

「龍一あんた…赤ドラが一つもないじゃん…どうして」

「ねえ龍一くんこれ…どうしてなの…」

玄:{①③[⑤][⑤]4[5]89西西西白白}

 

龍一に問いかけながら玄はゆっくり自分の手牌を倒す、するとそこにはドラの{西}以外にも龍一と同じ卓に同席したらまず来ないはずの赤ドラが3つも玄の手牌に来ていた。

 

「…」

「黙ってちゃわかんないよ!!」

「はあ…わかったよ」

 

今にも泣き出しそうな玄の顔をみて龍一は仕方ないと一回大きくため息をし、固く閉ざしていた口を開いて静かに話し始めた。

 

「あの大会の後からな…赤ドラの神様はお前達みたいに甘くないらしくて、臆病者の俺に愛想がつきたんだろな…だからもう…俺のとこには来ないんだ…赤ドラが一個も…」

「こないって…」

「そんな…龍一」

「だからってお前らがそんな悲しそうな顔すんなよ、むしろこれなら赤ドラに縛られないからどんな打ち方もできる。練習相手としては最適だろ?」

 

彼がどれだけ努力してきたかを…そしてあの時の事をどれだけ悔やんでいるか知ったからこそ憧は自分たちに心配させまいと気丈に振る舞う龍一の姿がとても痛々しく見えて直視できずに目を背けてしまう。憧だけではない、穏乃も灼も晴絵も宥もこの場にいる全員が龍一から目を背ける中で玄だけは涙目になりながらもしっかりと龍一の事を見据えて問いただす。

 

「龍一くんは…龍一くんはそれでいいの?」

「…ほら早く次の局行くぞ…」

 

龍一が玄の問いに返答せずにサイコロの回る乾いた音だけが教室に響いていた。

 

 

対局が進んでいく中で対局の様子を見守っている宥、灼、そして晴絵が目に入り龍一は阿知賀女子に来る前に晴絵に言われた『ある事』をフッと思い出す。

 

(そういえばここに来る途中に赤土先生に変なこと言われたな…)

 

それは晴絵との雀荘での勝負に負けて渋々と阿知賀女子を目指して歩いているときのことだった。

不機嫌そうに歩く龍一に晴絵が話しかける。

 

「ねえ龍一あんた今自分がどれくらい強いと思う?」

「はあ?あんだよ、どうせ俺は先生に負けたよーだ」

「ほら不貞腐れないで真面目に」

「…同い年くらいの奴とはもうかなり打ってないから分かんねえけど、ぶっちゃけ玄達には負ける気が全然しないね」

 

龍一は自分の率直な気持ちを伝えると突然晴絵は歩くのをやめて、くるりと龍一の方へ振り返る。

 

「龍一…なんであんたを玄達の練習相手に呼んだと思う?」

「はあ?それは人手が足りなくて」

「まあ建前はね…でもね龍一、あんたを呼んだ本当の理由はあの子達と一緒に強くなってまた楽しんで麻雀をして欲しいからだよ。教え子には私みたいにならないで欲しいからね…」

 

晴絵小さく震えた自分の右手を止めるべくギュッと胸に押し当てる。

龍一はその様子を見てかつて聞いた晴絵のインターハイの出来事を思い出していると思って優しく声をかける。

 

「先生…」

「で、そこで龍一はできれば玄達に勝てるくらいまで成長をして欲し、」

「は?え?それって俺が玄達に勝てないってこと?」

 

龍一は晴絵から発せられた聞き捨てならない言葉に反応して今さっきまでの晴絵のトラウマに対するいたわりの気持ちは吹き飛んでいった。

 

「そうだよ、今の龍一じゃああの子達に勝てない」

「おいおいそりゃあ学生の大会には出てなかったけどベテランのおっちゃん達がいる雀荘で俺結構勝ってたんだぜ?あのに」

「そうだね、ふつうの雀力なら龍一の方が圧倒的に優ってるとおもうよ」

「なら、」

「でもね…それじゃあこの子達には勝てない。あの子達と比べて今の龍一にはある決定的なものが欠けているからね。」

「欠けている?あにが?」

「まあ実際にやってみたらわかるよ」

 

 

そうして今、玄たちと麻雀をしている訳だが……

 

 

(とか言ってたけど…あんだよ昔と比べて多少は打てるようになってるみたいだけどまだまだ甘いな…これなら一位は楽勝だな)

 

この時龍一は自分が負けることなんて微塵も考えていなかった。きっと晴絵の言った言葉はただの妄言であると…しかしその言葉の意味を龍一は身を以て知ることとなった。

 




前話、作中でレジェンドが言っていた『ある事』は能力の喪失のことです。
紛らわしくて申し訳ありません。

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