(なんでだ?俺はなんで勝てないんだ…)
龍一は今の目の前で起きた事が理解できずに頭が混乱していた。
それもその筈、現在龍一が卓についてから半荘3回が終了し、なんと龍一がラストを三連続で引くというまさに晴絵の予言通りの結果に驚きを通り越して唖然としていた。
龍一は玄達に対して慢心や油断がなかったとは言えないがその事を抜きにしてもここまでの結果になるとは予想だにしていなかった。
「わかった龍一?私の言ってた通りあんたじゃ玄たちには勝てない」
呆然として無言の龍一に晴絵が語りかける。
「あんでだよ…確かに俺は昔みたいな爆発力はねえよ!!でも…それを補うだけの経験を積んで」
「経験?ただ小遣い稼ぎに雀荘で弱い奴から毟ることが?」
「そ、それは…」
「龍一ここに来る時も話したよね?あなたには決定的に欠けているものがあるって」
「なんだよそれ…わかんねえよ!!」
もう何がなんだか分からない龍一は逆ギレ気味に強い口調で当り散らす。それに対して晴絵は一度大きくため息をついてから静かに龍一の求める答えを述べる。
「龍一…あんたとこの子達の違い…それは明確な目標があるかないか、」
(目標だって?)
「龍一はどうしてここにまた玄達が集まったかまだ知らなかったよね?」
「それは…」
そういえばここに来るまでに沢山のことがあり過ぎて肝心なことを聞いていなかった。どうして再びこの場所に集まったのか、すると晴絵は穏乃に視線を送ると穏乃も意図している事がわかったのかこくりと頷き龍一の方を向いて大きな声で答える。
「また和と遊びたいからです!!」
「和ってあの転校生か?」
和という名の少女、確か憧と穏乃が小学生の時に連れてきた転校生だったはずである。あの阿知賀では目立つお姫様のドレスのような独特の服装や小学生には似つかわしくない発達した胸は龍一の記憶に印象強く残っている。
「はい!!和はまた転校しちゃって離れ離れになっちゃったけど…全国に行けばきっとまた和に会えるから、それで遊ぶんです!!和とまた」
「遊ぶって…っぷあははあっはああ」
あまりに予想外の答えに突然龍一が吹き出しお腹を抑えて笑い始めた。
「りゅ、龍一くん?」
「はーあ悪い、余りにも予想外だったから、先生わかったよ。これじゃあ俺が勝てるわけないよな…友達と再会する目標に我武者羅に突っ走ってるこいつらと不貞腐れて殻に閉じこもってた俺とじゃ…まったく大違いだ…」
なぜ気がつかなかったのだろう
玄達全員が年頃の少女には似つかわしくない絆創膏やマメで痛々しい指をしていたことに
なぜ気づかなかったのだろうか
いや気がついていたけど見て見ぬふりをしていたのだ。目標に向かってひたむきに努力を続ける彼女達が眩しくて目を背けていたのだ。
まるで中学の頃の自分とそっくりで重なってしまうから
「龍一くん…」
「ねえ先生…今からでも間に合うかな、また楽しく麻雀できるかな」
「それ私にはわからないよ、でも…また麻雀と向き合うのに期限なんて私はないと思うよ」
「そっか…そうだよな…よし!!」
晴絵の龍一にだけでなく自分自身にも言い聞かせるような言葉に龍一は深く頷き、顔をパンパンと眠気を覚ますかのように叩くと勢いよく席を立ち上がる。
「なあ…玄悪い鋏あるか?」
「あ、あるけどどうするの?」
「こうすんだよ」
「え?え?ええええ!?」
そう言って玄は自分の鞄に入っている筆箱から小さなハサミを取り出す。そのハサミを受け取ると龍一はザクザクと長く伸びた髪を切っていった。
「りゅ、龍一くん」
「ちょっと龍一なにしてんのよ!?ここは床屋じゃないんだけど!!」
「穏ー!!箒と塵取持ってきてくれー」
「は、はい」
憧や玄の驚きの声など気にも止めず、一通り髪を短く切り終わると自分の髪の毛をせっせと掃除してまた再び席に着く。
席に着いた龍一は髪の毛の長さだけでなく明らかに目つきが別人の如く変わっていた。その闘志の宿った目はまるで中学の頃の龍一そのものであった。
「待たせたな!!さあもう一局だ」
「で、でも」
「相手してやんな、龍一見せてもらうよ」
「はい!!」
龍一の断髪に晴絵以外の5人が戸惑うなか、ついに4回目の対局開始を告げるサイコロが回された。
◆
鷺森灼は龍一と古くからの馴染みである。
昔よく玄の旅館に遊びに行くといたうるさい男子という認識しかなったがここ最近ではずっと祖母の経営するボーリング場に入り浸っていた。阿知賀のような田舎では娯楽施設などほとんどないし、半端な不良のような龍一にはここ位しか居場所がなかったのだろう。しかし昔からの知り合いが落ちていく姿を見ていくのは忍びないという事で晴絵に相談したのだが…
(まさか髪を切りだすなんて…負けすぎておかしくなったのかな…でもハルちゃんが見ている前で手は抜かないけど)
ここまで連続3回最下位の龍一を倒しても晴絵に褒められる事ではないがだからといって手心を加える必要もない。そして灼は今まで通り打とうと決めてなんの警戒心もなく牌を河に捨てた。
「ロン8000」
「え?」
「よし、邪魔な前髪の切って少しは見えるようになったかな」
その後、龍一は今日の成績を全体的に見ればダントツで最下位であったもの4度目の半荘では見事1位を取ることができた。もっともその後の居残り掃除を賭けた勝負では灼に集中的に狙われてボコボコに負け、見事再び最下位に転落したのであった。
◆
もうすでに外の陽は落ち、部活動をしている生徒たちもすっかり帰ってしまった中で玄と龍一は二人で部室の居残り掃除をしていた。
「たく灼の奴俺ばっかり狙いやがって…」
「あはは、灼ちゃんよっぽど龍一くんに当てられたのが悔しかったのかな」
「っていうか玄、別にお前は残らなくて良かったのに」
「ううんいいの、龍一くんお掃除あんまり上手くないから私にお任せあれ!!」
「さりげにひどいこと言うな、そういえば玄と二人きりって久しぶりだな…」
「う、うんそうだね…」
「……」
「……」
そもそも玄が一緒に残ると言ってから年頃の男女を二人っきりで残すのはいかがなものかと晴絵に告げたのだが、龍一にそんな度胸はないという余りにも無慈悲な一言で切り捨てられてしまったのだ。
しかし龍一の一言に玄、そして言い出した龍一も思わずお互いを意識してしまってか会話がどころか顔をみるのもままならず箒を動かす音だけが校内に響き渡る。
「あ、龍一くんそういえばお姉ちゃんは言ってたけど私はまだ言ってなかったね」
「あんだよ」
永遠に続くような沈黙を破って玄が少し顔を赤らめながらも龍一の顔を見て切り出す。龍一はまだ照れがあるのか玄と目を合わせられずに何も見えない真っ暗な外を眺めている。
「おかえりなさい」
「…おう」
昔と何も変わらない人懐っこい笑顔を振りまく玄を見て龍一は言い知れぬ安心感を胸に抱いた。
「えへへじゃあ今日は龍一くんの家に行ってみたいな」
「え?あんで」
「龍一くんのベッドの下がどれだけ充実したか確かめておき」
「はーい玄さんお先デースお疲れっした~」
「うわああん、待ってよ龍一くん4ついや3つ貸してくれだけでいいから」
「どんだけ借りる気!?まったく譲歩してないけど!?」
こういうところはさっさと変わって欲しい、そう思いながら龍一は3年ぶりに玄と一緒に帰る事を内心少し楽しみにしながら教室の電気のスイッチをそっと消した。
投稿が非常に空いてしまい申し訳ありません。
現在就職活動という魔物と目下戦闘中で次の投稿はいつになるかわかりませんが気長に待っていただければ幸いです。
作中の龍一が髪を切るシーンはある漫画のキャラからとっています。
今度アニメ化されるようでとても楽しみです。
それでは皆様のご感想お待ちしてます。