君と龍の愛し方   作:武田兎

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第十六話 私のちっぽけな願い事

昨日の出来事から一夜明け、時刻は朝の9時を回っている。

普段なら学校が既に始まる時間であるためこんな時間まで惰眠を貪ることはできないのだが今は冬休み、龍一は天国ともいえる布団の暖かさに包まれながら猫のように丸まっている。

しかしそんな至福のひと時の中で龍一は違和感を感じた。いつもこの時間まで寝ていると鬼の形相で起こしに来る母親が今日は来ない事、そして布団の上に何かが乗っているような重みがある事である。

 

「う~ん…なんだよ…コレ」

 

寒い外気に手を出すのは億劫ではあるが龍一は手を布団からだし手探りで布団に乗っている何かを探ってみる。その何かを探り当て触ってみるとムニッと柔らかく弾力がある。その正体が分からないが触った感触が気持ちいいので暫く触っているとその何かはなんと喋りだしたのだ。

 

「りゅ、龍一くん…くすぐったいよ…」

「え?」

 

聞き覚えのある声に龍一の眠気は一気に吹っ飛び冬だというのに大量の汗が吹き出してきた。

まさか…と思いつつ布団から恐る恐る顔を出して布団の上を確認してみるとそこには顔を真っ赤して布団の上に馬乗りになっている玄の姿があった。その光景に龍一の頭はショート寸前であったがなんとか意識を繋げて玄に問いただす。

 

「あのさ…何個か質問していい?」

「うん…」

「まずあんで玄が俺の家にこんな早くからいるの?」

「えっと…赤土さんが龍一君が約束破って逃げるかも知れないから玄が見張って連れてこいって…」

「うん…まあ俺の信用度が著しく低いことはわかった、じゃあ次にどうやって俺の部屋に入ったの?」

「おばさんにお願いしたら普通に入れてくれたよ、起こしてくれてありがとうだって。えへへ」

「あははは、じゃあ次…どうして玄は俺の上に馬乗りになってるの?」

「そ、それは龍一くんなかなか声かけたり揺すっても起きなくて…それで昔お父さんのこと起こした時みたいに上に乗ったら起きるかなって」

 

なぜその年になって恥じらいもなくそんな事をするのか、その行為が健全な男子にとってどれほどの悪影響を

及ぼすのか俺の上に乗っているアホの幼馴染に小一時間説教したいが今はそれ以上に重要な問題がある。

それは…

 

「なあ…玄」

「うん」

「俺さ…さっき寝ぼけててってて手出した時…どこ触ってた?」

「え!?あああの…えっと…え?龍一くん!!龍一くん!!」

 

震えた声で質問する龍一に玄もさらに顔を赤くして目線を自分の太ももに移す。

それを見た瞬間今までなんとか持ちこたえてきた意識が飛び、再び夢の世界へ旅立った龍一であった。

 

 

その後気を失った龍一は様子を見に来た母親がいまだ寝ている息子に対し雷が落ちた事によって強引に目覚めさせられ、龍一は気を失う前の記憶が曖昧なまま玄と共に家を出た。

 

「うぅ…なんかすげー衝撃的なことがあった気がするが思いだせない…」

「そ、そそうかなーなにもなかったと思うけど」

 

なぜか玄に尋ねても曖昧な返事と顔を赤くするだけで教えてくれない。気になるがこれ以上は自分の直感が知らない方がいいと言っている気がするので探るのは止めておこう。

 

「うーんまあいいや、で学校に行くのか?」

「うん、でもその前に行きたいところがあるです!」

「行きたいところ?」

「うん!!ついてきて!!」

 

まだ新年になってすぐだというのに奈良の片田舎で空いている店などあるのだろうか、そう思いながら龍一は白い息を吐きながら嬉しそうに走る玄の背中を追いかけていった。

 

 

「行きたいところって…」

「そう神社だよ、龍一くんも初詣まだでしょ?一緒にお願いしようよ!」

 

玄に連れられてきた神社はテレビで放送されるような大きな神社ではないが、俺でも知っているくらい地元の人なら誰でも知っている由緒ある神社だ。

境内はたくさんの人で溢れ返っている、というほどでもないが二十人くらいの人がお参りをしようと並んだり、今年の運勢を占おうとおみくじに手を伸ばしている。

 

「なあ玄…」

「ん?」

「この神社ってたしか…アイツの…」

「おーい玄じゃん」

 

そう、龍一がこの神社を知っているのは地元で有名だからという理由だけではなくこの神社が龍一と玄のよく知る人物の家が管理しているということが一番の理由なのである。

その人物の名前を口にしようとするとその前に後ろから聴き慣れた声が聞こえてくる。その声の人物こそ今龍一が声に出そうとした新子憧である。

 

「あ、憧ちゃん今日は巫女服なんだね可愛い」

「まあね、でもコレすごく動きにくくて…」

「……」

 

憧は普段着慣れない巫女服を着ているせいかどこかぎこちない動きでその場でくるりと回って見せる。

昨日はバタバタしていたせいであまり感じなかったがこうしてまじまじと見ると憧の容姿は二年前と比べてだいぶ変わっていた。伸ばしていた髪が腰まで届き雰囲気もまだ子供らしさを残しながらもどこか大人びた感じをみせている。これならさも男子にモテることだろう、玄も少しは見習って欲しい。

 

「なに龍一、目つきがイヤらしいんだけど、あんまりジロジロ見ないでくれる?」

 

前言撤回、やっぱりこいつは何も変わってないし玄も見習わなくてもいい。

 

「でなに?今まで散々尖ってたのに神頼み?」

「うるせー玄に連れられて」

「もしかして二人で…?」

「あんだよ、なんか悪いか?」

「ふーん…そうなんだ…」

「あ、あんだよ」

「別に!!あ、そうだ玄。私も家の手伝い午前中までにしてもらって午後から練習参加するから晴絵に言っといて」

「うん、わかったよ」

「じゃあお二人さんごゆっくり」

 

龍一の答えに憧の表情はなぜか一瞬だけ少し厳しくなったように感じたがすぐに元の表情に戻ってそそくさと社務所の方向へと走って行ってしまった。

そして二人はお参りをするべくまだ十人以上が待っている列の最後尾に並び始めた。

 

「で、龍一くんはなにお願いするの?」

「んーどっかの誰かが勝手に部屋に入ってこないようにしてるくれってお願いしようかな」

「えーひどいよ」

「冗談だよ、半分はな。そういう玄はなにをお願いするんだ?」

「もちろん麻雀部全国大会出場だよ!!」

「あーじゃあその願い俺がお願いするわ」

「え?」

 

おまりの意外な答えに玄が素っ頓狂な声を上げて隣の龍一をみる。

 

「特に願い事ないしそれでいいや。それにそうすれば玄はもう一個お願いできてお得だろ?」

「うーん確かにそうだけどいいの?」

「いいんだよ」

「うんありがと!」

 

長年の付き合いからか、玄はこういう時俺が絶対に折れないのがわかってくれているのですぐに承諾してくれた。そして早くお参りしたいのかソワソワしながら順番を心待ちにしている。

待つこと5分、ついに龍一たちの順番がやってきた。二人は一緒にお賽銭を投げ入れ手を合わせて神社の主にお願いする。

終わってみると1分もかからなかったがずっと長い時間願っていた気がする。隣の玄も同じく10円で随分長く願っていたのでなんとなくどんな事を願ったのか気になって尋ねてみる。

 

「なあ、何を願いしたの?」

「ひ、秘密なのです!!」

「はあ!?あんで!?」

「願い事は言っちゃうと効果がなくなっちゃうんだって、前に憧ちゃんが言ってた」

「じゃあ麻雀部のもダメじゃね?」

「ふっふふふそれはご心配なく!!神様に頼らずとも私達は自分たちの力で全国に行って見せるのですって

あった!?なんでデコピンするの?」

「さあな…」

 

龍一は今年一年分の渾身の願いが無碍にされた事よりもドヤ顔で話す玄の顔がなんかムカついたのでに一発デコピンをお見舞いする。

涙目になろうが今回ばかりは同情はなしで!!

 

「うう…」

「ったく…ほら早く部活行くんだろ?あ、あっちに着いたら猛特訓だからな!!ぜ、全国に行ってもらわないと俺の願いが意味なくなるし…」

「……」

 

玄は目の前で恥ずかしそうに自分の頬を掻いている龍一を見て改めて思った。

ああやっぱりそうだ。

普段はぶっきらぼうな態度でも心の中ではいつも気にかけてくれてる。

二年ぶりでも変わらない、やっぱり私はそんな彼のことが…

 

「ほら、ぼさっとしてないで行くぞ」

「うん!!」

 

神様どうかお願いします。

彼との距離がほんの少し、ほんの少しだけでもいいので縮まりますように…

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
間隔がとんでもなく空いてしまい申し訳ないです。
楽しみに待っていただいていた方がいれば本当に嬉しい限りです。

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