長かった一日の練習が終わり、龍一達が学校の校門を出る頃には既に日は暮れ街灯が夜道を照らしていた。
そんな薄暗い道を龍一と穏乃、憧の三人が並んで歩いている。なぜこの三人で下校しているのかというと、玄と宥は今日は旅館が大賑わいの為手伝わなければいけないらしく部活を早々に切り上げてしまい灼も赤土先生と居残って何やら話があるらしい。
そのため本日は昔馴染みの三人で下校というわけである。
「はあ疲れた…まだ手に牌の感覚残ってるよ」
「今日はいつもの倍くらい打ったからね、流石のシズもダウンかー」
「入学式やら始業式でここ最近忙しそうだったもんなー」
いつもなら部活後も山を駆け回ろうとするほど元気のあり余っている穏乃であるが、今日はよほど疲れたのか手をだらんと垂らして携帯をイジリながら歩いている龍一よりも遅い足取りでトボトボと歩いている。
「龍一さん歩きながら携帯使うの危ないですよ」
「んーいやーちょっとな」
「もしかして…彼女とかですか!?」
「バッ、そんなわけないじゃん!!」
「なんで憧が否定するの?」
「そ、それは」
「ちげーよほら」
憧が穏乃の返答に詰まっていると龍一は穏乃と憧に携帯の画面を見せる。
するとそこにはメールで『来週の日曜日、練習試合があるんだけど顔を出すだけでもいいから来てくれないか?』
と書かれていた。
「これって?」
「憧は知ってるだろ?江夏大樹」
「確か阿太中の時の麻雀部で龍一と同じ学年だった」
江夏大樹、彼とは中学入学時のクラスが同じことやお互い麻雀部に入部したことからすぐに意気投合した。
『あの出来事』の後、他の奴等が腫れ物を触るみたいによそよそしくなる中、江夏だけは昔と同じように接してくれていた。しかし高校に入学して小遣い稼ぎに雀荘に入り浸るようになってからは同じ学校だというのに次第に会う機会も減ってた。そんなんなかでも月に一度は麻雀部の練習を見に来ないかと内容のメールが送られてくるのである。
「そう、アイツ。高校もアイツとは一緒でさ、何度断ってもこうやって誘ってくるんだよ。まったく懲りねえよな…俺なんかが今更部活やっても…」
「龍一…」
「よし!!今日は二人の入学祝いだ!!奢ってやる!!」
一瞬曇った表情をみせた龍一であったがソレを振り払うようにそそくさと携帯をポケットにしまい、目の前のコンビニを指差す。
「やった!気前いいじゃん龍一、じゃあ私はミルクティー飲みたーい」
「はいはい、穏乃は?」
「ありがとうございます!!じゃあ肉まんとあんまんとピザまんとカレーまんそれから!」
「落ち着け、わかった!!量はちょっとじゃないけどちょっと買ってくるから待ってろ!!」
「はーいご馳走様です!!」
穏乃はさっきまでの疲れきった顔が嘘のように目を爛々と輝かせて欲しい品物を並べていく。そして両手の指を折り終わったところで憧にストップをかけられ、龍一は涙目になりながらコンビニへと走っていった。
「いやー今日は龍一さん気前いいね」
「龍一最後泣いてたけどね…シズ容赦なさすぎ」
「ねえ憧…龍一さんが私達の事見てくれて相手してくれるのはすごく嬉しいけどこのままでいいのかな?」
「……」
「だって龍一さんだって本当は…」
「シズ…それは…龍一が決めることで私達が決めることじゃない」
「だけど」
「ねえ君たちちょっといいかな?」
穏乃が淡々と言葉を返す憧に言い寄ろうとすると後ろから突然声をかけられた。二人が振り向くとそこには制服姿の男子が三人いてニヤニヤと薄っぺらい笑みを浮かべている。
「なんですか?」
「その制服阿知賀だよね?これから暇?ちょっと遊ばない?」
「え、えっとあ、あの」
「結構です行くよシズ」
「ねえちょっとでいいからさ」
「悪い悪いレジが混んでて…って…」
三人内の一人が憧と穏乃に誘いをかける。
こういう状況に慣れていないのか普段元気な穏乃のがオドオドとしてしまう中、憧はきっぱりと断り穏乃の手を引き男達から離れようとする。
そこに間がいいのか悪いのか両手にパンパンにしたビニール袋を持った龍一が買い物を終えて戻ってきた。
「龍一さん」
「龍一…?」
「え?あにこの状況?」
「龍一、なんかコイツにガツンと言ってよ!!」
二人にしつこく絡もうとしていた男子が龍一の名前を聞いてピックと反応する。龍一は憧の言葉によしとばかりに軽く咳払いをして二人に絡もうとしていた男子に話かける。
「あのーちょっと俺コイツ等の保護者みたいなもんなんで連れて行かれちゃうのはちょっと、それにこんな乱暴女なんかナンパしてもしょうがなッ!!」
「なに言ってんのバカ龍一!!ほら行くよ!!」
そこまで言いかけると今朝とまったく同じ衝撃が龍一の顔面を襲った。龍一が痛みに悶絶している最中、憧は龍一の顔面を捉えた鞄を手に持ってから軽くポンポンと慣れた手つきで叩く。そして穏乃と頼ろにならない龍一の手を引いて立ち去ろうとした瞬間
「あー思い出した!!あんた杉花龍一だろ『阿太中の鯉』の!!俺斑鳩西中だった千川だけど覚えてる?まあ忘れられるワケないけどねー」
「……」
「龍一?」
「龍一さん…鯉って?」
さっき龍一の名前に反応した一人がついに思い出したのか大声で叫ぶ。その言葉に龍一は立ち止まってしまい憧が手を引いてもその場から動こうとしない。
憧と穏乃の驚いた反応が面白いのか千川と名乗る男子はペラペラとその言葉の意味を話しだした。
「あれ?知らなかった?こいつはね中学の県大会に出場した時は上がり手に絶対に赤ドラが絡むから他の学校から『阿太峯の昇り龍』って言われてたんだけど、決勝戦でまさかの相手に同情して和了を放棄した。その結果チームは敗退、最後の大会だった先輩達も巻き添えにしちゃったんだもんねー。そしてついたあだ名が全国という滝を登れなかった鯉、『阿太中の鯉』ってね。」
「……」
「龍一さん…」
千川の話を龍一は一切否定せずにただ黙って俯いていた。心配そうに穏乃が龍一の名前を呼ぶが俯いている為表情を伺うことはできない。ただ龍一の両手は爪が刺さってしまうのではないかと思うぐらい強く拳を握っているのは見て取れた。
「いやーあの時は本当にありがとうね、鯉さん」
「あんた…あの時って…」
「そうだよ、あの決勝戦この鯉にトドメの国士を当てたの俺ね。いやーまさか出るとは思わなかったねー見え見えだったし、それにしても部活やめたって噂は聞いてたけど今何してんの?」
「……」
そう言って千川は龍一に目線を向けるが龍一は押し黙ったままである。千川は何気なく龍一の手に目線を落としてみると握られている手の間からから微かに真新しいマメができているのが見て取れた。同じようなマメは憧や穏乃にも同じようにあり、ソレを見た千川は吹き出しそうになるのを堪えながら龍一に尋ねる。
「お、お前ソレって、まさか麻雀か?あんだけのことしてこの子達と麻雀してんのか?ップあははあああああああ。あーわ、笑いすぎて腹いてわーップどんだけツラの皮厚いんだよ」
「……」
「やっぱり鯉だから知能が低いのか、もうあの時のこと忘れちまったのかよ。覚えてたらとても俺にはできねーなーもし覚えててやってるとしたらクズだな!!鯉のうえにクズとかもう」
「ちょっとあんた…」
「んなにか」
笑いながら龍一を罵倒している千川は誰かに後ろから呼ばれて振り返る。
次の瞬間ビタン!!と乾いた大きな音が辺りに木霊した。その音につられて龍一が顔をあげると頬を抑えて地べたに倒れ込んでいる千川とその前に仁王立ちしている憧の姿が写りこんできた。
「な、なにすんだよ!!」
「うるさい!!…アイツがどれだけ頑張ってたと思ってんの?どれだけあの後悔やんだと思ってんの?龍一のことなんにも知らないくせに、鯉だとかクズだとか簡単に言うな!!」
「憧…」
強気な事を言っている憧だが幼馴染である穏乃と龍一にはわかっていた。本当は誰よりも怖がりな性格である事、その証拠に憧の足が恐怖でプルプルと震えていてる事。本当は今すぐにでも逃げ出したいのかも知れない、しかし今はその気持ちを押し殺して千川に食ってかかる。
「確かにやったことは雀士としては最低だけど…それでもまた滝を登ろうとしてるんだから!!今の龍一は絶対にアンタよりも強いんだから!!」
憧は恐怖と悔しさから目に涙を溜めながら叫ぶ。その言葉に千川はニヤリと笑い、地べたから立ち上がる。
「へえー面白いこと言うじゃん、こいつが俺よりも強いね…。なら実際やってみようや、杉花確かお前吉野総合だよな?」
「だったら…?」
「なら来週の日曜日お前自分の学校に来い、そこで決着つけよや。まさかいやだなんて」
「やろう、」
龍一はさっきまでとは打って変わり顔を上げて千川の目を見て答える。
その目はまるで中学校の頃の龍一に戻ったような闘志の宿った目をしていた。
「ふん、忘れんなよ!!」
そう言い残すと千川は仲間を引き連れて去って行ってしまった。
「なあ憧…本当にあんがとな…俺やるよ。」
「ふ、ふん!!私もあんだけ言っちゃたんだから負けたら承知しないから」
憧は涙を見られたくないのかカーディガンの袖で目元を隠しながら答える。
「ああ、悪いんだけど二人共明日から練習付き合ってくれるか?」
「はい!!今まで私たちが龍一さんに借り作ってばっかだったんで、いくらでもお相手します!!」
「負けるなんて許さないんだから、それで過去との決着さっさとつけちゃってよ」
「ああよし!!やるぞ!!」
決戦の日まであと10日
お久しぶりです。
ついに卒論という魔物を倒して戻ってくることができました。
読んでくださっている方、遅くなりましたがまた今年もよろしくお願いします。
それでは感想お待ちしてます。