君と龍の愛し方   作:武田兎

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第一話 厄日

「ったく…何て日だよ今日は!!でももう流石になにもないみたいだな~」

 

そうボヤきながら短髪の頭をポリポリ掻いている少年は杉花龍一といい今年中学校に入学したばかりの一年生である。五月になりやっと新生活に慣れてきた龍一にとって今日はとんでもない日だった。

結果から言ってしまえば今日はとことんついてなかった。

登校中に新品のスニーカーで犬の糞を踏み、珍しくやってきた宿題は家に忘れ、給食のジャムパンのなかにジャムが入ってなかったというとんでもないミラクルが起き続けていたが昼を過ぎてからは今までのことが嘘のようにピタリと止み穏やかな時間を過ごしたが内心この時龍一は心中ビクビクしていた。

今起きないということはこのあとで超ド級の不幸が降りかかるのではないかと思っていたが学校は何事もなく終了し自分の期待をいい意味で裏切ってくれたことに胸をなでおろし下校しようと校門を抜けた時だった。

 

「あ、龍一くん久しぶりだねじゃあこれから一緒に阿知賀に行くのです!!」

「……」

「あれれ?龍一くん聞こえてるかな~」

 

神様は最後の最後に超ド級の厄災を俺にプレゼントしやがった。

 

 

今目の前にいる長い黒髪が特徴的で少し間の抜けてそうな少女は松実玄という。彼女の家は旅館を経営していてうちの親父はそこの板長をしており、家も近所ということあってか昔からの付き合いで俗に言う幼馴染だ。しかし中学から玄は私立の女子校に通い始めたため昔ほど会う機会は少なくなったがたまに人の学校の校門前で俺のことを待ち伏せしていることがある。その時は玄は俺のことを『ある場所』連れて行こうとするのだが…

 

「……」

「りゅ、龍一くん無視しないでよ~」

 

龍一は玄のことを華麗にスルーしスタスタと下校しようと歩き出すと慌ててそのあとを付いてくる玄に龍一は恐る恐る尋ねる。

 

「玄、一応聞いておくが今日は何の用で?」

「龍一くんを麻雀クラブに連れて行くためだよ!!最近全然顔見せないんだもんみんな寂しがってるよ?」

「はぁ…あのな玄俺はもう中学生なの」

「うん」

「小学生の頃みたいに女子校に通いつめるのはアレだろ?」

「うーんなるほどなるほど」

「分かってくれたか俺の気持ち…」

 

玄は少し考える仕草をしその様子にやっと自分の思春期の男心を察してくれたかと期待した龍一であったが

この時龍一は彼女のことを長い付き合いでありながら不覚にも甘く考えていた。

 

「大丈夫!!私と一緒なら入って行ってもきっと何も言われないよ」

「だからそうじゃ…こうなったら」

 

彼女の天然ぶりを甘く見ていた龍一は強行突破とばかりに走り出す。

 

「あ、龍一くん!?」

「はははじゃあな玄!!憧や穏乃によろしくブヘァ!!」

「大丈夫…?」

「うん…なんとか…」

 

今日が俺にとって厄日だということがすっかり頭から抜け落ちていた俺は校門の前で盛大に転げまわると玄に起こされ阿知賀女子へと連れて行かれてしまったのだ。

 

 

「どうしたの?早く入ろうよ」

「いや…だって…男の俺が女子校に入るのは…やっぱり」

 

なんだかんだ文句を言いつつもついに阿知賀女子の校門前に到着したのだが目の前にまで来て龍一は学校に入る事ためらっていた。

 

「龍一くんは小学校の頃から通ってるんだから問題ないと思うよ?」

「いやでも…」

 

この時龍一は頭の中でどうやってこの状況を切り抜けようか必死で考えひとつの案が浮かんだ。

少しばかりこの言葉を口にするのは恥ずかしいが背に腹は代えられない。

 

「く、玄はいいのかよ俺と一緒に下校したり二人っきりになったりして」

「ん?なにか問題があるのかな?」

「こ、ここっ恋人どど同士にみらっ見られるかもっ!!」

「あはは龍一くん相手じゃあそれはないよ」

「お前今結構ひどいこと言ったな…」

「ほらほら早くいこうそんなに行きたくないなら…えいっ!」

 

こちらが小っ恥ずかしいセリフを言ったにもかかわらず軽く流されショックを受けていると玄がいきなりギュッと手を握ってきた。

 

「ちょ、お前なにを!!」

「こうしないといつ龍一くん逃げちゃうかもわからないし…いいから行くのです!!」

「お、おいそんな引っ張るなよ」

 

その時の玄の手はとても柔らかく無意識のうちに手を握り返すとそれに反応してか玄の手の体温が少し上がったような気がした。

 

 

「やっとついたね」

「それより玄そろそろ手離してくれない?」

「離したら龍一くん逃げるかもしてないからダーメだよ」

「逃げない逃げないから!!ったく…うーす!!おひさでーす」

 

『子供麻雀教室』という看板が出ている教室の前に到着すると絶対に逃げないという約束でやっと玄は渋々手を離してくれた。もし手を繋いだまま入ったら憧や穏乃に何を言われるかわかったもんじゃない。

 

「あー龍一くんだー」

「久しぶり~」

「龍一お兄ちゃんもっといっぱい来てよ」

「はいはい考えておくよ」

 

扉を開けた瞬間に久しぶりに龍一を見た小学校低学年の子達が一斉に群がってくる。15分後その子からやっと解放されると玄が教室の端っこの雀卓の方で手招きしている。

 

「龍一くんこっちこっち」

「なんだよ玄…ってどちら様?」

 

そこには玄、憧、穏乃と見慣れたメンツの中にピンクの髪にツインテールで少女チックなフリフリの服をきた見慣れない美少女がいた。

 

「4月から私たちのクラスに東京から転校してきた子なんだ」

「結構強いんだよ~龍一も負けるかもね」

「は、初めまして原村和って言います!!龍一さんのことは憧達から聞いていまして」

「ん~」

「あの…どうかされました?」

 

年上の男の人相手ということもあり緊張気味に自己紹介する和の肩を龍一はがしっと掴んだ。

 

「原村さん…」

「は、はい!!」

「もし玄に変なことされたら真っ先に俺に言ってくれよ?あいつ絶対狙ってくるから」

「え!?そんなひどいよ龍一くん!!」

「まあ玄なら言われてもしょうがないかな~」

「そんな赤土さんまで~」

 

龍一だけでなくはるえにもいじられる玄のやり取りを見て憧はあることに気づきニヤニヤし始める。

 

「でも~結構龍一も和のおもちさっきからチラチラ見てるよね~」

「なっ!?ち、違うんだ原村さんこれは男の(さが)ってやつで…」

「……エッチですね」

「「あっははは!!」」

 

このやりとりを見た憧と穏乃は腹を抱えて息ができないほど大きな声で笑っていた。

 

「おいそこ二人何笑ってんだ!?早く原村さんに俺はそういう人じゃないって弁解を」

「さて無駄話もここら辺して和、玄、穏乃それと龍一卓に入って対局だよ」

「よし頑張るよ!!」

「よろしくお願いします」

「龍一さんと打つの久しぶりだな」

「よし俺がムッツリじゃないってことをこの麻雀で証明して見せようじゃないか!」

 

こうして阿知賀女子子供麻雀クラブのメンバーが久しぶりに全員集合し和を含めたトップ4での対局が始まったのであった。




玄ってなかなか動かすの難しい。口調ってこれで大丈夫なんだろうか?ちなみにジャムパンのくだりは自分に起きた実話です。
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