新しい生活にも慣れてきたのでまた活動を再開できそうです。
待ってくださっていた方お待たせいたしました。
これからもがんばっていきますのでご感想、ご意見お待ちしています。
憧達と別れ家路に着いた龍一は疲れた足取りで自室を目指す。
そしてなんとか自室にたどり着き部屋の取っ手に手をかけ扉をゆっくりと開けた。
「あ、おかえりー龍一くん。」
「……」
扉を開けるとそこには旅館の作業着の格好でベットに腰掛け漫画を読んでいる玄の姿あった。もうここ最近頻繁に部屋に入られているので驚きはない。むしろ予想の範囲内である。
「ふふふ、今日の私は一味違うよー。普段と違って今日はちゃんと理由があるのです!ってあれ?龍一君いつもみたいになんでここにいるんだー、とか言わないの?」
「ちょっと今日はな…」
予想の範囲内と言っても普段なら「なに俺より先にソレ読んでんだよ!」や「いつもいつも押しかけ女房みたいな真似しやがって!」と文句の一つや二つ言いたいところだが今はそんな気分ではない。龍一はたいしたリアクションもせずに普段全く使っていない勉強机の椅子にどさっと座り込んだ。
「…なにかあったの?」
「……」
普段と反応の違う龍一をみて玄も何かあった事を察したのか心配そうに尋ねるが龍一は何も答えない。
言えるわけがない。
臆病な癖に人一倍正義感の強いこいつの事だ、今日の千川との事を知れば千川の所に言って「龍一くんに謝って下さい」とか言いだしかねない。これは俺自身の問題なのだ。憧と穏乃には知られてしまったからには仕方ないが、なるべくみんなを巻き込みたくない。
しかしその想いと裏腹に、果たして実戦から長く遠ざかっていた俺がこのままの状態で千川に勝てるのかと不安もある。そのことから玄や他の人達に話すべきかはまだ自分の頭の中で決断できずにいた。
「…ごめん話したくないならいいから…私帰るね…」
「ちょ、ちょっと待てよ!!」
この場の空気に耐えられずに玄はその場から立ち去ろうとする。
龍一は慌てて思わず反射的に玄の手首をギュッと掴んでしまった。
「ひゃあ!?」
「え…?あ、わわ悪い」
「……」
「……」
一瞬で耳まで赤くなった玄から言葉にならないような声が発せられる。
突然のアクシデントだったので最初はなんとも思わなかったが玄の赤くなった顔を見ていると次第に龍一も恥ずかしさがこみ上げてきた。お互いに目を合わせることができないまま向かい合って十数秒の時が流れた。
「そ、そういえばあんで玄は今日俺んちにいんだよ…?」
痺れを切らした龍一はまだ恥かしさで玄を直視できないため目線を窓から見える月に向けながら話しかける。
「え?」
「だって部活も先に帰ったしその格好…」
「あぁこれはね龍一くんのお父さんに言われたの。」
「親父に?」
「そう、今日は旅館が忙しくておじさんなかなか仕事上がれないみたいだから龍一に餌やりよろしくーって言われて家の鍵をもらったのです!」
「餌やりって…実の息子をペットか何かと勘違いしてるんじゃあねえかあのクソ親父…」
今の時期は修学旅行で奈良を訪れる学生達で旅館はてんてこ舞いであり、支配人である玄の父やうちの親父だけでは手がまわらないのだ。その為玄や宥が部活を早退した理由はこの猫の手も借りたい状況を少しでも改善するために駆り出されたからなのである。
ちなみに板前である父は家でまったく料理はせず、普段うちの家庭で料理を作っているのは母であるが今日は同窓会とかで不在である。玄もそのことは承知してるらしく尋ねてこない。
それにしてもどうせならそこは宥さんを選んでくれよ…まったく気のきかない親父である。
「で、あんか食うもんあるの?」
「ふふふよくぞ聞いてくれました!!実は龍一君が帰って来るまでにお台所をお借りして作っておいたのです!!」
「おー」
「材料は旅館にいっぱいあるしね。さあ何を作ったでしょう?」
キラキラと目を輝かせて質問してくる玄だが俺はエスパーではないので、下の階にある料理などわかるわけがない。でも料理の正体がわからなくても玄のことならもう長付き合いなので読めてしまう。玄が俺に作ってくれる料理それは…
「に、肉じゃが?」
「おー正解だよ!!龍一くんの大好物の肉じゃがを作りました!!よくわかったね」
「わかるさ、このお人好し…」
「ん?なに?」
「あ、あんでもねえよ!!ほら下行こうぜ腹減った」
そう言って龍一は飛ぶようにして部屋からでて階段を駆け下りていった。
「ふーご馳走さん」
「お粗末様、それにしてもすごいね。まさか鍋一杯だった肉じゃが全部食べちゃうなんて…穏乃ちゃんみたいだよ」
「へへへ、玄は肉じゃがだけは上手いからな、いくらでも入るぜ。」
お世辞でもなく玄の肉じゃがは本当に旨い。じゃがいもや人参にもちゃんと味が染み込んでいながら煮崩れもしていない。これでキレイに盛りつけでもすれば旅館の料理としても出せるのではないかというレベルだ。
板前の息子が太鼓判を押すのだから間違えないと思う。
「うーそんなことないよ!!他の料理だってちゃんとできるんだから!!お姉ちゃんやお父さんだって私が作るお弁当美味しいって言ってくれてるもん!!」
「ほーう?じゃあ今度俺にも作ってきてくれよ」
「え?龍一くんに…?」
「そう、それが本当かどうか見てみたいからな~」
「う、うん、いいよ!!よし…!!お任せあれ!!」
昼食から部活が終わって帰ってからの晩飯まで何も食べないというのはとても胃袋は持たなく、購買でパンを買ってしまっていた龍一であったが、よし!これで昼飯代が浮いたと心の中でガッツポーズをする。
これが憧とかなら「は?なんで私があんたに作らなきゃいけないのよ!!」とか「作って来てもいいけどいくら?」とか普通に言われそうである。でもどうして作ってもらえる俺よりも玄の方が嬉しそうに見えたのは謎である。
その後たわいの無い話をしてるうちにいつの間にか時計を夜中の11時を回っていた。
「お、もうこんな時間か玄そろそろ帰らないと不味いだろ」
「えー今日は龍一くんのお世話を任されてるから泊まっていくつも、」
「ダメ!!」
「わかったよ…じゃあ龍一くんベッドの下にあった『ドキドキ女子アナ特集!!福与アナのふくよかな谷間』は借りていくね」
「おい待てや」
おい、そのお宝は見つから内容に机の引き出しの二重底の下というデスノート並みに厳重に保管していたはずなのに、やはりこいつの巨乳に対する嗅覚は恐ろしい。
◆
なんとか秘蔵のお宝を取り返しブーブーと文句を言う玄を見送る為、玄関まで来ると帰って来た時は端に寄せてて気がつかなかったが玄のものであろう草履がボロボロになり鼻緒が切れてる。
「玄…お前…」
「あはは、龍一くんがいつも帰ってくる位の時間に間に合わせようと急いだら鼻緒切れちゃって、家に着いたらまだ帰って来てなかったからそんなに急がなくても良かったかな。あはは、こんなことならスニーカーで来ればよかったね。」
よく玄の足元を見るとボロボロである。きっとここに来るまでにおっちょこちょいの玄の事だ、何度も転んだのだろう。まったくコイツのお人好し加減には頭を痛める。
龍一ははぁ…と一度大きくため息をすると外にでて自転車を持ってきた。
「りゅ、龍一くん?」
「乗れよ、送っててやる」
「え?悪いよもう遅いし龍一君帰ってくるの12時過ぎちゃ」
「いいから、乗れよ」
「うんありがと…」
そう言う玄はちょこんと荷台に座り自転車をこぐ龍一のシャツをほんの少しだけ握り2人は暗闇の中へと自転車を走らせて行った。
「……」
「……」
「なあ玄」
「ひゃ、ひゃい」
龍一の家を出てから2人は無言のままである。もうすぐ旅館に到着してしまうと思う玄はその前になにか話さなきゃとソワソワしていると突然龍一の方から話しかけていきた。
「悪いな弁当の事いい、いつもいつも頼りっぱなしで…」
「そんなことないよ私も龍一に助けもらってるし」
「…ごめんな、もう一個、もう一個だけ玄に…みんなに頼っていいかな?」
「うん何個でもこの松実玄に、阿知賀女子麻雀部にお任せあれ!!」
「ありがとう…今日の事みんなの前で全部話すから…」
「…うん」
ペダルを必死にこぐ龍一から出た一言
荷台に座る玄からは龍一の表情は伺う事は出来ないし、言葉の真意も分からないがその言葉になぜか心が安心して頭を龍一の背中にそっと預けた。
「大丈夫…私はどうなっても龍一くんの味方だよ」
「ありがとな…俺勝つから」
「うん…」
「絶対に負けないから」
「うん…」
龍一の言葉の意味は分からないが、玄は龍一の言葉をただ「うん」と答える。
その後はまた終始無言となってしまったが不思議と嫌な感じはしない。むしろ玄は龍一の背中の温もりを感じながらこの時間がずっと続けばいいのに、と思っていたが自転車のブレーキ音が響いてこの時間の終わりを告げる。
正直名残惜しかったが自転車から降りて別れを告げる。
「ありがと龍一君」
「おう、玄また明日」
「うん!!また明日!!」
そして龍一の姿が見えなくなるまで玄は満天の星空の下で手を振っていた。