君と龍の愛し方   作:武田兎

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遅くなって申し訳ございません。
今回結構大事な場面で何度も修正しているうちにこんなに経って・・・

ご感想、ご意見ありましたらよろしくお願いします。


第二十話 自分の麻雀

「よーし今日も部活頑張るよ」

 

本日も放課後を告げるチャイムが鳴り玄は同級生達に別れを告げた後、麻雀部の部室へ一直線で向かう。

 

「どうもってまだ誰もいないや…」

 

部室の扉を開けるとどうやら玄が一番乗りだったらしく部室には誰の姿もなかった。

とりあえず持っている鞄を置こうとロッカーを目指すが、どうしてか玄はロッカーには向かわず部室の中心にある雀卓の椅子に座わり綺麗に整列された牌を指でなぞる。

 

(龍一君…今日話すって言ってたけどなんの話なんだろう…)

 

玄は昨日の龍一の言動が気になり授業中もずっと上の空であった。

しかもそういう時に限ってよく指されるのはなぜなのだろうか。そんなことを考えていると続々と部員たちが部室に集まってきた。

しかし肝心の龍一が来るのは部活開始からいつも一時間くらい経ってからなので、それまでの間玄はずっとソワソワしていたせいでラストになってしまった。

そして半荘の終了と同時に部室の扉がガラッと開く。

 

「ういっす…」

「龍一くん…」

「あ、龍一さん、今ちょうど半荘終わったんで入ってください。」

「あ、ああ。でもその前にみんな、ちょっと聞いてくれ」

「何急に?」

「どうかしたの?」

 

事情が飲み込めない宥と灼そして晴絵の3人は怪訝そうな顔をする中で事情を知っている穏乃と憧、そして玄は黙って龍一の方を見つめている。

 

「実は昨日…」

 

そして龍一は一回大きく深呼吸すると昨日の部活後にあった事をすべて話した。千川との事、そして来週の日曜日その千川と戦うこと。

その話の最中、みんなは一言もただ龍一の話を黙って聞いていた。

 

「そんなことがあったんだ…」

 

龍一の話が終わり最初に口を開いたのは恐らく一番心配していたであろう玄であった。

 

「最初はこれは俺の問題だから自分だけでなんとかしようと思ったんだが…情けない話、今のままじゃとてもアイツには千川に敵わない…」

「龍一君…」

「みんながインターハイ前の大事な時期なのはわかってる…だから…だから無理を承知で頼む、俺に一週間だけでいい力を貸してくれないか?」

 

そう言って龍一は玄達に深々と頭を下げた。龍一の事を幼い頃から知っている玄達であるが頭を下げる所なんてみたことがなかったので面を食らってしまう。それ以上に龍一のこの勝負への必死さが伝わってきた。

 

「頭を上げなよ龍一」

 

頭を上げて目線は床を見ているので顔は分からないが声の主は憧である事は直ぐにわかった。

そして龍一はゆっくりと頭を上げる。

そこには龍一の事を笑って見つめる『5人』の姿があった。

 

「バッカじゃないの、そんなのわざわざ頭を下げることじゃないっての。」

「そうですよ、私達龍一さんにお世話になってばっかだし…少しでも返せればって思ってたから、私でよければいくらでもお手伝いします!!」

「あんな奴に負けたらそれこそ土下座ものだからね!!」

「憧、穏乃…」

「そうだね、龍一が過去と決別をするにはもってこいの話じゃないか。私もあんたに協力するよ龍一、あんたはもう阿知賀女子麻雀部の一員で私の教え子なんだから」

「先生…」

「任せて、お姉ちゃんも協力するから。龍一くんなら大丈夫だよ」

「宥姉ちゃん…」

「ここにいるみんな、みーんな龍一の事大切な仲間だと思ってるんだよ。だから頑張ろ?じゃないね…絶対に勝とうね龍一君」

「玄…ありがとう…」

 

みんなの言葉に龍一の目頭が熱くなる。

みんなが龍一のことを迎え入れている、そんな雰囲気の中、灼はカツカツと龍一の正面まで歩いていき一言言い放つ。

 

「じゃあ質問に教えて」

「え?」

「どうして龍一は中学の時、『そんなこと』をしたの?」

「そ、それは」

「龍一がした事ってつまり、廃校になっちゃう学校の子達の思い出づくりに協力したわけだよね。自分の先輩達の中学最後の夏を犠牲にして」

「……」

「ちょっと灼!!」

「灼ちゃんそんな言い方…」

「そ、そうですよ」

「玄達は黙ってて」

 

灼の龍一に対しての心を抉るような言動に玄と穏乃は止めに入るがその静止も聞かずに灼は続ける。

 

「確かに龍一にはここまで色々協力してもらった。感謝もしてる、でもそれとこれは別。残り少ない大会までの練習時間を理由もわからないまま協力することは出来ない。これが阿知賀女子麻雀部部長としての意見、だから話して?どうしてそんな事をしたのかを」

「……」

 

しばしの沈黙の後、龍一は静かに口を開いた。

 

「怖かったんだ…」

「え?」

「怖かったんだよ…なんか俺の一打で人の人生が決まったり道を閉ざしちゃったりするのが怖かったんだ。でもそれができなくても結局は一緒…怖くて逃げて先輩達の夢を閉ざして挙句の果てには長年の相棒にもそっぽ向かれちまった…」

「……」

「雀荘に入り浸ってる時は、金を言い訳にできた。勝って奪っても雀荘で使ってる金じゃあ人生や道には関係ないってな…でも今回は…」

 

恐らく今回の戦いは雀荘で打っていた時とは違う、相手そして自分のこれからの麻雀に大きく影響を与えるのものだ。

だから灼は思った。

 

「できるの?龍一」

「できる」

 

あまりの龍一の即答に灼は一瞬面を食らう。

 

「そ、それはなんで?」

 

その言葉に龍一はクスリと笑い阿知賀女子のみんなを見渡す。

 

「そこまで深く考えなくていいじゃないかと思えたから。」

「は、はあ?」

 

龍一の意味不明な回答に灼は間抜けな声を出してしまう。

 

「穏乃、俺ここに来て一番最初に対局した時の事覚えてるか?」

「確か龍一さんがずっとラストだった、…ああごめんなさい!!」

「あはは、そうだその時俺は先生にお前達がどうしてまたこの部室に集まって全国を目指してるのか聞いたんだ。」

「和とまた遊ぶため…」

 

憧がポツリと呟く。

 

「そう、その一言があの時の俺には眩しすぎた。なんてったって和に会うためならどんな相手でも境遇でも関係ない!!倒してやるっていうのがあん時の俺とはあまりに真逆だったから。」

「そ、そんなこと」

「いやそのおかげで気づけたんだ。昔の玄や宥姉ちゃん憧と麻雀をやってときの気持ちを…余計なことは考えず、ただ役を作って上がることが楽しかった…麻雀に正直だったあの時の気持ちを」

「龍一君…」

「だから二度と俺は俺の麻雀を曲げない!!もう麻雀に嘘はつきたくないから!!」

「まったく…玄も憧もこんなちゃらんぽらんのどこがいいんだか…」

「え、何か言った?」

「別に、それより龍一早く座れば?」

 

そう言って灼は踵を返すと雀卓の席に着き下家の席をトントンと叩く。

 

「じゃあ」

「やるからには絶対勝つこと、これ部長命令だから」

「あたぼうよ!!」

 

龍一が勢いよく席に飛びつくと玄達はみんなんで一度目を合わせて深く頷いた。

そして憧、宥の二人が席に着き早速龍一の特訓が始まる。

 

「それにしても龍一も凄い人に喧嘩売ったよねー」

「へ?あんだって?」

 

憧がサイコロのボタンを押しながらなにげに尋ねる。

 

「だからあの千川って人晩成の人だったじゃん。」

「ちょ、ちょっとまって晩成ってあの全国常連の?あんで学ランなのにそこまでわかるんだよ」

「だって襟についてたでしょ校章、初瀬が晩生に行ってるから見覚えあったんだよねー」

「う、うそーん…」

 

あの千川という男の襟には友人である岡橋初瀬と同じ校章をしていたので印象に残っていたのだ。

その一言にさっきの威勢はどこえやら徐々に元気がなくなる龍一をみて麻雀部全員が「「だ、大丈夫かなー」」と心の中でシンクロしていた。

みんなの心配を他所にサイコロだけがクルクルと元気よく回っていた。

 

 

晩成高校------県内屈指の進学校でありながら麻雀部の強さも男女ともに県内ナンバーワンの高校である。

そんな晩成高校麻雀部の女子部長を務めるのが小走やえである。

基本的に晩成高校では男子麻雀部、女子麻雀部は別の部室で活動を行っている。何故なら男女を合わせてしまうととても一つの部室に入りきらないほどの人数になってしまうので男子と女子で分けているのである。

にも関わらず今やえが向かっているのは男子の部室である。既に男子の3年生は先ほどを帰って行くのを見かけた、にも関わらず部室の明かりがついているとうことは誰かいるのであろう。まあ誰かはおおよそ予想がつくが…

そしてやえが部室の扉を開けようと取っ手に手をかけた瞬間、扉が自動的に開いた。すると中から泣きじゃくっている恐らく一年生であろう部員が3人やえには目もくれず飛び出してきた。

一瞬ギョッとしたやえでったが、深くため息をして部室の中を覗き込む。

 

「今日はまた随分と荒れてるな。後輩いびりも程々にしたらどうだ?」

「あ、小走先輩。なんのことですか?」

 

こんな事をするのは晩成高校ではこいつしかいない。

千川蓮-------二年生ながらレギュラー入りを果たし実力も申し分ない。

ただし問題はこの性格だ。恐らく先ほど出てった一年生は千川が泣かしたのだろうが悪びれる様子は一切ない。

こんな奴との話はさっさと切り上げようとやえは鞄の中から書類を取り出し雀卓の上に無造作に置く。

 

「ふん、それよりもコレ、来週の吉野総合との練習試合の日程表だ。」

「ありがとうございます。にしてもどうしてあんな弱小と練習試合なんかしなきゃいけないんですかね」

「大方インターハイ予選前が近いからな監督もレギュラーにばかりつきっきりで相手をしてあげれてないから」

「弱い奴らボコって鬱憤を晴らせってことですね」

 

千川が笑顔で答える。まったくこの性格で実力もあるから余計に癪に触る。そのせいか今回のレギュラー陣だけの練習を断り、わざわざこっちの練習試合を希望しそれが通ったのも監督がコイツはそれなりの力があると思ってのことだろう。

 

「まったく私はこういうやり方は嫌いだよ…それとレギュラーであるお前がどうしてこの練習試合に参加しようと思ったんだ?」

「先輩だって参加するんじゃないですかー」

「私は女子の部長として部員たちを纏める義務がある。他校であるレギュラー陣の練習は男子の部長がまとめてくれるだろうからな私はこっちだよ。問題児のお守り役」

「ひどいなー、…ちょっとムカつく奴がいまして…」

「ムカつく奴?」

「そうなんですよ、ムカつくんですよ…だって俺アイツに勝ってるんですよ!!それもボコボコに!!まず比べる対象にもならないはずなのに!!なのにあの一年共は!!」

 

事情は分からないが先ほどの一年生は千川の触れてはいけない地雷を踏み抜いてしまったのだろう。

運が悪いとしか言い様がない。

 

「だから今回で証明するんです!!かつての龍はもういない!!今いるのは龍の首をとった英雄と無様な鯉だけだっていうのをね!!」

「……」

 

しかしコイツの麻雀にかける熱は本物だ。事実三年生が帰ってからも毎晩遅くまで牌譜を読みふけり研究をしている。その貪欲な強さへの欲求からか男子の部員の中でも彼に勝てる奴はもういないんじゃないかと言われてくらいだ。

そのムカつく奴とやらに同情する。そう思いながらやえは男子の部室を後した。

 

 

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