吉野総合高校麻雀部、県内でも全く無名であり万年一回戦負けが当たり前。
そんな弱小校に県内でも有数の強豪である阿太峰中出身の江夏大樹は入部した。
なぜ彼がこの学校を選んだのか?家が近かったから、学力的にも相応だから。確かに理由はいくつもあるが決定的なのはどれも違う。
ある友人との約束であった。
一緒に吉野総合に入って2人で麻雀部強くして全国に行こう。
江夏はもう何年も前の『彼』とした約束を頭の中で反芻する。
もう叶うことのないであろう約束。
(龍一…)
中学の時、あの事件後龍一は部活に顔を出さなかった。
休み時間や昼休み話しかけようとするもさっさと教室を後にしてどっかに行ってしまい距離を置かれていた。
そんなある日だった。
なんの前触れもなく、しかし予想はしていた言葉を龍一は俺に告げた。
「お、おい龍一なんでだよ…麻雀辞めるなんて嘘だよな?」
「……」
辞める-----------その言葉以降押し黙った龍一に江夏は何とか説得しようするが頭の中がぐちゃぐちゃになって言葉が出てこない。
「そりゃあやっちまった事はどっち側からみてもいいことじゃない、でも…それでもお前が麻雀辞める必要ねえだろ」
「悪いな江夏…もう俺いいや…ごめんな」
(なんでだよだって龍一…約束したんじゃんよ…)
あの時何か言葉をかけることが出来たなら引き留めることができたのだろうか、去っていく龍一の背中は今でも頭に焼き付いている。
(なんで中学の時のことなんか、まあ理由はわかるけど)
そういって卓の対面にいる男を見る。
千川蓮、龍一が起こした中学のあの事件の当事者であった男。そんな彼も今では奈良県で一番の強豪校、晩成高校に進学し2年ながらあの晩成のレギュラーであるらしい。
しかしうちのような弱小校の相手を晩成の1軍が練習相手にするわけがなく、今日は2軍の選手との練習試合だがどこの卓の晩成高校の選手達はウチでは相手にならないのか退屈そうに打っている。
そんな中、わざわざレギュラーである千川が2軍の練習試合にわざわざ混ざっているだけで異質なのにここにいる誰よりも闘志が感じられる。
貧乏ゆすりしながら牌を河に捨てた千川が突然立ち上がり対面の江夏を指さす。
「おい、杉花はまだ来ないのかよ!?」
「はあ?龍一」
「お前元阿太中らしいじゃねえか、道理で他の奴よりは幾分マシだと思ったぜ。今日の試合のアップには最適だと思って打ってんだが肝心の奴はいつ来るんだよ!!」
「ちょ、ちょっと待てよ一体なんの話だよ!?」
龍一?、今日の試合?話が全く読めない江夏はただ慌てふためくしかできなかった。
「あの野郎、まさか逃げたのか…まあ当然と言えば当然か、自分のチームの心配より相手様の点棒のが大切な奴だもんな」
「おい、お前いい加減に」
「はあ、ツマンネ。ここにいる奴等は暇つぶしにもならない位弱っちいし。これなら一軍の先輩達と遠征に参加するんだった。」
「まったく口だけでなく、態度もでかいなお前は」
業を煮やした千川に対し後ろから晩成高校の女子麻雀部部長の小走やえが現れる。
「小走先輩…」
「少し待つということを覚えろ。お前が指定したと言っていた時間にまだなっていないじゃないか。麻雀にもそれがよく出てるぞ。」
「ふん、まだ時間になってないっていっても後1分ですよ。来るわけない、逃げたんですよあいつは。はぁ…ねえ小走先輩アイツ来なかったら俺と勝負しませんか?俺のことムカついてるでしょ?俺を黙らせるいい機会だと思いません?」
「そうしてやりたいのは山々だが…今回私の出番はないらしい」
「え?ま、まさか!?」
「本当に龍一が!?」
その言葉と同時に扉が勢いよく開いた。
「よう、ギリギリ間に合ったな。」
「……」
「…」
現れた龍一の姿を見てその場にいた全員が固まった。なぜなら制服は雨も降っていないのにびしょびしょ、藻や水草らしきものがあちらこちらに付着しているという全く理解できない姿をしていたからであった。
固まった空気の中、龍一は何食わぬ顔でスタスタと千川の元もまで歩いて行き、雀卓に手をスッと手を置き千川に告げる。
「さあやろうぜ対局!!」
◆
「よし!準備万端」
時間は少し戻り、千川との決戦に向けて龍一は指定の場所である学校に向けて歩いていた。
今日のような大事な日に遅刻など出来ないと思い、余裕を持って家を出たためか時間的にはかなりの余裕がある。
この調子なら万が一にも遅刻はないだろう。と思っていると龍一の携帯から通知を伝える音が聞こえる。
携帯を鞄から取り出し差出人を見ると玄からで画面には「みんなで応援してう。がばってね」という文字とどこで見つけてきたのか可愛らしいドラゴンのスタンプが貼られていた。
「はは、アイツ打ち間違えてら…んーよし!一応神頼みでも」
「まったく、そんなことだと思ったわよ」
時間はまだ余裕もあることだしここは近くの神社にでもお参りに行こうかとしていると後ろから突然声をかけられる。
「げ、憧!?」
「ゲ!?とはなによ龍一ってばいつもは神頼みはしないっとか言って肝心な時は心配になってお参りにきてるよねカッコ悪」
「あんだよ、いいだろうが。それよりもあんだよ?」
「ん、これ…」
そういって憧はぶっきらぼうに小さな包みを龍一に手渡す。
「これって?」
「新しいお守り、アイツ私もムカつくし…あ、あんた負けたら承知しないからね!!」
「おう!!ありがとうな。さてと早速鞄につけ…ん?」
そう言って笑顔で龍一は包みの中のお守りを取り出すとアルことに気がついた。
「なあ憧…」
「ん?どうしたの?」
「これ恋愛の…」
そういって龍一が憧に見せたのは『必勝祈願』とは一文字もあっていない『恋愛成就』と書かれたお守りであった。
「え?あ、違うのソレは!?私のでじゃなくて、みるなああああ!!!」
「ちちょ、ちょあぶねって落ちる川に落ちるから」
錯乱した憧が一心不乱に龍一からお守りを取り返そうと掴みかかる。返せばいいのに龍一もあまりの憧の必死な形相にたじろいで橋の端まで来てしまった。
「お願い今の記憶今すぐ消して!!なんでも!!なんでもするから!!」
「落ち着けって憧!あ、」
「え?ああ!?」
小さな橋のせいか手すりも何もない為、端に追い詰められた龍一は足を取られ川に落ちてしまう。成功なのは携帯の入った鞄を橋の上に置いていたことで、失敗は落ちる際に憧の手を咄嗟に掴んでしまったことだろうか。
などと冷静に考えながら龍一と憧は辺りに大きな音と水飛沫をあげて仲良く川へと落ちていった。。