君と龍の愛し方   作:武田兎

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第五話 邂逅

日が落ち暗くなった校内から二つの人影が歩いてくる。

一つは本日恩師赤土晴絵の壮行会のために阿知賀女子にやってきた杉花龍一、そしてもう一つの夏にも関わらずマフラーをユラユラ揺らしながら歩く人影は龍一の幼馴染で一つ年上の松実宥のものである。

 

「龍一くんとこんなにおしゃべりするのは久しぶり~でも赤土さんのお別れ会間に合わなくて残念だね」

「そそそっそッスねあはは…」

 

宥と目を合わせられず夜空を見上げ顔を真っ赤にして歩く自分の慌てっぷりに我ながら気持ち悪いと思うがこの状況、日の暮れた道を想いを寄せている人と二人で歩く…このシチュエーションで慌てない男子中学生などいるのであろうか?もしいるとするのなら是非ともご教授願いたいものである。

 

早急に!!

 

早急にッ!!

 

「そういえば玄ちゃんが言ってたよ~龍一くん麻雀部に入ったんだって?」

「はい!?そ、そうッス」

「そっか…頑張ってね。あのね…もし龍一くんがよかったら今度久しぶりに私と打ってくれない?」

「へぁ!!いいですけど…な‥ん‥で‥」

 

そこまで龍一が言いかけると自分の手に何か暖かい感触を感じ目線を移す。目線を移した先では宥の白くて柔らかい手が龍一の手を包み込んでいた。

 

「私もねお母さんがいた時みたいに麻雀してみたいんだ…玄ちゃんや龍一くんみたいにあの場所に行きたかったけどこども麻雀教室が出来た時私は中学生だったからなんとなく行きづらくて…だから…たまにでいいから…ダメ?」

「宥姉ちゃん…」

 

龍一の手を握りプルプルと震える宥の姿はいつもよりもどこか儚げで放っておいたら壊れてしまうのではないかという危なげな感じもした。

いつもなら宥に手を握られるなどその場で感激のあまり卒倒してしまいそうな龍一だが先程までの慌てっぷりが嘘のように宥の姿をただ眺めていた。

 

「きゅ急にごめんね。今日温室でお母さんが好きだったお花のお世話してたからつい思い出しちゃって…今のこと忘れて」

「宥姉ちゃん!!」

 

そう言って誰が見てもわかるような作り笑いをした宥はそっと自分の手を龍一から離した瞬間、今度は逆に宥の手を龍一の無骨な手が包み込む。

 

「俺でよかったらいつでも相手になるからさ。玄だってきっと…だから宥姉ちゃん…あのーそのー」

 

こういう時気の利いたセリフがパッと出てこない自分に対して呪いたくなっているといつの間にか宥の表情が先ほどまでの辛そうな作り笑いではなく本当に安心したかのような笑顔に変わっていた。

 

「ありがとう龍一くん…あったかーい…」

「へぁ!?ごめえっめんあ…」

 

今更ながら自分が宥の手を握っていることに気づき急いで手を離す。すると今まで外の暗さと極度の緊張から見えてなかった宥のマフラーが街灯の明かりで照らされてはっきりと見えるようになった。

 

「そのマフラーまだ使ってたんだ…」

「うんすごい暖かいし…」

 

宥が大事そうに首に巻いているピンク色のマフラーはかつて龍一が宥の誕生日の日にプレゼントしたものであった。数年経った今でも大事に使われているというのはあげた側としてもとても気分がいい。

想いを寄せている人ならばなおさらだ。

 

「相変わらずだな、宥姉ちゃんは」

「だって…そうだ龍一くんさっきみたいに手繋いで帰ろう?あったかいし…」

「えっ!?だってそんなとこ誰かに見られたら学校で噂になるんじゃ」

「大丈夫だよ~見られてもきっとみんな姉弟だと思うから」

「…ですよねー」

「え?ど、どうしたの?」

「なんでもないです…」

 

その後手を繋がされ宥姉ちゃんを松実館に送った後、泣きながら全力ダッシュで家に帰り相変わらず男ではなく弟として見られている事実に部屋で再び涙で枕を濡らしていると玄からメールで『明日おもちの素敵なお姉さんのDVD借りに行きます』というメールに『能天気が服着て歩いてるような奴には貸さん』と八つ当たり気味なメール送りその日は眠りについた。

 

 

季節は秋になり新学期を迎えてから数週間経ったある日。

最近部活が忙しくなった事とこども麻雀クラブがなくなってしまった事で玄と会う回数がめっきり減り最近ではほとんど会っていなかった。

 

(最近玄にあってないけどどうしてんだろアイツ…?)

「おーい龍一」

 

部活に行こうとする龍一を同じクラスで麻雀部の江夏大樹が呼び止める。

 

「あんだよ江夏早く部活行こうぜ」

「それがさっき先輩から聞いたんだけど今月から男子と女子の雀卓の割り当て変わるらしくて木曜日は女子が使うことになったから部活ないんだってよ」

「マジかよ」

「おう、だから今日どっか遊び行かね?たまには麻雀以外のことでパーっとやろうぜ」

 

江夏がボーリングの投球フォームをしながらウインクをしてくる。普段ならキモイと罵倒の一つでもしているところだが今の龍一の頭の中は幼馴染の黒髪の少女が今どうなっているのかのことしか考えていなかった。

 

「あー悪い今日俺はパス」

「なんだよなんか予定でも…ってさては女か?女なのか!?許せん!!断じて許せんぞ!!」

「ばーか、そ、そんなんじゃねえよ!!」

 

江夏の直感は女絡みになるととても鋭くなりその直感を少しでも麻雀に回せればレギュラー確実だと思っているのだが全く回せる気配はない。

 

「だよなこんなツンツン頭で麻雀バカのお前に彼女なんて」

「殴るぞ?」

「いやや冗談、じゃあまたな」

「おう」

 

走っていく江夏の背中を見送りながら龍一はポケットから携帯電話を取り出し玄に電話をかけてみる。しかし呼び出しはしているが一向に出る気配はなかった。

 

「ありゃ?繋がんねえや。じゃあ行ってみますか」

 

そう言って龍一は自転車に跨り阿知賀女子を目指してペダルを漕ぎ始めた。

 

 

「よし、もうちょっとで終わりかな?」

 

阿知賀女子のこども麻雀クラブが開かれていた教室、今とっては使われていないはずの一室で松実玄が雑巾をで絞りながらポツリと呟く。

ほんの少し前まではたくさんの子供達で溢れていた教室もクラブがなくなってしまった今となっては玄ただ一人しか訪れなくなってしまった。

 

「おいそこの君、ここは使われてない教室で立ち入り禁止のはずだが?」

「ひゃい!?ご、ごめんなさいこれには深い訳があってですね、ん?その声は…」

 

玄は突然扉の方から発せられた声にびっくりして思わずバケツの水をぶちまけてしまいそうになってしまうがどこかその声に聞き覚えがあり振り返ってみる。

そこには幼馴染の龍一の姿があった。

 

「まさかと思ってきてみれば本当に掃除続けてるとはな…」

「龍一くんどうしてここに!!」

「それはこっちのセリフだ!!なんでまだ掃除してるんだよ?もうここは麻雀教室じゃないんだぞ」

「でも木曜日は私の当番だったし…それにここで待ってれば誰かまた来てくれるような気がしてたから…」

「そんなこと言ったって玄以外誰も来てないじゃないか…」

「でも龍一くんが来てくれたよ」

「それは…」

「私ね正直最近辛かったんだ…いくらここで待っても誰も来ないんじゃないかって不安だった…でも龍一くんが来てくれたからこれからもここで一人でも頑張って行けるよ。ありがとう…」

 

龍一にはその言葉を笑顔で言う玄の姿がとても痛々しく感じ、自分でもわからないが思わず歯ぎしりがするほど奥歯を強く噛み締めてしまう。

 

(なんでお前はいつだって…)

 

こいつは昔からそうだ。

他人のことにはおせっかいな程踏み込んでくるくせに自分のことになると途端に殻に閉じこもってしまう。

 

そんなお前だから最初に話したあの時から傍にいてやらなきゃと思ったんだ…

 

そんなお前だから守ってやらなきゃと思ったんだ…

 

「せよ…」

「え?何?」

 

龍一が玄に手を出し何か言っているが小さくて何を言っているのか聞き取れないので思わず聞き返してしまう。

 

「貸せよ箒!!木曜日は玄と俺の当番だったろ?だから俺もこれからは」

「っぷ、あははっは」

 

恥ずかしいのか真っ赤な顔の龍一が言葉を言い終わる前に突然玄がお腹を抑えて笑い出した。

 

「な、なんで笑うんだよ!?」

「だ、だっていつも掃除サボってた龍一くんがなんか真面目な姿みたらおかしくて」

「うるせーほっとけ!!ほらさっさと始めるぞ…」

「うんありがとう…龍一くん」

 

箒で床を掃く龍一の姿をみて玄は今まで以上に高鳴っている自分の胸がとても心地いいものに感じこの時間が永遠に続けばいいとさえこの時願っていた。

 

 

 

 

それから数ヵ月後…

 

奈良に春がやってきた。

 

 




執筆中だったタイガーアンドドラゴンのメモ帳を不注意で削除してしまったため現在復元中です。
楽しみに待ってくれていた方々本当に申し訳ありません。もうしばらくお待ちください。
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