君と龍の愛し方   作:武田兎

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第八話 進むべき道

「やっはろー江夏くん!!」

「うるさっ!!なんだよ朝からテンション高いな」

 

朝、江夏大樹がいつもどおり席について携帯を弄っていると耳元で大声で挨拶される。あまりの大きな声にキーンとする耳を抑えながら満面の笑みで登校してきた龍一を少し忌々しげに見る。

 

「いやーわかる?わかっちゃう?江夏くんは名探偵かいな!?」

(うざ…)

 

龍一のテンションの高さと比例して江夏のテンションはドンドン下がっていくがそんなことはお構いなしに龍一はさっさと江夏の前の席である自分の席に着席しペラペラと話し始める。

 

「実はさ昨晩な…俺の女神に」

「あーはいはいよかったねー」

「んだよちゃんと聞けよ!!」

「お前とあの子のノロケ話なんて聞きたくないわ!!なんでお前があんな可愛い子にモテるんだよ!!」

「あの子?可愛い子?」

 

江夏が言っている『あの子』『可愛い子』に心当たりがない龍一は不思議そうに首を傾げる。

 

「時々学校の校門で待ち合わせしてる阿知賀の制服着た黒髪の子だよ!!」

「あー玄?玄とは全然そんな関係じゃないから」

「はあ?まじ?」

「あんだよそんなに驚いて」

「いや別に…」

 

あまりの龍一の素っ気ない返答に江夏は茶化すのを忘れ龍一のあまりの鈍感さに呆れてしまう。

 

「それよりさ今日は男子部活休みだろどっか遊び行かね?最近ボーリングしてないからな」

「いいのかよ龍一、お前コーチに放課後呼び出されてなかったっけ?」

「いいのいいいの、どうせ他校の選手の映像ずーっと見せられるだけなんだからさ」

「…本当に?」

「いいのいいの」

 

龍一は手をブンブン振りながら陽気に答える。

 

今思えばこの時気づくべきだった。

 

突如引きずりだした江夏の表情と自分の後ろのに立つ人の気配に…

 

「あー杉花」

 

龍一が振り返るとそこには笑顔で佇むコーチの姿があった。一見笑っているがその笑顔の裏には念能力者でもない龍一にも見えるほどのドス黒いオーラに包まれ、よく見ると青筋が浮き出てピクピクと痙攣した顔は通常の数段上の怖さを感じる。

 

「コココーチ、ドウシシシたんですかまだ朝ですよ、ぶっぶぶ部活じゃないですよまったくコーチはおっちょこちょいだなあはは…」

「んー杉花に相手校の映像を今日は家で見てきていいって言おうと思ってDVD持って来たんだけど…やっぱりやめた」

 

そう言って手に持っていたDVDのディスクを鞄の中にしまってしまった。

 

「あ、あああの今の話は冗談で…」

「そうかそうか」

「本当はもっと他校の研究したいなーって…」

「いやー杉花がそんなに言うなら今日はみっちり見せてやるから…覚悟しろよ」

「…はい」

 

コーチが去った後、項垂れる龍一を見てあんな可愛い子を蔑ろにしている罰だと少し気分がスカッとした彼女いない歴=年齢の江夏大樹であった。

 

 

「憧ーまだ帰んないの?」

 

放課後、本日は女子だけの部活でいつも以上に打つことができた憧であったが雀卓に座り何やら難しい顔で紙とにらめっこをして動こうしない。入部してできた友人である岡橋初瀬の呼びかけにも紙から目を逸らさずに手を振って答える。

 

「うんーもう少し残ってく」

「そっかじゃあね」

「うんまた明日…よし続き続きっと…」

 

ぽつんと一人部室に残った憧は引き続き紙に目を凝らす。

それから一時間くらい経過しただろうか憧は部活の疲れが出てきたのか雀卓に突っ伏してしまう。

 

(はあ疲れた…一人でこんなに考えた事なんて…あの時以来か…)

 

そしてだんだんと重く感じた瞼が閉じていく中で憧はあの時のことを思い出す。

小学校六年生の時、麻雀を本気で打ち込むため阿太峯に入学したいがそれは穏乃や和を裏切ることにつながると思い込み後ろめたさがあったことを彼に打ち明けたあの日のことを…

 

(龍…一…)

 

 

「ありがとうございました…」

「おーうお疲れー」

 

時刻は既に夜8時を周り昼間は沢山の賑やかな声で溢れかえっている校舎もこの時間では静寂が包み込み声どころか明かりも殆どついていない。

数少ない明かりがついている教室の一室から龍一がやっとコーチとの特別特訓4時間みっちりコースを終了し出てきたがその顔は憔悴しきっている。

 

「つ、疲れた…あんの鬼コーチいつか俺が、ん?」

 

龍一がいち早く家に帰って泥のように眠りたいと思っているとこんな時間にも関わらず麻雀部の部室に明かりがついていることに気がついて覗いてみる。するとそこには雀卓に突っ伏して可愛いらしい寝息をたてている幼なじみの新子憧の姿があった。

 

「くぅ…くぅ…」

「おい」

「うきゅ!?」

 

龍一が寝ている憧の体を軽く揺すってみるとビクンと猫のように体が飛び上がり目が覚める。

 

「ふぇ!?な、ななななんで龍一が!?今日は男子部活ないでしょ!?」

「それはコーチに言ってくれ」

「憧、お前もうとっくに部活は終わってるだろ、まさかこんな時間までずっと寝てたのか?」

「べ、別になんでもいいでしょ!!ちょっと考え事したらいつの間にか疲れてウトウトしちゃったの」

「ウトウトってお前…」

「そ、それよりも…なんか聞いた?」

「なんかってあんだよ?」

「寝言で私変な事言ってなかった!?」

「別に言ってねえけど…」

「そっか、ならよし!!」

 

ほっと胸をなでおろす憧を不思議そうな目で龍一は見る。ふと憧が寝ていた雀卓に何やら紙の束がある事に気がついた。

 

「ふーんこれ牌譜か?」

「ちょ、何勝手に見てるのマジキモイ!!」

 

その紙に書かれていたものは憧が入学してから今までの和了率や待ち、放銃率が記録されている牌譜であった。

 

「あんで自分の牌譜なんか見ておねんねしてんだよ」

「別に寝たのはいいでしょ!!な、なんか龍一ばっかり先にいってる気がして私も少しでも強くなろうと自分なりに打ち筋を見直してみようと思ったの!!」

「でその途中にネムネムの森に行ってしまったと…」

「う、うるさい!!馬鹿龍一!!だっていくら考えてもわかんないんだもの…どうすればもっと上手く慣れるかな…これじゃあ穏や和に顔向けできないよ…」

 

憧は入学してから今まで誰にも言ったことのなかった弱音や泣き言を目の前の龍一に吐き出してしまった。すると次第に目に涙が溜まっていくなか、龍一に泣き顔は見せまいと涙を止めようとすると体がプルプルと震えてしまう。

その様子を真剣な表情でただ黙って見ていた龍一が憧の牌譜を手に取り静かに口を開く。

 

「…憧お前昔から頭だけはよかったよな」

「なに…いきなり」

「知ってるか?速攻型の鳴き麻雀は頭が良くないとできないんだぜ」

「え…?」

「お前は昔から鳴かない門前がばっかりだったからな。でも鳴いて速攻してみる方が憧にあってるんじゃね?」

「そ、そうかな」

「ああ…きっとあの二人もニュータイプの憧見たら驚くぜ」

「あはは、何それ…」

 

憧はカーディガンの袖で涙を拭うと龍一はにかっと笑い憧の頭に手を乗せ、クシャクシャと乱暴に頭を撫でる。

その乱暴に撫でられる事が憧にとって龍一の優しさを感じられるとても心地いいものに感じ、全く抵抗はせずに顔を赤くしながらされるがままになっていた。

 

「きっとせっかちな憧には向いて、べぁ!!?」

 

龍一がそこまで言いかけると唐突に憧に思いっきりカバンで顔を殴られ思わずその場に倒れ込んでしまう。

 

「一言余計!!たく…そこまで言うならちゃんと付き合ってくれるよね?」

「いたたた…へ?」

「鳴き麻雀なんて急にやれって言われてもできないから…できるようになるまでわ、私の練習相手になってよね!!」

「まあそれくらいなら」

(やった…!!)

 

憧が顔を赤くし何やらソワソワして様子が変だとは思っていたが龍一はこの時憧が密かに小さくガッツポーズをしていたことに気づかなかった。

 

「よっし!!憧ーこのあと時間あるか?」

「あ、あるけどなんで?」

 

突然の質問に驚いている憧を見て龍一は待ってましたとばかりに答える。

 

「今自分で言っただろ?練習に付き合えって、なら一緒に行こうぜ松実館へ」

 

 




唐突ですけどついにシノハユ始まりましたね。
原作とも阿知賀編とも違うシリアスな話にとても引き込まれました。
これを期にもっと咲の小説が増えることを願っています。

あと誰かが推薦文章を書いてくれることも(小声

それではご感想ご意見ドシドシお寄せ下さいお待ちしてます。
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