元魔王のHSDD   作:川柳左右

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プロローグと連続する実質二話、投稿です。


1.彼とわたし

 ━━正直言って、あんまりだと思うの。

 

 

「ただいま」

 

 一人暮らし用の学生アパート。

 住んでいるのは文字どおり私だけなので返事が来ることはない、

 

「おかえり、と言っておこう」

 

 はずなのだが私の場合、この悪魔から挨拶が返される。

 アス。アスモデウス。

 自称、私の魂につながる存在。

 人前に姿を見せない、私だけの隣人。

 

 ……おかえりって、あなたずっと学校で私と一緒にいたでしょうに。

 

 室内では具現化しているこの明らかに外国人なのに流暢な日本語を話しているように聞こえる男のわきを通り抜け、荷物を降ろしてスーパーで買った牛乳を冷蔵庫に入れる。

 確かに冷蔵庫の中の牛乳はもうほとんど残っていなかった。

 明日には無くなっていただろう。

 早めに買っておいて損はない。

 帰り道に買い物することは不思議なことではない、普通のことだ。

 

 だが、

 

 牛乳を買いに行ったのはアスの勧めだった。

 

 ……。

 

 アスが私の行動に口を出す、それは決まって私があちら側(非日常)に触れてしまう時だった。

 

 きっと、おそらく、実際にはそうなってほしくはないのではあるが、その先では事実ありふれているらしい悲劇がおこっていたのだろう。

 

 ━━タダワタシハカイモノデヨリミチヲシタダケ。

 ダカラナニモワルクナイ。

 

 そんな思考が頭によぎり、振って霧散させる。

 

 実際に見たわけでもなく、確定した物事ではない。

 

 何か気分を和らげよう思い、体が少し冷えていることに気づく。

 棚からココアを取り出してホットココアを作る。

 かつては好みの砂糖加減に苦労したのだが今では慣れたものだ。

 ものの数秒でココア二杯が完成し、一つをテーブルに置きベッドに腰かける。

 私が腰かけたのを横目にしながらテーブルの上のココアを手にとり対面に立つアスが話しかけてくる。

 

「気に病むことはない、と言っても無駄かね?」

 

「無駄ね」

 

 対する私の回答は短いもの。

 あなたがいて、でも見捨てなくちゃならないなんて、どうかしてる。

 そんな考えを持つとろくなことにはならないとは想像がついているけど。

 

「……正直は美徳だが行き過ぎは悪だな。だが気に病むのは別に構わん。これらの件に関しては完全な俺の力不足だからな」

 

 殊勝なことを言う。

 

「魔王が力不足ってのもどうかと思うわ。……もちろん感謝してるわよ。一人だとこんな危険な街に住めないでしょ」

 

 アスが言うにはこの街は悪魔が統べているらしく、さらに時折悪魔は人を襲っている。

 学校の悪魔が人を襲っているとは考えたくはないが、そもそもそれはありえないであろうというのがアスの考えである。

 

「いや問題は力不足よりも平和ボケの方だ。そうでなければこんなふざけた街に住まわせんよ。……憑いてるだけだから大丈夫だと?ありえるわけないだろう、そんなもん。他にもなんなんだ、一体。━━悪魔が冥界以外に領を持ち、そして人間を悪魔が喰い殺すだと?戦争を起こすつもりか?」

 

 流石に人を襲った悪魔は犯罪者として処刑されているそうだが、あいにく彼曰く無能な統治者に防犯意識はないようだ。わりかし定期的に人は襲われている。

 私にとっては平穏な人生を犯される要因でしかなく、アスモデウスという悪魔における最大級の地雷はへたに目立つようなことはできないのだった。

 珍しく、とは言えないほどにここ一年で気炎をあげるようになった元魔王を尻目にココアをすする。

 

 そういえば。

 

「ねぇ、アス」

 

「どうした?」

 

 別に心労に耐えきれなくなったというわけではないのだけれど、この事態に対してのより一層の備えをしたい。

 

「前に教えてくれた悪魔のことは今ではどれだけ通じているかはわからないって言っていたじゃない?」

 

「1年前のことだな。正確に言えば1年と23日」

 

 もう高校二年だからね、一年は過ぎているだろう。アスは数字が絡むと途端に物事に細くなる。

 そうじゃなくて。

 

「それから指針を決めてここまでやってきたけど、全然役に立たないじゃないのあなたの知識。だからもっと知るべきじゃないの?」

 

「だからこの街を統治する連中に接触しろと?やめとけやめとけ。たとえ奴らが善良であろうと、後から出てくる奴らが面倒臭い。元魔王だからわかる」

 

 これは時々起こる議論。

 流石に直接関わることの危険性は理解している。そしてその理解もおそらく足りていないということにも。

 その状態の理解加減でも私は思うのだ。現状を知らねば手遅れになると。

 せめて今の情報を得るべきなのだ。

 

「でも情報がないと身の振りも考えられないわよ。ねぇ何か現状を知ることができるツテなんかないの?」

 

 そして情報だけ得られるツテ、だけど。

 と追加して尋ねると不意にアスは考え込んだ。

 これは、あるのか。

 今までなら心当たりがないとかで素気無く切り捨てられただろう問い。

 その答えが。

 

「別に隠していたわけじゃないが、ある。オススメの、な」

 

 オススメの情報源なんだ。

 

「……そこはオススメはしないが、とか言うものじゃないの?」

 

「実際オススメなんだよ。でも面倒臭い」

 

「どういうことよ」

 

「ニュースで見つけたんだ。ふむ……まぁいい機会か。(いざとなりゃ力押しでいける)くく」

 

 なに小声で言ってんの。何するつもりよ。なんで笑ってるの。

 

「質問に答えなさいよ」

 

「この休日、昼食を食べに行こうか!!」

 

 途中から成り立たなくなった会話は魔王のドヤ顔の宣言で終わることとなった。

 

「ハァッ!?」




書けたのはここまで。

思い浮かぶ話をひたすらに書いてもこの程度の文量。
他の作者の方々の凄さがよく分かります。

アスモデウス━━アスと生江沙良━━サラの物語は始まったばかり。
完結を目標に頑張ります。
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