元魔王のHSDD   作:川柳左右

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三話目です。


2.そうだ、食べに行こう。

 ━━七つの大罪と言う概念がある。

 大罪ではなく罪源という表現もあることからわかるように、人間を死に至らせる罪であることの他に人間を罪に導く可能性のある欲望や感情のことを指す。

 元は八つあったのだが定着はしていない。

 そして悪魔にはこの七つの大罪に符合する者たちがいた。

 四大魔王の他にも強大な悪魔がその名を連ねている。

 

 傲慢(sperbia)のルシファー。

 強欲(avaritia)のマモン。

 怠惰(acedia)のベルフェゴール。

 嫉妬(invidia)のレヴィアタン。

 暴食(gula)のベルゼブブ。

 そして我━━色欲(luxuria)のアスモデウス。

 最後である憤怒(ira)魔王位(サタン)にある四大魔王共通の受け持ちであったためにこれら六柱の悪魔が七つの大罪の悪魔ということになる。

 このことは人間達の一般的な情報にはないことだな。

 そして大罪の悪魔はその罪に応じた力が使える。これは他の悪魔のものよりも強力なものだ。といっても実際に活用している奴なんてほとんどいなかった気がするがな。せいぜいハエ野郎(ベルゼブブ)がたくさん食ってたぐらいか。

 ん、我か?……まぁ色々できるしした、とは言っておこうか。正直言ってもう飽きてんだけどな。

 因みに八つの大罪では嫉妬の代わりに虚飾、そして憂鬱が入る。今の世の中では復活しそうではあるな。

 

 

 さてさて行きすがらの説明の触りは終わったところで、閑話休題。

 

「ここだ」

 

「……やっと、かぁ。んー」

 

 電車で一時間弱揺られに揺られてそこそこ大きな神社のある街へとたどり着いた。

 ただひたすらに俺の指示のもと行動していたサラはここまで長くなるとは思っていなかったのだろう、しきりに体をほぐそうとあちこちを動かしている。あぁ、そんなに首を回したら痛めるだろうに。

 

「痛っ」

 

 言わんこっちゃない(言ってない)。

 

「さて目的の箇所はこの街の参道にある。早速行きたいところだがここは本物だな。結界がある。許可を取った方があとぐされなくていいだろう」

 

 街には神社を中心にしてドーム状の結界が張ってあった。

 少なくとも二重、感知しつつ敵性があるかを判断する結界とその内にある侵攻を妨げる結界。効率的であろう。

 ならばすべき行動はこうである。

 ひとまず彼女とともに最初の結界を通った。 

 

「進んじゃっていいの?結界ってなんか入ったらやばくないの?」

 

「大丈夫だろう、今のはインターホンを鳴らした程度よ」

 

 最初の結界を通った後で俺の存在をアピールしつつ、これ以上進まずに待機する。

 俺達は客人だ。その単語の前につく『望まれぬ』をのけてもらうために内側の者に接触しなければならない。

 

 待ち続けること数分、ようやくお出迎えがきたようだ。

 

「そこの者ら、何用だ」

 

 短い問いをするは戦装束の武士。

 ゆらり揺らめく人魂からやはり只人ではなく、異形の存在とわかる。

 サラは悪魔とは別の存在に緊張しているのだろうか、よく見ると震えていた。

 ふと周囲の温度が下がっているのに気づく。十中八九彼の存在によるものだろう。

 ……怨霊、いや御霊か。サラの震えは意図せぬ寒さか。

 

「見ての通り、悪魔だ。予約はしていないがそちらの参道にあるあんたらの食客、そいつの客だ」

 

「……彼の客と?」

 

「ああそうだ。故にここの主に入る許可をいただきたい。どうしても入りたいのだが面倒ごとは勘弁だからな」

 

 武士の男は考え込むとやがてうなづいて返答をした。

 

「あいわかった。が社にて我が主人にその旨を貴君自ら伝えてもらいたい。こちらだ」

 

 あまりにあっさりとことが進んだため少し意表を突かれた。

 ついて行きつつも尋ねる。

 

「……やけにあっさりと決めたのだがいいのか?」

 

「なに、攻めてくるのではなく客として順序立てているのだ。おざなりは礼節に反するであろう。それに彼の客を追い払うなど彼に対する無礼にあたる。ところで日の本の妖、神ならともかくいったい貴君らはどこで彼の門戸を知ったのだ?」

 

 まぁ面倒がないに越したことはない。そしてあいつの所在を知った術か。本当にたまたまなんだよなぁ。

 

「先日のこの神社のニュース特集でな、あいつ特有の術を見た。丁度いいと思ってやって来たんだよ」

 

「なるほど彼とは旧知の仲であったと」

 

「彼、かれ、カレって結局誰なのよ」

 

 武士が現れてから言葉を発していなかったサラが男が威圧をやめたためか会話に入ってきた。

 

「着いてからのお楽しみって奴だ。もうちょいの辛抱さ」

 

「ほうお嬢さんに言っておられないとは、まぁそのようなことであれば某も黙っておきましょうぞ」

 

 お昼まだなのに、と呟く彼女を尻目にウマがあうのか武士とニシシと笑い合う。

 名を知らないので尋ねると、貪狼というそうだった。

 

 貪狼についていき、神社境内に入る。

 

「某はここまでだ。訪問の旨をただ願掛けの形でしてくれればいい。では」

 

 そう言い残して貪狼はすうと透明になりその気配も消える。

 境内には他の参拝客もいるようだが周りにいるのはサラと俺の二人のみだった。音がしているようで響かず、意識にも残りにくい、そんな神社特有な空気を感じる。

 これからこの地の主に挨拶するにあたって霊体のままではいけないだろう。というわけで周囲に気を使いつつ実体化する。

 サラを連れ立って本殿前の拝殿に立つ。既に音は消えていた。

 ━━ああ確かに、いる。

 貪狼に前以て知らされていたのだろう。本来なら賽銭や鐘、拍子で気をひくとされる存在が既に俺達二人に注目していた。

 

「普通に神社の作法で何か願え。挨拶は俺がする」

 

 二人して五円玉を投げ、二礼二拍一礼。人がするように思考にて訪問の挨拶を浮かべる。すると

 

 ━━珍しいな。御身のようなものが我らの作法にて挨拶するとは。

 

 何かが繋がったという感覚と同時にその繋がった存在から思念が飛んでくる。

 

 ━━まぁ、珍しいでしょうな。さてまずは悪魔である私がここまで入ることを許していただけたことの感謝を。そして私と横の娘はこの地に繋がる旧知の者の会いに来ました。この地で動く許可をいただきたい。お察しでしょうが私はあまり目立ちたくない。故に前もっての連絡をしなかったことにお詫びする。

 

 悪魔が見れば目を疑うだろうな。傲岸不遜な魔王であったこの俺があまりにも下手だと。

 あいにく今の俺は魔王ではなく平穏を求める一個人。権勢を盾にするようなことはしない。

 

 ━━そのことなら問題ない。既にお二方をここに近づけた時点で許可と同義。一方御身は形式を重視しているようであったからな。そうせねば気がすまないのであろう。

 

━━感謝する。……今の私には慎重すぎるに越したことはないのでね。では。

 

 参拝が終わった後おみくじを買って二人とも末吉、これからの厄払いにとくくりつけてから神社を後にする。

 サラに何を願ったかと聞いて内緒と返される。

 

「さて待たせたな。飯にするか」

 

 既に正午を過ぎ午後一時。昼にはいい時間帯だ。

 

「それはいいけど、どこで?」

 

 前からお腹が空いたと主張していた彼女は何を食うのかと訊いてくる。

 付近にはうどん屋や団子屋、蕎麦屋があるが場所は既に決まっている。

 ”食事処Sennacherib”。普通の店の中に唯一何かしらの術式がかかっているとわかる店。戸を開け、彼女を連れ立って入る。

 

「いらっしゃいませ。……ああ、迷い込むならともかく自ら目指してくる一見とは珍しい。まずはただ美味しい料理を提供するセンナケリブへようこそ。客は男と少女、と。む。……なんと。いやぁお久しぶりですねぇ。壮健であられましたか、()()?」

 

 中にいたのは一人の男。その手に包丁が握られていることに違和感を感じさせない。この食事処という空間において最も輝いているのではと思えるその存在は慣れている俺はともかくサラを少し萎縮させた。

 

「なんとかくたばり損ねている、そんな状態さ。それよりも何か作ってくれ。シェフのおすすめだ」

 

「かしこまりました。ところでそのお隣のお嬢さんは?」

 

 男は俺に対する挨拶の後サラに目を向ける。

 

「生江沙良。今の俺が憑いている人間だ。といっても悪さするつもりもないがな」

 

 俺と旧知の仲であろう男の会話に置いてけぼりだった彼女は急に話を振られ、慌てながらも自己紹介をした。

 

「あぁあえと、さ沙良です。よ、よろしくお願いします。アス……アスモデウスの宿主やってます?」

 

 なぜそこで疑問系。

 

「ご丁寧にどうも。そしてどうやら私のことをあなたはご存知ないご様子。では自己紹介いたしましょう」

 

 男は手に持っていた包丁を腰のバックルに入れると慇懃な礼を見せた。

 

「私は七つの大罪、暴食(gula)の悪魔にして魔王であるベルゼブブ様に仕えし者。して暴食における類罪、”美食”担当。

━━名をニスロクと申します」

 

 俺おすすめの情報のつて、つまりこの訪問の目的はこう自己紹介した。

 

 




ここまでです。
新キャラ、ニスロク登場。
彼によってアスとサラは情報弱者から脱却する、筈です。
ニスロクのように聖書関連の悪魔や堕天使で面白いと感じた存在はこうしてオリキャラとして登場するのがこの作品の特色になると思います。

それではまた。
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