「ふぅ、これでなんとか互いの自己紹介がちゃんとできるね。」
服を着て裸マントこと空ちゃんの方へ振り返る、空ちゃんは恥ずかしがる様子もなく堂々とした佇まいでこちらを向いていた。
活発そうな子とは思っていたが、まさかあの状態で平気とは…
そういえば先ほども、自分の裸を見られるよりもこちらが裸だったことに腹を立てていた気がする。変わった子だな。
「改めまして、俺は加藤陽多郎歳は25…職業は…えー…」
「ニートさんですか?」
空ちゃんがニヤッとした笑顔とともに酷いことを言ってきた。
「ち…違う…はず」
「はず?」
そう不思議がる空ちゃんへ、自分に関する記憶がほとんど消えていることを説明すると
「なるほど、じゃあ私と同じですね。」
「同じ?」
「えぇ、私も思い出せることは自分が空っていう名前だけですもん。」
にこやかな笑顔とともにとんでもないことを言っているが、ふたりとも同じ状況だとしたらますますまずい事態だ。
ここがどこだかも検討つかずで、さらに2人の記憶も曖昧…
「と…とりあえず、外見てみるしかないか…」
「そーですね、それがいいと思います。」
このまま、裸マントを連れて外に出るのはいろんな意味で危険と判断して、ひとりで扉があったであろう縦長の穴をくぐる。
廊下に出ると、やはり壁が崩れていたりひび割れていたり、雑草が生えていたりと惨憺たる有様だったが部屋の真向かいに下と上の階へと続く、階段があった。
とりあえず、下へと階段を下っていくとエントランスと思われるやや広めの空間に出た。といってもやはり風景は変わらずボロボロのままだ。外へと続く扉も壊れており風が建物内まで侵入している。
「なんだよ…これ」
実は窓から外を見ていたので、どのような光景が広がっているかは分かっていたが、信じたくないという気持ちからここまで来てようやくそれが実感へと変わった。
そこには、何も無かった。
道行く人影も、行き交う車も、鳴り響く工業音も…
あるのは、朽ちた建造群と雑草…
道路も所々陥没していたり、割れている。
「あ…」
あたりをキョロキョロ見ていると標識を見つけた、折れ曲がり錆び付いてはいるけれど、文字は読める状態だった。
「品川…?」
東京の品川区?
ここが?こんな人っ子一人いないゴーストタウンが?
なんなんだこれ…
頭の中が混乱しているのを必死に抑え、階段を駆け上がり、部屋へと戻った。部屋に戻ると、空ちゃんが窓から外の風景を見ていた。
ロッカーを開けるまでの間、結構な時間がかかったからあたりはすっかり暗くなり、空ちゃんを月明かりが照らしていた。
付き合いこそ短いが、そこには見たことのないほどの悲しげな顔があった。
「みんな、いなくなったんですね。お母さんも、お父さんも、友達も…」
ポロポロと涙を流す空ちゃん、そんな姿を見てこちらまで涙がこぼれる。自分達以外の人類は滅びた。そう、判断するべきなのだろう。
外の光景はそれ以外の事実などありえない。そう言わんばかりの有様だった。
しかし、考えてみると雑草がここまで生い茂り、ビル群が廃墟同然の姿となるまでどのくらいの時間を要するのだろう。
そういった知識が無いので判断に困るが、全人類が絶滅したとしてそこまでかかる年数とこの荒廃した風景になるまでの年数を合わせると、相当な間ふたりは眠っていたということになる。
そして、疑問はまだある。自分たちが眠っていたふたつの棺桶とロッカー、ロッカーの中身はどうやら何者かに手入れされていたらしい。
ホコリなどもかぶっていなかったし、なにより銃やナイフは新品同然に磨かれていた。(まぁ、新品かどうかなんて判断できないが。)
とにかく今は、空ちゃんが泣き止むのを待ちながら考えることしかできなかった。