テイルズオブヴェスペリア ~転生者は錬装士(マルチウェポン)~ 作: 奏
あれからエフミドの丘を越えて抜けた俺達は港の街カプワ・ノールへと向かうが街に近づくにつれ、曇天のそれへと変ってくる。そして最終的に街に着くころには雨が降り出すほどになっていた。
「なんか急に天気が変わったな」
「んじゃ、濡れ鼠になる前にさっさと宿に入ろうぜ」
俺がユーリにそう提案するがユーリはエステルの表情が気になるようだ。
「エステル、どうした?」
「あ、その、港町と言うのはもっと活気のある場所だと思っていました……」
「確かに、想像していたのと全然違うな……」
そう言ってユーリはもう一度、街の中を見回すが見た限りでは出店なども無く、殆ど無人に近い状態だった。
「でも、アンタの探してる魔核ドロボウがいそうな感じよ」
「ま、ユーリの探してるデデッキってやつが向かったのはトリム港のほうだけどな」
「どっちも似たようなもんじゃない」
「そんなことないよ。ノール港が厄介なだけだよ」
「どういうことです?」
「ノール港はさぁ、帝国の圧力が……」
カロルがそう言いかけたるとその言葉を遮るように今まで無人だった街の中から声が聞こえてきた。
「金の用意が出来ない時は、お前らのガキがどうなるかよくわかってるよな?」
俺達は声が聞こえてきた方を見ると4人の人影が見える。そして二人の男女が地面に手をつき、もう片方のガラの悪い二人組みが楽しむような笑みを浮かべながらその姿を見下ろしていた。
「お役人様!!どうか、それだけは!息子だけは……返してください!」
そう言いながら地面に手をついて頭を下げる男性。
「ここ数ヶ月もの間、天候が悪くて船が出せません。税金を払える状況ではない事はお役人様もご存知でしょう?」
「ならば、早くリブガロって魔物を捕まえて来い」
「そうそう、あいつのツノを売れば一生分の税金を納められるぜ。前もそう言ったろう?ま、納められればの話だけどな」
そう言い放ったガラの悪い二人組みは笑いながらその場を去っていく。そしてその場に残された恐らく夫婦であろう二人は見るからに悲しみに打ちひしがれていた。
「なによ、あの野蛮人」
「カロル、今のがノール港の厄介の種か?」
「うん、このカプワ・ノールは帝国の威光がものすごく強いんだ。特に最近来た執政官は帝国でも結構な地位らしくてやりたい放題だって聞いたよ」
「なる、つまるところ今の活気の無さもその執政官のせいってことか」
「そんな……」
俺たちが執政官について話し合っていると、男性が立ち上がり街の外へと歩きだそうとしてその男性の妻らしき人物に止められていた。
「もうやめて、ディグル!その怪我では……今度こそあなたが死んじゃう!!」
「だからって、俺が行かないとうちの子はどうなるんだ、ケラス!」
やがて女性を振り払った男性、ディグルは走り出そうとそのままユーリの前を通り過ぎて行こうとした瞬間、ユーリの足が前に出た。
ディグルはそのままユーリの足に引っかかり盛大に転ぶと、同時に転ばしたユーリの事を睨みつける。
「痛ッ……あんた、何すんだ!」
「あぁ、悪ぃ、ひっかかっちまった」
そう言うユーリの顔は悪びれた様子が一切見られない。その様子を見ていたエステルが倒れたディグルへと駆け出す。
「もう!ユーリ!……ごめんなさい。今、治しますから」
駆け寄ったエステルはすぐに治癒術を使い始めた。よく見るとディグルの体にはいくつもの包帯が巻かれており見ているだけでも重症なのが判る。そしてエステルはそれを含めて治癒術をかけたのかその癒しの光が収まる頃にはディグルの体の傷のほとんどが無くなっていた。
しかし妻の方は夫の傷が治ったのにも関らず不安そうな表情を崩さない。
「あ、あの……私たち、払える治療費が……」
「その前に言う事あんだろ」
「え……?」
「まった金と一緒に常識まで搾り取られてんのか?」
そういったユーリの言葉にはっとなった女性はすぐに頭を下げた。
「……ご、ごめんなさい。ありがとうございます」
その言葉を聞いたユーリはそのまま何も言わずに裏路地の方へと歩いて行くがどうやら俺以外は離れていくユーリに気がついてない。
「それじゃ、いつまでもここにいたら風引きそうだし宿に……あれ?ユーリは?」
「あー、俺がユーリ連れてくるから先に宿に行ってろ」
「うん、わかった」
そう言ってユーリの向かった裏路地に入ろうとするとハルルにいた隻眼の暗殺者の格好をしたやつが吹き飛ばされてきた。だが、隻眼の暗殺者は吹き飛ばされながらも地面に両手の剣を突き立て逆立ちのような格好で停止する。
「まぁ、お疲れさん」
見てしまったものはしかたないので、俺はすぐにまた裏路地に入っていこうとする暗殺者の背後に回りこむと首を絞めて意識を落とす。そしてその暗殺者をそこらへんのゴミ箱に投げ込んでおいて改めて裏路地を覗くと………
ユーリがめっさ金髪のイケメン剣士に剣で殴られていた。
「これを見て素直に喜ぶ気が失せた!」
話の途中だったのかイケメン剣士はそう言うと裏路地の壁に貼り付けられた紙を剣で指す。こちらからは見えないが手配書のようだが……手配書。
「あ、10000ガルドに上がった。やりぃ……お、ついでにリオの手配書も上がってやがるな」
「騎士団を辞めたのは犯罪者になるためではないだろう」
「ま、いろいろ事情があったんだよ」
「事情があろうと罪は罪だ」
「ったく、相変わらず頭の固いやつだな……あっ」
「リオ、ユーリは見つかりました…か……」
どうやら帰りが遅くて心配して探しに来たのか、エステルは裏路地の入り口あたりに居た俺の隣に立つとそのまま何気なく裏路地を覗き込み、すぐに驚いた顔のまま固まった。
「ちょうどいいところに」
「……フレン!!」
ユーリがそう言うとエステルはフレンと呼んだイケメン騎士に駆け寄りもはや癖のように怪我が無いかを確認する。
「よかった、フレン。無事だったんですね?怪我とかしていませんか?」
「……し、してませんから、その、エステリーゼ様……」
「あ、ごめんなさい。私、嬉しくてつい…」
そう言ったエステルに対してフレンは考えるそぶりをした後エステルの手を取る。
「エステリーゼ様、こちらに」
「え?あ、ちょっと……フレン…お話が……!?」
そのままエステルはフレンに連れて行かれていってしまった。
「さてとカロルとリタを先に拾うか………というか、リオ。お前さっきから地面に手ついて何してんだ?」
「何故、俺は罪を犯してないのに手配書の金額が上がっていくんだ……」
そして俺は地面に手をつきながら心から呟いた。
=S=
あれから先に宿に行っていたリタカロルと合流してフレンとエステルの居る部屋へと向かう。中に入るとフレンとエステルが向かい合って座っている。
「用事は済んだのか?」
ユーリがそう言うとこちら側を向いて座っていたエステルが肯定の意味で微笑む。
「ここまでの事情は聞いた。賞金首になった理由もね」
フレンは椅子から立ち上がりながらこちらを向く。
「まずは礼を言っておく。彼女を守ってくれてありがとう」
「あ、わたしからもありがとうございました」
フレンの言葉でエステルも慌てながら頭を下げる。
「なに、魔核ドロボウ探すついでだよ」
「問題はそっちの方だよ」
「ん?どういうことだ?」
「どんな事情があれ、公務の妨害、脱獄、不法侵入を帝国の法は認めていない」
「ご、ごめんなさい。全部話してしまいました」
エステルは申し訳なさそうにそう言う。
「しかたねえなあ、やったことは本当だし」
「では、それ相応の処罰を受けてもらうが、いいね?」
「ちょっとまった」
ユーリとフレンによってどんどん話が進められて行く中で俺は迷わず聞きたい事を聞く。
「俺の処罰はどうなるんだ?」
「リオ、といったね。君の話もエステリーゼ様から聞かせてもらったよ。まずは帝国の非礼をを詫びよう。すまなかった」
そう言うとフレンはいきなり頭を下げた。
「君の場合は明らかに此方側に非があった。だから、恐らくいくつか事情聴取の上、無罪釈放という形になるだろう」
「了解」
俺は短くそう言うと。フレンは軽く頷いた後、再びユーリの方へと目を向ける。だが、フレンが言葉を発する前に二人の人物が俺たちのいる部屋の中へ入ってきた。
一人は騎士の格好をした女性で茶色い栗毛を片方だけ三つ編みにしている。そして残りのもう一人は眼鏡をかけた子供のような緑っぽい髪のおかっぱの男の子だった。
「フレン様、情報が……!なぜリタがいるんですか!!」
おかっぱ頭の男の子は入ってくるなりフレンに何か伝えようとするが、すぐに目に入った人物によって、途中で話していた内容が変る。
「あなた、帝国の協力要請を断ったそうじゃないですか?帝国の直属の魔導士が義務づけられている仕事を放棄していいんですか?」
「なぁリタ、この子供、知ってるのか?」
「………誰だっけ?」
リタは本気で忘れているようだ。さらにその態度のせいかおかっぱ頭の子もめんどくさくなる。
「……ふん、いいですけどね。僕もあなたになんて全然まったく興味ありませんし」
うん、あれですね。対抗心を燃やしていたけどまったく相手にされてなくてショックだから自分もあなたなんて気にしていませんよアピール。
「紹介する。私の部下のソディアだ」
フレンにそう言われた三つ編みの女性、ソディアは俺たちに対して一礼する。だが顔を上げるとなぜか俺とユーリの顔をじっと見ていた。
「こっちはアスピオの研究所で同行を頼んだウィチル」
紹介されたおかっぱ頭こと、ウィチルは眼鏡をクイッと上げながらどうだと言わんばかりの表情だった。
「そして彼は、私の……」
「こいつら……!やはり賞金首のっ!!」
どうやら先ほどまで俺とユーリを見ていたのはこれを思い出すためだったらしい。ソディアはそのままフレンの言葉を遮り、剣を抜くとそのまま俺たちに突きつける。
「ソディア!待て……!彼は私の友人だ」
「なっ!?賞金首ですよ!?」
慌てて止めに入るフレンにの言葉にソディアは信じられないと言った表情になる。
「事情は今、確認した。確かに軽い罪は犯したが手配書を出されたのは濡れ衣だ」
「なら、もう一人の方は……」
そう言ってソディアの剣先がユーリから俺へと移る。
「俺はそもそも罪すら犯してはいないぞ?」
「犯罪者の言葉など……!!」
「本当だ、ソディア。彼の罪は我々騎士の怠慢が招いた結果だ」
「……し、失礼しました。ウィチル、報告を」
その言葉を聞いたソディアは先ほどまでの犯罪者への態度とは違い、すぐに剣を納めると頭を下げつつフレンへの報告をし始める。
「この連続した雨や暴風の原因は、やはり魔導器のせいだと思います。季節柄、荒れやすい時期ですが船を出すたびに悪化するのは説明がつきません」
「ラゴウ執政官の屋敷内に、それらしき魔導器が運び込まれたとの証言もあります」
「天候を制御できるような魔導器の話なんて聞いた事ないわよ。そんなもの発掘もされていないし……いえ、下町の水道魔導器に遺跡の盗掘……まさか……」
二人の報告を聞くと今まで黙っていたリタはいつもみたいに何かを考え込むように呟き始める。それにしても発掘もされていない魔導器ね……こりゃ当たりかな。
「執政官様が魔導器使って、天候を自由にしてるってわけか」
「ええ、あくまで可能性ですが……その悪天候を理由に港を封鎖し出港する船があれば、法令違反で攻撃を受けたとか」
「となるとトリム港には渡れないって事になるけど…ユーリ、どうするよ?」
「どうすっかなぁ」
そう俺とユーリで話しているとフレンがさらに情報を追加する。
「執政官の悪い噂はそれだけではない。リブガロという魔物を野に放って税金を払えない住人達と戦わせて遊んでいるんだ。リブガロを捕まえてくれば、税金を免除すると言ってね」
「そんな……ひどい」
「入り口で会った夫婦の怪我ってそう言うからくりなんだ。やりたい放題ね」
「そういえば子供が……」
「子供がどうかしたのかい?」
カロルの一言にフレンが反応するがその前にユーリが遮る。
「なんでもねぇよ、いろいろありすぎて疲れたし、オレらこのまま宿屋で休ませてもらうわ」
そう言うとユーリはそのまま部屋を出て行こうとするので、俺、リタ、カロルもそれに続いて部屋を出た後、そのまま宿で休む事となった。