テイルズオブヴェスペリア ~転生者は錬装士(マルチウェポン)~ 作: 奏
さて、あれから逃げ出したラゴウを追いかけていた俺たちは現在、一つの部屋に入ったところで足を止めている。本来ならさっさとラゴウを追うべきなのだろうが、今俺たちが足を止めている原因は天井から吊る下げられた”それ”のせいである。
「いーい眺めなのじゃー……」
「誰……?」
思わず全員の心を代表してカロルが言う。
それもそうだろう…天井から吊り下げられているのは人。さらに細かく言うのであれば、そんな声を出しているのが幼い容姿をした少女だったのだから。
「そこで何してんだ?」
そこでユーリが前に出てそのミノムシ状態で吊る下げられた少女へと近づいていく。
「見ての通り、高みの見物なのじゃ」
「ふーん、オレはてっきり捕まってるのかと思ったよ」
「あの……捕まってるんだと思うんですけど」
「エステル、多分その認識で間違ってないぞ?……むしろこれを捕まって無いと言ったらある意味そういう趣味の人だと考えたほうがいい」
「ええっと、趣味ですか?」
そんな会話を少女の目の前で繰り広げる俺たち。けれども少女はユーリの顔を見ると驚いたように表情をかえた。
「お……?お前、知ってるのじゃ。えーと、名前は……ジャック」
「ユーリの知り合いか?にしても名前が一文字もあってないが……」
「誰なんです?」
少女の反応からしてユーリとの面識があると感じた俺たちの視線はユーリへと向く。するとユーリはため息を吐く。
「オレはユーリだ。お前、名前は?」
「パティなのじゃ」
「パティか。さっき屋敷の前で会ったよな」
「おお!そうなのじゃ。うちの手のぬくもりを忘れられなくて、追いかけてきたんじゃな?」
「と、言われてるが?」
俺が茶化すと、ユーリはまたもため息を吐きながらも、パティが縛られているロープを切る。
地面に降りたパティを改めて見ると随分と身長が低い。下手したらカロルと同じか少し小さいというだけでもパティの幼さがわかる。
「ねぇ、パティはこんな所で何してたの?」
「宝探しじゃ」
「宝?こんなところに?」
「あの道楽腹黒ジジイのことだし?そういうのがめてても不思議じゃないけど……」
リタの容赦が無いがあまりにも適切な言葉に全員が苦笑いしつつ、俺はふと思ったことがあったのでそのまま口にする。
「宝探しってことは、パティは冒険家か何かか?」
「そうなのじゃ」
どうやら俺の予想は当たっていたようでパティも自分の職種を当てられたことに少し驚いているようだった。
「と、ともかく、女の子一人でこんなところウロウロするのは危ないです」
「そうだね。ボク達と一緒に行こう」
カロルがそう言うが、パティは目的があるようで難色の表情だ。
「うちはまだ宝も何も見つけていないのじゃ」
「人のこと言えた義理じゃねぇが…おまえ、やってること冒険家ていうより泥棒だぞ」
「ホントにユーリは人に言えた義理じゃないよね……」
そうつぶやくカロルはどこか遠い目をしている……
「冒険家というのは、常に探究心を持ち、未知に分け入る精神を持つ者ことなのじゃ。だから、泥棒に見えても、これは泥棒では無いのじゃ」
「さらっと、とんでもないこと言ってるように聞こえるの俺だけか?」
思わずパティから出たトンデモ発言に俺は他の奴らに問いかける。どうやら反応を見る限り俺が間違った反応をしているわけではないようだ。
「ふーん、……なんでもいいが、まだ宝探しするってんなら止めねぇよ。」
ユーリの言葉に考え込む素振りをするパティ。だけど答えが返ってくるのにはそれほど時間はかからなかった。
「………多分もうこの屋敷にお宝は無いのじゃ」
まあ、要するに……
「一緒に来るってさ」
と言う事なのだろう。
「それじゃさっさと行きますか」
俺の言葉に一同全員が頷くと。俺たちは次の部屋へと駆け出した。
=S=
「この屋敷広すぎないか!?」
「ゲボアッ」
俺は軽く愚痴を言いながら向かってきたラゴウの手下らしき男を蹴り飛ばして気絶させる。先程からもう何度目かわからなくなりそうな位の手下を倒しているのだが一向に目的の魔導器があるであろう部屋が見つからない。
「まったくだな。こんなに部屋があるってんなら下町に少し位分けやがれってんだ。それよりパティはこんな奴らがいる屋敷をよく一人でウロウロしてたな」
「危険を冒してでも、手に入れる価値のあるお宝なのじゃ」
「それってどんなお宝?」
「アイフリードの隠したお宝なのじゃ」
「ア、アイフリードッ……!?」
そういったパティの言葉に最初に反応したのはカロルだった。
「アイフリードって、あの大海賊のですか?」
「有名人なのか?」
「えーっと確か前にどっかで聞いたような記憶が……なんだっけな?」
ユーリはたまたま横にいた俺に聞いてくるが、俺もイマイチ覚えていない。
「え、知らないの?海を荒らしまわった大悪党だよ」
「アイフリード……海精(セイレーン)の牙という名の海賊ギルドを率いた頭領。移民船を襲い、数百名という民間人を殺害した海賊として騎士団に追われていたが現在は消息不明で、既に死んでいると言われている、です」
「ブラックホープ号事件って呼ばれてて、それはもうひどかったらしいよ」
「……ま、そういわれとるの」
エステルとカロルの説明を聞いてパティは肯定するが、その声は釈然としない気持ちが篭っているように聞こえた。
「でも、アンタそんなもん手に入れて、どうすんのよ?」
「決まっているのじゃ。大海賊の宝を手に入れて冒険家として名を上げるのじゃ」
「危ない目にあってもか?」
ユーリは試すような言い方をするがパティの目を見れば一目瞭然だろう。
「それが冒険家という生き方なのじゃ」
「はっ……面白いじゃねぇか」
ユーリは楽しそうに笑う。果たしてその理由はパティ覚悟かそれとも冒険家としての生き方か……ま、ユーリに聞いたら両方だとか言いそうだな。それにしても覚悟ね……
「面白いか……どうじゃ、うちと一緒にやらんか?」
「性には合いそうだけど、遠慮しとくわ。そんな暇じゃないんでな」
「ユーリは冷たいのう。サメの肌より冷たいのじゃ」
「サ、サメの肌?」
思わず突然飛び出たワードに首をかしげる俺たちをよそに、パティは話し続ける。
「でもそこが素敵なのじゃ」
「素敵か?」
リタも思わず聞き返してしまう。
「もしかしてパティって、ユーリのこと……」
「ひとめぼれなのじゃ」
腰に手を当て堂々と言い張るパティ。
「やめといたほうがいいと思うけど」
「ユーリはロリコンだったか……」
「おい、ちょっと待て、」
「ひとめぼれ……」
最終的にいろいろカオスな状態と化していた。
=S=
「この魔導器が例のブツ?」
あれからまたいくつかの部屋を詮索していくと、今までの部屋とは異なる大広間へと出た。そしてその部屋の中央には歪な形をした装置がそびえている。
恐らくカロルの言う通り、これがラゴウが作り上げたアノ魔導器だろう。
俺たちはそのあまりの大きさに見とれてしまうが、直後、先程まで隣にいたリタが魔導器の魔核(コア)がはめ込まれている場所へと走り出す。
俺たちはリタの行動を静観しつつ見守る。そしてリタが魔核の前に到達するとすぐさま術式を起動させた。すると空間にキーボードのようなものが現れリタは流れるように指を動かしていく。
「ストリムにレイトス、ラクラーにフレック……複数の魔導器をツギハギにして組み合わせてる。この術式なら大気に干渉して天候を操れるけど、こんな無茶な使い方して!!アタシより技術があるくせに魔導器に愛情の欠片もない!!」
「これで証拠は確認できましたね。リタ調べるのは後に……」
「もうちょっと、もうちょっとだけ調べさせて……」
リタはそう言いながらも指を動かし続けている。
「後でフレンにその魔導器まわしてもらえばいいいだろ?さっさと有事を始めようぜ」
ユーリの言葉で皆やるべきことを思い出したのか各々が動き出す。さて俺もそろそろやるべきことをするかね。
「あーっ!!もう!!」
先程までずっと解析をしていたリタだったが突然叫んだかと思えばファイヤーボールを連発していく。その勢いはもはやこの屋敷を倒壊させかねないほどだ。
「おーい、リタやりすぎじゃね下手したらこの屋敷が潰れるぞ?」
思わずリタの隣にまで来ていた俺は横からそう言うが、本人はまったく話を聞く気はないらしい。というか完全にストレス発散目的で連発している。
「こんくらいしてやんないと、騎士団が来にくいでしょっ!」
いや絶対そんな騎士団の為的な気持ちないよな?そんなこと考えていると入口の方から声が聞こえてきた。
「人の屋敷でなんたる暴挙です!」
そちらを向くとラゴウがいかにも柄の悪そうな連中を引き連れて扉の前に立っていた。
「お前たち、報酬に見合った働きをしてもらいますよ。あの者たちを捕らえなさい。ただし、くれぐれもあの女を殺してはなりません!」
そういってラゴウはエステルを指差す。つまり他は殺しても構わないって言ってるようなものだな。ま、どうせあの人数ならユーリだけでも倒せそうだな。なら……
「リタ、もっとやっちまえ」
「もちろん、はじめからそのつもりよ!!それ、もういっちょ!」
どうやら俺が煽る必要もなく元からそのつもりだったらしい。リタはそのまま相変わらずファイヤーボールを撒き散らしながらユーリたちの方へと駆けていく。
「さて、援護しますかね」
俺はいつものように腰へと手を回し、銃剣を取り出す。
「雷光閃弾!」
狙うは相手の武器。俺の打ち出した弾丸はエステルの近くにいたやつに当たり何事かと驚いている間にまの前で振りかぶられたエステルのワンドによって沈められた。
「リオ!ありがとうございます!」
エステルからの感謝を受け取り、そのままユーリの方もと思ったらラピードと一緒に既に倒していた。と言うかなにげにパティとカロルも協力して敵を倒し終えていた。しかもポリーを守りつつだ。
粗方倒し終えるとユーリはラゴウ達が入ってきた扉とは逆の扉へと走り出す。それと同時にカロル、エステル、ポリーそしてパティとラピードといった順でユーリと同じ出口を走り出す。そろそろ撤退か。
「もう十分だ。退くぞ!!」
「何言ってんのよ、まだ暴れたりないわよ!」
そういうリタはまだ打つつもりなのか術式を組み上げていく。
「早く逃げねぇとフレンとご対面だ。そういう間抜けは勘弁だぜ」
「まさか、こんな早く来れるわけ……」
リタはユーリの言葉にありえないでしょ、といった表情をするが、その後の言葉は続かなかった。
既に放ったファイヤボールは入口のやや上に当たったが、その下にはフレンが率いる騎士団の姿がが見えたからだ。
「執政官、何事かは存じませんが、自体の対処に協力します」
フレンは事務的な口調で淡々とそう言う。一方でユーリはほら見ろとリタに言っている。
まずいな、ちょっとダラダラしすぎたか。俺はすぐさま行動しようとしたとき……
ガシャーン!!!
突如、窓が割れる音と共にその何かが大広間へと侵入して来た。馬よりも大きな、全身を長い毛で覆われた魚ともなんともつかない生き物の上に、全身を白い甲冑で包んだ人間が乗っている。
生き物は羽もないのに海を泳ぐように中に浮かんでいた。