IS 朱夜の残光   作:六馬 楽音

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 遅くなって申し訳ありません。


『暗部の末席』で行こう!

 

 

 

 

 埼玉県 秩父市。この市に存在する山々の一つ、武甲山。その奥深く、人里離れた場所にその家はあった。

 『北良家』。政府の密命により、非合法な組織の殲滅を任される暗部である。

 

 その暗部の邸宅の、離れにある道場に2人の男の姿があった。1人は壮年の男、もう1人は黒髪で黒と赤(・・・)のオッドアイを持つ少年だった。2人とも黒胴着に紺袴という出で立ちである。

 

 

「……ふぅ、よもや4年でここまで上達するとは。流石だな、辰人(たつひと)

「素直に受け止めておきますよ、義父(おやじ)殿」

 

 

 男―――北良家七代目当主 北良 劉玄(ほくら りゅうげん)―――の言葉に、辰人は微笑を浮かべる。だが、彼は肩で息をしているのに対して、対面している男は息を切らしてもいない。

 

 

(上には上が居るな……ほんとこの人50超えてるのにとんだ化物だ)

 

 

 辰人はそう思いながら、タオルで汗を拭う。

 

 

「そろそろお前にも仕事を回すかもしれんな。その時は心して事に当たれ」

「ああ、勿論ですよ。この業界に慢心なんざ足枷でしかないですからね」

 

 

 彼が本心で言っていることが分かったのか、劉玄は満足そうに頷く。しかし、その直後にため息をついた。

 

 

「何か悩みでも?年ですか?」

「ああ、最近腰がきつくてな……って阿保、まだまだ現役だ。……お前のように、あいつも謙虚なら良かったが……」

義兄(にい)さんのことでしたか。まあ、実力者であることは事実ですからね」

「実力があるのは良いんだが、修練さぼるわ女を口説くわ勝手に出かけるわで問題しか起こしていないからな。お前からも何とか言ってくれんか?」

 

 

 劉玄の冗談が混じりの言葉に、辰人は肩を竦める。その反応を見て「……やはりか」と呟き、劉玄は更にため息をつく。

 

 

 辰人と、その義理の兄である龍令(りゅうれい)は仲が極めて険悪である、というのは北良家内では周知の事実である。元々2年前に劉玄によって救い出されそのまま引き取られた辰人を、龍令は好印象を持っていなかった。 実際、突然どこの馬の骨かも分からない男が自分の弟となるのは、プライドが高い彼には我慢ならなかったのだろう。あの手この手で、辰人に修練と称し非道な仕打ちを繰り返していた。しかし、研究施設での扱いに比べれば大したことがなかったので、全く苦にしていない辰人の反応が、彼のプライドを更に傷つけていったのも否めない。更に、その修練によって辰人の肉体はますます磨きがかかり、技も熟練したものになっていった。

 それに、龍令も実力者であったが、辰人がそれ以上の才能を開花させてしまったのも原因の1つになっている。2年前に引き取られてから、辰人は自らの鍛錬のみをストイックに続けていたが、龍令は時折下の街に遊びに行く悪癖があったため、北良の家ではだんだんと肩身が狭くなっていった。

 中でも、決定的な原因は八代目の候補を模擬試合を行った時だ。最終的に残ったのは当代最高の才能を持った龍令と、意外だったが、槍術と棒術を混ぜ合わせて勝ち進んだ辰人だった。一族ではない辰人が勝ち残ったことに、一族の分家の者たちは大いに憤慨した。だが、当主の一喝により試合は執り行われた。結果は予想とは裏腹に、辰人が勝利してしまった。それ以来、辰人と龍令は口を利いたことが無い。

 

 

「……すまんな、色々と……」

 

 

 そう申し訳なさそうにする劉玄に対し、問題ないというように微笑む辰人。

 

 

「問題ないですよ。あれから特に何もありませんし、平穏すぎるのが逆に不安ってものです」

「……そうか。あのこと(・・・・)については、私は墓場まで持っていくつもりだから安心しろ。お前ーいや、辰人……お前はもう、我々の家族なのだから」

 

 

 辰人を名前で呼んだ劉玄は、表情こそ変わらないものの、その瞳には子を想う親の温かさが宿っていた。それを感じた辰人は、語調を緩めながら言う。

 

 

「問題ないよ、義父(おやじ)。俺は好きでここに居るからな、当分はここで(これ)を極めてみようと思う」

「なら、徹底的にやってやろう。お前が根を上げるまでな」

 

 

 そう言って2人は木槍を手に取り、槍の修練へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 北良家のある武甲山。その麓にある秩父市の中心部、人の多い通りの中を1人の青年は歩いていた。艶のある黒髪、シャープな顔の輪郭に整った鼻梁。そして瞳の見えぬ糸目が、まるで心を読ませないような隙のない印象を青年に与えていた。その手にはスマートフォンが握られ、誰かと通話している。

 

 

「それで、計画は?」

『あああ、滞りないよォ?人も準備も万全だ。後は君が、引き金を引く時を決めるだけかな?』

「……そうか。決行は後日伝える、それと例の物は?」

『ああ、用意している。そちらも問題ないね?』

「無論、問題ないさ。あいつの顔が楽しみでしょうがない。安心しろ、仕事は必ず成功させる」

『……楽しみにしているよ?八代目当主(・・・・・)北良 龍令君』

 

 

 そう言って、通話を切った青年ー北良 龍令(ほくら りゅうれい)ーは少し開いた両の瞳に鋭さを滲ませながら呟く。

 

 

「……ようやく、ようやくだな」

 

 その顔に狂気の笑みを浮かべながら、龍令の姿は人混みに消えた。

 

 

 

                     ◆

 

 

 

「休暇……ですか?」

 

 

食事を終えて、辺りも静かになった夜。邸宅の本殿に呼ばれた辰人に、劉玄が開口一番に言った一言がそれだった。

 

 

「ああ、たまには息抜きをと思ってな。久しぶりに街に出て気分転換でもしてきたらどうだ?」

 

 

 辰人は、劉玄の瞳をちらりと覗く。その瞳は、彼を思いやる温かいものを感じた。鍛錬に打ち込むばかりの自分の身を心配してくれたのなら、辰人が断る理由は無い。

 

 

「はい、分かりました。久しぶりの休み、楽しませてもらいます」

「おう、しっかり楽しんで来い」

 

こうして、辰人は休暇を楽しむことになった。

 

 

 

 だが、この時は誰も想像していなかった。日常が静かに崩れ落ちていくのを―――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ひとまず着替えたけど……。これで本当にいいのか?まあ、『是非、これを着てください!絶対に似合いますから!』って言ってたから大丈夫か」

 

 

 着替えた辰人は姿見を見て自分の格好を確認するが、辰人はファッションについての知識が皆無である。だが、何故か北良家にいる同年代の女子に慕われ、服をいつの間にか購入されているのがいつものことだった。

 

 

(いつも思うけど……何で俺の服のサイズ、さらに下着のサイズまで知ってるんだ?)

 

 

 一瞬考えかけた辰人だが、深く考えるのはやめた方が良いと思い直し、すぐさま街に繰り出すため、家を出た。

 

 

 

 

 

 

「久しぶりの休日に街をぶらぶらするのも悪くはないな」

 

 

 そう言いながら人混みを歩く辰人だったが、彼は人々から注目を浴びているのに気づいていない。

 白い長袖のTシャツに、その上にカーキのアウタージャケット。そこに、スキニーパンツのグレーが入ることで、大人びた印象を周囲に与えている。それに、辰人の整った顔立ちとオッドアイが加わった魅力が、すれ違った女性たちを虜にしていた。

 当の本人はその視線に全く気にせず、グルメを堪能している。だが、辰人はある視線(・・・・)には気づいていた。

 

 

(尾行されている。この感じからして、2人ってところだな。気配の消し方の巧さを見ると、かなりの手練れか……)

 

 

 周囲の人間から見れば、ただ食べ歩きしてるようにしか見えない辰人だが、その内側は酷く冷静だった。どうやって撒くか、そう思案した彼はすぐさま逃走ルートを決め、急に路地へと曲がる。

 

 

 背後で急いで追ってくる存在を置き去りに、ひたすら目に入った道を曲がっていく。何回目の曲がり角だったか、曲がった先に女性が歩いているのに気づき、辰人は女性を避けた。避ける際に少し体勢を崩したが、すぐに持ち直して走り出す。

 

 だが、その女性に腕をつかまれる。

 

 

「……ちょっと、すいません。急いでるんで」

「やっと見つけた。キミだね?男でISを動かしたっていうのは(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

女性から発せられた言葉に、辰人は動揺を隠せない。

 

 

(……何で、この女がそのことを知ってるんだ!?)

 

 

「おやおやー?どうしてそのことを知ってるっかって?それは、私が天才 篠ノ之 束(しののの たばね)だからだよ!たーくん(・・・・)!」

 

 

 

 

 

 これがIS開発者にして、現在様々な国からその身を追われている篠ノ之 束との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 物語は動き始めた!天災 篠ノ之 束と邂逅する辰人!しかし、2人で仲良くティータイムする余裕もなかった!ついに動き出す長男 龍令。危機的状況の中、束が辰人に託したものとは!
 ついに現れる主人公のIS!血濡れたような朱色の装甲、新緑の双眸が見つめる先にあるものは!

 次回、IS 朱夜の残光!「崩れ始めた平穏!『兎と龍とそして修羅と』」を、皆で読もう!
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